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新型コロナ JN.1って何?

■はじめに


わたくしは神奈川県川崎市で呼吸器内科医を行っている田中 希宇人(たなか きゅうと)です。いつもは病院で肺がん、喘息・COPD、間質性肺炎など呼吸器疾患全般の診療と、この4年間はコロナ対応に追われている日々を過ごしています。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。

2024年に入ってからコロナ・インフルエンザ・そのほかのカゼ症状で病院に来院される方が後を絶ちません。いま病院やクリニックの外来は、いつも以上に患者さんであふれ返っています。

今までずっと行ってきた基本的な感染対策を、いま一度順守すべき時期に差し掛かっています。つまり、人が密になり、換気が悪く、おしゃべりしなければいけないような状況下において、マスク着用・手洗い・換気などが大事になってきます。

現在、日本で流行しているのは新型コロナウイルスのオミクロン株から枝分かれした「JN.1」(ジェーエヌワン)というタイプです。つい昨年末までは「エリス株」と呼ばれていた「EG.5」系統が主流株だったのですが、この1-2か月で急速にその勢力を伸ばしているのが「JN.1」です。

コロナJN.1はBA.2.86株の子孫株

「JN.1」は、「ステルスオミクロン」と呼ばれていた「オミクロンBA.2」から派生した「BA.2.86」株、通称「ピロラ」の子孫株にあたります。もとを辿ればオミクロン株であることは間違いなさそうですが、最近まで流行していた「EG.5」や「XBB」とは少し離れた位置に居ます。

「JN.1」は「BA.2.86」と「L455S変異」という1つのアミノ酸の違いしかないのですが、この1つの変異の違いが感染の拡大に重要と考えられています。

それでは今回は東京都や神奈川県のモニタリング情報や東京大学医科学研究所発表のデータを中心に、コロナ「JN.1」の特徴についてみていこうと思います。

■世界の新型コロナ 変異株流行状況

東京都健康安全研究センターが発表した「世界の新型コロナウイルス変異株流行状況」からの情報です。

▶東京都健康安全研究センター「世界の新型コロナウイルス変異株流行状況」https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_virus/worldmutation/

世界の新型コロナ変異株流行状況(東京都健康安全センターHPより)

2023年12月20日~2024年1月20日の各国からのゲノムデータ報告数と国別の流行株の状況が公開されています。世界での主系統は既に「JN.1」となっており、アメリカ・カナダ・イギリス・スペイン・フランス・韓国、そして日本も「JN.1」がトップとなっていることが分かります。

世界で検出された新型コロナ変異株の比率(東京都健康安全センターHPより)

同時期に検出されたウイルス変異株の比率も、実に約1/3が「JN.1」となっています。

■東京・神奈川の感染状況

続いては日本の感染状況を見てまいりましょう。

東京都保健医療局「最新のモニタリング項目の分析について」からの情報です。

▶東京都保健医療局「最新のモニタリング項目の分析について」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/corona_portal/info/monitoring.html

定点医療機関あたりコロナ患者報告数(東京都保健医療局HPより)

この図は定点医療機関で報告されたコロナ症例をまとめたものになりますので、全てのコロナをキャッチしているわけではありません。あくまでトレンドや流行状況について大まかに把握するもの、と考えて頂ければ幸いです。

グラフを見ますと、「EG.5」系統(エリス株)が流行していた2023年夏ごろよりは低い山のように見えます。ただ2023年10-12月の落ち着いた時期から比べますと、2024年に入ってからコロナが格段に増えており、高止まりしているような印象です。

コロナ病原体ゲノム解析(東京都保健医療局HPより)

2024年2月8日時点での東京都のコロナ・ゲノムサーベイランスからは、昨年12月までは「EG.5」系統が約半数を占めていたものが、今年に入ってからは「JN.1」が主流となっており、最新のデータでは実に60%以上が「JN.1」に置き換わっていることが分かります。それだけ他のコロナ変異株を押しのけて、この「JN.1」が拡大しているかが分かります。「BA.2.86」とたった1つのアミノ酸の違いしかない「JN.1」ですが、その恐ろしさがひしひしと伝わってきます。

神奈川県衛生研究所「神奈川県新型コロナウイルス感染症情報」からの情報を見ましても、東京都と同様の傾向がみてとれます。

▶神奈川県衛生研究所「神奈川県新型コロナウイルス感染症情報」https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/003_center/0005_ryukou/COVID-19/240209_COVID-19_03.html

定点医療機関あたりコロナ患者報告数(神奈川県衛生研究所HPより)

神奈川県もコロナは10-12月は落ち着いていました。今年に入ってからは急速に感染拡大していることが分かります。

定点医療機関あたりコロナ患者報告数・年齢群別(神奈川県衛生研究所HPより)

年齢別の報告を見ますと、0-9歳・10-19歳の報告が多く、子どものコロナが多いことが分かります。幼稚園や学校での休園や学級閉鎖・学年閉鎖などの情報があるのも納得です。
ただ前にも書きましたが、全てのコロナ感染を集計しているわけではありませんので、病院に受診しなかったコロナや診断されなかったコロナはキャッチできていませんので、そのあたりは差し引いて考える必要があります。

■JN.1 高い伝播力(実効再生産数)と感染価

ここからは、いま分かっているコロナ「JN.1」の特徴についてみていきましょう。

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