ノンサッチ自警団新聞/Vol.12
【2019年11月6日】Vol.12 臨時増刊・ノンサッチ+ニューアムステルダム自警団新聞!キャロライン・ショウ&アタッカ・クァルテット号
●そもそもは自警団っつーくらいで、日本でのノンサッチのニュー・リリースについての情報があまりにも少ないことで始めた自警団新聞。本国からのSNS情報も早くて正確なので、当団もできる限り最新情報を伝えるニュースレターとしてお届けできるよう努力を続けている。しかし、この号では2019年11月6日発行号でありながら、同年4月19日リリースのアルバム『Orange』をとりあげた。
なぜか。
それは、アルバム発売時にはまだ本紙が創刊されていなかったからでーすw それをなぜ、あえて11月にもなってからとりあげることにしたのか。
これはごくごく個人的な事情による。
※以下は当団の思いっきり個人的な話なので、ナナメ読み推奨します。
当団は、このアルバム(当初はCD &配信のみリリース)を米ノンサッチ直販サイトでプリオーダー。なぜならばキャロライン・ショウがアルバムのために描いたドローイングのプリントに、ショウ&クァルテット全員の直筆サインが入った超プレミアム購入特典がついていたから。しかーし。CD本体のほうは意外と迅速に到着したものの、別送になるという話だったプリントは待てど暮らせど届かない。
オレンジの盤面が、めちゃかわいいCD。
このアルバムは、音楽以外も"オレンジ”というシンプルでキャッチーなタイトルとか、ポップなデザインとか、いろんなヒット要素が全部美しくバチっと揃った、現代クラシックとしては異例というか奇跡のロイヤル・ストレート・フラッシュ作品。
まぁ、海外からの荷物ってのは、時に1か月も2か月もさまようことがあるものさ、と気長に待つ耐性はできている当団だが。それにしても遅い。というわけで、おそるおそるノンサッチ公式にお問い合わせしてみたところ、どうやら手違いがあったらしく「これから送りますー」とのこと。そして、待つこと数ヶ月。
季節はもう秋。11月。ついに届いた。
ああ。待った甲斐があった。この美しさ。
しかも、おわびにとノンサッチのロゴステッカーも入っていた。
担当者は、まさかノンサッチ自警団にノンサッチ・ステッカーを送ったとは夢にも思っていなかったはずである……て、思うわけないんですけどw とにかく、当団としてはめちゃめちゃ嬉しかった。ありがとうございます。
そんなわけで。このプリントが届いた嬉しさのあまり、遅ればせながら『Orange』を自警団新聞で紹介することにした次第だ。
キャロライン・ショウもアタッカ・クァルテットも描いたことなくて、描いてみたかったので描けてよかった!
●『Orange』は、現代音楽/ジャズ/アヴァンギャルドを中心とするNYCの独立レーベル、ニュー・アムステルダムとノンサッチが初めて提携するというビッグ・プロジェクトの第一弾アルバム。単なるビジネス上の業務提携とは違う、大袈裟でなく芸術的マリアージュといっても過言ではない両レーベルの提携。その意義の深さや、両者が手を結ぶことで生まれる可能性を、このアルバムは見事に、鮮やかに、さらには軽やかに体現してみせた。
最年少ピューリッツァー賞受賞者で、ポップ・シーンとの交流もあり、この時点ですでに、米国でもっとも注目される現代音楽家のひとりだったショウだが、意外にもフル・アルバム形態での作品集は今回が初めて。満を持して、としか言いようがない記念すべきアルバムを、ショウとは気心の知れた長年の仲間であり、ノンサッチの横綱ことジョン・アダムズ先生も全幅の信頼を寄せる凄腕アタッカ・クァルテットとのコラボレーションで出すという。
もう、お膳立てにもほどがある。
最高。
やっぱり、キャロライン・ショウは“持ってる”なーとあらためて唸った。
そしたら、なんと、本号発行からほどなくして、このアルバムは同年のグラミー賞ノミネートの最優秀室内楽/小編成アンサンブル部門にノミネートされ、翌年、強豪の他作品を打ち破り見事に受賞。
いやー、持ってるわー。本当に持ってるわー。
と、以降、「持ってるお嬢」というのが、当団におけるショウのオフィシャル愛称となった。なお、キャロラインお嬢については今後のアーカイヴでも詳しくしつこく解説の予定だ。
●アルバム・リリース決定のアナウンスと共に公開された、リード・トラック"Plan & Elevation: IV. The Orangery"のMV。アルバム全体の雰囲気もよくあらわしている、ある意味、イメージ映像のような素敵な映像。
自身もヴァイオリニストであるショウいわく、このアルバムは“弦楽四重奏へのラヴ・レター”。さまざまな弦楽曲からのモチーフ、インスピレーションを散りばめ、たわわに果実が実る真夏の果樹園をさまよっているような…爽やかで、なおかつ幻想的でもあるショウらしい作品集。
アタッカ・クァルテットのキレっキレでグルーヴィーな演奏も、痛快と評してもよいほどの冴えっぷり。ショウの作品が持つみずみずしさがここまでヴィヴィッドに表現されたのは、彼らの力も大きい。だからグラミー!
もともとジュリアード音楽院の同級生で結成されたアタッカ・クァルテットは、18世紀から21世紀までの幅広い作品をレパートリーとする弦楽四重奏団。本作発表時には創設メンバーのひとり、日本人ヴァイオリニスト徳永慶子さんが在籍していたが、現在はクァルテットを卒業。クァルテットは新メンバーを迎えて活動を続け、徳永さんはソロ活動を中心に活躍されている。
余談になるが、ヤーロン・ジルバーマン監督の映画『25年目の弦楽四重奏』にもアタッカ・クァルテットはチラッと出演している。さらには演奏シーンでの俳優たちへのコーチ役も務めていて、故フィリップ・シーモア・ホフマンへの指導を担当した徳永さんは、楽器ケースの開け閉めの作法まで知りたがるホフマンの熱心さに感じ入ったという。この映画は、実際に第一線で活躍する弦楽クァルテットの人たちが見ても“弦カルあるある”エピソードの嵐…らしい。もう、これも当団のオールタイム・フェイバリット、大大大好きな映画なのでどさくさにまぎれて紹介してみた。
●2019年4月12日、ニューヨークのクラシックFM局WQXRが、イベント・スペースThe Greene Space10周年記念としてアタッカ・クァルテットのコンサートを開催。発売を1週間後に控えた『Orange』がライヴ初披露された。以下は約1時間にわたるフル映像で、期間限定で公開されていたものが昨年ようやくYouTubeにアーカイヴされた。徳永慶子さん在籍中の演奏ということも含め、貴重な映像。ぜひ、ごゆるりとお楽しみください。
●昨年夏には、グラミー賞受賞を記念しての限定アナログ盤もリリースされた。
これがまた美しい、ジューシーなオレンジ色のカラー・ヴァイナル。盤面のマーブルな質感もリアルにオレンジっぽい。CD版もポップでかわいかったが、これは絶対にアナログ化してほしいと当団も熱望していたのでうれしかった。
ずっしり重量盤で、音もいい。オーディオ・マニアではないけれど、凄い弦楽四重奏をアナログで聴くのってちょっとドラッギーというかサイケというか、健康的にトリップしてしまう感じ。
くだんのサイン入りプリントもLPサイズなので、アナログがリリースされたことで懸案だった収納問題もばっちり解決したのだった!
↑紙面でも紹介した、アタッカ・クァルテットによるジョン・アダムズの弦楽四重奏全曲集という、ノンサッチではないけれどノンサッチ濃度高しの傑作。2013年リリース。
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