見出し画像

  長靴を履いた猫

むかし むかし あるところに、粉ひきと三人の息子がいました。
粉ひきは、三人の息子に遺産を分け与えて、仕事を引退することにしました。
しかし、遺産と言っても、たいしたものはありません。

一番上の息子には、粉ひき小屋をあげました。
二番目の息子には、粉を運ぶロバをあげました。
末の息子には、なんと、猫をあげたのです。

末の息子は、猫なんかもらっても、何の役にも立たないとなげきました。
「兄さんたちは良いな、粉ひき小屋やロバがあれば、すぐに仕事が出来るんだから」
末の息子は、ひとり文句をいって、がっくりと肩を落としました。

すると、そばで聞いていた猫が、落ち込む末の息子に向かって言いました。
「そんなにガッカリしないでくださいな」
「私にまかせてください、きっと旦那さんを幸せにしますから」
末の息子は、とつぜん猫がしゃべるので、驚いてイスからころげ落ちてしまいました。
猫は気にもせず、つづけて言いました。
「私に考えがあります」
「まずは、大きな布袋とカッコイイ長靴を、こしらえてくださいませ」
末の息子は、あっけにとられて、返事もできません。
すると猫は「ちょっと、ちょっと、旦那さん!聞いてますか!」と、わざと大きな声で言いました。
「ああ聞いてるよ」
「猫が話すもんだから、驚いただけだ」
「ところで、旦那さんという呼び方は嫌だな、おじさんみたいだ」
「じゃあ、何とお呼びすればいいですか」
猫が聞き返します。
「私の名前はハンスだから、名前で呼んでくれ」
「わかりましたハンスさま」
「お前のことは何と呼べばいい?」
「猫、で、かまいません」
猫は、気取った言い方で、こたえました。
こうしてハンスと猫は、一緒にやって行くことに決めました。

数日がたち、大きな布袋とカッコイイ長靴をもらった猫は、意気揚々と出かけて行きました。
長靴をはいた猫は、野ウサギがたくさんいる、広い草原にやって来ました。
そして、大きな布袋にウサギが好きなニンジンをたくさん入れ、草むらに隠れて待ちました。
しばらくすると、大きな野ウサギが袋に入ったので、急いで袋のひもを引っ張ります。
「よし、上手くいったぞ、これで王さまへの贈り物ができた」
長靴をはいた猫は、野ウサギの入った袋をかつぎ、王さまのお城にむかいました。

お城につくと、恐そうな大男が、門のところに立っています。
長靴をはいた猫は、堂々とした態度で、門番にお願いをしました。
「王さまに贈り物を、持ってまいりました、
門を開けてください」
門番は、しゃべる猫を見て、恐ろしくなり、
どこかに行ってしまいました。
「なあんだ、見た目と違って、弱虫だな」
長靴をはいた猫は、門番がいなくなったので、勝手にお城の中に入って行きました。

お城の中では、大勢の人が、王さまへの贈り物をもって、並んでいます。
「ふむ、みんな、王さまに取り入ろうとしてるんだな」

やがて、長靴をはいた猫の番がきて、王さまの前に通されました。
王さまのとなりには、美しい王女さまが座っています。
長靴をはいた猫は、美しい羽がついた帽子をぬぎ、うやうやしくお辞儀をしました。
「王さま、カラバ公爵さまからの、贈り物でございます」
王さまと王女さまは、しゃべる猫に驚きますが、ほほ笑みながらお礼を言いました。
「ほう、それはご苦労であった」
「カラバ公爵には、くれぐれもよろしく伝えるように」
長靴をはいた猫は、王さまからご褒美をもらい、ご機嫌で家に帰りました。

その日から、長靴をはいた猫は、王さまに気に入られるために、毎日のように贈り物をもって行くのでした。

ある日、長靴をはいた猫が、帰ろうとすると、王さまが呼び止めました。
「一度、カラバ公爵にお会いして、お礼をしたいのじゃが」
長靴をはいた猫は、嬉しくて仕方ありません。
「やったぞ!」心の中で叫びました。
「さあ、面白くなって来たぞ」
長靴をはいた猫は、いそいで家に帰りました。

家に着くと、これまでの事をハンスにはなし、王さまに会うため、お城へ行かなければならないと伝えました。
するとハンスは、猫にたずねます。
「服はどうするんだい」
「王さまに会うのに、こんな格好じゃ失礼だろう」
ハンスの服は、粉だらけで、とてもお城には着て行けそうもありません。
困った猫は、しばらく考えをめぐらせていましたが、とつぜん走り出しどこかへ行ってしまいました。

ある日のこと、ハンスが寝ていると、猫がやってきて言いました。
「ハンスさま、早く起きてください」
眠そうなハンスは、目をこすりながら、ベッドから起き上がります。
「今から言うことを、良く聞いてください」
猫は、もったいぶるように言いました。

何が何だかわからないまま、ハンスは猫につれられて、小川にやって来ました。
「ハンスさま、さっき言ったように、服を脱いで川に入ってください」
ハンスは、言われるがまま川に入りました。すると、猫は、遠くに見えて来た馬車にむかって叫びます。
「助けてください!誰か助けて!」

やって来たのは、王さまが乗った馬車でした。
「大変です!カラバ公爵が水浴びをしていると、盗賊が服を持って行ったのです」
すると、王さまと王女さまが、馬車から降りてきました。
こころ優しい王さまと王女さまは、家来に命令しました。
「公爵が風邪でもひいたら大変だ、お城に行って公爵にふさわしい、いちばん豪華な服を持って来なさい」
それを聞いた猫は「やれやれ、王さまも王女さまも、単純な方だ」と、調子にのってつぶやくのでした。

家来が持ってきた服に着替えたハンスは、どこから見ても、立派なカラバ公爵です。
王さまと王女さまも、うっとりと見とれてしまうほどです。
「まあ、なんてご立派で、ステキな方なのでしょう」
王女さまは、ハンスを好きになってしまいました。
恋する王女さまは、カラバ公爵を、馬車でお城まで送ると言います。
長靴をはいた猫は、すかさずしゃしゃり出て、遠くに見えるお城を指さし「王さま、あそこに見えるお城が、カラバ公爵のお城でございます」と、またまた、王さまにウソをつくのでした。
王さまと王女さまは、立派なお城を見て、カラバ公爵は素晴らしい方だと感心しています。
「よしよし、すべて計画どおりに進んでる!」
長靴をはいた猫は、嬉しくて思わず笑いそうになるのを、必死でこらえました。
「王さま、私は先に帰り準備をしますので、公爵に領地を案内してもらいながら、ゆっくりお越しください」
長靴をはいた猫がそう言うと、王さまが驚くことを言いました。
「それが、先ほど見て来たのじゃよ」
「とても広い領地で、みんなカラバ公爵を褒めていた」
長靴をはいた猫は、予想もしていなかった事態に、あわてます。
それだけでなく、一緒に馬車で、お城へ行くことになったのです。

王さまの馬車に乗って、お城についた猫は、
あわてて馬車から飛び降ります。
「王さま、王女さま」「少しだけこちらでお待ちください、準備をしてまいりますので」
長靴をはいた猫は、計画がくるったので、焦っていました。
ところが、王さまは、さっさと馬車から降りて、お城に入って行ったのです。

お城の中に入ると、鬼と呼ばれている城主が待っていました。
城主は、めったに外に出ないので、村人たちのあいだで悪いうわさがたち、鬼と言われてしまったのです。

城主と王さまは、にこやかに挨拶をかわし、
親しげに会話をしています。

「この城の主人である、カラバ公爵は、私の友人なのだ」
王さまは、猫に向かって、言いました。
王さまは、はじめから、猫の悪だくみを、わかっていたので、わざと猫のウソにつきあったのです。

長靴をはいた猫は、観念して、王さまにあやまりました。

うなだれる猫を見た王さまは「ハッハツハ!」と、大きな声で、笑いました。
「なかなか、賢い猫だ」
「私の家来に取り立てよう」
「ハンスは、王女と結婚させることにする」
長靴をはいた猫は、信じられない展開に、ただ驚くばかりです。

王さまは、長靴をはいた猫の賢さと、主人を思う気持ちをわかっていたのです。

「ああ、王さまには、かなわないな」
長靴をはいた猫は、しっぽを巻いて、降参しました。

      おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?