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VRSNSにおけるゲームのあり方について考える

この記事は「clusterユーザーと再定義する非公式アドカレ Advent Calendar 2021」の9日の記事です。今回はclusterが中心ではありますが、ゲーム全般についての話になるため非公式アドカレの方に投稿させていただきます。

こんにちは、Linxです。現在は主にclusterとVRChatで活動しており、ゲームワールドを中心に作っています。
私は2020年の夏頃よりclusterでゲームワールド制作を始め、光栄なことに公式のゲームジャム等のイベントで賞をいただく機会がありました。
最近だと、「Cluster GAMEJAM 2021 in SUMMER」にて制作したゲーム「海賊ハンター」が「raytrek賞」を受賞しました。

本記事の前半ではそんな私がなぜVRSNSでのゲーム制作を始めたのか、また、後半では将来におけるゲームワールドの在り方について考えていこうと思います。

元々はVRゲームを作るつもりだった

私は以前からゲーム制作をやっていて、約一年かけて制作した「Aerial Striker」や、オンライン対戦ゲーム「スライムラボラトリーオンライン」が代表作でした。
その後、VRの持つ全方位映像や6DoFトラッキングが、今までになかった新しい身体性を伴った操作方法と、それに伴う新しいゲームデザインと体験を開拓できることを期待して、2019年6月にVR機器を購入。もちろん目標はVRゲームを作ること。
当時VTuberブームが過熱する一方でVTuberはVRから離れていき、VRゲームといえば右も左も「Beat Saber」といった感じでした。

「Beat Saber」は本当に面白いゲームです。音ゲーとしての完成度の高さと、VRで体を動かす面白さが絶妙にマッチしています。しかし、真の魅力はそれだけでは語れません。

Beat Saber」の魅力は「自分がかっこいい」体験なのだと考えています。そもそもライトセーバーを使って「斬る」という動作が爽快感が高く、なおかつ「かっこいい」んですよね。この点はスタイリッシュな動きを演出してくれる「SUPERHOT VR」にも言えるでしょう。
そして…「自分がかっこいい」体験ができたら、その様子を共有したくなるのが人間というもの。「Beat Saber」を始めて興味深かったのは、通常の一人称視点でのプレイ動画ではなく、苦労してMODを導入してアバターで三人称視点での動画を投稿している人が多いことでした。
さらに振り付けを再現した「ダンス譜面」や両側に刃のついた剣を回しまくる「ダースモール」でのプレイ等、ゲームの攻略だけにこだわらず「魅せる」プレイを楽しんでいるのが特徴です。

vrユーザーが求めるもの

VRゲーム(というより、ほとんどのゲーム全般)は「体験」が求められています。ここでいう体験とは、映像を見ることから攻略の達成感といったものまで幅広いです。
一方でVTuberがVR機器を購入するのはアバターを動かすためであり、これは自分一人で完結せず、見る人がいて成り立つので「体験」ではありません。
そして、VTuberが結局のところトークが中心になった一方で、好きなアバターが動いているところを見せたいという人は結構いるはずです。
これを仮に「アバターによる自己表現」領域としました。
コンテンツのインプットが目的か、アウトプットが目的か…と言い換えることもできます。
「Beat Saber」の例によって、VRゲームは「アバターによる自己表現」領域に踏み込んでいる…また、それが「体験」領域と重なることがわかると思います。
従来のゲームでもスーパープレイを動画にするなどはありましたが、そちらは攻略や面白プレイがメインであり、アバターの動きを見せたいVRゲームとは少し本質が異なります。
VRゲームが(従来のゲーム以上に)本当の意味で「主人公=プレイヤー」であること、世界観にとらわれずに自由な姿を選べることは、誰もがゲームの中の世界に入っていって、その様子を他の人から見えるようにすることを可能にします。
なりたい姿で主人公になれるとなれば、どんな様子が見せたくなるかというと、単純に攻略するだけではなく「魅せプレイ」が多くなるのは自然なことでしょう。
するとどうなるかというと…遊んでいる人のかっこいいプレイを見るとゲームが面白そうなので、ゲームが売れるという好循環ができます。
そうやって買った人が最初は「体験」を楽しむものの、上手くなってくると動画を撮影したくなり、それを見た人がゲームを買って…と、良いループしか起きません。
私はというと、VRゲームの撮影が(状況を視聴者に説明するために)アバターの背中側ばっかり映るものが多くてうんざりしていたので、VR空間からStepManiaにキー入力を送信する仕組みを自作して動画を作っていました。動画編集が大変なので長続きしなかったようです。
しかし、「アバターを使って表現することが、単純にゲームを遊ぶだけより面白い!」ということに気が付きます。

紹介した例では、動画にして投稿することで共有するという形になっていますが、これから先はどうなるでしょうか。
VRMの普及によって、お互いに好きなアバターを使ってマルチプレイができるゲームは作ろうと思えば作れる段階になってきました。そうなれば、同じ空間に行って友達のプレイを見るようになるでしょう。さらに言うと、お互いにその姿のまま様々なゲームに移動して遊べるようになると理想です。

このころから、6DoFによる新しいゲームシステムみたいな部分は私の興味の中心から外れていきます。

理想の世界が別の場所にあることに気付く

これを読んでいる方はもうお気付きかと思いますが、当時の私が理想としていた世界が全然別の場所にありました。そう、clusterです。

vrユーザーが求めるもの2

VRSNSはアバターコミュニケーションが中心なので「アバターによる自己表現」が中心ですが、ワールド巡りなどもあるので当然「体験」も含まれます。イベントなども、一般参加者としては「体験」の方に入るかもしれません。

本記事ではこれ以降もVRSNSという単語が何度も出てきますが、VRでなくてもある程度共通する話であるため、必要に応じて「バーチャルSNS」「メタバース」等に置き換えてください。

VRSNSで複雑なゲームは作れなかったのですが、2020年6月にトリガー・ギミック機能が実装されたことをきっかけに私もclusterでのゲーム制作に参加することになります。
もしVRSNSで本格的なゲームが作れるようになると、上で述べた「お互いにその姿のまま様々なゲームに移動して遊べる」状態になり、個別のVRゲームでのアバター対応とは何だったのかという話になります。
ゲームを楽しみながら互いにアバター表現で楽しめる、VRゲームの到達点への道がVRSNS側からでもあると感じたことが私がゲームワールドを作る理由です。
今はまだ普通にVRゲームを作った方が自由度が高いゲームが作れるので、VRゲームの人気があります。VRSNSは今はまだ、満足にVRゲームと張り合えるだけのゲーム体験は難しいです。
しかし将来的にもっと面白いゲームが作れると、図の「VRゲーム」と「VRSNS」は中央で融合する、あるいは境界が曖昧になっていくと考えています。というのも、近年のゲーム自体がコミュニケーションツール化している側面があるのですが、VR空間では「アバター表現」もコミュニケーションツールとして非常に面白いので、当然ゲームとアバターの両方を取り込んでいきます。

ゲームは主役ではなくなる?

以前「オンラインゲームはメタバースなのか?」という記事で、MMORPG等のオンラインゲームではゲームが主役であると述べました。

コミュニケーションが発生するものの、そこに集まるプレイヤーの多くは、そのゲームを遊ぶことをモチベーションに参加しているわけです。ゲームに飽きた人はコミュニティからもいなくなります。
一方、Discord等で小規模の様々なゲームを遊ぶコミュニティはコミュニティが主役、人が主役であり、ゲームはコミュニケーションツールに過ぎません。全員が同じゲームを遊ぶわけではなく、見ながら雑談しているだけの人もいます。現状のVRSNSはこちらに近く、「あるゲームのために集まった人たち」でない限りはゲームは主役になりません。そもそもアバター表現やゲーム以外のワールド等、他にも楽しみ方があるので、ゲームはコミュニケーションツールのうちの一つの選択肢でしかありません。VRSNSにおいては、ゲームが単体で完結するものではなくなり、コミュニケーションの場と地続きになります。

コミュニケーションツールとしてのゲームデザイン

良いゲームとはどんなゲームか?というと、たくさん出てきますね。特にゲームが好きな人・得意な人にとっては、ほどよい難易度だったり、ものすごくやり込めたり、戦略性が高かったり…。攻略が楽しいという「ゲーム性」を重視されがちです。しかし、VRSNSでの遊びやすさのために、そういった従来重要視されてきた「ゲーム性」が犠牲になることがあります。

私が去年の12月、cluster公式番組「Hello Cluster」にて登壇した際、VRSNSで遊びやすいゲームの条件を3つ挙げました。

・一人でも遊べる
・マルチプレイでさらに盛り上がれる
・何人でもゲームのルールが崩れることなく遊べる

つまり、マッチングシステムのあるゲームと違って人数が不定ということです。これはゲームの設計に大きい影響を与えます。
例えば協力ゲームでは「人が多いと簡単にクリアできる」とかはVRSNSではありがちなんですが、ゲーム制作者としては「よく考えて難易度設定されているのに簡単に崩れてしまう」のが許せないという気持ちもわかります。「ゲーム」を楽しみたい人にとっても、好ましい状況とは言えません。コミュニケーションのきっかけとしては、気軽にクリアできるくらいがいいのですが…。
一方で対戦ゲームならある程度人数に幅を持たせても成立するのですが、今度は一人では全く遊べなくなります。一人で遊べないとどうなるのかというと、得体の知れないゲームに人を誘うには相当勇気がいるため、制作者がうまくゲームを運営しないと全く人が集まらない可能性があります。
さらに、

・途中から入った人も遊べる

も重要で、これには「マップが広すぎて合流できない」みたいな問題も解決しなければいけません。レベル上げに時間がかかるとか、対戦の試合時間が長いとかもよくないです。
また、ゲームの「深さ」を重視しすぎると慣れている人とそうでない人で差が開きすぎてしまうので、自由度や戦略性が高すぎるのも時には遊びにくい要因となります。
通常のワールド巡りと共通することですが、その場にいる人が同じ体験をしたという記憶が「面白かった」につながると思っているので、人によって(ゲームの理解度によって)体験が違う設計はあまりよくないです。
VRSNSはコミュニケーションの方がメインであって、ゲームではないという、「コミュニケーションファースト」の立場を取るとこのような考え方になります。

しかし一方で、上で挙げたような条件(何人でも遊べる)は理想ではあるものの、しばしばゲームとしての面白さが実現できなくなることがあります。もちろん、ゲームとしての面白さを犠牲にしてでも上で挙げた条件を満たせばいいとは限りません。ゲーム性が高くてコアな人気があるゲームワールドもあります。

ゲームは酒のつまみのようなものでコミュニケーションのおまけで十分というシーンもあれば、がっつりゲームを楽しめるシーンもあっていいはずです。そのあたりがどういうバランスが良くて、どういったジャンルが出てくるのかは、まだまだ研究が必要でしょう。

私としては…原点に立ち返ると、アバターの動きを見せるのを重視して、他の人は見るのを楽しむというゲームでも面白いんじゃないかと思ったりします。

次は、過去に私が作ったゲームワールドを分析します。

ゲームワールドの実例

・エナジー防衛軍

「エナジー防衛軍」は砲台を設置して敵を倒すタワーディフェンスゲームです。このゲームは何人でも遊べるし、プレイヤーが遠くまで行くことが無いので途中から入ってもすぐに一緒に遊べます。ただ、一人だとちょっと忙しいバランスになります。逆に人数が多くても、敵から出るポイントは有限なのですごく簡単とはなりません。
上で挙げた条件を一通り満たすゲームです。このような性質からディフェンスゲームはVRSNSと非常に相性が良く、人気もあります。

・ブレイブソードアドベンチャー

ブレイブソードアドベンチャーは広いマップを敵を倒しながら進み、最深部のボスを倒すのが目的のゲームです。このゲームは数人いれば戦闘の難易度は高くなく、どちらかというと同じストーリーをその場にいる人と一緒に達成するという「体験重視型」のゲームです。制作者が用意したキャラクターではなく自分がなりたい姿で主人公になれるからこそ、それを自分たちの物語として投影しやすくなります。「体験重視型」は人が集まるほど記憶に残りやすくVRSNSにおける代表的なゲームですが、欠点は一度遊んだらもう遊ばれないということです。
その他にこのゲームではマップが広すぎて後から合流できなくなりがちで、探索/進行型ゲームに起こりやすい欠点ですね。

同じシステムを使ったゲーム「モンストラリウス」は闘技場でひたすらモンスターを倒すゲームで、戦闘難易度が上がり、「ゲーム性重視型」になりました。

・海賊ハンター

海賊ハンターは2チームに分かれて行う対戦ゲームです。人数を揃えないと遊べないゲームは遊べる機会が少ないということはわかっているのですが、「大人数でわちゃわちゃ乱闘したら面白そう」という理由で制作しました。
面白いゲームにはなったのですが、うまく運営しないとなかなか遊んでもらえないことを実感しました。ルールが複雑すぎたので、もう少し改善したらリベンジしたいですね。一回の試合が長い上に、一人でも人数差が出るとバランスが悪いのも厳しいところ。

・猫のばしチャレンジ!~Catnarok~

cluster版とVRChat版でほぼ同じ内容のものを制作。
降ってくる猫缶を集めて、60秒で猫を伸ばす(!?)ゲーム。
一人でどれだけ伸ばせるかでも楽しめるし、集まった人で長さを比べて対戦してもいい。一回当たりの時間が短いのも遊びやすいです。
cluster版を9時間で作った割に、ゲームデザイン的には当たりを引きました。
clusterとVRChatの違いみたいな話は、別の機会にするかもしれません。

・City Driving

明確にルールや目的がないのでゲームかどうかは微妙ですが、車やバイクで自由に街でドライブしたりヘリで飛んだり、空陸両用車を変形させたり(?)戦車戦したり(!?)できます。
公開してからは非常に好評で、私が公開した中では今のところいいね数が最も多いです。
ルールを作る側で決めてしまうよりも、ユーザーが遊び方を決められる方が何度も遊びやすくて人気なのかもしれません。

VRSNSにおける設置型ゲームと携帯型ゲームの概念を知ってほしい

今までのようなゲームワールドは、そのほとんどがテーマパークのようなものだと言えます。どういうことかというと、ゲームを遊ぶために全員でワールド移動して、遊び終わったら帰ってくるということです。
しかし、これがなかなかコストが高かったりします。ゲームを遊ぶつもりがない人がいても、取り残されてしまうので移動しないという選択肢はないわけです。ゲームがコミュニケーションのきっかけになる一方で、ゲームがコミュニケーションを分断しないように注意する必要があります。

ゲームがアーケードから家庭用ゲーム機になったように、VRSNSにおいてももう少し気軽に遊べるゲームが出てくると予想しています。

こちらは私が配布している、ワールドに設置して遊べるタイプのボードゲームです。ワールド制作者が簡単にこのようなゲームを設置できるようになれば、設置型のゲームが普及し、ゲームとコミュニケーションの分断を防ぐことができます。

さらに言うと、アバターからゲームを取り出して遊べるようになるとどんなワールドでも遊べるようになり、さらに気軽に遊べるようになります。まだ実例が極めて少ないですが、「携帯ゲーム」が普及してくると考えています。

がっつり遊びたいときはゲームワールド、気軽に遊びたいときは設置型や携帯ゲーム、と使い分けていけるといいですね。

まとめ

通常のゲームに無いVRSNSで遊べるゲームの最大の魅力は、お互いのアバターが見える状態で遊べることです。その一方、コミュニケーションの場と地続きという特徴があります。
ゲームとして面白いことはもちろん重要ですが、これからはアバターコミュニケーションとの相性の良さや、コミュニケーションツールとしての遊びやすさも考える必要があります。

制作者が用意したキャラクターではなく、プレイヤーがなりたい姿で主人公になれる。なので、集まった人で同じ目標を達成するという体験が得られる「体験重視型」などは「自分たちの物語」として記憶に残りやすく、代表的なコンセプトになります。一方で「ゲーム性」が深いゲームや純粋に面白いゲームが不要というわけでもなく、様々なゲームがあっていいはずです。

しかし、VRSNSにおけるゲームはまだまだ未開拓で、わかっていないことが多いです。clusterではVRユーザーが少なく、結果的に当初理想としていたアバターの動きを見せるゲームや、アバター間の距離が近く身体性の高いコミュニケーションをゲームに取り込むといったことができていません。
ゲームワールド制作者の皆様、共にVRSNSにおけるゲームジャンルを研究していきましょう!

以上、長くなりましたが「clusterユーザーと再定義する非公式アドカレ Advent Calendar 2021」の9日の記事でした。

明日12月10日の投稿は、モーションキャプチャからブロックチェーンまで幅広い分野に詳しいVJyouさんです!

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