研究を仕事にするまで
筆者:鈴木哲平
2016-2018の間にRAをしていた鈴木哲平です。今回アドベントカレンダーの話をいただき、何について書こうか悩んだのですが、この回では他とは少し雰囲気を変えて「研究を仕事にするまで」というタイトルで自分の大学時代を振り返ろうかと思います。(というのも、cvpaper.challengeやRAとしての役立つ話や面白エピソードがないので。。。)
研究との出会い
学部時代を振り返れば、バイト、サークル、酒の3本柱で生きていた気がします。大学の授業は当たり前のようにサボっていて、テスト前に友人と集まって過去問をひたすら暗記することでなんとか留年だけは避け、そんなこんなで研究室配属の時期を迎えたのが2014年の大学3年の秋でした。昔から特に将来について考えたこともなく、理系科目が得意だったという理由で理工学部に入学した自分は当然やりたいこともなく、なんとなくで研究室の配属希望を出したところ見事に落とされ、第2希望の研究室へ配属されることになりました。ただ、第2希望で入った研究室がCV系の研究室だったことは自分にとって大きな幸運だったと思います。[^1]
人生で初めての研究はobject proposalに関するもので、研究室へ入室した2015年はFast R-CNNやFaster R-CNNが発表された年で、割と分野的にもホットなトピックだったと思います。一方で、当時の自分はプログラミングもほぼほぼしたことがなく、学力面でも線形代数は四則演算のみ、確率統計の知識も高校レベルとどうしようもない落ちこぼれだったので分野の進展の速度についていけるはずもなく(加えて遊び呆けていたこともあり)、卒論としてまとめるのが精一杯という状態でした。
学部卒業後は、大学院進学率の高い大学だったことと、就活を先延ばしたいということもあり、とりあえず大学院へ進学という進路を決めていました。
この時は、大学院では卒業に支障のない程度に研究を頑張って、大学の推薦の枠組みを使って就職するという未来をぼんやり思い描いていた気がします。
勉強の楽しさに目覚める
卒論を書き終わり無事卒業を決めた春休みのタイミングで、実家を出て大学の近くで一人暮らしを始めました。引っ越した当初は引っ越し費用に加え、卒業旅行や友達との飲み会が重なりお金がなかったため、家には布団と冷蔵庫・洗濯機程度しかなく、当然ネットは繋がっていなかったためとにかく暇を持て余していました。そこで当時の自分は、せっかく大学院に進学するのだから研究を頑張ろうかなとふと思い立ち、とりあえず研究室に転がっていた自分でも読めそうな手頃な専門書を持ち帰って読むことから始めました。
蓋を開けてみれば修士課程の間は研究ではなく勉強をすることにハマっていました。新たな知識が身についていく感覚が自分にとってこれ以上ない快感で、またCV/MLのいいところとして、実際に動かして視覚的な結果を得ることができるためモチベーション維持もしやすかったということが勉強にのめり込んだ大きな要因と思います。この時勉強に没頭したことは研究職を選ぶ一つのきっかけになったと思います。
産総研RA
春休みも終わりに差し掛かった頃、研究室OBでcvpaper.challengeの主宰である片岡さんから産総研でのRAのお話をいただき、ちょうど一人暮らしの資金繰りに困っていた自分は飛びついたことを覚えています。当時のcvpaper.challengeは今のように研究グループを作って研究していくというような活動はなかったため、基本的には片岡さんからテーマをいただいて研究を進めるという形でした。[^2] 少し当時の研究について思い出すと、最初に片岡さんにいただいたテーマは物体検出の話でした。RAを始めた年はFaster R-CNNが発表された翌年で、YOLOやSSDなどCNNによる物体検出全盛期で、この時は片岡さんがアイディアまで作り上げていたのでそれを実装して形にするという、ある程度道を作っていただいていた中での研究だったと思います。とはいえ、当時の自分に物体検出モデルを実装する能力はなく、公開されているコードも一度も触ったことのない&複雑なDeep Learning Frameworkの一つであるCaffeで実装されていたため、気付けば成果が出る前にあっという間に波に飲まれて最初のテーマは没になりました。その後、片岡さんがCVPR2017へ投稿する研究の実験のお手伝いを経て(最終的にはICRA2018に採択されました)、車載動画認識の研究に着手することになります。車載動画から人の飛び出しなどを検出するという内容で、当時はLuaのTorch7を使って物体検出モデルであるSSDを1から実装したことを覚えています。結局この研究は初期検討がMVA2017に採択され、発展させたものをBMVC2018へ投稿するも不採録という結果に終わりました。[^3] 研究としての成果はあまりあげられませんでしたが、当時SSDを1から実装してある程度の再現ができるところまでやり切ったことは実装力の向上に大きく結びついたので、非常に良い経験だったと思います。産総研でのRAは、往復4-5時間程度の通勤時間や産総研での研究の合間は集中して専門書を読むことができたため、個人的には研究より勉強が一番捗っていたと思います。(産総研に行っても研究せずにその辺で一人で本を読んでいたことが多かった気がします。片岡さんすみません笑)
就職活動
修士1年の終わりも見えてきて、いよいよ就職活動の時期を迎えました。就活の軸に関しては悩むことはなく、研究を職にすれば仕事の一部として勉強ができるし働き方も自由そう、くらいのノリと、単に他の職種や業界を調べるのが面倒だった、という学部時代の体たらくを思い起こさせる適当な理由で研究職での就職活動を始めました。しかし、いざ就職活動を始めると、いわゆる研究所は博士号やある程度の経験と実績が必要である場合が多く、この時ぼんやりと博士課程への進学も視野に入れたことを覚えています。たまたま、研究室の先輩の共同研究先だった現職の研究所が、採用実績はないが修士新卒を受け付けていないわけではない、と言ってくれて、縁があり現在もそこで働いています。今だに、当時何の実績もない自分をポテンシャル採用とはいえよく採用したなと思います。自分の就職活動は、落ちれば博士課程に進学すればいいという思いもあったので、結局その1社で終わりました。アドカレのために大学時代を振り返って気づいたのですが、割と後先考えず適当にやってしまうところは性格かもしれません。
まとめ
「研究を仕事にするまで」というタイトルで書かせていただきましたが、動機に関してはただ怠惰ゆえにたどり着いた結果、という身も蓋もない結論になってしまいました。ただ、現在は研究を仕事にしていますが、学生時代を振り返ってみれば、学部は遊び呆けており、修士は勉強と研究の比率が7:3くらいと、お世辞にもしっかり研究活動をしていたとはいえず、加えて学生の間の業績も、国際会議はMVA2017と、修士の卒業直前に投稿したICIP2018の2本だけでした。昨今のcvpaper.challengeを見てると、学部や修士の学生がモチベーション高くバリバリ研究をして有名な学会に採択されていて、ただただ感服しています。ぜひ引き続き日本のCV界隈を盛り上げていっていただければと思います。
cvpaper.challengeの活動とはあまり関係のない話となりましたが、以上になります。
[^1]:例年倍率が2倍前後の超人気研究室に第2希望で入れたということが真の幸運だったと思います。
[^2]:片岡さんが東京電機大学の研究室と密に連携をとっていて、そこでは現在のcvpaper.challengeの研究グループの前身の活動がありました。
[^3]:修士卒業後も片岡さんが論文をリバイズし諦めずに投稿を続けてくださった結果ICRA2020へ採択されました。
[^4]:ちなみに今年はICCV2021、CVPR2021と不採択になっており主著での国際会議発表はゼロでした。CV系トップカンファレンスの壁の高さを痛感しました。