【超短編小説】夢の中の二人

彼は不思議な体験をした。

夢の中、毎夜一人の女性が現れる。
それはとてもリアルな夢。手を伸ばせば触れられるし、楽しい会話も交わせる。
彼はそんな彼女と、どんどん親しくなっていった。
もはや彼女について知らない事などなくなっていった。

そしてこう確信するようになる。
現実の世界に実際に彼女は存在していて、彼女も自分の夢をみているのではないだろうか?
そして僕らはいつか出会う。僕らは運命の二人なのだ。

しかしその日はなかなか訪れなかった。
夢の中では愛を語らいあうようにすらなっていた二人。
そんな日々が10年続いた。

ある日である。
少し遠出をした彼は、ある街にいた。
そして、そこで彼女を見つける。

遠目にもそれは夢の彼女だとはっきりわかった。
だんだんと近づいてくる彼女。
彼女の方もはっきりと彼の事を意識しているようだ。

そして・・・
彼らは言葉を交わすことなく、すれ違いそのまま別れていく。

10年。
あまりにリアルなその夢。その長い時間で彼らはお互いの全てを知ってしまっていた。
出会いの日にも、新鮮な喜びはなく、長年連れ添った夫婦が偶然町で出会った。
その程度の感想しか抱かなかった。

彼らは新しい刺激を求めていた。
新しい出会いを。

ゆえに彼らは二人の関係を夢の中で終わらせることにした。
その夢も、不思議とそれ以来見る事がなくなった。

これが彼の身に起きた不思議なできごとである。

ただ。
夢をみなくなってしばらく。
彼はたまに思い出すのである。
長年連れ添った彼女を。

彼女はどうしているかなあ、と。

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