【超短編小説】レンタル親友

 僕は友だちがいない。
 だからレンタル親友というのを雇ってみた。
 レンタル友達の親友版である。

「僕たち親友だもんな!」
「ああ! もちろん」

 そんな会話で絆を確認する毎日だ。
 でも、本当はお金を払えなくなったら彼はいなくなってしまうという事を知っている。
 払うお金は安くない。
 そして、その日が来た。

「貯金・・・なくなった」
 僕がそう告げると彼は、
「え・・・」
 と呆然とした様子でつぶやいた。
「いままでありがとな。振りとはいえ、こんな僕に親友のように接してくれて。感謝してもしたりないよ」
「振りなんかじゃなかったさ。お前との日々は楽しいものだった」
「え? じゃあ・・・」
「でも俺も仕事がある。次の依頼人を探さなきゃ」
「あ・・・ああ。やっぱそうだよな」
「寂しいけどな。元気でやれよ」
「君こそな」
 そうして彼は去って行った。
 
 彼がいなくなって1週間。
 虚しい日々を過ごしている。
 レンタル親友か。罪な仕事だ。
 本当はあの日々も作りものだったのだろうか?
 ただただ楽しかった毎日。
 僕の中ではかけがえのない宝物であるそれは、彼にとっていったいなんだったのだろう。
 ただのお金と引き換えにした時間にすぎなかったのだろうか。
 虚しさだけが残った。

 ある日、パソコンを眺めていたら、ホームページを見つけた。題名は、
「友達100人できるかな?」
 それは間違いなく彼のホームページだった。

『俺は天職についています。一人一人がかけがえのない親友である彼らと笑い、泣き、喜び、悲しむ。そんな日々を過ごして暮らしていけるのだから、これを天職と言わずしてなんと言うのでしょう。
 でも彼らとの別れはいつも心を裂かれるようにつらい。
 彼らが別れ際に見せる表情は、俺のこの天職をやめ、その場にとどまりたくなる。毎回そうだ。
 でもきっと彼らは大丈夫。
 俺は彼らの親友として、彼らの人生を変える事ができているつもりだ。
 俺がいなくても大丈夫なくらい強くなってくれてる事を信じてる。
 親友だものな。
 それができてこそ、プロってもんです(笑)
 親友ってもんです(笑笑)
 ああ、今日も楽しい。
 お前ら最高だ!』

 その文章を見て、僕はただただ悲しかった。
 こんなふうに明るく振る舞われたら、かえって寂しさが増してしまう。
 キミはわかってないな。
 キミはキミの価値をわかってない。
 強さ? そんなものは砕け散ってしまうくらい、キミとの日々は煌めいていた。輝いていた。
 失っていつ立ち直れるかわからないぐらい僕は打ち砕かれている。
 ぜんぜんわかってない。
「キミは親友失格だよ・・・」
 ポツリとつぶやくように画面に言う。

 その時画面の下部に、
「それでも寂しいキミへ」
 の文字があるのに気づく。急いでそのページへと飛ぶ。

『そっかあ。
 寂しいか・・・。
 俺はキミらにかけがえのない時間を与えてあげられたと思ってるけど、力がたりないのかもしれない。
 俺がキミらのことを一時的な関係の、どうでもいい存在だと思ってるなんて、思わないでくれ。
 キミらは間違いなく俺の親友だよ。
 いつもキミらのことを想ってる。
 それをさ、信じてくれないかな?
 キミらは俺が金だけでキミたちとの日々を過ごしていたと疑心暗鬼になっているんだろう?
 そんな事は絶対にない。
 俺は思うんだ。寂しいって気持ちはあの熱さが消えていってしまう事からくるんだと。
 いつか思い出すんだ。あいつ今頃どうしてるかなって。そして懐かしい日々を思い出して、それが失われていることにたまらなく寂しさを感じるんだろう。
 それを想像するんだろうって。だから寂しいって感じるんだろうって。
 でも俺はなんといってもプロの親友だ。
 キミらと過ごした日の熱さを忘れたりしない。
 それを信じて欲しい。
 そしてキミらにも俺のことをそう考えて欲しいんだ。
 せっかく過ごせた日々、無駄にしたくないだろ?
 胸を張って自分には親友がいる、
 そう想って毎日を過ごしていってほしい。
 これが俺の想いだ。
 届いてくれることを祈る』

・・・。
 僕は。
 椅子の背もたれに思い切り背をあずけ、
「やれやれ、わかったよ。ここまで言われちゃな」
 一人そう言った。
 本当はそれはいまだけの強がりかもしれなかったけれど、絶対忘れない、そう強く想いパソコンの電源をきった。

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