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【70点小説】ハンカチ落とすという出会い

 落とし物がきっかけになって交際に発展したという話を聞いた。
 ハンカチなどを落として、
「あの、落としましたよ」
「あ・・・ありがとうございます」

 というやつである。
 嘘くさい。

 だいたい落とし物から、連絡先交換までのステップが僕にはどうしても想像できないのだ。
 だが、
 だが、である。
 ちょっとした話のきっかけにはなるだろう。
 特に校内で、話のきっかけも作れない僕にとって、好きなあの子とお近づきになるために、
「あの、落としましたよ」
「あ、ごめん。同じクラスの三崎だよね」

 という作戦。
 完璧な話の導入ではないか??
 というわけで、作戦実行!

 ポトッ
「あ、ハンカチ落ちたよ」
「・・・」
 僕はなにも言えず受け取ると、コクっと首だけでお礼をしてその場を立ち去る。
 緊張した〜!
 想像してたのの何倍も緊張するものなんだな。

 が、
 ここでめげてはいけない。
 その日から、僕はポトッ、
「あ! 落ちたよ」
 コクっ。

 ポトッ
「また落ちてるって!」
 コクっ。

 ポトッ
「今日もなの?」
 コクっ。

 という事を延々繰り返した。
 もう彼女もわざとだと気づいているかもしれない。
 そして、僕も慣れてきた。

 ポトッ
「はい、今日もハンカチ落ちてるよ」
 いつもの様にジェスチャーだけでお礼をすると思いきや、今日の僕は違った。
「ごめん・・・いつもいつも」
 彼女はいつもと違う反応に驚いた顔を見せた。だが、すぐに笑顔をつくると、
「本当だよー! 毎日毎日。ぶっちゃけさ、わざとでしょ?」
「やっぱりばれてたか」
「当たり前!」

 僕は勇気を出して、
「じゃあさ、なんでこんな事してるかわかる?」
 言う。
 彼女はしばし考えたフリをした後、
「わかんないな〜」
 と、ニヤッと笑って言った。
「そ、そっか・・・」
「うん、わかんない。なんでこんな変なことするのか。君って変な人なんだね」
 変な人・・・。
 完全に脈なしである。
 だが、

「だからもっと知りたいな君のこと。面白そうじゃん」
 そう彼女は言う。
「あ・・・うん」
「だからハンカチ落とすのはもうやめていいよ」
「あ・・・うん」
「明日からは普通に話しかけてくること!」
「あ・・・うん」
「なんなのかな? 君は昔なつかし、CDがおんなじ所再生される的な子?」
「CD・・・」
「やっぱり君ってそうとう変だよ!」
 そう言うと、彼女はあははと笑った。笑ってくれる。
 僕、いまのやりとり、そうとうやばい奴じゃなかった?
 でも笑うんだ、この子・・・。
 やばい。めっちゃ好きかも。
「じゃ、明日からよろしく〜」

『「あ・・・うん」「あ・・・うん」』

 僕のセリフに彼女が声をかぶせた。
 そして、爆笑する彼女。
「言うと思った」
 と。

 そうして、二人笑ってしまう。僕も笑えた。
「やっと笑ったよ」
 彼女が言う。そして、今度こそ、
「また明日」
「うん、また明日」

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