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ノンサッチ自警団新聞/Vol.4

【2019年9月20日】Vol.4

【LFH】Rachael & Vilray、デビュー・アルバム発売せまる!

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●レイク・ストリート・ダイヴのヴォーカリスト、レイチェル・プライスがニュー・イングランド音楽院時代の同窓生だった作曲家/歌手/ギタリストのヴィルレイと数年前から活動を始めたデュオ"Rachael & Virlay"が、19年10月4日にノンサッチからデビュー・アルバムをリリース。その発売予告とともにノンサッチ公式サイトで解禁された2曲のPV("Let's Make Love on This Plane"と”Alone at Last")や過去に公開されていたYou Tube映像なども見て、もう、すっかり彼らの音楽と恋に落ちてしまい、アルバムの発売日も待ちきれずに速報を発行してしまった。「思いたったら、すぐ新聞発行」「大事なことは手書きで」という当団の基本理念が確立されつつあった時期の号である。

●収録された曲のほとんどがスタンダード・ナンバーのように聞こえるが、ほとんどがヴィルレイによるオリジナル。世の中にこんな素敵な音楽が実在するのだろうか、しかも50年代でも60年代でもなく現代にこんな曲を書く人がいるなんて! と、最初は我が耳を疑った。それくらい、もしかしたらここ数年でいちばん衝撃的かつ"初めて会った気がしない系"の音楽だった。アメリカでもっとも影響力のある人気ナイトショウ番組司会者のスティーヴン・コルベアも同じ思いだったようで、アルバム発売直後、彼が番組のトーク中に"Do Friends Fall In Love"という曲があって、頭から離れないんだ……と話しているところがオンエアされ、それだけでアルバムが全米で赤丸急上昇の注目を浴びることになったという出来事もあった。なお、彼の番組の音楽監督を勤めるジョン・バティステもふたりの友人でアルバムにもゲスト参加している。ちなみに、イラストはニューヨークのフォーダム大学WFUV-FMライヴのYouTube映像から。ふたりが向かいあって演奏する姿は、シルエットをロゴマークにしたいくらい素敵。

●この曲、いちばん最初にオフィシャルPV(といっても本人たちが出演しない、古い映画かドラマの映像で構成されたもの)が公開された曲でもあるのだが、曲調はおそろしくロマンチックでありながらも歌詞は「飛行機の上でヤろう!」という、もう、アルバムの中で最も英語圏の外に出したらダメ!な曲というか。なおかつ、そのウラハラさこそがこのデュオの魅力なのだというコンセプトをわかりやすく伝える曲でもあるというか。こういうシニカルなユーモアも含めて、生ぬるい古き良きジャズみたいなものではないところが最高にいい。とはいえ、シニカルとかユーモラスなだけではなく、素直に胸がきゅんとする大人のラヴソングもあるし、どれだけ聴き続けていても飽きない。というか、言い方を変えれば発見が多すぎて気が抜けない緊張感満載のアルバムだ。

●ちなみにニュー・イングランド音楽院は、レイク・ストリート・ダイヴのメンバーたちがみんな在籍していた出会いの場所でもある。イラストにもあるようにレイチェルは子供の頃「ドリス・デイになるのが夢だった」というのだから、学生時代、目の前にこんなにも"生まれる時代を思いっきり間違ってしまいました"系の天才がいれば、まずはLSDの面々よりも先にヴィルレイとコンビを組みそうなものなのに……と思うのだが。そこが"学生あるある"で、当時はふたりともレイチェル&ヴィルレイのような音楽とは全然違う音楽をやっていて、お互いのやっているバンドも知っていたけれど、こんなにも趣味が合うとは思わなかったという。ヴィルレイさんも、こういう趣味の人とは思えないほどのトンガリキッズだったらしいし。どちらもかなりの理論派で技巧派なので、アートスクールならではの難解な音楽をやっていたのではないだろうか(そのことについて両者ともにあまり語りたがっていないことからも、そうではないかと推察する)。

●余談になるが、レイチェルが音楽的にも大きな影響を受けている彼女の父親は作曲家/編曲家で、長らくオーストラリアの人気シンガー・ソングライター、ビリー・フィールドの音楽監督も務めていたという。そのことを聞けば、彼女の「ドリス・デイになりたかった」という夢にもおおいに納得だ。フィールドは83年に第12回東京音楽祭に出場して、「恋とタバコとスウィングと(Bad Habits)」で金賞を受賞している。他にも「ユール・コール・イット・ラヴ」が俳優ジャン=マイケル・ビンセント出演のウイスキー"NEWS"のCMソングに起用されてヒットしたり、と、ジャジーで洒落たノスタルジック・ポップス的な方向性でそこそこの人気を博していた。さらに激しく余談になるが、この年の東京音楽祭というのはジョー・コッカー&ジェニファー・ウォーンズの「愛と青春の旅立ち」がライオネル・リッチーの「ユー・アー」と共にダブル・グランプリに輝き、ナンシー・ウィルソンの歌った「YOUR EYES」で山下達郎が作曲賞を受賞、前田憲男が森進一の「冬のリヴィエラ」で編曲賞を受賞するという、あくまで布谷文夫が"日本のジョー・コッカー"という基礎知識を前提とした説ではあるが、とにかく、ある意味、非常にナイアガラ的なまつりだったということになる。

☆"NEWS"CMソング「You'll Call Love It」


☆『恋とタバコとスウィングと』/ビリー・フィールド


●なお、本号の左下にある写真はノンサッチ公式インスタグラムからのスクショで、公式サイトからのアルバム購入特典として貰えるオリジナル・イラストプリントにレイチェルがサインをしているところ。この写真で注目すべき点は、傍らにいる猫ちゃん。2016年の初来日時にインタビューした時、オフ日にレイチェルが猫カフェに行ったという情報を聴いていたので「猫カフェ行ったんですか?」と訊いたら、満足げに大きくうなずきながら「トワイス!!」と言って"2回"を示すVサインを出して見せてくれた。ステージでのクール・ビューティなイメージとは正反対でかわいかった。ああ、猫好きだけどツアー暮らしだしブルックリンではアパートも厳しくて猫が飼えないに違いない、と勝手にいろいろ想像していた。そして、いつの日か彼女が猫ちゃんと暮らせますようにとひそかに祈っていたのでちょっと嬉しかった。それだけのことですが。


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