irodoriとそのお客さんは"珍獣"であった。

ANIPLEXとは

ANIPLEXが如何に巨大なエンターテイメント企業かは、言わずともご存知であろうが、理解を深める為にあえてそれをテーブルの上に置いて話を進めたい。
事業内容
・アニメーションを主とした映像および音楽作品の企画製作
・パッケージ商品等の発売や配信といった流通
・ゲームアプリやグッズ等派生商品の開発
・ミュージカルやイベント等の興行

資本金:4億8000万
・資本金とは株主が会社に出資した金額。
・資本金からわかる事は企業の規模や体力ということになる。
・3億~10億は日本全体の1%と言われている。※1億で上位3.7% 10億以上で0.7% 100億以上で0.2%
つまりANIPLEXは、日本全体の上位3.7%に含まれる超すげぇ会社って事ですね。

営業利益(本業):440億
営業利益とは、会社が本業で稼いだ利益を表します
経常利益(本業以外の売上):430億
会社が各決算期中に経常的な事業活動で得た儲けを示します。
売上高:1950億
企業の主たる商品やサービスを提供することによって得られた売上の合計額です
純利益(別名税引後利益とも言う)=290億円
企業がすべての支払いを済ませた結果として、最終的に会社に残ったお金
純資産(自己資本)=720億

返済義務がない資本です。
総資産=1130億
会社が運用している財産の総額すなわち資産の合計

売上高総利益率(粗利率)
平均:25.58%
売上高総利益率(%) = 売上総利益(粗利) ÷ 売上高 × 100
44.62% = 870億 ÷ 1950億 × 100

売上高営業利益率
平均:2.99%
売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
22.56% = 440億 ÷ 1950億 × 100

経常利益率
平均:3.50%
経常利益率(%) = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
22.05% = 430億 ÷ 1950億 × 100

自己資本利益率(ROE)
平均:9.34%
自己資本利益率(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
40.28% = 290億 ÷ 720億 × 100

総資本利益率(ROA)
平均:3.1%
総資本利益率(%) = 当期純利益 ÷ 総資本 × 100
25.66% = 290億 ÷ 1130億 × 100

子会社も数多く揃えており、
・A-1ピクチャーズ
・クローバーワークス
・クアトロA
・アニプレアメリカ
などがある。
主要株主はソニーミュージックエンターテインメントである。ちなみにSMEの純利益が149億なので、なんと親会社より利益を出しているのだ。アニプレックスはSMEグループの総売上の半分を占めているという。上記にある通り利益率も平均を大きく上回っていてこれからの成長も見込める為、極めて重要なポジションに居るのである。

岩上ゾーン

毎週土曜日23:30から"Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-"。連続して24:00に "マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝"を放送しており、いずれもANIPLEXの主力商品だ。へんたつはFGO後のCMアニメとして放送している。Fateとまどマギ...この巨大な両柱に重大な共通点がある事をご存知だろうか。そう、プロデュースした人物がどちらも「岩上淳宏」なのだ。

岩上淳宏とは
1997年にアニプレックスに入社し、現在はアニプレックスの執行役員、第2企画制作グループ代表、プロデューサーとして活躍。
プロデュースする主な作品
「ひだまりスケッチ」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」「カラフル」「私の優しくない先輩」「まどマギ」 「SAO」 「物語シリーズ」「Fateシリーズ」など。

彼の功績は今更語るまでもないだろう。
もちろん彼がインタビューで発言している通り、"チームの功績"であり(まどマギのインタビューで「自画自賛というよりも、作ったスタッフがすごいのだ」と発言)彼1人が成し遂げた事では無い。だが彼がプロデュースした作品がことごとくヒットし、長期コンテンツ化し、社会現象クラスの作品に昇華しているのは、彼が持っている人を惹き付ける能力であったり、人の才能を発揮できる土壌を作れる能力を持っているからに違いない。
Fateのプロジェクトは、"ANIPLEX" "ノーツ" "ufotable"の三社連合という形を取っている。その発案者が岩上淳宏氏であり、劇場アニメ「空の境界」を2社に依頼したことを皮切りに始まった。
空の境界は、観客動員数13万人を超え、DVDは40万枚を売り上げた。
その後、岩上淳宏氏の提案でソーシャルゲームの開発を始動、2014年に発表し事前登録を開始。2020年2月にFGOは、ユーザーの課金学が4000億円を超え世界一に。




※マギアレコードではプロデューサーとしてクレジットされていないので、「まどマギ」から共にプロデューサーとして活動していた久保田光俊(シャフト取締役社長)氏に任せていると思われる。

この時間帯はまさにANIPLEXの絶対領域

この2作品が連続して放送されるのは戦略的に考えての事だと捉えるのが自然だ。(たまたまかもしれないが)
例えば、"fateシリーズ"のファンが"まどマギ"を見ていなかった場合、この配置を期に視聴してくれる事を考慮すると、新規客の獲得というメリットが浮かび上がる。ならばCMを入れるというのも戦略的に考えてという事だろう。宣伝効果的には連続放送だけでも十分成功しているような物なので、実験的に"へんたつ"を入れるメリットが無いように思えるが、彼の趣味やノリで入れたようには思えない。

なぜわざわざirodoriをCM枠として引っ張ったのか。

岩上氏にirodori起用の話が通ってるという事実だけでもすごいのだが(笑)、irodoriファンのスタッフが居て打診したのか、彼自身のアイデアなのか、irodori側が営業して勝ち取ったのか(これは想像しにくい...)
"irodori"の固定客を確保できるのならば、それなりに旨味があるだろう。円盤の売り上げを見ても"ケムリクサ"は初動で5000枚以上を売り上げでおり、同人作品の"傾副さん"や"へんたつ"もそれぞれ5000枚近く売り上げている。そのマーケットを丸ごと持ってこられる事を考えると、このCM枠の提供も宣伝効果としては有効に働くかもしれない。
それに、"irodori"は半ばフリーランスチームのようなものなので(ヤオヨロズとは作品契約という形を取っているため)コラボレーションも比較的容易に行えるはずだ。
真意など本人達にしか分からない事なので答えなど出ないだろう。上記は全て浅はかな戯言に過ぎない。しかし「意味はあるはずだ」と勘繰ってしまうのは止められない。それが5000人規模のクラスター確保の為なのか。それとも何か意図を持っているのか。

※その後、新作発表のためのプロモーションと判明(笑)

まさにアニメ界の珍獣

irodoriの牽引者"たつき"氏が発言した「珍獣」というのは腑に落ちる物があった。
彼らの作るアニメの不思議な魅力と、ファンコミュニティの独特な雰囲気は他には無い奇妙奇天烈摩訶不思議な存在である。

1低予算少数チームでヒットを連発させている
2CMアニメとは言え自身のエッセイのようなアニメを配信
3SNSで無料で見られるようにした
4ファンは製作陣に対しアンテナを長く伸ばしている。
5ファンは映像の1分1秒まで細かく分析して見ている。

全くセオリーの外で躍動するこのコミュニティは独自の文化のような物を作りあげ、製作者と視聴者の対話が成立していた。irodoriコミュニティでは常識となりつつある様々な現象は、最大手で物を売るANIPLEXの戦略とは大きく異なる為、この界隈の動きは読めないだろう。
ニッチ作品最大の利点をうまく活用できているケースであるが、参考にはならない、というかするべきでは無い。彼らだから可能な事であり、極めて特質な存在だと認めなくてはならない。
1は固定客が付いているという安定基盤を差す。このキャパをどう広げるか、そしてお客さんをどう増やすかがirodoriの課題であろう。今後も需要拡大が見込まれない2のような作品を作ると衰退するし、お客さんも離れていくと思われる。3は同人とプロの境界上に居るからできる事である。いつまでも"ボーダーマン"で居るのか、同人で生きていくのかというのは最も知りたい事である。個人的には湯浅政明監督サイエンスSARUような、ハイクオリティなアニメーションが作れて、独自性の強い世界観を持ったアニメスタジオに昇華して欲しいと思っているが...。
4と5はユーザーの事である。彼らはirodoriの発言や動きに敏感で、例えばどこかの会社や人物とコラボレーションしたとすると、その企業の商品を購入したり、ファンアートを創作して「感謝」を伝えるのだ。
「製作陣の躍進に強い喜びを感じている」というユーザーの心理状態と能動的な応援行動はまさに珍獣同士のコミュニケーションと言わざるを得ない。

最高のアニメを作って欲しい

irodoriがANIPLEXの下でアニメを作る事となったが、irodoriが興行収入という点で重要ポストになるのは現実的では無いと言う事を踏まえなくてはいけない。あくまでニッチ層を狙った戦略であるからだ。
今やアニメは市場を海外に向けて幾数年、海外でもヒットさせるにはirodori体制を部分的に辞めなくてはならない。

アニメ産業2018年比100.9%、6年連続更新。



irodori体勢と言えば「少数精鋭」だろう。
しかしこの「少数精鋭」聞こえは良いのだが、それではどうしても資金が集まらない。資金が無いとやはり低予算になってしまう。それだと戦略の幅が広がらず横ばい、最悪右肩下がりになる。いくらたつき監督が"演出の天才"と言えど、そのサイクルで成長していくのは難しい。
ストーリーや演出さえしっかりしていれば低予算でも売れる(生き残れる)、というのはニッチ層の考え方である。
現実、海外のアニメファンは作画を楽しんでいるのだ。

MyAnimeList参考
ケムリクサ 7.12
https://myanimelist.net/anime/37302/Kemurikusa_TV
へんたつ 5.24
https://myanimelist.net/anime/40995/Hentatsu_TV?q=henta
※ケムリがカ○ネリ(7.27)以下だし、メイドイン○ビスが8.82って時点でアテにはならないが...(あくまで個人の感想です)

では、PIXARやSPAように美麗な映像に切り替えれば良いのかと言われるとそうでは無い。グラフィックの素材の細部表現や高機能な物理演算で勝負しても勝ち目は無い。海外のCGアニメーションは、もう手が届かないレベルまで昇華している。それを決定づけるような作品、アカデミー賞長編アニメ賞を受賞した"スパイダーマンバース"は圧倒的だった。

アニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』が、2019年のアカデミー賞で長編アニメ賞を受賞した。


セルアニメでもディズニーを筆頭にフルアニメーションとしてのクオリティは日本の技術力じゃ追いつかなかったが、リミテッドアニメーションとして文化を築き、今やフルアニメとリミテッドの"良いとこ取り"のような技法で市場を拡大させた。初動はやはり資金力が勝るフィールドで優位性が働くが、コンテンツが成熟すればそこのフィールドでしか出ない味が出てきて、他には無い価値が出てくる。今や日本のCGアニメ界も独自的な進化を遂げ、オレンジポリゴンピクチュアズが台頭、映像のクオリティも飛躍的に上げつつ、日本アニメ的な表現を融合させ唯一性を確率した。irodoriが本当にこれからもCG畑で戦いたいのならば、オレンジやポリゴンピクチュアズのように、しっかり予算を掛けてじっくり作り込んだアニメーションを発信するべきなのである。

もう一本の柱に

「fateシリーズ」「まどマギ」という二大柱に加え鬼滅の刃が社会現象を巻き起こし、ANIPLEXが更に飛躍している。これからは、鬼滅が三本目の柱としてアニプレを支えていくだろう。
極めて愚昧な妄想だが、もしも私がプロデュースできる立場だったら、irodoriの世界観に特化したプロジェクトを立ち上げ、もう一本の柱となるように育て上げていくだろう。fateのように三社連合的な事をしても良い。
自由にやらせた方が良いという意見もあるだろう、中途半端な才能なら私もそう思う。だがirodoriの演出能力は明らかに突出していて、もしかしたら想像も付かないくらいの感動を世界に巻き起こす、そんな偉業を達成する可能性を秘めているんじゃ無いかと思わせてくれる。だからこそ、彼らには盤石な環境の中で、世界で戦える作品を生み出して欲しいと願ってしまうのだ。

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