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 ヘンゼルとグレーテル

 むかしむかし、あるところに、貧しい木こりの親子がいました。
木こりの親子は、毎日の食事さえ、満足に食べることができません。
木こりのお父さんは、気が弱く仕事も休みがちなので、食べ物を買うお金がないからです

ある夜のこと、お父さんとお母さんが話しているのを、兄のヘンゼルが聞いてしまいます
「ねえあんた、もうあの子たちを、捨ててきなよ!」
お母さんは恐い顔をして、お父さんに言いました。
「ああ わかったよ」
お父さんは、お母さんに何も言い返しもせず
弱々しい声で言いました。

二人の話を聞いてしまったヘンゼルは、なぜか少しも驚きません。
いつの日かこう成るだろうと、予感があったからです。
「僕たちが捨てられるんじゃない、僕たちが
捨てるんだ」
そうつぶやくと、二人に気づかれないように
そうっと部屋に戻りました。

部屋では妹のグレーテルが、すやすや眠っています。
「グレーテル、僕がかならずお前を守る」
ヘンゼルは、泣きそうになるのをこらえて、
強くこころに誓いました。

次の日の朝、お父さんが二人を、きのこ取りにさそいます。
ヘンゼルは、昨夜の話を聞いていたので、捨てられるとすぐにわかりました。
グレーテルは、そんなことは知らないので、とても喜んでいます。
「わーい!嬉しいな」
そんなグレーテルを見て、ヘンゼルは悲しくなりました。

ヘンゼルはグレーテルの手を握りしめ、だまってお父さんの後をついて行きます。
森に着くと、それぞれがきのこを探すようにと、お父さんは言いました。
ヘンゼルは、お父さんに言われたとうりに、きのこを探します。
ところが、グレーテルはきれいな蝶々や小鳥を、夢中で追いかけていました。
「グレーテル、そんなに遠くに行っちゃダメだ!」
ヘンゼルは、グレーテルをつかまえて、お父さんのいる所に戻りました。
しかし、お父さんはどこにもいません。
「ああ やっぱり僕たちを、捨てて行ったんだ」
ヘンゼルは、なんだかガッカリしました。
こころのどこかで、お父さんは自分たちを守ってくれると、期待していたのです。

「お兄ちゃん、お父さんは、どこにいるのかしら」
何も知らないグレーテルが、ヘンゼルに聞きました。
「お父さんは、僕たちを捨てて帰ったんだ」
「えっ!」
驚くグレーテルに、ヘンゼルは昨夜のことを
話しました。
「僕たちを捨てなければ、みんな死んでしまうから、仕方がないんだ」
ヘンゼルは、とても賢い男の子なので、お父さんとお母さんの気持ちを、わかっていたのです。
「グレーテル、これからは、二人で生きて行くんだ」
「お兄ちゃん」
グレーテルは、泣きながらヘンゼルの手を、ギュッとにぎりました。
「大丈夫だ!きっと何もかも、上手く行くから」
ヘンゼルは、グレーテルを安心させようと、わざと元気なふりをします。
そして、グレーテルの手を引いて、歩き出したのです。

しばらくすると、あたりは暗くなってきました。
遠くでオオカミの鳴き声もしてきます。
すると、遠くに灯りが見えます。
急いで行ってみると、とてもいい香りがしてきました。
「グレーテル、このお家はお菓子でできている」
お兄ちゃん、壁はクッキーで窓はチョコレートよ」
「キャンディーやカステラも!」
ヘンゼルとグレーテルは、お腹がペコペコなので、夢中でお菓子を食べはじめます。
ところがその時、ドアが開き、中からおばあさんが出てきました。
「誰だい、私の家を食べているのは」
おばあさんは、とても優しく言いました。
「あっ ごめんなさい」
ヘンゼルとグレーテルは、おばあさんにあやまりました。
「いいんだよ、それより二人とも、ガリガリにやせているじゃないか」
「お腹が空いているんだろう、中でご飯を食べるといい」
おばあさんは、二人をじっと見て言いました
ヘンゼルとグレーテルは、おばあさんに言われるまま、家の中に入りました。
テーブルの上には、美味しそうなごちそうが
並んでいます。
「さあ たくさんお食べ」
ヘンゼルとグレーテルは、見たこともないごちそうを、お腹いっぱい食べました。
それから、おばあさんは二人のために、暖かいベッドまで用意してくれたのです。
「もう遅いから早く寝なさい」
「おばあさん、ありがとう」
二人は、おばあさんにお礼を言って、ふかふかのベッドに入りました。

次の日の朝、おばあさんは、美味しい朝ごはんをたくさん用意していました。
「さあ、たくさん食べて、早く大きくなるんだよ」
おばあさんは、来る日も来る日も、二人にごちそうを食べさせます。
賢いヘンゼルは、何かが変だ、と感じるようになりました。

ある日、ヘンゼルがグレーテルに言いました。
「あのおばあさんは、魔女にちがいない」
「僕たちを太らせて、食べるつもりなんだ」
グレーテルはショックで、泣き出します。
ヘンゼルは、怖がるグレーテルをなだめながら、きっぱりと言いました。
「大丈夫だ、僕にいい考えがあるから」

次の日から、二人はごちそうを食べるふりをして、こっそり捨てることにしました。
おばあさんは目が悪いので、食べものを捨てていることに、少しも気づきませんでした。

ところが、いつまでたっても二人が太らないので、おばあさんは不機嫌になって行きました。
そして、とうとう、かんしゃくを起こします
「ああ、もう待てない」
「すぐに食ってやる」
魔女は本性をあらわしたのです。
今までの優しいおばあさんとは違い、恐ろしい顔をした魔女になっていました。
魔女は、二人を捕まえようと襲ってきます。
しかし、身軽な二人は、なかなか捕まりません。
「ほらほら、こっちだよ」
ヘンゼルは、火のついたかまどのそばで、魔女を呼びます。
目が悪い魔女は、怒りにふるえて、かまどに気づきません。
その時、ヘンゼルは火がついたかまどめがけて、魔女を突き飛ばしました。
「早くかまどの扉をしめて!」
グレーテルが、かまどの扉をしめます。
すると、かまどの中から、魔女の恐ろしいうめき声がしてきました。

魔女は死んでしまいました。

魔女が死んでしまったので、お菓子の家は、誰も住む人がいなくなりました。
「グレーテル、今日からここを、僕たちの家にしよう」
「もう、お腹がすいて、泣くことはなくなるんだ」
ヘンゼルとグレーテルは、やっと安心できる
居場所をみつけたのです。

しばらくして、ヘンゼルが面白いことを言い出しました。
「お菓子やキャンディーを、街に売りに行こう」
「このお菓子の家は、いくら食べてもすぐに元どおりになるから、売ってお金に換えよう」
ヘンゼルは、グレーテルを守ろうと、一生懸命です。

ヘンゼルとグレーテルは、すぐにお菓子を売りに行きました。
めずらしいお菓子は、街で大人気になり、二人はまいにち大忙しです。
こうして、ヘンゼルとグレーテルは、幸せにくらしました。

      おしまい

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