セカンドライフの「失敗」について言語化する
はじめに
筆者はセカンドライフユーザー歴は3年ほど、他サービスに関してもとりわけ詳しい知識を持っているわけではなく、引用を除く以下文章は全て私個人の感想であり、私ごときが言及するのも烏滸がましいような内容含め、すべてが正確な情報とは言えない点をご了承下さい。こうした記事を執筆すること自体初めてなので、お見苦しい点多々あると思われます。また、内容に不備があった場合、コメント等で教えていただけると助かります。
記事を書こうと思った経緯
twitterにて、SLユーザーのガリナ・ウリザ氏が投稿したこちらのnoteに、Vtuberの草分け的存在であり、バーチャルキャストのCVOとして知られているみゅみゅ氏が反応する流れでされていた下記のツイートを拝見した際に、自分の中でSLに対して感じていた事柄を含め言語化してみたくなったので、記事にした次第です。
確かに、世間一般でセカンドライフといえば失敗したサービスの代名詞。反対に、VRChatは昨今話題に事欠かない人気サービス。にもかかわらず、両者のアクティブ数はイメージと反対のように見えますね。
セカンドライフが失敗で、VRChatが成功している…そう感じる理由、自分は
現時点のオタクカルチャーと地続きにあるか否かにある
大まかに言うとこのように考えています。詳細に解説していきます。
1:インターネットのムーヴメントを牽引するのは誰なのか
日本のインターネット上で、新たなカルチャーを生み出してきたのは誰でしょうか。2ch、ニコニコ動画、twitter等、一般的若者文化と認知されるまで浸透していったこれらのサービスとその文化圏は、いずれもその時代の若いオタクたちによって牽引されてきたように私は思います。カルチャーが非オタク文化圏にも浸透し、オタクという概念の希薄化が語られて久しいと感じる節もありますが、とくに新しい技術などが出現した際、真っ先にこれを試していき、発信する人々は、やはりオタクと呼ばれる素質を持つ人々が多い印象です。
では、令和の「今」の時代を生きる若いオタクたちの、最も興味を抱くネットのカルチャーとは何なのか。ズバリVTuberではないでしょうか。
そしてVtuberは、言うまでもなくVRコンテンツとの親和性が非常に高いというか一緒に進化してきた節があるように思われます。ここで出てくるのがVRChatです。
2:オタクの熱狂で育まれたVRChat
私はまだ殆どVRCに触れられていないので、これまでの歴史などについては全くの無知だったのですが、こちらの記事が大変参考になったので紹介させて頂きます。
上記記事様によると、おそらく日本産のアニメ系モデルを流用したアバターの流行効果により、VRChatは日本人ユーザーのほとんどいない時期から日本のアニメ・漫画好きのユーザーが沢山いたそうです。黎明期からオタクたちによって文化形成がなされていったVRChat、2017年12月頃?から海外インフルエンサーやVTuberの紹介によって急激に人口が増加したとの事。
実際にVR空間上でVtuberに会えるという体験も含め、若いオタクたちの関心がこちらに向かうのは自然な流れであると感じます。界隈が活気づけば、クリエイターも興味を持って続々参入するでしょう。彼らが面白いことを始めると、さらにユーザーが増えていく。さらに活気づく。好循環ですね。
今まさにVRとVRchatは今を生きるオタクたちの格好の遊び場となっているのではないでしょうか。当然企業も注目するでしょう。少なくとも、現在のVRChatはサービスとして成功していると私の眼には映ります。
こうしてオタクたちの熱狂が世間にも注目され始めると、ある大古のサービスの名前が持ち上がってきます。セカンドライフです。
VRchatはVRのために生まれたチャットサービスですが、部分的にメタバースの構造を含むようになっています。
メタバースといえばセカンドライフでしょう。なぜなら、これこそがその第一人者ともいえるある意味伝説的なサービスだったからです。
3:セカンドライフとは何なのか
セカンドライフは2003年にサービスが開始されたアメリカのリンデンラボ社が開発運営を行っている仮想世界(メタバース)です。
インターネット上でユーザーが3Dアバターとして生きる仮想世界「メタバース」。この概念が登場したのはSF作家・ニール・スティーヴンスンによる1992年の著作『スノウ・クラッシュ』が初めてだったそうですが、
何を隠そうこのセカンドライフこそが、この概念を初めて実現したサービスだったのです。当然世界中でこの真新しいコンセプトのサービスは大旋風を巻き起こしました。
SF映画のように、インターネットで「第二の人生」を送る未来生活がついにやってきた!これは絶大なるビジネスチャンスでしょう。今だ!のりこめ!と大勢の企業などが参加した。
が、何も起こらなかった
というのが、みなさんよくご存じの「セカンドライフの失敗」でしょう。
当然、これには理由があります。あまりに早すぎる発想に、システム面が追い付いていなかったという点が特に大きいでしょう。
筆者は父親が黎明期のセカンドライフに触れていたおかげで、当時の様子を微かに知っているのですが、正直なところ皆が思い描く理想とは程遠いものでした。
すべて英語のお世辞にも分かりやすいとは言えないUIに、お粗末なポリゴンの魅力のないアバター、大地を埋め尽くす奇怪な原色の建造物の数々。
さらに、下記記事にてクラスター創業者の加藤直人氏が仰っているような問題もありました。
上記記事より引用:
加藤CEOの見立てでは、Second Life失敗の最大の理由は「過疎りやすい構造」だ。「Second Lifeでは1つのワールド(シムと呼ぶ)に最大50人しか入れませんでした。さらに、ユーザーが自由に空間が作れたので(アバター)密度が低くなりがちだったのです」
Second Lifeでは同時刻にユーザーたちが集まる仕組みもなかったのでセレンディピティー頼みだった。延々と仮想世界をアテもなくさまよえるのは一部の熱狂的なユーザーだけだった。
(この問題は現在でも解決されてない上、50人も集まればFPSは1ケタまで乱降下しまともに動作しなくなる)
こんな状態では、企業が商業活動で盛り上がるどころではないのがお分かりいただけるでしょうか。
セカンドライフの大旋風というのは、上記のようにあくまで新しいビジネスの道具として取り上げられ、失望され、そして忘れ去られたという経緯を持っているのです。
だがしかし待ってほしい、セカンドライフ自体は2020年になってもサービスを継続しているではないですか。しかもリンデンラボは今日に至るまで地道に改良を重ね、かつての阿鼻叫喚とは見違えるほどクオリティアップし、ユーザー数はアクティブ5万人という数字をキープしている。これはサービスとしては間違いなく成功していると言っていいはずです。なのにセカンドライフは「失敗」のイメージが付きまといます。なぜだろう。
ついにこの問題を話すときが来ました。実はこれには複数の要因があります。
4:セカンドライフの失敗のイメージが拭えない原因1
1つ目は単純です。日本人ユーザーが壊滅しているのです。
ビジネス的大敗の烙印を押されたセカンドライフは、そのままのイメージで大半の日本人から忘れ去られてしまいました。
その結果、改良を重ねられ世界全体では人口も多く安定しているのにもかかわらず現状を伝える人間がいないのです。いや、いないわけではないのですが、その声は届くべき人に非常に届きにくい。その原因は上記の「過疎りやすい構造」によるただでさえ少ない日本人ユーザーの分散によって、発信された情報がリーチできる範囲が極端に狭いからです。(多くの場合同じSLユーザーにしか届かない。)
そして、この日本人の壊滅から導き出される私の考える最大の「セカンドライフが失敗を拭えず、今後の展望性に欠けるように感じる」要因は…
オタクが、いないのである。
そう、セカンドライフはビジネス的期待に始まりビジネス的失望に終わった。このサービスの中に、インターネットでの話題性の起爆剤たる活発なオタクが全然いないんです。
現在も残されている黎明期からの日本人コミュニティは存在します。当然、いるにはいたのでしょう。それなりの数の人々が。しかし、現在に至るまでに生存できたのは、ビジネス的旋風を起こした後あえなく撃沈し、あらゆる広告が姿を消した後でもこのサービスにオタクなりの楽しみを見出すことができた限られた人々の話でした。現在、それらのコミュニティは多くがゴーストタウンと化しています。
そして、少数ながら、セカンドライフの発展と共に非常に精力的な創作活動を行ってきた素晴らしい世界中のクリエイターの皆さんのお陰で、様々な後発サービスに引けを取らないほどのオタク的楽しみ方ができるまでに
セカンドライフ内のオタク向けコンテンツは充実しているのですが、残念ながらその情報は前述の理由によりセカンドライフの外にほとんど届いていないのです。
オタクがいないから。そう、5万人いるアクティブユーザー、その大半はオタク的流行と全く関係ない、掠りもしない海外の一般ユーザーがほとんどを占めているのです。
↑2018年のsecondlife.comのトラフィック数を示す図のある記事。日本は欄外で1パーセント弱に過ぎない
これこそが私の考える、VRChatとSecondlifeの同時接続数にそぐわない「成功/失敗」の感じ方の違いの原因です。
今を生きるコンテンツ「VR」「Vtuber」と、オタク達の熱狂によって育てられたVRchat。
ビジネス的熱狂と失望の果てに、人知れず海の向こうで本来の目的に忠実な成長を続けたSecondlife。
インターネットを生きる今の日本の若者が魅力を感じるものははたしてどちらでしょうか?
やはりVRChatのほうかなぁ…と私は考えてしまいます。
↑両者の公式ホームページ。成り立ち・文化の違いがこれでもかというほど如実に表れている。
では、セカンドライフの充実度をオタク向けに再配信すれば勢いが復活するのでしょうか?
実は先ほど複数の要因があるとお話しした通り、そう上手くはいかないだろうとも私は考えています。
5:セカンドライフの失敗のイメージが拭えない原因2
確かにセカンドライフは一般的に知られているより遥かに進歩しており、若者向けコンテンツも充実しています。
しかし、それらを伝えたとて決して越えられない悲しみの壁が同時に存在します。それは、
古い。古すぎるのだ。
セカンドライフは2003年にサービスを開始した、17年目の超古参サービスなのです。
いくら改善を重ねパフォーマンスや表現力が改善したとはいえ、17年間も継ぎ足し継ぎ足し改良を続けてきた基幹の仕組みにはいい加減限界が近づいていると考えていいのではないでしょうか。
セカンドライフ内で直接商取引をするなどの都合上、骨組みの一新のために旧来のユーザーの制作物の互換性を切るという選択肢もなかなか現実的なものではありません。
さらに、VRchatなどの他の新規サービスはUnity等の広範に使用されているゲームエンジンをベースに制作されていることが多く、今後の表現の伸び白なども含め、旧来のUGCの互換に配慮しつつたった1社で独自開発しているセカンドライフが今後の表現力の進歩に追従することは厳しいのではないか、と私は考えてしまいます。
↑Unityはこんな映像表現すらできてしまうポテンシャルを持つエンジン
そして、このどうしようもない古さがありとあらゆる面でSLの進展を阻害します。
この視点に則って見てみると(ド素人の感想ですが)、セカンドライフの環境は非常に厳しいと言わざるを得ません。
・VRChatがユーザーが自由にシェーダーを設定できるのに対し、SLは1つのシェーダーしか使うことができない。テクスチャは1024pxが最大。音声ファイルは10秒単位で、アニメーションは60秒単位でブツ切りにしなければアップロードできない。又、少額だがそのすべてにアップロード費用がかかる。
・VRchatが日本列島まるごと俯瞰するような巨大なワールドを無料で作成できるのに対し、SLは1つのオブジェクトは一辺64mまで、SIM(ワールド)は最大で一辺256mまでで、さらに大きさに比例して初期費用に加え最大毎月数万円の莫大な維持費がかかる。
・煩雑な独自仕様が満載のUIは初心者には絶望的に馴染みにくい。
・仕様上超ハイスペックのPCでも大人数時には急速にFPSが低下する為、物理的にVRコンテンツを制作できない(公式が検討の結果対応を断念)
などなど本当に上げればキリがなくなってしまいます。
そして、時を経るごとに満足いく環境のハードルは上がっていくのです。
表現したい物があるクリエイター達は、当然オーディエンスたるユーザーの活気があり自分の表現を実現できる土台のあるプラットフォーム活動拠点として選ぶでしょう。
最初に紹介させて頂いたガリナ・ウリザ氏のnoteで、氏は
本当に面白いと思える体験自体はまだまだ足りていないそれ故
”なんとかしよう”と試みた人が精神的に追い込まれ潰されていき、何もしなかった人が彼らから”サービスだけを無償で求め続ける”今のセカンドライフの在り方は【セカンドライフは失敗した】と言えないだろうか
私が知る限り、セカンドライフは13年以上この【失敗】を繰り返し続けている、このサービスが充実しない不毛な悪循環を断ち切れないだろうか、あるいは何かをきっかけに変える事は出来ないだろうか
と仰っていますが、高額な土地維持費用などはリンデンラボの重要な収入源ですので他のサービスと競合できる価格に下げることは現実的に厳しいでしょうし、その負担に耐えながら土地利用者の無償のサービス要求に頭を悩ませるまでもなく、そもそも他に面白いと思える体験を無料で創造できるプラットフォームが次々現れてる現状において、あえてセカンドライフを選択するという人はますます少なくなってくるのではないかと思います。
6:セカンドライフは「失敗」のままなのか
では一体どうすればいいのか。セカンドライフはこれからも顧みられない失敗した先駆者として余生を送らねばならないのでしょうか。
ここまで長々とまるでアンチが如くセカンドライフsageをしてきた私は、なにもこのサービスを貶したいがために長文を書いているわけではないのです。私はこのサービスをたかだか3年前に初めて、趣味をすべてこれに注ぐくらいにドハマりしたのですから。
私が始めたきっかけは、2017年序盤ごろにニコニコ動画に投稿された一連のゲーム実況動画群による、完全な新規ユーザーの非常に大規模な流入に乗じたというものでした。まだVRChatのブームも起きかけという頃、セカンドライフのポテンシャルなんて誰も知らないというまったくの素人の状態の「オタクの若者」が大挙して押し寄せたことにより、”メタバース”というジャンルのサービスの持つ無限大の楽しさを、まるでVRCブームの前倒しのような活発な環境で私は楽しむことができたのです。
セカンドライフは古い。新興サービスに発展性で勝ることもなければ、メタバースの王者として時代の寵児に返り咲くことなどは、今後一切ないでしょう。
だがしかし、今後成長するであろう後継メタバースに対して受け継いでほしい様々な良い要素は確実に存在していると思うのです。
それら良い要素・また悪い要素も確実にこれから後継サービスたる物に携わる可能性のある人々に伝えるためにすべきことは、可能な限り冷静に、現状を過剰に飾り立てるのではなく、他サービスとの比較と利点の説明を人目に付きやすい形で世に出すことで実際に触ってもらう機会を増やすことなのではないか、と私は考えています。
ビジネスの失敗例としてではなく、これからやってくるメタバース世界に対する貴重な実例としてしっかりと目が向けられるようになれば、結果として再びセカンドライフに良い意味で注目の目が集まる日も来るのではないでしょうか。
おわりに
専門家でも経験豊富な古参でも何でもないただの一般人の駄文を読んでくださりありがとうございました。具体的なセカンドライフの評価点などを羅列しはじめるとこれもまたキリがなくなってしまうので程々にして、またの機会にしたいと思います。
流石に10年前と比べれば雲泥の差。
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