42日目
修平の我が家への挨拶を近所のちょっとした料亭で行った。
彼はスーツを着てその場に臨んだ。が、まぁ、拍子抜けするほどすんなりと終わった。
結婚を前提としていること、それに向けて期限を切っていること、医療専門職の正社員である彼が自分の仕事に誇りを抱いていること、この時点で母は彼に合格サインを出していた。
酒好きである修平と父が昼間から飲み比べをして、酔い潰れた父を彼が背負って連れ帰られるという失態を犯したせいで、父も完敗した。
親子二代を物理的に背負うことになるとは、と彼は苦笑していた。
引越しは最低限の衣類と棋書、デスクトップパソコンとその周辺器具くらいのものだったが、タイトル戦などで和服も多数あるため、すべて運び込むと1LDKには収まりきれないことは自明だった。
「……家、建てるか」
「…………せめて、結婚するまで待って」
彼が1日トラックをレンタルして和服以外を移送した。彼は丸一日かけて運び切った。
彼は大体残業なしで即帰宅するため、夕方6時には家にいる。どちらの方が先に帰っているかは半々だが、先に帰っている方が洗濯物を取り込み、お湯を沸かしておく。
わたしは料理をしない。その代わり、料理に文句を言わない。そして、それ以外の家事は基本わたしが行う。
同棲を始めた一週間で洗濯乾燥機と食洗機と自動掃除機を導入し、買い出しもネット注文。不必要な家事はすべて機械に委託した。
彼は優しい。そして、実はわたし以上に合理主義かもしれない。
初めて、他人と暮らしているが、血の繋がった家族以上にストレスが少ない。
彼は習慣の変化にほとんど抵抗がないし、抵抗がある時にはその理由を明確に提示してくれる。
買い出しも一通り終わった頃、わたしは人生で初めて失冠した。
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