cvpaper.challengeに参加してみた(B4体験記)

筆者:山縣英介

はじめに

こんにちは,Advent Calendar 2021の12/15を担当することになりました東京工業大学修士二年の山縣英介と申します.

今回は,B4で研究室配属になったばかりでぺーぺーだった私がcvpaper.challengeに研究メンバーとして参加することになった経緯と,そこでの活動やICPR2020採択の話について書いてみようと思います.

cvpaper.challengeに参加しますか? はい or yes

東京工業大学ではB4の春に研究室配属になりますが,当時私が選んだのは設立一年目の井上中順助教(現在准教授)率いる研究室でした.配属当初は知りませんでしたが,井上先生はcvpaper.challengeを主宰する片岡さんとズブズブのズブで,「自然の形成原理に則した深層学習の真相究明」について共同で研究していました.そのことは割と早い段階で判明し,同時に,近いうちに産総研にミーティングを見学しに行く機会が与えられることも先生から聞かされました.この時にはもう私の共同研究への参加が井上先生の中では決定事項だったのでしょう.

つくばエクスプレスとバスを乗り継いでようやくたどり着いた産総研では片岡さんと井上先生がよくわからない難しい話をしていました.時折,これくらいなら分かるだろうみたいな顔で振られる話には電大から参加していた同期の山田君が,なるほど~,みたいな感じで頷いていたので,私もとりあえず分かった風に頷いておいた記憶があります.学部三年間無難に単位を取るだけ取って,あとは適当に過ごしてきた人間がB4になったからっていきなり研究の話ができるはずもなく,産総研での見学会はシンプルに苦行でした.
ただ今思えば,研究者としてのキャリアを歩み始めたあの時期に,プロ同士の共同研究の現場と到達しなければならない高みを肌で感じることができる機会を与えれたことは,研究者の私にとって最初で最大の幸運でした.

ミーティングから帰ったあとは,井上先生に「山縣君には片岡さんとの共同研究に参加してもらうけど,研究テーマは〇〇と××どっちがいい?」という教科書のお手本のようなダブル・バインドを食らい,気づけばcvpaper.challengeに研究メンバーとして参加していました.

cvpaper.challengeでの活動

夏くらいまでの話

研究テーマは「自然の形成原理に則した深層学習の真相究明」について,フラクタル幾何の代替となる法則でのデータセットの生成と実験に決まりましたが,夏には院試が控えていたので具体的に研究をスタートさせたのは7-8月でした.それまでは院試の勉強と,ちょうどCVPR読破チャレンジがあったのでそれ関係で論文を読んでいました.院試でそれどころじゃないのに,なんで論文読んでまとめてーなんてしなけりゃならないんだ!と当時思っていましたが,論文を短時間で読みそれをまとめるスキルの芽くらいは身についたかなーと思うので,参加したことない人は是非参加してみてください(参加人数増えるほど個人の負担が減るので切実).ちなみに院試は受かってました!

具体的に研究がスタートしてからは定期的に片岡さんチームのミーティングで進捗報告の義務が生まれました.研究力と,進捗0から進捗報告を生み出す錬金術が半々くらいで成長していくが実感できました.井上先生は割と進捗を催促してくる感じではないので,当日に発表資料の作成を要請してくるような仕事人間片岡さんがいなかったら生来怠惰な私はきっと一生研究が進まなかったでしょう.おかげさまで,夏が終わるころには私も少しずつ研究力が身に付き,井上先生と片岡さんの会話も半分くらいはちゃんと分かった上で頷けるようになっていました.

また,研究と同時に卒論の準備にも取り掛かっていました.B4にとって多くの場合卒論は最大の懸念事項です.私も例に漏れず卒論に悩ませれていましたが,まだ9月だったこともありそんなに真剣には考えていませんでした.井上先生の指示で,とりあえず書ける部分からなんとなく書き始めていました.

ICCV MDALC Workshop

10月の終わりにソウル開催のICCV2019で井上先生と片岡さんがワークショップのOrganizerをやるらしく,お手伝いとして連れてってもらえることになりました.自分の発表もなく,一週間近く開催される会議の内半日だけのお手伝いと研究の調査なので,完全に旅行気分です.当時は知る由もありませんでしたが,2020年からは新型コロナが流行るので,ここでの海外経験がなければ私は現在まで海外行き0になるところでした.研究者一年目国際会議現地の雰囲気を体感できたのは本当に良かったです,井上先生と片岡さんありがとうございます.

ワークショップが無事成功した日の午後,私は会場の部屋の片隅で井上先生と片岡さんに囲まれ,「今の山縣君の研究,ICPRに出してみない?」と打診されました.初めての学会,しかも海外ということでテンションmaxだった私は何も考えずめちゃくちゃいい笑顔で,「書きます!」と答えましたが,打ち上げで飲んだ韓国焼酎が抜けた午前0時ごろ,ホテルの屋上で煙草を吹かしていた私はICPRの締め切りを見て青ざめました.卒論と平行するの??

CVPR

ソウルから帰国するとすぐcvpaper.challengeの総力を挙げてのCVPR書き上げ期間に入りました.私は片岡さん主著の論文の共著として参加しました.
自分の実験データを渡し,そこに関連する部分の執筆を担当し,また,英語力に自信があったので論文の英文校正も担当しました.産総研での執筆週間にはつくばとの距離的に一日しか現地参加できませんでしたが,それ以外はオンラインでoverleafを通じて参加しました.結果は残念ながら不採択でしたが,締め切り前の空気感は初めて体験するもので,緊迫感を漂わせながらもみんなが一丸となって目標を目指す合宿感が心地よく,共同研究の楽しみを一つ発見することができました.

卒論とICPR

CVPRを投稿したあとはいよいよ卒論の時期です.今でこそ自分が執筆に必要な時間は分かっていますが,当時の生まれて初めて書く卒論に,これまた生まれて初めて書く英文論文が重なったことに対する焦りはかなり大きかったように思います.ソウル行き前くらいには卒論に必要な実験は大体終わっていて,卒論書くのめんどくさいなーなんて思いながら夏に書いた部分から1バイトも増えないtexファイルを眺める日々でしたが,ICPRに投稿するとなると追加で実験した方がいいということでまた実験の日々に戻りました.

実験の日々に戻っていたので気がつけば卒論の研究室内締め切りが過ぎていました.そこで,卒論とICPRを書き上げるために飲むことになるだろうエナドリと煙草の本数を数えていた私に井上先生から救いの一手が差し伸べられました.ICPRの執筆をEqual contributionの第一著者として引き受けてくれると言うのです.Equal contributionなら就活でも主著と言い張って良いらしく,私はその提案に飛びつき,実験データを全て渡し卒論に専念しました.

井上先生が書き上げる原稿を読んでいて一番勉強になったのが,ストーリーの大切さです.同じ研究でもどういった文脈で提案するのかで評価が全く違ってきます.自分が書いた卒論と先生の原稿を読み比べると,実験や数値は同じはずなのに,先生の原稿の方がより重大で画期的な研究をしているような気がしてきます.同じ研究の自分が書いた原稿と,自分より優秀な人が書いた原稿を読み比べる機会なんて滅多にありません.かなり貴重な体験をさせてもらった上にEqual contributionまでもらってホクホクです(ICPR無事採択でした).

そして,無事卒論の発表が終わり,ICPRの投稿も終えた頃にはもう3月でした.

最後に

まとめ

B4というタイミングでcvpaper.challengeに共同研究という形で参加できたことに本当に感謝しています.そこでの活動を通し,様々な得がたい経験を積むことができ,自分の研究ライフに好調なスタートを切ることができました.cvpaper.challengeと出会わなかった世界線との比較はできませんが,それでも参加できてよかったと断言できます.そして,大学の枠を超えて同年代の研究者と知り合えたことは何よりの宝で,特に同期の山田君と二個上の綱島さんは今では飲んで麻雀する仲です.友達が欲しい,そんなきっかけで十分なので,是非cvpaper.challengeに参加してみてはいかがでしょう.

現在

残念ながら私は修士に上がるタイミングで研究室を変えたこともあって,現在は幽霊研究員みたいな感じになってしまっています.今は東京工業大学小野峻佑研究室でグラフ信号処理の研究をしています.cvpaper.challengeでの経験は十二分に発揮されていて,この記事が公開される翌日にはAPSIPAのSpecial sessionでの発表を控えていたりします.同研究室で博士課程に進む予定なので幽霊状態は続きそうですが,CVPR読破チャレンジやメタサーベイなど,貢献できる部分を探してこれからも参加したいと考えています.

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