見出し画像

残留をたぐり寄せたライブコーディング

ライブコーディングに挑戦するまでの経緯

退屈。

自分がアナリストとして活動する中、試合当日は退屈で仕方ありませんでした。試合中に任せられている業務は主に試合撮影になります。周りも同じような様子で、チームの所属しているレベル(アマチュア、セミプロ、プロアカデミー etc.)が上がるにつれて日々のトレーニングの撮影もこなしている人が多い印象です。

試合の映像がなければ監督に求められる資料を作る材料が全くないことになるので、最も大事な作業の一つと言っても過言ではありません。ただ、アナリストが自分を含め2、3人いるようなチームでは前後半に分けて撮影を行うことになりますし、寒い中カメラを左右に動かすだけなので数ヶ月もすると少し飽きてくるのが正直なところです。

アウェイの遠征ともなると、「撮影やったら誰でもできるくね?」と自分の存在意義を自問自答するようにもなりましたし、チームが負けていく様を目の当たりにしてやるせなさを感じることもありました。

この時点で、ライブコーディングをやってみるしかない、と決意していました。ライブコーディングとは、簡単に言うと試合の最中に行うタグ付けになります。ここで重要なのが目的です。

何のためにライブコーディングをするのか?

試合後の分析をより簡潔にするために用いられることが大半です。しかし、ハーフタイム中に選手やコーチ陣に切り取った試合映像を見せることが自分のゴールでした。この少しの違いだけで、ライブコーディングを使うにあたってのプロセス(手段)が全く異なってきます。

まずは、パソコンでライブコーディングを行う方法を探るところからの始まりでした。大学のコースの一環でタグ付けのソフト(SBG Focus)を入手した時に、ライブコーディングのオプションを見つけたので、一旦これで試してみよう、と算段を立てることに。

意外と簡単に見つかるやん、と軽く見ていたら、そこから悩みに悩んだ3が月が続きました。セットアップに必要な機材のコスト、自分のパソコンが機材に対応していないなど、次から次に問題が発生していました。教授と2時間ほどみっちり対応してもらうも成功せず。諦める一歩手前だったのは確かです。

そこで出会ったのが自分たちの勉強しているコースを首席で卒業したアモグというインド人の先輩でした。彼の教えてくれた方法はシンプルかつ低コストでも準備できるため、予算が限られているチームにとってはうってつけです。

方法1:SDカード2枚

用意するもの:パソコン(SDカードを入れるスロットがなければアダプターも必要)、SDカード2枚
役割分担:試合撮影係(1人)切り取るクリップの時間をメモする係(1人)

手順は以下の通りになります。

  1. 録画と同時に、メモ係はストップウォッチを開始。

  2. 30分ほど録画をし、メモ係はコーチに見せたいシーンを時間と併せてメモ。

  3. プレーが切れるや否やSDカードを交換。

  4. メモ係は先ほどまで撮影に使っていたSDカードを読み込み、見せたい映像を切り取る。試合撮影はそのまま続けることで、撮影もバッチリ。

デメリットとしては、前半終了直後にコーチに映像を見せようと思うと、どうしても30分あたりで切り上げなければなりません。最後の15分を分析の対象外にしてしまうことになるので、そこだけは注意点です。

実際にこの方法で練習試合のライブコーディングを実施し、最終的にはチームのグループチャットに切り取った動画を送信しました。動画をエキスポートすることはできても、それをどのようにして選手に共有するかまで工夫が求められます。

方法2:ブラックマジック

用意するもの:パソコン、Blackmagic Ultrastudio Recorder 3G、純正のケーブル(Thunderbolt 3 (USB-C) Cable)、HDMIからMicro HDMIのケーブル

次の試合では、ブラックマジックという機器をカメラとパソコンの仲介で使う方法を試してみました。先ほどの方法との大きな違いは、カメラで撮影している映像をそのままパソコンに表示しながらタグ付けが可能なことです。SDカードを交換する手間は省かれるので、45分ハーフを全てカバーすることができます。

パソコン→ブラックマジック→カメラ。ブラックマジックには似たような商品がたくさんあるので、パソコンが対応機種のリストに含まれていて、用途にあっているかきちんと確認することが重要です。

今回の試合では二人のコーチと相談をし、練習試合で試した方法1を振り返りながら、少し違ったコミュニケーションの取り方、選手への動画の提示を図りました。

まず一つは、一人のコーチと常に電話を繋いでおくこと。タグ付けが必要な場合でのみ会話をすることで、よりコーチが欲しい動画を切り取りつつ、最も重要なコーチングに集中してもらいました。更には、自分が重要だと思ったシーンにもタグをつけることで、ハーフタイム中に自分の意見も混じえながらコーチに映像を提示することができます。そこでコーチと話し合い、最終的に選手に見せるクリップを選定します。

今のところはタグをなるべくシンプルにして、それぞれのタグにメモをつける機能を使いながら運用しています。たくさんタグ付けをしてしまうと、後々振り返る時間が長くなるので、そのあたりのバランスや慣れは大切です。

実際には黒い部分に試合映像が10秒のラグで映し出されます。ラグの時間は調節可能です。

結果的には最後の5分で3つのタグ付けを任され、ギリギリではありましたが、なんとか前半終了前までにはコーチに見せる準備を終わらせることができました。自分の選んだ映像も一つ併せて、4つの場面を選手に見せることに決定。

次は最終的に選んだ映像の見せ方です。練習試合では各個人がスマホで動画を確認しなければいけず、どうしても目線が下を向いてしまった。これを改善するために、この試合ではテレビを使って映像を見せることで、選手の目線が統一してコーチに向くようにしました。

バッテリーの減りには必ず注意して下さい。いつもなら90分でバッテリーを1個使うか使わないかぐらいですが、ブラックマジックを繋げた前半だけでバッテリーが3つ切れてしまう事態に陥りました。試合を見に来ていた同級生に助けてもらってなんとか乗り切れましたが、かなりパニックになった現場でした。次に試す時は、バッテリーを充電する機器も一緒に持参するつもりです。

先輩(桑原)に練習でライブコーディングのリハーサルを手伝ってもらった時の様子。

結果的には1−1で前半を折り返し、後半の最後でPKを決め2−1で勝利。他会場の結果も含めて残留が決定しました。前回対戦した時には5−1で惨敗した相手だったので、感慨深い勝利です。

残留するか、下部リーグと入れ替え戦をするかを決める重要な試合。そんな大一番でもすごくオープンで新しい試みを後押ししてくれたコーチ、一緒に働いているアナリストには感謝しかないですし、それを受け入れてくれた選手にも頭が上がりません。

今回はハーフタイムでコーチ・選手に映像を見せるためのライブコーディングを行う2つの方法を紹介しました。もしアナリストの人手が足りてたり、新しいことに挑戦してみたい人はぜひ試してみて下さい!

芝本

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?