ヤツメウナギの話(採集番号010)

 むかし、むかし、男、マヌラカイナンと女、ジュネナーがいた。ふたりは夫婦だった。ジュネナーが水浴びに行くと、テラカーウト(※1)がやってきて、彼女の骨をぬいて腰布を奪ってしまった。そしてジュネナーのふりをして、家に帰ってしまった。骨をぬあれたジュネナーはなんとか転がって、転がって、ようやく家の床下(※2)にはいこんだ。すると、テラカーウトがマヌラカイナンにいった。

「夫よ、マヌラカイナン。床下に転がっているものを捨ててきてください」
「わかったよ」
 マヌラカイナンはそういって、床下に転がっていたジュネナーを海に捨ててしまった。海に捨てられたジュネナーは脂のように漂い、漂い、そのまま姉妹のいる家の近くに流れついた。ジュネナーは歌った。
『アーイー、わたしの魂を生まれる前から分けられた姉妹たちよ
 わたしの骨はなくなった
 わたしの夫はわたしを捨てた
 わたしはどうしたらいいだろう』
 ジュネナーの姉妹たちはあわてて浜辺から妹を拾いあげ、椰子の実をしゃれこうべにして、ユネの木を肋にして、トフーの木を大きな骨にパカラの種を小さな骨にして、頭から息を吹きこんでよみがえらせた(※3)。
 ジュネナーと姉妹たちと村人たちは相談して、マヌラカイナンの家を取り囲み踊りはじめた(※4)。苦しくなったテラカーウトはマヌラカイナンにいった。
「夫よ、マヌラカイナン。あの踊りをやめさせてください」
「妻よ、ジュネナー。あれはおまえを祝福する踊りじゃないか」
 そこへジュネナーが現れたので、マヌラカイナンはたいへん驚いた。
「夫よ、マヌラカイナン。それはテラカーウトです。わたしの骨を奪ったのです」
 テラカーウトはあわてて破風から飛びだしていった。地面には村人たちが大きな杭を立てていたので、テラカーウトは頭からお尻まで杭につきささってしまった。そこで村人たちは大きなバナナの葉で包み、石焼きにしてしまった。
 ロプ貝のつぶつぶ、焼けた石。

 ※1 ヤツメウナギ。骨がないと信じられているため、ジュネナーの骨を奪ったというわけである。
 ※2 ラモア島の家は高床式である。
 ※3 ユネは籠や筌(魚を獲るときに使う道具。エサをもとめて入った魚が出られないような仕組みになっている)などを編むときに使う。トフーは堅い木。パカラは黄色い実で中に白い小骨のような種がはいっている。頭頂部から息を吹きこむのは、病気や難産のときに呪術師がよくおこなう行為である。
 ※4 ラモアの踊りはさまざまな意味がある。この場合は、封邪あるいは僻邪の踊りであろう。他にも儀礼的な踊りや、祭の踊り、あるいは男女の出会いの場の踊りなどがある。細かな踊りについては報告書№2を参照されたし。

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