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ノンサッチ自警団新聞/Vol.5

【2019年9月24日】Vol.5

【LFH】今週のどうかしてるで賞 & Gaby’s Blues号

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●この週はいつものような生放送ではなく、7月にカリフォルニア州ソノマ郡にあるソノマ州立大学のグリーン・ミュージック・センターで公開収録されたもの。メインゲストは“スウェーデンのボブ・ディラン”ことw The Tallest Man on Earth、世界的タブラ奏者ザキール・フセイン with ガネシュ・ラジャゴパラン。どちらもそれぞれすごいゲストではあるが、そのこと以上に「うはー、こりゃまた今週もすごい幅出してきたわねー」という“幅”に心奪われる。南極と北極のような、LFHならではのブッキング。音楽以外では、番組がNYに移ってからレギュラーを外れたコメディアンのトム・パパも登場。

●そしてハウスバンドは、クリス・エルドリッジ(ギター、パンチ・ブラザーズ)、アレックス・ハーグリーヴス(フィドル)、トレヴァー・ローレンスJr.(ドラムス)、クリス・モリッシー(ベース)、Zac Rae(キーボード)。そして、サラ・ジャロウズやイーファ・オドノヴァンらも交代で務めているスペシャル・ゲスト枠には、今回はヴァン・ダイクとの新作アルバム発売を間近に控えたギャビー・モレノ嬢が登場! 本当に、この番組は何がすごいってハウスバンドがすごい。エミネムとの仕事で知られるグラミー・プロデューサーのマイク・エリゾンド(ベース)がバンマスだったりとメンツは何パターンかあって、一度きりのメンバーもいたりするのだが毎回とにかく全員凄すぎる。テクニックが凄いとかいうレベルではない、音楽人としての器の凄さとでも言いますか。

●毎回ハウスバンドの凄さを思い知らされるもが“Musician Birthdays”のコーナー。読んで字のごとく“今週お誕生日のミュージシャンをお祝いしましょう“というもので、そのミュージシャンの曲をさまざまなアレンジで演奏する…まぁ一見ものすごくフツーで安易なベタ企画ですが。もう、毎週毎週「あんたたち、気は確かなのかっ⁉︎」と肩を掴んで揺さぶりたくなる(←いい意味でw)演奏が繰り広げられる。そして、この週は特に凄かった。

St. ヴィンセント/Actor Out of Work

ジョン・コルトレーン/チム・チム・チェリー

ココ・テイラー/Wang Dang Doodle

グレン・グールド/バッハ:パルティータ1–2 アルマンド

 見よ、この幅。

 当団としてはまず、最後のグールドについての補足をしておきたい。もともと隙あらばバッハが弾きたいシーリー。今回はパンチ・ブラザーズの同僚エルドリッジもいるけど、まあ、グールドはバッハということでシーリーがひとりで弾くのかなと想像していた、のだが。

「それでは僕が右手、クリッター(エルドリッジ)が左手を弾きまーす♡」

つって、2人でパルティータ(グールドは59年の録音あり)の合奏を始めるというまさかの展開。腰抜けました。君たちは染之助染太郎かー。アホかー(超いい意味で)。グールドのパルティータを弦楽器で弾く、ある意味逆算的カヴァーみたいなとんち選曲というか。そもそもシーリーとバッハの出会いはグールドのゴルトベルクで、意外にも81年録音の方だったのは知っていたけれど、15歳の時おばあちゃんに聴かせてもらったことは初耳だった。そして偶然にもクリッターも、子供の頃におばあちゃんからグールドを聴かせてもらっていたとは! おばあちゃんたちありがとう。バッハありがとう。そしてグールドありがとう。

●ギャビー・モレノの歌うココ・テイラーの”Wang Dang Doodle”も素晴らしかったが、MCでの、彼女がこの曲を初めて聴いた時のエピソードもまた、パフォーマンスと同じくらいキュートだった。今号は、そのギャビーの話を書きたくて発行したようなものなので詳しくは本紙記事をお読みいただきたい。それにしても、いきなりちっさい子供が「ブルースください」ってw買いに来たもんだからレコード屋の店員さんもきっと色々考えて、ちょっとノベルティっぽい楽しいのを選んであげたんだろうな。かわいい話だー萌えるー。

なお、ギャビーがサラ・ワトキンス、エリカ・キャナルスと3人で書いた「Weeper’s lullaby」も素晴らしかった。これはギャビーとエリカが参加したThe Song Birdsの楽曲で、ワトキンスはフィドルで録音にも参加している。

●あ、またしつこくバースデイ・コーナーですが。コルトレーンの誕生日を祝う「チム・チム・チェリー」は、なんとフィドルのアレックス・ハーグリーヴスがトレーンのフレーズをソロまで全部完コピ。これもグールドと同じくらいたまげました。アメリカってこういう人がたくさんいてフツーに誰かのバックで淡々と演奏してたりしているからおそろしい。

 好きな音楽を尋ねた時に「自分は節操ないからなんでも聴く」とか「趣味が幅広すぎて自分でも呆れる、ははは(←ドヤ笑)」みたいなこと言う人で本当に幅広く好きなんだなという人には会ったことないです。“幅”ってさ、こういうのをいうんだよ。これくらいで初めて幅なんだよ。と、学ばされます。

☆Musician Birthdaysコーナーのノーカット全長版はこちら。↓↓↓

●こうやってつらつら思い出し書きしてるだけでいくらでも書けてしまうくらい、LFHは毎回めちゃくちゃ濃い番組だった。シーリーは毎回のように新曲を書き、たいていゲストと1曲は合奏した。ひとつの番組の中で、前説もしてテーマ曲の演奏して司会もして新曲も書いてBGMも生で演奏して、

The Tallest Man on Earthのバンジョーと、マンドリンでバトルして。

おんなじテンションで、ザキール・フセイン御大とも合奏する。

誰とでも、どんなタイプの音楽とも、彼は本当に楽しそうに幸せそうに全力で合奏する。この年(2019年)の夏にインタビューした時も、日本のわけわかんないオタクの質問にも本当に真剣に耳を傾け、全力で答えてくれた。音楽を演奏している時も、話している時も真摯さが変わらない人だなー、と思った。番組の生みの親ギャリソン・ケラーが、自身の分身とも言えるLFHの後任MCにシーリーを指名した時はものすごくビックリしたけど、彼が演奏と同じようにMCをできるとケイラーは見抜いていたんだな。

●今でも時々、もしCOVID-19がなければ番組は続いていたのだろうかと考える。昨年(2020年)のロックダウン以降、シーリーはおそらく自身のネットワークも駆使して、時には家族の協力まで仰ぎつつ、なんとかリモートで繋いで番組を維持しようと奮闘していた。私も同じ時期、小さなレギュラーイベントをなんとか続けようとしながら挫けることが多かったので、ちょっと共感することもあって、あの頃の番組のことを思い出すと未だ心が辛くなる。しかし、番組は終わっても膨大なアーカイヴは今のところネット上に残っていて、これらは間違いなくスミソニアン・クオリティの歴史的資料として未来の財産になる。そんな番組を、日本にいながらリアルタイムのライヴストリーミングで楽しむことができた幸運には感謝しかない。

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