真夏のキス

特に音はさせたつもりはないが私が側を通りかかったら2つの黒い影は離れた。さっきから私が近づくまでキスしていたのはバレているのにどうして今更離れるんだろ?と私はやっかみのような変な気持ちで通り過ぎた。

夜の道、結構な頻度で私はそこを通る。あーラブラブカップルなんだな。若いな。と思う反面、このクソ熱いのにくっつかなくても。と思ったりした。

私だって夏の夜にキスした経験はある。でも、なんかモヤモヤする。いい思い出が浮かばないのだ。なんかなまぬるい感じ。レモンの味とは程遠い味。あんまり思い出したくない。小さいモヤモヤがどんどん膨らんで胸いっぱいになってしまった。

ただ、カップルのキスを見ただけなのに。気持ちの悪い唇と舌の感触。頭の中から離れない。そうだファーストキスの相手とは中学の時に出会った。彼は高校生なのにタバコを吸っていたっけ。キスというのはもっと柔らかくて気持ちいい感触でもっとステキな思い出と合わさるものだと思っていたけどいつもタバコを吸ってお酒を飲んでいる彼とのキスは良く言えば情熱的で舌をねじ込まれているようだった。中学生の私には夏の暑さとタバコの味と彼の友達の家で友達と彼女が隣の布団でしていることを彼が私にもしようよと言われないか怖かったり期待したりしていた。結局彼は中学生の私が幼すぎるので手を出せないと友達に言っていたと後日聞いた。手荒なキスをするのにそんな事を考えていたのかと当時思っていた。

モヤモヤは私の胸から去らずさらにもくもくと増えている。私の初めてのキスは本当に高校生の彼だったかな?

暑い日の昼間、小学生の私は友達と歩いていた。ふとカバンの中が気になり、中から物を出し遊んでいた。知らないおじさんが近づいてくる。

こんなところで何をしているんだ?寄り道はダメだぞ。ちょっとこっちに来い。友達と私は露地に呼び込まれおじさんにキスされた。気持ちが悪い。怖くても逃げられない。友達が騒いだ。人が来てくれた。

好きな人ができた時、私のファーストキスはもう変なおじさんに取られてしまったんだと思うようになっていた。

できれば夜のカップルを見たくなかった。家に着いた時には私の中に大きな黒いもやが鮮明に思い出されたのだった。