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首の皮一枚、繋がってもない。

お昼休みの時間、銀行に手続きに行った。結婚で苗字が変わったためだ。

今日は雪が降っていて、お昼は23区に大雪警報が出ていたため外に出たくなさすぎた。でも銀行は1ヶ月前に予約しており、これを逃すとだいぶ先まで予約が取れない恐れがあった。意を決して行く。

当然寒い。外は0度。老若男女誰もが寒そうに身を縮こまらせて、滑らないように慎重に歩いている。

さすがに銀行の中はあたたかい。
予約をしていたので、案内はスムーズだった。

銀行内では、「面倒な手続きもオンラインで完結できます」という動画が流れていた。
しかし、キャッシュカードに紐づいたデビットカードがあるせいで、私の手続きはオンラインではどうしても完結しなかったためここにいる。オンラインで完結したかったさ、私も。

窓口に呼ばれる。キャッシュカードの手続き。身分証明書などはきちんと用意していたので順調に済んだのだが問題はデビットカードである。

ここにきて、デビットカードを持ってくるのを忘れていたことに気づく。こいつのせいでオンラインで終わらなかったのに。

「取りに戻っていいですか!?」
「お待ちしています」

なんと優しい銀行員さんか。待ってくれるんだ。

銀行を飛び出して、慌てて取りに戻る。走る。外は当然雪である。路面も凍りつつある。めちゃくちゃ慎重に、でも走る。双子用ベビーカーとお母さんがゆっくりゆっくり進んでいる横を、デビットカードを忘れた女が変な走り方で切り込む。
自宅に戻り、カード入れをひっくり返す。ない。見つからない。引き出しを全部開く。ない。そういえば引っ越しのタイミングでも見た記憶がない。まずい。たぶんこれは、マジでないパターンだ。使った記憶すらない。
5分くらい探したが、見つかる気配がない。
もうどうしようもない。謝るしかない。

銀行に戻る。もちろん走った。平地で転ぶ私が、珍しく滑りもしなかった。フランスの兵士も履いているという、パラディウムの靴を履いていたからかもしれない。走っているのは国を守る兵士どころか己のカードを無くした愚か者である。

銀行員さんに「すみません……探したんですが、みつからなくて……」と詫びる。変に誤魔化してもどうしようもない。

みれば、銀行員さんの手元にはあとはカードがあれば完成する、ハンコまで押して仕上がったデビットカードの書類があった。

「……ない?」

銀行員さんがフリーズする。外気温のせいではない。私が愚かなせいで、こんなにも暖かな部屋で、私が探すのを待ってくれた親切な銀行員さんを凍らせてしまった。沈黙は永遠かと思われたが、銀行員さんがなんとか口を開いた。

「………………最近お使いになっていないという感じですか……」
「ハイ…………」
「じゃあ……解約、しましょうか……」

銀行員さんは奥に消えていった。しばらく戻ってこなかった。

そういえば先日も他の銀行の手続きで事故を起こしたばかりだった。書類を書き間違えたり、印鑑を押しミスったりなどということは当然のようにやらかしたし、最悪なのは通帳と印鑑でお金を下ろすつもりだったのに、通帳を忘れたこと。この時も銀行員さんはフリーズしていた。「通帳がないでございますか」と尋ねられた。通帳がないのに引き出せるわけがない。そんなこと私もわかっている。だが、忘れた。全て私の不注意のなせる技。

銀行、滅多に行かないのに、行った時に限って迷惑をかけてしまう。

結局、もう一枚書類を書いてデビットカードを解約、ついでにご親切にワンタイムパスワードの設定まで手伝ってもらって、この場は終わった。

多分私が帰ったあと、銀行員さんはめちゃくちゃキレたと思う。こんな雪の日に、夜は帰れるかどうかもわからない中で、意味のわからん客が意味のわからんことを言ってきて待っていたら挙句の果てにカードがないといっている。怒っていい。赤から行って、めちゃくちゃモツとか頼んで、ビールとか飲んで、盛大に同僚に「あの客やばかった」と愚痴ってもらいたい。

そのまま私は己のポンコツさに呆然としながらしばらく歩き、ふと図書館を見つけ、吸い込まれ、なぜか図書館で利用者カードを作った。銀行で使った住民票が役に立ってすぐに作れた。

デビットカードと引き換えに図書館のカードを得た。

図書館では「IDとパスワードを紛失されると再発行になり、データが飛んでしまうためご注意ください」と言われた。ものの見事にフラグが立った。

そうして帰った頃には汗だくになっていた。走った汗より冷や汗の方が多かっただろう。疲れた。もう寝よう。


明日へと歩き出さなきゃ 雪が降りしきろうとも……

常田大希さん、YSLとのご契約おめでとうございます。

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