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4年前の私からビデオメッセージが届いた。

私のパソコンの中には『お疲れサマ!!』という名前のフォルダがある。
そこには、私が大学の4年間で作り上げた作品の数々が眠っている。

私は情報系の学部に通っているので、課題はレポートだけではない。
シナリオ、絵コンテ、番組企画書、実技試験、映像作品など…その内容は多岐にわたる。特に私は学部内をふらふらと渡り歩いてきたので、パソコンの中にはたくさんの作品たちが眠っている。基本的にはちゃらんぽらんな性格の私だが、実は学年主席の成績だったりして、過去の自分の努力を讃えるためにもこの『お疲れサマ!!』フォルダはかなり大切にしているのだ。

昨日、過去の作品を久しぶりに見たくなって『お疲れサマ!!』フォルダを久しぶりに覗いてみた。すると、記憶にない1本の動画を見つけた。

題名は『4年後の自分へ』

はて?そんな課題が出たことなんてあっただろうか。
そう思ったと同時に、大学卒業間近の私の心の中で「これ多分絶対いま観なきゃいけないやつだ!」と、そんな声が聞こえた気がした。
つい先日、どうしても生きることが難しくて新卒カードを捨てた。フリーターとして生きていくことを決めたのだ。気分障害を抱える私に、日常は苦しかった。
自分で出した答え。しかし未来に対する漠然とした不安は消えなかった。そんなときに18歳の私が残したビデオメッセージを見つけたのだ。

4年も前の自分。しかも22歳の私に向けたもの。

もしかしたら共感生羞恥で死んでしまうかもしれない。そんな不安を抱えながら、意を決して動画を再生してみた。
するとそこには、今よりだいぶふっくらとした顔つきの、今はもう手元にない懐かしいシャツを着た私が映っていた。

「今は、2020年の7月30日。15:41です。」と喋っている。
BGMは、当時よく聴いていた星野源のPair Dancer。なんとも私らしい選曲だ。

動画自体は3分半ほどの尺。
軽く挨拶をしたあと、18歳の私は「今の自分を表す質問」に答えはじめた。

①アナタが1日の中で1番好きな時間は?
「歯磨きをしている時間です。」

確かに歯磨きが自分の中で大バズりした時期があった。
口の中が綺麗になっていく感覚がたまらなく快感で、暇なときは3回連続で歯磨きをしていた。


②アナタが生きているなと思うときは?
「えっとー、映画を観ているときと、良いことがあったときです。」

うつ病になって高校に通えなくなった過去がある。そんなとき唯一私を救ってくれたのが映画だった。1日に4,5本観ていた。家族とすらまともに会話ができないのに映画だけは観ることができて、だから映像を学べる大学に進もうと決めたんだった。そんな動機、すっかり忘れていた。

③今の自分の好きなところを1つ挙げてください
「過去をあまり振り返らないので、後悔しない性格!」

数年前の私は、前しか見ないさっぱりとした自分の性格が大好きだった。そんな自分を誇りに思っていた。「後悔しない性格が好き!」とよく言っていたなぁと、この動画を見ながら思い出した。懐かしく感じつつも、自分の好きなところをすっかり忘れていた事実が何より苦しかった。
今の私は過去を振り返って後悔してばかりだ。いつからこんな自分になってしまったのだろう。

④自分を褒めてあげてください
「深い人付き合いができるっていうのは良いことだと思うので、人を大切にできるところが素晴らしいと思います。」

今の私はこんなにも真っ直ぐに、何か自分を褒めてあげられるだろうか。

⑤1番大切にしているものは?
「1番大切にしているものは、特にないです!」

まったく質問の答えになっていないじゃないか。
そんな回答を自信満々にしている自分が愛おしくて、なんだか笑ってしまった。

⑥落ち込んだときはどうしていますか?
「とことん行けるところまで落ち込みます。」

これは今も変わっていないかも。
この落ち込みやすい性格はどうやら昔から変わっていないようだ。

⑦落ち込んだときはどうやって立ち直りますか?
「立ち直ることはないんですけど。ずっと落ち込んでるといずれ飽きが来るので。その時まで待つっていう感じですかね。」

落ち込みやすい自分の性格を「当たり前でしょ?」という顔で受け入れている。
18歳の私、かっこいいよ。今の私は自分自身の性格を拒絶しているんだ。落ち込みやすく傷つきやすい、そんな自分を毎日呪っているよ。ねぇ、どうやったらあなたようになれるの?18歳の自分に問うた。

⑧うまくいったとき、どうやって喜びますか?
「それも、行けるところまで喜びます。」

最近は何に喜んだだろう。行けるところまで、手放しに喜んだ記憶が残っていない。そんな素敵な自分をまったく思い出すことができない。

⑨泣いたあとの気持ちは?
「泣いたあとの気持ち? は、特に変化はないです。」

なんだその質問?と不機嫌ないう顔をしながら随分とさっぱり答えていて、あっけらかんとした態度の自分を懐かしく思った。

⑩幸せだと思える瞬間を教えてください
「大切な人と過ごしているときです。」


質問は以上だった。正直驚いた。
18歳の私は、今の私には直視できないほどに真っ直ぐで、とてもかっこよかった。過去にはこんな自分が存在していたなんて。今は見る影もないように感じてしまう。
4年前の私は確かに真っ直ぐで、強くて、自己愛に満ち溢れていた。
それは世間を知らない子どもならではの無知さなのかもしれないけど、いつしか気づかずうちにそんな無条件の自己愛を手放してしまっていたことに気がついた。それはとても悲しい成長だと感じた。無知という名の自信を、知らぬ間に失っていた。


質問が終わり、18歳の私は最後にこのように話した。
「大学を卒業して、どういう就職先なのかちょっと今の私にはわかんないんですけど。でも楽しんで生きていければそれで良いんじゃない?と思うので。今が楽しければそれで良いんじゃないでしょうか。自分のしたい髪型をして、自分のしたい服装をして、好きなことして。そうやって生きていくことが1番いい生き方だと私は思っているので、そういう素敵な生き方をしていく人生にしていってほしいと思います。」

18歳の私は、22歳の私よりずっと強かった。

「今が楽しければそれでいい。」

確かにそうだ。
本当の私はそんな人生を望んでいる。子どものころから変わらずずっと。
子どものころから生活感のない大人に憧れていた。所属先も思想もわからなくて、でも自分の人生を自分の足で生きている無邪気で強い大人に憧れていた。

しかしいつしか、
「私はみんなが思い描くような大人になれない。」
そんな想像に苦しむようになった。憧れているのは「今を楽しむこと」なのに。なぜか「なる気のない姿になれない」という事実にひどく傷つく。好きでもない人間に嫌われると、好きではないのに一丁前に傷ついてしまう。そんな感覚に近いかな。
組織にうまく馴染めて、友達もいて趣味もある、結婚して子どももいて。「一般的な幸せ」に憧れたことはないのに、当たり前に手に入れられると思っていた。手に入れられる前提で手放す気でいた。なのに手放すどころか私はいつまで経っても私のままじゃないか。

当たり前のように人と関わることができない。当たり前のように働くことができない。傷つきやすく気にしい。そんな個性が私を苦しめた。

「別にそれでいいじゃん。」
18歳の私は、今の私の苦悩をそんな軽い口調で片付けてしまうんだろうな。
好きに生きればいいじゃんと。なれない姿に苦しんだって仕方がないと。

君はなんてかっこいいんだろう。
私はあなたになりたい。

他の誰から言われる真剣な「大丈夫」よりも、
過去の私が鼻をほじりながら言う「別に良くない?」の方が私の心をうんと軽くする。自分自身が持つエネルギーは無限大だ。

当たり前に生きるのはもうやめだ。だって無理だから。
だったらせめて、無知で世間知らずな18の私になりたい。

私は私に戻りたい。

弱い私にメッセージを残してくれてありがとう。
だから今日の気持ちをnoteに残すことにした。
いつかの私が今日の私に勇気をもらうのかもしれない。
そのときまで今日の気持ちを大切に残しておこう。

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