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10万人あたり3.5人

前回の続きを書きます。

竹中先生の診察が始まりました。
約20年ぶりに顔を合わせる竹中聡先生は、
大学時代のサッカーマン「竹中くん」の面影が十分に残りつつも、
大病院の部長・骨軟部腫瘍専門医としての優しい風格もプラスされていて
一目で安心感がありました。

広くて明るい診察室には看護師さん?若手医師?もいて、
後ろで記録の補助をしているようです。
デスクの上の大きなモニター画面には、
他院で撮った私の足のMRI画像が取り込まれて映し出されています。
決して細くはない私の太ももの中に浮かび上がる「白い塊」は
とても大きく見え、異様なほど存在感があります。
私の右太ももにこんな塊があるなんて、まるで実感が湧きません。
ほんの1週間前までは痛みはもちろん、腫れさえも何の症状もなかったのです。

再会の挨拶を終えたあと、塊についての話に移ります。
結論、炎症性のリンパ節腫脹というよりは腫瘍の可能性が高いので、
すぐに生検(組織検査)をすることになりました。

さらには今後手術が必要になると思うので、血液検査、画像検査、心電図・呼吸機能検査なども受けておきましょうと。
その日のうちにほとんどの術前検査を受けました。

竹中先生は骨軟部腫瘍全般についてとても丁寧に説明してくれました。
良性から悪性までさまざまあり、悪性のものだけでも数十種類あること。
悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)は非常にまれな「希少がん」で、
頻度は10万人に3.5人だということ。
私も受診に先立ってインターネットで少し調べていたので、
答え合わせをするように聞いていました。

組織検査の結果は2週間かかるそうで、正確な診断がついて
初めて治療方針が決まるという説明を受けました。

「先生は現時点でどのような組織型を予想されていますか?」と尋ねると
紙にいくつかの病名を書いてくれました(※冒頭の写真)。

・粘液型脂肪肉腫
・粘液線維肉腫
そして「・・・・」と少し間を空けて
・粘液腫
・神経鞘腫

このような病名が並びました。
上位2つに「肉腫」という文字が見えた瞬間、
心の中で「悪性かぁ」と思いました。

今思うとすでにこの時点で竹中先生はピンと来ていたと思います。
(腫瘍専門医はそういうものです。)

ただでさえコロナの影響で頭がまだぼんやりしている上に、
いろんな情報が一気に押し寄せてきて私の頭はキャパオーバーでした。
そんな私を気遣って、良性悪性さまざまな可能性も含めて話してくれたのでした。

翌日、クリニックのスタッフには現状を伝えました。
3月25日に診断がついた後、4月から治療が始まる予想だけれど
手術だけなのか、(悪性の場合)抗がん剤や放射線治療も必要なのか
全く分からないので、4月以降のクリニックの診療をどうしたものか、
正直ものすごく悩みました。
穴が開くと、あまりにもたくさんの患者さんに迷惑をかけるため、
なんとか休みは最小限にして診療を続けられたらいいなと思いました。

でも一方でこうも考えました。
医師になって20年以上、開業して12年、
ノンストップ、フル回転で働いてきたなぁ。
私たちの世代は、いわゆる「医師の働き方改革」なんてものはありません。
医師になりたての若い頃は週に2−3回当直があって、
緊急の手術やお産があれば昼も夜も関係なく駆けつけます。
(よくも悪くもそれがデフォルトでした。)
開業してからは、経営と診療をほとんどワンオペ状態で担って来ました。
気づかなかいうちに、ストレスがかかっていたのかもなぁ。
今までのように週6日、毎日80人、時には100人の患者さんを診る自信が
急速に萎(しぼ)むのを感じました。

4月以降の診療をどうするかは、ひとまず3月25日の結果を待ってから考えよう!

右足には8cmの塊を、心には打ち消そうとしても湧き上がってくる
この先への不安を抱えながら、次回診療までの2週間を過ごしたのでした。

続きはまたアップいたします☆



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