新しい靴

自分にとって靴は少し特別なものである。

きっかけは小学生の時。はじめて買ったバスケットシューズ(以下、バッシュ)が小さくなって新しい靴を買ってもらった。それを履いて練習に行くとコーチから、

「つま先踏んであげる。新しい靴はつま先が硬いから怪我しやすくなるから。」

※これに関しては本当がどうかわからない。あまひ鵜呑みにしないでほしい。

その当時はびっくりした。新品の靴を履いたそばから目の前でガシガシ踏まれるのだ。最初は泣きそうになったが、新しい靴を買うと誰かに踏んでもらうことに慣れてきた。コーチだけではなく、チームメイトにも踏んでもらった。中学生の時はチームメイト全員に自分から踏んでもらいに行っていた。めんどくさがるチームメイトがいたら体育館や学校の廊下を追い回したほどだ。そうしてるうちに、新しいバッシュを買った時はチームメイトから踏んでもらうようになった。その「靴を踏んでもらう」という行為がバッシュに魂が宿る瞬間であり、チームメイトの期待を背負う瞬間だと思っていた。これは勘違いかもしれないが、いい勘違いだった。練習中や試合中に下を向きそうになったら、視界には靴が入る。それを見てまた気持ちを切り替えていた。

当時のバッシュで、自分の足に合うNIKEのものはなかった。そして試合時のポジションでバッシュもなんとなく分けられていた。だからその反動で普段はNIKEのハイカットスニーカーを履いていた。

そして今回の靴である。また今年になってバスケをするようになり、バッシュを変えようと思っていた。中学生の最後に履いていたバッシュをいまだに履いているのだ。足のサイズも変わっていなければ、バッシュのいたみも少ない。だけど、中学生の自分とは体も力も違う。だから前の感覚でそのままやろうとしても上手くできないことが増えてきたのだ。体が覚えているというのはいいことなのだが、それを今の自分に合うように調整、または前の感覚を捨てて新しいものにしなければいけない。そうした時に、当時の思い出のバッシュは少し重たい。バッシュのせいではないが、いっそのこと心機一転する必要があるように思えた。そのバッシュはまだ履けるし、調整を終えてからまた履いたっていい。だから新しいバッシュが欲しかった。とはいえ、全く思い入れのないバッシュを履くことに抵抗があった。これまでのバッシュも、みんなに踏んでもらうまではなんの思い入れのないバッシュではあった。だけど、もうバッシュを踏んでくれる人はいないかもしれない。もしくは、最近のバッシュは踏む必要すらないのかもしれない。そう思っていた。

そして、この新しいバッシュである。(ここからは端折って書く部分もあるから、話がとんだと感じ、かつ気になったら過去の記事を読んでほしい。これで話はつながる。)

サンボマスターの「可能性」という曲を思い出して読んでほしい。(ビリギャルみたいなことではない。)

そして本題。

NIKEの「カイリー6」というバッシュ。カイリー・アービングというNBA選手のシグネチャーモデルである。カイリー3を履いてみたいなぁと思っていたらいつの間にか6まで発売されていた。ポジションが同じだからちょうどよかった。そして以前にはなかったローカットのバッシュも流行しているおかげで、気に入ったハイカットのバッシュを見つけるのも大変になってきた。その中で気に入ったバッシュに出会えるのはありがたいことである。

この靴で念願が叶ったことが2つある。1つ目はNIKEのバッシュであること。自分の足に合うNIKEのバッシュがあるのはいい時代になったと思う。2つ目は左右で色の違うバッシュを履くこと。これは以前からやってみたかったが、そもそもそういうバッシュは市販ではないし、やろうと思っても右足が白単色、左足が黒単色になってしまったり、足の裏は白で統一など、自由が効かなかった。

この靴は「NIKE BY YOU」というサービスで作ったバッシュだ。靴の形を選んで、自由に色をカスタマイズしたり、ロゴを入れて靴を作ることができる。それを使ってこの靴を買った。どうやら箱も特別らしい。箱に「BY○○」と自分の名前が入っていた。

実は左右で違う色にするために、2足買っている。室内用と野外用で1足ずつ使おうと思っている。白基調と黒基調でそれぞれ左右で色を反転させている。靴の裏も白と黒と分かれている。シュータンのところには「PAST」と「HOPE」の文字。この靴は名前をつけるなら「過去が希望をくれる靴」。プレーするのは今の自分。だけど、過去の自分も捨ててはいけない。過去があって今がある。その過去が今を通過して未来の自分のプレーを作る。そのプレーはチームメイトがくれたものでもある。自分1人で身につけたものではない。その感謝も表している。わざわざ「過去」と刺繍を入れたのは、ローズが体に日本語で「忍耐」とタトゥーを入れているようなものだと思ってほしい。

※ローズ:デリック・ローズ。NBA選手で自分にとってはヒーロー的な存在。彼はアディダスのバッシュを着用している。アディダスにはNIKE BY YOUのようなサービスがなさそうなので、今回は断念している。

その過去と今がしっかり混ざり合って未来に向かっていけるような希望になってほしいという思いで、白と黒を散りばめて作った。ミッドソール(グレーの部分)やシュータンの刺繍にポイントで赤を使っているのは、中学生の時にチームメイトでお揃いの赤のリストバンドをつけていたことから、そのことを少しバッシュに影響させたいと思い、赤を入れた。

赤いリストバンドは孫悟空が頭につけているきんこじのようなものだった。孫悟空が悪さをしようとすると、三蔵法師の経文によってその頭のリングが締まるというもの。自分はよく試合中に記憶をなくすことがあった。試合中に味方の足が止まったり、「ここで相手のペースを破らないとまずい」という場面、上手くいかない時にそれは起こる。自分のポジションはポイントガードという司令塔の役割。自分がゲームメイクをして試合を動かしていかなければならない。だから、自分がなんとかしなきゃいけないと思えば思うほど視界が狭くなっていく。そして気づくとベンチに交代させられているのだ。ベンチに腰をかけた瞬間に我にかえる。そして視界が狭くなりはじめたところから我にかえるまでの記憶がない。そこをリストバンドは助けてくれた。リストバンドをしてからはそのようなことがなくなった。チームで同じものを身に付けることで、1人でやっているわけではないと実感していた。色が赤いだったのは、中学校のユニフォームに赤が入っていたからである。そのリストバンドも今でも身につけている。しかし、いたみが激しいので、そのうちダメになってしまうかもしれない。そうなった時にバッシュが助けてくれるかもしれないと思った。でも後々はそのようなものも要らなくならなければいけない。その時がバッシュを変える時であってほしい。多分、バッシュが壊れるほどの頻度でバスケはできないだろう。

一見、左右履き間違えて家を出てきたような靴ではあるが、自分にとっては思い入れの強い一足なのである。少しでもはやくコロナが収束して、思いっきりバスケがしたい。ワクワクを抑えながら休みは自宅待機を続けている。




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