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   おり姫と彦星

夜空にかがやく天の川のそばに、天の神さまが住む国があります。
天の神さまには、おり姫という、はた織りをする美しい娘がいました。
おり姫の織る衣はとても美しいので、神さまたちからの注文がたえません。

ある日、天の神さまが、おり姫のところにやってきました。
「おり姫や、お前も年ごろになったのだから、そろそろ婿をもらう気はないか」
神さまはやさしく娘にたずねました。
「はい」
おり姫は、うれしそうにうなずきます。
「ほう、よしよし、良い婿をさがしてやろう」

しばらくして、神さまは若い男の人を、
おり姫に会わせました。
男の人は牛を育てる仕事をしている、彦星という働き者の若者です。
二人は一目で気に入ってしまい、とんとん拍子に結婚が決まり、いっしょに暮らしはじめました。

ところが、彦星は牛の世話がいそがしく、家に帰ることができません。
おり姫も神さまたちの衣を織るのがいそがしく、家の仕事ができません。
たまに顔を合わせても、疲れているので話もできません。
困った二人は、天の神さまに相談することにしました。

神さまは、二人の話を聞き、どうしたものかと考え込んでしまいます。
「お前たちの代わりができる者は、どこにも
いないから困ったのう」
「しかし、このままでは、二人の仲が悪くなってしまうかも知れん」
「仕事をすこし減らすより無いじゃろう」
おり姫と彦星は、神さまの言うとおり、仕事を減らすことにしました。

仕事を減らした二人は、毎日がとても楽しく
なりました。
しばらくの間、二人の生活はおだやかでしたが、大変なことが起きてしまいました。
「大変だ!牛がつぎつぎ病気にかかってしまった」
彦星があわてて帰ってきました。
「こちらも大変です」
おり姫も困った様子で言いました。
「私が仕事を減らしたせいで、神さまたちの衣がぼろぼろなのです」
おり姫と彦星は、どうして良いかわからないので、天の神さまに相談することにしました。

おり姫と彦星から話を聞いた天の神さまは、
何も言わずだまってしまいました。
おり姫と彦星は、神さまが何も言ってくれないので、もう一度たずねました。
「私たちは、どうしたら良いのでしょう」
すると、だまっていた神さまが言いました。
「お前たちはどうして自分たちで考えて、
知恵を出そうとしないのじゃ」
「なぜ、すぐに私に聞こうとするのか」
天の神さまは、すこし怒ったように言うのでした。
「でも、天の神さまは、私たちよりずっと
知恵があります」
二人の話を聞いていた天の神さまは、ガッカリした様子で言いました。
「なんという怠け者なのじゃ」
おり姫と彦星は、天の神さまの言っていることがわかりません。

「それでは、私の命令を、何でも聞くということじゃな」
「ならば、天の川の東と西に、はなれて暮らしなさい」
天の神さまは、そう二人に命令しました。

おり姫と彦星は、天の神さまの命令に従うよりありません。
そして、天の川の東と西にはなればなれで
暮らすことになったのです。

ところが、いざはなれて暮らしてみると、寂しくて仕方ありません。

おり姫は、彦星に会いたくて、泣いてばかり
彦星は、おり姫に会いたくて、何もする気になれません。
おり姫と彦星は、今ごろになって神さまが言っていたことがわかり、こころから悔やむのでした。

天の神さまは、二人の様子を見て、すこし
可哀そうに思いました。
そして、年に一度だけ会っても良いことに
しました。

それから、七月七日の日になると、おり姫と彦星は天の川を渡って、会うようになったのです。

      おしまい

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