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 「アリとキリギリス」

ある暑い夏の日、大きな木の下でキリギリスさんが、バイオリンを弾きながら歌っていました。
たくさんの虫さんたちに囲まれて、キリギリスさんは楽しそうに歌っています。
「やっぱりキリギリスさんは、歌もバイオリンも上手だね」
うっとりと聞いていた、こがね虫さんが言いました。
「やさしい音色は、こころが落ち着く」
「嫌なことも、忘れちゃうよ」
虫さんたちは口ぐちに、キリギリスさんを褒めました。

キリギリスさんは、来る日も来る日も、ずっとバイオリンを弾きながら歌いました。

ある日、いつものようにキリギリスさんが歌っていると、アリさんが行列をつくって、大きな荷物を運んでいます。
「やあ、アリさん、何を運んでいるんだい」
「ああ、キリギリスさん」
「冬が来る前に、食料を運んでいるんだ」
アリさんは、重い荷物をかついで、一生懸命
働いています。
「キリギリスさんも遊んでないで、冬の準備をしたほうがいいよ」
アリさんは、キリギリスさんに忠告しました
「ハハハハハ、そうだね」
キリギリスさんは、はずかしそうに笑いました。

やがて暑い夏はすぎ、秋がきて寒い冬がやって来ました。
冷たい風が吹くなか、キリギリスさんは、ふるえる手でバイオリンを弾いています。
「ああ、なんて寒いんだ、手がこごえて上手く弾けないや」
するとそこに、こがね虫さんがやってきました。
「キリギリスさん、外は寒いから家にきて
温まるといい」
「ありがとう、こがね虫さん」
こがね虫さんは、キリギリスさんの歌とバイオリンが大好きなので、お礼にごちそうを
たくさん用意してくれました。
キリギリスさんも、こがね虫さんのために、
たくさん歌いました。

次の日、キリギリスさんは、こがね虫さんにお礼を言ってお別れしました。
しかし、外はまだ寒い冬、キリギリスさんは
すぐにこごえてしまいます。
「ああ、早く春にならないかな」
キリギリスさんは、春が来るのを心待ちにしていました。
そして、春を思いながらバイオリンを弾き、
歌うのでした。

するとそこに、てんとう虫さんが、やって来ました。
「おや、キリギリスさんじゃないか」
「こんな寒いところじゃ上手く歌えないし
バイオリンも弾けないだろう」
「どうせなら僕の家で、歌っておくれよ」
てんとう虫さんの家でも、美味しいご飯と暖かいベッドを用意してくれました。
キリギリスさんは、お礼にたくさん歌いました。

そして、次の日も次の日も、たくさんの虫さんたちが、キリギリスさんを助けてくれるのでした。

虫さんたちは、キリギリスさんの歌とバイオリンが聴きたいので、みんな家に呼んでくれるのです。

そして、春がすぎて暑い夏が、またやって来ました。
キリギリスさんは、大きな木の下で、バイオリンを弾きながら歌っています。

アリさんは、いつものように大きな荷物を背負い、冬の準備にいそがしく働いています。
「やあ、アリさん」
「やあ、キリギリスさん」
アリさんとキリギリスさんは、それぞれに
やっていることは違うけれど、一生懸命に
頑張っています。

それからキリギリスさんは、バイオリンも歌も上達して、もっとたくさんの虫さんが聴きにくるようになったのです。

      おしまい

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