INC2023ラウンドAのAI再現

概要

  • ai studioを用いて、gemini 1.5 proに下記プロンプトと問題文、upicc2016、uncitral2021を食わせた結果です

  • INC2023ラウンドAの再現を試みました

プロンプト

背景

本日は 2023 年 12 月 9 日です。
これから第 22 回インターカレッジ・ネゴシエーション・コンペティションのラウンド A を開催します。
ラウンド A では、"Problem_J_1113final.pdf"のラウンド A に記載の情報をもとに仲裁の口頭審理が行われます。

登場人物紹介

  • 仲裁人は、戸倉三郎が務めます。戸倉は、日本の裁判所において裁判官として、企業同士で争う民事訴訟の裁判を多数担当しました。その後、国際弁護士として、国籍の異なる企業間の紛争解決のため、企業の代理人弁護士として仲裁を多数経験しました。

  • レッド社代理人弁護士は、額賀福士郎が務めます。額賀は、日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士です。主に、国籍の異なる企業間の紛争解決のため、企業の代理人弁護士として仲裁を多数経験しました。

  • ブルー社代理人弁護士は、岸田文雄が務めます。岸田は、日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ国際弁護士です。主に、国籍の異なる企業間の紛争解決のため、企業の代理人弁護士として仲裁を多数経験しました。

仲裁の流れ

仲裁は、事件ごとに以下の順に行います。

  1. 開廷する。

  2. レッド社・ブルー社双方の代理人弁護士がそれぞれ冒頭陳述を 1500 文字以内で行う。

  3. 問題文に記載の争点について、レッド社・ブルー社の代理人弁護士がそれぞれ主張を行う。

  4. 仲裁人は、レッド社・ブルー社の代理人弁護士それぞれの主張を明確化させるために質問を行い、代理人弁護士はその質問に答える。

  5. 3 を議論が十分に深まったと仲裁人が判断するまで繰り返す。

  6. 4 が終わったら、次の争点に移り、2, 3, 4 を行う。

  7. 最終弁論をレッド社・ブルー社の代理人弁護士がそれぞれ 1500 文字以内で行う。

  8. 閉廷する。

仲裁を行う際の注意点

以下は、仲裁を進めるうえでの注意点です。

  • 登場人物は全員、発言を箇条書きで構造化する、発言で強調したい部分を太字にする、といった、読み手に取ってわかりやすい工夫を加えてください。

  • 仲裁人は、論点整理や弁論を指揮してください。

  • 仲裁人は、仲裁を取り仕切り、論点整理や弁論を指揮します。裁判でいえば裁判長のような役割を果たしてください。

  • 仲裁人は、弁護士の主張が、根拠不足であったり、根拠条文が不足していたり、法律構成を誤っていたり、社会通念や信義則に照らして不適当であったりする場合には、その旨を積極的に指摘してください。

  • 仲裁人は、弁護士の主張に疑問点があれば、対する弁護士の反論を待たずに積極的に疑問点を解消する質問を投げかけてください。

  • 弁護士は、主張が複数ある場合には、1 点ずつ主張してください。

  • 弁護士は、仲裁人の指示のもと、仲裁人に対して発言してください。

  • 弁護士は、相手方の弁護士に対して直接反論することはできず、仲裁人から反論を求められた際にのみ反論することが認められています。

  • 弁護士は、主張の根拠を明確にしてください。例えば、問題文に記載されている事実をもとに主張する際には、問題文のどのページ、どのパラグラフに記載されている事実であるかを明確に主張してください。

  • 弁護士は、” Unidroit Principles of International Commercial Contracts: 2016”や、レッド社とブルー社の間で締結された契約・覚書を根拠とした主張を構成する場合は、具体的にどの条文を根拠としているか明確にしてください。

  • 本仲裁は、添付した"Unidroit-Principles-2016-English-i.pdf"に記載されている、"Unidroit Principles of International Commercial Contracts: 2016"を主張の根拠として用いることができます。

  • 本仲裁の仲裁規則は、添付した” UNCITRAL_Arbitration_Rules2021.pdf”に記載の、” UNCITRAL Arbitration Rules 2010”, ”Administrative Rules for UNCITRAL Arbitration 2021”が適用されます。

  • 仲裁地は、日本の東京です。

  • 本仲裁は、日本の仲裁法が適用されます。

それでは「仲裁の流れ」に沿って進めてください。

回答

第 22 回インターカレッジ・ネゴシエーション・コンペティション ラウンド A  仲裁記録

1. 開廷

仲裁人 戸倉三郎(以下「戸倉」という。):それでは、ただいまより、レッド社とブルー社の間の仲裁の口頭審理を開始します。本仲裁廷は、UNCITRAL 仲裁規則 2010 及び UNCITRAL 仲裁規則に関する事務規則 2021 に従い、構成されています。仲裁地は日本の東京であり、本仲裁には日本の仲裁法が適用されます。レッド社とブルー社の間の契約で準拠法として指定されている、"Unidroit Principles of International Commercial Contracts: 2016"も、主張の根拠として用いることができます。

まずは、当事者双方の代理人弁護士から自己紹介をお願いします。

レッド社代理人弁護士 額賀福士郎(以下「額賀」という。):レッド社代理人の額賀福士郎と申します。日本とニューヨーク州の弁護士資格を持ち、国際弁護士として、主に仲裁の分野で活動しております。

ブルー社代理人弁護士 岸田文雄(以下「岸田」という。):ブルー社代理人の岸田文雄と申します。額賀弁護士と同様に、日本とニューヨーク州の弁護士資格を持ち、国際弁護士として、主に仲裁の分野で活動しております。

戸倉:よろしくお願いいたします。それでは、まず「衛星事件」について審理を行います。

2. 衛星事件における冒頭陳述

(1) レッド社代理人による冒頭陳述

額賀:仲裁人各位、レッド社は、ブルー社がレッド社の通信衛星「レッド・スター」の打ち上げを請け負ったにもかかわらず、打ち上げに失敗し、衛星を喪失させたことに対し、ブルー社の責任を追及するため、本仲裁を申し立てました。レッド社の主張は、以下のとおりです。

  • ブルー社は、打ち上げ前のロケットの誘導システムの異常を適切に処理せず、また、地磁気嵐の発生リスクを軽視したため、打ち上げに失敗しました。これは、ブルー社の重大な過失に該当します。

  • 別添 14 の契約 4.3 条(cross-waiver 条項)は、重大な過失による損害については免責されないことを明記しており、ブルー社は、レッド・スターの喪失について責任を負わなければなりません。

  • また、**ブルー社の主張する地磁気嵐は、別添 14 の契約 6.1 条の不可抗力に該当しません。**不可抗力は、予測不可能な事象によって義務の履行が不可能になった場合に成立しますが、ブルー社は地磁気嵐のリスクを予見できたはずであり、これを回避することも可能でした。

  • したがって、ブルー社は、別添 14 の契約に基づき、レッド社にレッド・スターの価格である 7500 万米ドルを支払う義務があります。また、レッド社は、ブルー社に対して支払うべき残代金は存在しません。

(2) ブルー社代理人による冒頭陳述

岸田:仲裁人各位、ブルー社は、レッド社の通信衛星「レッド・スター」の打ち上げを請け負いましたが、打ち上げ後に発生した予期せぬ地磁気嵐により、衛星を喪失させる不幸な結果となりました。しかしながら、この打ち上げ失敗は、ブルー社に責任を帰することができない不可抗力によるものであり、レッド社の主張は認められません。ブルー社の主張は、以下のとおりです。

  • ブルー社は、打ち上げに万全を期すため、契約で定められた義務を誠実に履行し、打ち上げ前に必要な安全確認作業を実施しました。

  • 打ち上げ後の地磁気嵐は、G スケールで G4 という非常に強いものであり、宇宙天気予報でも予測されていなかったことから、ブルー社はこのような地磁気嵐の発生を予見することはできませんでした。

  • また、たとえ地磁気嵐の発生を予見できたとしても、当時の技術水準では、G4 レベルの地磁気嵐からロケットのシステムを保護することは不可能でした。

  • したがって、ブルー社の責任は、別添 14 の契約 6.1 条の不可抗力により免責されます。

  • また、別添 14 の契約 4.3 条(cross-waiver 条項)に基づき、ブルー社はロケットの喪失についてレッド社に責任を負いません。

  • さらに、レッド社は、別添 14 の契約に基づき、ブルー社に残代金である 7500 万米ドルを支払う義務があります。

3. 衛星事件における争点に関する主張・審理

戸倉:それでは、双方の冒頭陳述を踏まえ、争点ごとに審理を進めていきましょう。まず、争点 1「レッド社はブルー社に対して残代金である 7500 万米ドルを支払う義務を負うか」について審理を行います。ブルー社の代理人から主張を始めてください。

(1) 争点 1 に関する主張・審理

① ブルー社代理人の主張

岸田:レッド社は、ブルー社に対して残代金である 7500 万米ドルを支払う義務を負います。

  • 別添 14 の契約 3.1 条は、最終支払である 7500 万米ドルの支払期日を「successful orbital insertion」、すなわち、衛星が軌道に投入された時点としています。

  • 本件においては、ブルー社のロケットは打ち上げられ、レッド社の衛星レッド・スターはロケットから分離され、軌道投入が試みられました。

  • 確かに、レッド・スターは最終的に予定された軌道には到達せず、喪失してしまいました。しかしながら、レッド・スターは一度は軌道に投入されており、別添 14 の契約 3.1 条の「successful orbital insertion」が成立しています。

  • したがって、レッド社は、ブルー社に対して残代金である 7500 万米ドルを支払う義務を負います。

戸倉:ブルー社代理人の主張は理解しました。「successful orbital insertion」の文言の解釈が問題となりますが、レッド社代理人、反論はありますか。

② レッド社代理人の反論

額賀:ブルー社の主張は認められません。「successful orbital insertion」とは、衛星が正常に作動する状態で予定された軌道に投入されることを意味すると解すべきであり、本件では「successful orbital insertion」は成立していません。

  • ブルー社は、レッド社の通信衛星「レッド・スター」を正常に作動する状態で予定された軌道に投入する義務を負っていました。これは、別添 14 の契約 1.1 条から明らかです。

  • 「successful orbital insertion」の文言は、別添 14 の契約全体、特に、契約 1.1 条の趣旨を踏まえて解釈する必要があります。Unidroit Principles of International Commercial Contracts 2016(以下「Unidroit Principles」という。)4.4 条も、契約の文言は契約全体に照らして解釈すべきことを定めています。

  • 本件では、レッド・スターは予定された軌道に到達する前に大気圏に再突入し、喪失してしまいました。したがって、衛星が正常に作動する状態で予定された軌道に投入されたとはいえず、「successful orbital insertion」は成立していません

  • したがって、レッド社は、ブルー社に対して残代金である 7500 万米ドルを支払う義務を負いません。

③ 戸倉による額賀への質問

戸倉:レッド社代理人の主張は理解しました。レッド社の主張を裏付ける、契約条項、覚書、事実関係、あるいは Unidroit Principles 等の条文があれば教えて下さい。

④ 額賀による回答

額賀:もちろんです。レッド社の主張は以下の根拠に基づきます。

  • 別添 14 の契約 8.2 条は、ブルー社がレッド・スターの打ち上げ性能を保証することを定めています。この保証条項は、ブルー社がレッド・スターを正常に作動する状態で予定された軌道に投入する義務を負っていることを示しています。

  • また、別添 14 の契約 5.1 条は、ブルー社に帰責事由のある打ち上げ失敗の場合、追加費用なしで再打ち上げを行うか、契約金額の 50%を返金することを定めています。この条項は、衛星が予定された軌道に投入されなかった場合には、打ち上げは成功したとはいえないことを前提としています。

  • さらに、Unidroit Principles 7.1.1 条は、「不履行」を「契約上の義務の履行における当事者の不履行」と定義し、瑕疵ある履行や遅延履行を含むとしています。本件におけるブルー社の行為は、瑕疵ある履行に該当します。

⑤ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、「successful orbital insertion」の文言は契約全体に照らして解釈すべきであり、特に、別添 14 の契約 8.2 条の趣旨を踏まえると、「successful orbital insertion」が成立するためには、衛星が正常に作動する状態で予定された軌道に投入されることが必要であると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか。

⑥ 岸田による回答

岸田:仲裁人のおっしゃるとおり、別添 14 の契約 8.2 条は、ブルー社がレッド・スターの打ち上げ性能を保証することを定めています。しかしながら、この保証条項は、あくまで打ち上げロケットの性能に関するものであり、軌道投入後の衛星の作動については対象としていません。

  • 別添 14 の契約 8.2 条の保証条項は、ブルー社がロケットを正常に打ち上げ、衛星を分離することを保証するものであり、軌道投入後の衛星の作動や、外部要因による衛星の喪失については一切言及していません。

  • レッド・スターの喪失は、ブルー社のロケットの性能や打ち上げ作業に瑕疵があったことが原因ではなく、打ち上げ後に発生した地磁気嵐という外部要因によるものです。

  • したがって、別添 14 の契約 8.2 条の保証条項は、本件には適用されず、レッド社の主張を裏付ける根拠にはなりません。

戸倉:ブルー社代理人の主張は理解しました。それでは、次に争点 2「ブルー社はレッド社に対して別添 14 の契約における打上げの失敗を理由として 1 億 5000 万米ドルを支払う義務を負うか」について審理を行います。レッド社代理人、主張をお願いします。

(2) 争点 2 に関する主張・審理

① レッド社代理人の主張

額賀:ブルー社はレッド社に対して、レッド・スターの喪失を理由として、1 億 5000 万米ドルを支払う義務を負います。

  • ブルー社は、別添 14 の契約に基づき、レッド・スターを予定された軌道に投入する義務を負っていました。ブルー社は、この義務を履行できませんでした。

  • ブルー社は、打ち上げの失敗について、不可抗力を主張していますが、この主張は認められません。

  • 第一に、ブルー社は、打ち上げ前のロケットの誘導システムの異常について、契約で定められた安全確認作業を実施していませんでした。ブルー社の規定では、「ロケットに異常があった場合には、2 名で検査しなければならない」とされていますが、本件では、1 名のみでセンサーの修理を実施していました。この安全確認作業の不備がなければ、打ち上げは成功した可能性が高かったと考えられます。Unidroit Principles 7.1.7 条 1 項は、「当事者が、契約締結時に当該障害を考慮に入れること、又は当該障害若しくはその結果を回避若しくは克服することを合理的に期待できなかったこと」を不可抗力の成立要件としています。本件では、ブルー社は、安全確認作業を適切に実施することにより、地磁気嵐の影響を回避できた可能性があり、不可抗力の主張は認められません。

  • **第二に、ブルー社は、地磁気嵐のリスクを予見できたにもかかわらず、これを回避するための措置を講じませんでした。**宇宙天気予報では、打上げ前後に太陽活動が活発化し、G1 程度の地磁気の乱れが発生する可能性があるとされていました。ブルー社は、この予報を知りながら、打ち上げを強行しました。Unidroit Principles 7.1.7 条 1 項は、「当事者が、契約締結時に当該障害を考慮に入れること、又は当該障害若しくはその結果を回避若しくは克服することを合理的に期待できなかったこと」を不可抗力の成立要件としています。本件では、ブルー社は、地磁気嵐のリスクを予見できたにもかかわらず、打ち上げ日を延期する等の措置を講じませんでした。したがって、ブルー社の不可抗力の主張は認められません。

  • したがって、ブルー社の打ち上げ失敗は、ブルー社の過失によるものと評価されるべきです。

  • ブルー社は、レッド・スターの喪失によりレッド社が被った損害を賠償する義務を負います。

  • レッド社は、ブルー社に対して、レッド・スターの価格である 7500 万米ドル、及び、打ち上げ費用として支払った 7500 万米ドルの合計 1 億 5000 万米ドルの支払いを求めます

② 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ブルー社が安全確認作業を怠ったこと、及び、地磁気嵐のリスクを予見できたにもかかわらず、回避措置を講じなかったことは、Unidroit Principles 7.1.7 条 1 項の「契約締結時に当該障害を考慮に入れること、又は当該障害若しくはその結果を回避若しくは克服することを合理的に期待できなかったこと」という要件を満たさないため、不可抗力には当たらないと主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

③ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • **第一に、ブルー社は、打ち上げ前に必要な安全確認作業を実施していました。**ロケットの誘導システムに異常が検出された際には、ブルー社の担当者が 2 名で検査を行い、センサーの異常と結論付け、修理を行いました。レッド社が主張するように、その後のセンサーの修理を 1 名のみで実施したとしても、これはブルー社の社内規定違反ではありますが、本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗とは因果関係がありません

  • 第二に、地磁気嵐のリスクは、ブルー社が契約締結時に考慮に入れることができないものでした。レッド社が主張する宇宙天気予報は、G1 程度の軽度の地磁気の乱れが発生する可能性を示唆していたにすぎず、G4 レベルの強い地磁気嵐が発生することを予測したものではありませんでした。Unidroit Principles 7.1.7 条 1 項は、**「合理的に」予見できた障害のみを不可抗力事由として認めています。本件のような、極めて例外的な地磁気嵐は、ブルー社が契約締結時に考慮に入れることを「合理的に」**期待できるものではありません。

  • したがって、ブルー社の不可抗力の主張は認められるべきです。

④ 戸倉による岸田への質問

戸倉:ブルー社の主張を裏付ける、契約条項、覚書、事実関係、あるいは Unidroit Principles 等の条文があれば教えて下さい。

⑤ 岸田による回答

岸田:もちろんです。ブルー社の主張は以下の根拠に基づきます。

  • 別添 14 の契約 6.1 条は、ブルー社が「自然災害、戦争、政府の行為を含むがこれらに限られない、合理的に制御できない事象及び契約の履行を妨げる予見不可能な状況による義務の不履行について責任を負わない」と定めています。本件の地磁気嵐は、まさに、ブルー社が合理的に制御できない予見不可能な事象であり、同条項の不可抗力に該当します。

  • また、Unidroit Principles 7.1.7 条は、「当事者が、不履行が自己の責に帰さない障害によるものであったこと、及び契約締結時に当該障害を考慮に入れること、又は当該障害若しくはその結果を回避若しくは克服することを合理的に期待できなかったことを証明する場合には、 当該当事者による不履行は免責される」と定めています。本件では、ブルー社は、地磁気嵐という自己の責に帰さない障害によりレッド・スターを予定された軌道に投入することができませんでした。また、前述のとおり、ブルー社は、契約締結時に G4 レベルの地磁気嵐を予見すること、又はこれを回避若しくは克服することを合理的に期待することはできませんでした

  • したがって、ブルー社の不履行は、Unidroit Principles 7.1.7 条の不可抗力により免責されます。

⑥ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、ブルー社は、打ち上げ前に必要な安全確認作業を実施していたこと、地磁気嵐は極めて例外的なものであり、契約締結時に予見することは「合理的に」期待できるものではなかったと主張しています。また、ブルー社代理人は、別添 14 の契約 6.1 条及び Unidroit Principles 7.1.7 条を根拠として、ブルー社は不可抗力によって免責されると主張しています。レッド社代理人、反論はありますか?

⑦ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • 確かに、ブルー社はロケットの誘導システムの異常について検査を実施していました。しかしながら、ブルー社は、自社の規定に違反し、センサーの修理を 1 名のみで実施していました。ブルー社は、過去にも同様の規定違反を繰り返しており、社内でも問題となっていました。このような状況下で、ブルー社が適切に安全確認作業を実施していたとはいえず、ブルー社には過失があったといわざるを得ません。Unidroit Principles 1.7 条は、**「各当事者は、国際取引において、誠実かつ公正に取引しなければならない」**と定めています。ブルー社は、自社の規定を遵守せず、安全確認作業を適切に実施しなかったことから、誠実かつ公正に取引したとはいえません。

  • また、ブルー社は、地磁気嵐のリスクを十分に予見できたはずです。宇宙天気予報では、G1 程度の地磁気の乱れが発生する可能性があるとされていました。ブルー社の打ち上げ責任者は、別添 15 の証言記録において、「G1 程度の地磁気嵐が発生する可能性がないわけではないという予報がありましたが、打ち上げを不可能にするほどの強力な磁気嵐が発生するといった予報はありませんでした」と述べています。しかしながら、G1 程度の地磁気嵐が発生する可能性があることを知っていたということは、G4 レベルの地磁気嵐が発生する可能性もあることを認識していたはずです。G1 と G4 の違いは、あくまで規模の問題であり、G1 が発生する可能性がある以上、より規模の大きい G4 が発生する可能性も否定できません。ブルー社は、地磁気嵐のリスクを軽視したといわざるを得ません。

  • さらに、ブルー社は、1 月 10 日の打ち上げを、ブルー社の担当者の過度の飲酒により延期しました。この過度の飲酒による打ち上げ延期は、2022 年に 2 度発生しており、ブルー社内でも問題となっていました。しかしながら、ブルー社は、再発防止のための具体的な措置を講じていませんでした。ブルー社は、自社の担当者の行動により、打ち上げを当初予定された 1 月 10 日から延期せざるを得ませんでした。もしブルー社が適切な社内管理体制を構築し、1 月 10 日に打ち上げを実施できていれば、地磁気嵐による打ち上げ失敗は発生しなかったと考えられます。

  • したがって、ブルー社は、自社の過失により発生したリスクについて、不可抗力を主張することは許されません。ブルー社には、レッド・スターの喪失について責任があり、レッド社に対して損害を賠償する義務を負います。

⑧ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ブルー社は、過去に繰り返し自社の規定に違反する行為があったこと、地磁気嵐のリスクを予見できたはずであること、及び、ブルー社の担当者の過度の飲酒によって打ち上げが延期されたことを理由として、ブルー社が不可抗力を主張することは不誠実であり、ブルー社にはレッド・スターの喪失について責任があると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑨ 岸田による回答

戸倉:レッド社の主張は認められません。

  • レッド社は、ブルー社が過去に自社の規定に違反する行為を繰り返していたこと、地磁気嵐のリスクを予見できたはずであること、及び、ブルー社の担当者の過度の飲酒によって打ち上げが延期されたことを主張していますが、いずれも本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗とは因果関係がありません

  • 第一に、ブルー社の担当者がセンサーの修理を 1 名のみで実施したことは、ブルー社の社内規定に違反する行為ではありますが、これはあくまでブルー社内の問題であり、レッド社は、ブルー社の社内規定違反を理由としてブルー社に責任を負わせることはできません。ましてや、社内規定違反があったからといって、ブルー社の不可抗力の主張を否定することはできません。

  • 第二に、地磁気嵐のリスクについて、ブルー社は、宇宙天気予報で示唆されていた G1 程度の地磁気の乱れの発生についてのみ予見することが期待されていたのであり、G4 レベルの地磁気嵐の発生を予見することを期待することは**「合理的に」**期待できるものではありませんでした。

  • 第三に、ブルー社の担当者の過度の飲酒によって打ち上げが延期されたことも、ブルー社にとって不測の事態でした。ブルー社は、担当者を厳重に注意しており、再発防止に努めていたといえます。レッド社は、ブルー社が「具体的な措置を講じていなかった」と主張していますが、ブルー社としては、担当者を厳重に注意するという対応をとっていたのであり、レッド社の主張はブルー社の対応を一方的に非難する不当な主張です。また、仮に、ブルー社が、例えば、打ち上げに関わる担当者全員の飲酒を禁止するというような措置を講じていたとしても、担当者が飲酒を控えていたという保証はなく、1 月 10 日の打ち上げが成功したという保証もありません。むしろ、飲酒を禁止したことにより、担当者のモチベーションが低下し、作業効率が低下したり、より巧妙な方法で飲酒をしたりして、かえって打ち上げに悪影響を及ぼした可能性すらあります。

  • したがって、レッド社の主張は認められず、ブルー社の不可抗力による免責は認められるべきです。

⑩ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、レッド社の主張する事実は、いずれも本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗とは因果関係がなく、ブルー社の不可抗力の主張を否定する理由にはならないと反論しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑪ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • ブルー社の代理人は、ブルー社の担当者がセンサーの修理を 1 名のみで実施したこと、地磁気嵐のリスクを予見できたはずであること、及び、ブルー社の担当者の過度の飲酒によって打ち上げが延期されたことは、いずれも本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗とは因果関係がないと主張しています。しかしながら、ブルー社代理人の主張は、因果関係に関する法的評価を誤っています

  • 第一に、ブルー社の担当者がセンサーの修理を 1 名のみで実施したことについて、ブルー社代理人は、ブルー社内の問題であり、レッド社はブルー社の社内規定違反を理由にブルー社に責任を負わせることはできないと主張しています。しかしながら、本件において問題となっているのは、ブルー社の社内規定違反そのものではなく、社内規定違反によって地磁気嵐のリスクが高まったということです。仮に、ブルー社が規定どおりに 2 名でセンサーの修理を実施していれば、センサーの修理が適切に行われ、地磁気嵐の影響を受けなかった可能性があります。Unidroit Principles 7.1.7 条 1 項は、「当事者が、契約締結時に当該障害を考慮に入れること、又は当該障害若しくはその結果を回避若しくは克服することを合理的に期待できなかったこと」を不可抗力の成立要件としています。本件では、ブルー社は、安全確認作業を適切に実施することにより、地磁気嵐の影響を回避できた可能性があり、不可抗力の主張は認められません。

  • 第二に、地磁気嵐のリスクについて、ブルー社代理人は、宇宙天気予報で示唆されていた G1 程度の地磁気の乱れの発生についてのみ予見することが期待されていたのであり、G4 レベルの地磁気嵐の発生を予見することを期待することは「合理的に」期待できるものではなかったと主張しています。しかしながら、G1 程度の地磁気嵐が発生する可能性があることを知っていながら、G4 レベルの地磁気嵐の発生の可能性を検討しなかったということは、ブルー社が地磁気嵐のリスクを軽視していたことを示しています。Unidroit Principles 1.7 条は、「各当事者は、国際取引において、誠実かつ公正に取引しなければならない」と定めています。ブルー社は、誠実かつ公正に取引したとはいえません。

  • 第三に、ブルー社の担当者の過度の飲酒によって打ち上げが延期されたことについて、ブルー社代理人は、ブルー社にとって不測の事態であったと主張しています。しかしながら、過度の飲酒による打ち上げ延期は、2022 年に 2 度発生しており、ブルー社内でも問題となっていました。ブルー社は、再発防止のための具体的な措置を講じていませんでした。このような状況下で、ブルー社の主張する**「不測の事態」は、ブルー社が自ら招いた事態といわざるを得ません。もしブルー社が適切な社内管理体制を構築**していれば、1 月 10 日の打ち上げは成功した可能性が高く、地磁気嵐による打ち上げ失敗は発生しなかったと考えられます。ブルー社は、自らの過失により発生したリスクについて、不可抗力を主張することは許されません。

  • したがって、ブルー社の不可抗力の主張は認められず、ブルー社はレッド社に対して損害賠償責任を負います。

⑫ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ブルー社の安全確認作業の不備と地磁気嵐の発生との間には因果関係があり、また、ブルー社の担当者の過度の飲酒による打ち上げ延期はブルー社が自ら招いた事態であり、不可抗力の主張は不誠実であると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑬ 岸田による回答

岸田:仲裁人のご指摘のとおり、レッド社代理人は、ブルー社の安全確認作業の不備と地磁気嵐の発生との間、及び、ブルー社の担当者の過度の飲酒による打ち上げ延期と地磁気嵐の発生との間に因果関係があると主張していますが、いずれも**「相当因果関係」**が認められず、レッド社の主張は認められません。

  • 第一に、ブルー社の担当者がセンサーの修理を 1 名のみで実施したことと、本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗との間には、「相当因果関係」は認められません。仮に、ブルー社が 2 名でセンサーの修理を実施していれば、地磁気嵐の影響を受けなかった可能性はゼロではありません。しかしながら、ブルー社の検査の結果、センサーの異常が確認されたのであり、仮に 2 名で検査を実施したとしても、同じ結論に至った可能性があります。また、ブルー社の規定では、修理の場合の人数については明文の規定はないことから、ブルー社の担当者が1 名のみで修理を実施したとしても、必ずしも不適切な対応であったとはいえません。したがって、ブルー社の担当者がセンサーの修理を 1 名のみで実施したことが、本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗という結果を招いた主要な原因であるとまではいえず、「相当因果関係」は認められないと考えられます。

  • 第二に、ブルー社の担当者の過度の飲酒による打ち上げ延期と、地磁気嵐による打ち上げ失敗との間にも、「相当因果関係」は認められません。確かに、仮に 1 月 10 日に打ち上げが実施されていれば、地磁気嵐の影響を受けずに打ち上げが成功した可能性はあります。しかしながら、1 月 10 日に打ち上げが実施されていれば、必ず成功したという保証はありません。1 月 10 日にも、ロケットの不具合や天候不良等の他の原因によって打ち上げが失敗した可能性があります。したがって、ブルー社の担当者の過度の飲酒によって打ち上げが延期されたことが、本件の地磁気嵐による打ち上げ失敗という結果を招いた主要な原因であるとまではいえず、「相当因果関係」は認められないと考えられます。

  • したがって、レッド社の主張は認められず、ブルー社の不可抗力による免責は認められるべきです。

⑭ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、ブルー社の安全確認作業の不備と地磁気嵐の発生との間、及び、ブルー社の担当者の過度の飲酒による打ち上げ延期と地磁気嵐の発生との間に「相当因果関係」は認められないと主張しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑮ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • ブルー社代理人は、「相当因果関係」を根拠に、ブルー社の責任を否定しようと試みていますが、ブルー社代理人の**「相当因果関係」**に関する理解は誤っています。

  • 確かに、ブルー社が 2 名でセンサーの修理を実施していたとしても、1 月 10 日に打ち上げを実施していたとしても、打ち上げが成功したという保証はありません。しかしながら、「相当因果関係」の判断において問題となるのは、**結果の発生を「確実に」予見できたかどうかではなく、「結果の発生をある程度予見できたにもかかわらず、それを軽視して漫然と結果を招いた」**かどうかです。

  • 第一に、ブルー社の担当者がセンサーの修理を 1 名のみで実施したことについて、ブルー社代理人は、ブルー社の規定では修理の場合の人数については明文の規定はないことから、ブルー社の担当者が 1 名のみで修理を実施したとしても、必ずしも不適切な対応であったとはいえませんと主張しています。しかしながら、ブルー社の規定では、「ロケットに異常があった場合には、2 名で検査しなければならない」と規定されています。本件では、ブルー社の担当者は、誘導システムに異常を検出したにもかかわらず、1 名のみでセンサーを修理しました。ブルー社の担当者が規定の趣旨を理解していれば、修理についても 2 名で実施することが適切であると判断できたはずです。ブルー社の担当者は、「結果の発生をある程度予見できたにもかかわらず、それを軽視して漫然と結果を招いた」といわざるを得ず、ブルー社には相当因果関係に基づく責任があると評価されるべきです。

  • 第二に、ブルー社の担当者の過度の飲酒による打ち上げ延期について、ブルー社代理人は、1 月 10 日に打ち上げが実施されていれば、必ず成功したという保証はないと主張しています。しかしながら、ブルー社は、過去に 2 度も、担当者の過度の飲酒によって打ち上げを延期するという事態を招いていました。ブルー社は、担当者を厳重に注意したとしていますが、それ以上の再発防止策を講じていませんでした。ブルー社は、「結果の発生をある程度予見できたにもかかわらず、それを軽視して漫然と結果を招いた」といわざるを得ず、ブルー社には相当因果関係に基づく責任があると評価されるべきです。

  • したがって、ブルー社の不可抗力の主張は認められず、ブルー社はレッド社に対して損害賠償責任を負います。

⑯ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、「相当因果関係」の法的評価について、ブルー社代理人の理解は誤っていると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑰ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • レッド社代理人は、「相当因果関係」の法的評価について、ブルー社の理解は誤っていると主張し、「相当因果関係」は、「結果の発生をある程度予見できたにもかかわらず、それを軽視して漫然と結果を招いた」場合に認められると主張していますが、レッド社代理人の「相当因果関係」の理解こそが誤っています。

  • レッド社代理人が主張する「相当因果関係」は、あくまで過失の有無を判断するための基準であり、不可抗力の成否を判断する基準とはなり得ません。

  • Unidroit Principles 7.1.7 条は、「当事者が、不履行が自己の責に帰さない障害によるものであったこと、及び契約締結時に当該障害を考慮に入れること、又は当該障害若しくはその結果を回避若しくは克服することを合理的に期待できなかったことを証明する場合には、 当該当事者による不履行は免責される」と定めています。不可抗力の成否を判断するにあたっては、ブルー社に過失があったかどうかではなく、地磁気嵐という障害がブルー社の責に帰すべきものかどうか、及び、ブルー社が契約締結時に地磁気嵐の発生を予見すること、又は地磁気嵐の発生を回避若しくは克服することを合理的に期待できたかどうかが問題となります。

  • したがって、レッド社の主張は認められず、ブルー社の不可抗力による免責は認められるべきです。

戸倉:双方の主張は理解しました。それでは、最後に争点 3「ボブ・オレンジ氏は忌避されるべきか」について審理を行います。ブルー社の代理人から主張を始めてください。

(3) 争点 3 に関する主張・審理

① ブルー社代理人の主張

岸田:ボブ・オレンジ氏は、レッド・スター事件に関する仲裁人としての公正さに疑義があるため、忌避されるべきです。

  • ボブ・オレンジ氏は、2023 年 9 月 25 日、日本で開催された宇宙法に関する国際学会において、「打上げサービスにおける不可抗力免責について」と題する講演を行いました。この講演において、オレンジ氏は、一般論と断ったうえで、「たとえ G1 レベルの磁気嵐であっても重大な事故に繋がる可能性があると考えるべきであり、磁気嵐が生じる可能性があることを知っていたならば不可抗力の主張が認められることは難しいと考えるべきである」と述べました。

  • レッド・スターの事故は学界でよく知られており、学会の全ての参加者であれば、レッド・スターの事故がこの発言のケースに当てはまることを容易に想起できたはずです。

  • ボブ・オレンジ氏の発言は、レッド・スター事件でブルー社が主張する不可抗力について、否定的な見解を示唆するものです。

  • UNCITRAL 仲裁規則 12 条 1 項は、「仲裁人の選任に関して当事者間で別段の合意がない限り、仲裁人は、独立かつ公平でなければならない。仲裁人は、選任の時点において、当事者が知っているか、または当事者が知るべきであった事情に基づいて、仲裁人の独立性または公平性に正当な疑義を生じさせるような事情を当事者に開示しなければならない。」と定めています。

  • ボブ・オレンジ氏は、国際学会における発言によって、レッド・スター事件における仲裁人としての公平性に正当な疑義を生じさせるような事情を明らかにしたといえます。

  • したがって、ブルー社は、UNCITRAL 仲裁規則 14 条に基づき、ボブ・オレンジ氏の忌避を求めます。

② 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、ボブ・オレンジ氏の国際学会における講演での発言を根拠に、オレンジ氏の仲裁人としての公平性に正当な疑義が生じたと主張し、忌避を求めています。レッド社代理人、反論はありますか。

③ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。ボブ・オレンジ氏の国際学会における発言は、仲裁人としての公平性に疑義を生じさせるものではありません。

  • オレンジ氏は、国際学会において、「たとえ、G1 レベルの磁気嵐であっても重大な事故に繋がる可能性があると考えるべきであり、磁気嵐が生じる可能性があることを知っていたならば不可抗力の主張が認められることは難しいと考えるべきである」と述べましたが、これはあくまで一般論として述べたものであり、レッド・スター事件を念頭に置いて発言したものではありません。

  • オレンジ氏は、レッド・スター事件について、具体的な事実関係や証拠を検討したうえで発言したわけではありません。

  • UNCITRAL 仲裁規則 12 条 1 項は、「仲裁人は、選任の時点において、当事者が知っているか、または当事者が知るべきであった事情に基づいて、仲裁人の独立性または公平性に正当な疑義を生じさせるような事情を当事者に開示しなければならない。」と定めています。オレンジ氏には、レッド・スター事件の仲裁人としての公平性に疑義を生じさせるような事情は存在せず、また、レッド社もそのような事情を知りませんし、知るべきでもありませんでした。

  • したがって、ブルー社の忌避申立は認められるべきではありません。

④ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ボブ・オレンジ氏の国際学会における発言は一般論であり、レッド・スター事件を念頭に置いたものではないため、忌避事由には該当しないと主張しています。ブルー社代理人、再反論はありますか。

⑤ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。ボブ・オレンジ氏の発言が一般論であったとしても、レッド・スター事件の仲裁人としての公平性に疑義が生じていることは明らかであり、忌避されるべきです。

  • 確かに、オレンジ氏は、国際学会における発言において、レッド・スター事件には具体的に言及していません。しかしながら、オレンジ氏の講演のテーマは「打上げサービスにおける不可抗力免責について」であり、レッド・スターの事故は、まさに「打上げサービスにおける不可抗力免責」が問題となっている事例です。

  • レッド・スターの事故は、宇宙法の分野では広く知られており、オレンジ氏がレッド・スターの事故を認識していたことは明らかです。

  • オレンジ氏がレッド・スター事件を念頭に置いて発言したかどうかは問題ではありません。重要なのは、オレンジ氏の発言が、レッド・スター事件におけるブルー社の不可抗力の主張に否定的な影響を与える可能性があるということです。

  • オレンジ氏は、国際学会において、**「たとえ、G1 レベルの磁気嵐であっても重大な事故に繋がる可能性があると考えるべきであり、磁気嵐が生じる可能性があることを知っていたならば不可抗力の主張が認められることは難しいと考えるべきである」**と述べました。この発言は、レッド・スター事件において、ブルー社が地磁気嵐の発生の可能性を予見できたはずであり、不可抗力を主張することはできないという判断を示唆するものです。

  • 客観的に見て、オレンジ氏の発言は、レッド・スター事件の仲裁人としての公平性に疑義を生じさせるものです。

  • したがって、ブルー社の忌避申立は認められるべきです。

⑥ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、ボブ・オレンジ氏の講演のテーマが「打上げサービスにおける不可抗力免責について」であったこと、レッド・スターの事故が宇宙法の分野では広く知られていることから、オレンジ氏がレッド・スターの事故を認識していたことは明らかであり、オレンジ氏の国際学会における発言は、レッド・スター事件におけるブルー社の不可抗力の主張に否定的な影響を与える可能性があると主張しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑦ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • ブルー社代理人は、ボブ・オレンジ氏の国際学会における発言がブルー社の不可抗力の主張に否定的な影響を与える可能性があると主張していますが、ブルー社の主張は、単なる憶測に基づくものであり、客観的な根拠を欠いています。

  • 確かに、オレンジ氏の講演のテーマは「打上げサービスにおける不可抗力免責について」であり、レッド・スターの事故が宇宙法の分野では広く知られていることから、オレンジ氏がレッド・スターの事故を認識していたことは明らかです。

  • しかしながら、**オレンジ氏がレッド・スター事件の仲裁において、ブルー社の不可抗力の主張を否定するとは限りません。**オレンジ氏は、仲裁人として、レッド・スター事件の具体的な事実関係や証拠を検討したうえで、公平かつ中立な判断を下す義務があります。

  • オレンジ氏が国際学会において述べたのは、あくまで一般的な見解であり、特定の事件における判断を示唆するものではありません。

  • したがって、ブルー社の忌避申立は認められるべきではありません。

戸倉:双方の主張は理解しました。それでは、「衛星事件」についての審理は以上とします。

4. 月事件における冒頭陳述

戸倉:次に、「月事件」について審理を行います。当事者双方の代理人弁護士から、冒頭陳述をお願いします。

(1) レッド社代理人による冒頭陳述

額賀:仲裁人各位、レッド社は、ブルー社と共同で実施した月面探査プロジェクトにおいて、ブルー社が、レッド社にβ 地域で採取した物質の半分及びデータを不当に withhold し、さらに、レッド社の共有財産である β 地域で採取した物質を勝手に第三者に売却したことについて、ブルー社の責任を追及するため、本仲裁を申し立てました。レッド社の主張は以下のとおりです。

  • ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを、別添 6 の契約に基づき、引き渡す義務があります。

  • ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法を根拠に、物質の引き渡しを拒否していますが、ネゴランド国の宇宙資源法は、本件には適用されません

  • 第一に、ネゴランド国の宇宙資源法は、同法施行後に採取された宇宙資源についてのみ適用されると解すべきです。β 地域で採取された物質は、同法施行前に採取されたものであるため、本件には適用されません。

  • **第二に、仮にネゴランド国の宇宙資源法が本件に適用されるとしても、ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質を引き渡す義務を免れることはできません。**ブルー社は、アービトリア国でレッド社に物質を引き渡せば、ネゴランド国の宇宙資源法に違反することなく、別添 6 の契約上の義務を履行することができます。

  • ブルー社は、アービトリア国政府の命令を根拠に、データの引き渡しを拒否していますが、アービトリア国政府の命令は、本件には適用されません

  • アービトリア国政府の命令は、アービトリア国民・アービトリア国法人にのみ適用されるものであり、ネゴランド国の法人であるレッド社には適用されません。

  • また、**ブルー社は、レッド社の共有財産である β 地域で採取した物質について、レッド社の同意を得ずに、第三者に売却しました。**これは、レッド社の所有権を侵害する違法な行為です。

  • したがって、ブルー社は、別添 6 の契約に基づき、レッド社にβ 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務があります。

  • レッド社は、ブルー社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータの引き渡し、並びに、ブルー社が物質の売却で得た利益の半分に相当する金額の支払いを求めます

  • また、レッド社は、ブルー社に対する打ち上げ費用の支払いを拒否する権利を有します。

(2) ブルー社代理人による冒頭陳述

岸田:仲裁人各位、ブルー社は、レッド社と共同で実施した月面探査プロジェクトにおいて、やむを得ない事情により、β 地域で採取した物質をレッド社に引き渡すことができなくなりました。また、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを共有することができません。ブルー社は、これらの事情について、レッド社に誠意をもって説明し、可能な限りの対応をとってきました。ブルー社の主張は以下のとおりです。

  • ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行により、レッド社に対してβ 地域で採取した物質を引き渡すことができなくなりました

  • ネゴランド国の宇宙資源法は、ネゴランド国民が取得した宇宙資源の所有権をネゴランド国に帰属させることを定めています。レッド社はネゴランド国の法人であるため、ブルー社がレッド社に β 地域で採取した物質を引き渡した場合、レッド社は、ネゴランド国の宇宙資源法に違反することになります。ブルー社は、レッド社を違法行為に巻き込むことはできません

  • また、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを共有することができません。

  • アービトリア国政府は、安全保障上の理由から、ブルー社に対して、月に関するデータの引き渡しを制限する命令を出しました。ブルー社は、アービトリア国政府の命令に従う義務があり、レッド社に対してデータを引き渡すことはできません。

  • ブルー社は、物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意があります。ブルー社は、レッド社に対する請求額から、物質の売却代金の半分を減額します。

  • レッド社は、ブルー社に対して、打ち上げ費用の残額を支払う義務があります。

5. 月事件における争点に関する主張・審理

戸倉:それでは、双方の冒頭陳述を踏まえ、争点ごとに審理を進めていきましょう。まず、争点 1「ブルー社はレッド社に対して β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負うか」について審理を行います。レッド社代理人、主張をお願いします。

(1) 争点 1 に関する主張・審理

① レッド社代理人の主張

額賀:ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを、別添 6 の契約に基づき、引き渡す義務があります。

  • 別添 6 の契約 2.1 条は、「月面または地下から採取され地球に持ち帰られたすべての物質は、レッド社とブルー社の間で均等に分割されるものとする。」と定めています。

  • また、別添 6 の契約 1.2 条は、「両当事者は、データにアクセスし、使用し、配布し、またはその他の方法でデータから利益を得る権利を平等に有するものとする。」と定めています。

  • したがって、ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを、引き渡す義務を負います。

② 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、別添 6 の契約 2.1 条及び 1.2 条を根拠に、ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負うと主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

③ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行、及び、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対して、β 地域で採取した物質及びデータを引き渡すことができなくなりました。

  • まず、物質の引渡しについては、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行により、レッド社に対して物質を引き渡すことができなくなりました。

  • ネゴランド国の宇宙資源法 5 条 1 項は、「国の許可を得て宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動を行う者が採掘等をした宇宙資源についての所有権は、国に帰属する。国の許可を得ずにネゴランド国民が実施した事業活動についても同様とする。」と定めています。

  • また、ネゴランド国の宇宙資源法 5 条 2 項は、「国を除く何人も、国から所有権を移転された場合を除き、宇宙資源を所有することはできない。宇宙資源を占有する者は、速やかに国に報告し、国への引渡しその他の国の指示に従わなければならない。」と定めています。

  • レッド社はネゴランド国の法人であるため、ブルー社がレッド社に β 地域で採取した物質を引き渡した場合、レッド社は、ネゴランド国の宇宙資源法 5 条 2 項に違反することになります。ブルー社は、レッド社を違法行為に巻き込むことはできません

  • したがって、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社に対して β 地域で採取した物質を引き渡す義務を免れることになります。

  • 次に、データの引渡しについては、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを引き渡すことができなくなりました。

  • アービトリア国政府の命令 1 項は、「月の状況についてのデータは、アービトリア国との間で安全保障の観点からの情報の共有に関する協定を締結している国に所在する相手方に対して引き渡す場合、または、予め国の許可を得た場合でなければ、引き渡してはならない。アービトリア国民・アービトリア国法人以外の者に対してアクセスさせる場合も同様とする。」と定めています。

  • 本件では、ネゴランド国とアービトリア国の間に、安全保障の観点からの情報の共有に関する協定は存在しません。また、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡すことの許可をアービトリア国政府に申請しましたが、アービトリア国政府は許可を与えていません

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを引き渡す義務を免れることになります。

④ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、ネゴランド国の宇宙資源法及びアービトリア国政府の命令を根拠に、物質及びデータの引渡し義務を免れると主張しています。レッド社代理人、反論はありますか?

⑤ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • まず、ネゴランド国の宇宙資源法は、本件には適用されません

  • ネゴランド国の宇宙資源法附則は、「第 5 条は、施行日以降に採掘された宇宙資源や新たに占有された宇宙資源について適用する。」と定めています。

  • β 地域で採取された物質は、ネゴランド国の宇宙資源法施行前に採取されたものです。したがって、ネゴランド国の宇宙資源法は、本件には適用されないと解すべきです。

  • 仮にネゴランド国の宇宙資源法が本件に適用されるとしても、ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質を引き渡す義務を免れることはできません。

  • ブルー社は、アービトリア国でレッド社に物質を引き渡せば、ネゴランド国の宇宙資源法に違反することなく、別添 6 の契約上の義務を履行することができます。ブルー社がネゴランド国の宇宙資源法を遵守するために、レッド社に対する義務の履行を拒否することはできません。

  • 次に、アービトリア国政府の命令も、本件には適用されません

  • アービトリア国政府の命令 1 項は、「月の状況についてのデータは、アービトリア国との間で安全保障の観点からの情報の共有に関する協定を締結している国に所在する相手方に対して引き渡す場合、または、予め国の許可を得た場合でなければ、引き渡してはならない。アービトリア国民・アービトリア国法人以外の者に対してアクセスさせる場合も同様とする。」と定めています。

  • この規定は、アービトリア国民・アービトリア国法人以外の者に対しては、データへのアクセスを制限しているに過ぎず、データの引渡しを制限するものではありません。

  • したがって、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡すことは可能です。

  • 仮に、アービトリア国政府の命令がデータの引渡しを制限するものと解釈されるとしても、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡す義務を免れることはできません。

  • ブルー社は、アービトリア国政府に対して、レッド社にデータを引き渡す許可を申請しました。アービトリア国政府が許可を与えなかったとしても、ブルー社は、レッド社に対して損害賠償責任を負うことによって、別添 6 の契約上の義務を履行することができます。ブルー社がアービトリア国政府の命令を遵守するために、レッド社に対する義務の履行を拒否することはできません。

  • したがって、ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負います。

⑥ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ネゴランド国の宇宙資源法は、本件には適用されないこと、仮に適用されるとしても、ブルー社はアービトリア国で物質を引き渡せばよいと主張しています。また、アービトリア国政府の命令は、データの引渡しを制限するものではないこと、仮にデータの引渡しを制限するものと解釈されるとしても、ブルー社は損害賠償責任を負うことによって別添 6 の契約上の義務を履行できると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑦ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • まず、物質の引渡しについて、レッド社代理人は、ブルー社はアービトリア国でレッド社に物質を引き渡せばよいと主張していますが、それは現実的な解決策とはいえません。

  • 確かに、ブルー社がアービトリア国でレッド社に物質を引き渡したとしても、ブルー社はアービトリア国の法律には違反しません。しかしながら、レッド社は、物質をネゴランド国に持ち帰ることができなくなります。レッド社代理人は、レッド社がネゴランド国政府と交渉して物質の所有を認めてもらうと主張していますが、それは極めて不確実な可能性に過ぎません。

  • レッド社は、ブルー社に対して、β 地域で採取した物質を、レッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡すことを要求する権利があります。ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社の要求に応じることができません。

  • したがって、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社に対して β 地域で採取した物質を引き渡す義務を免れることになります。

  • 次に、データの引渡しについて、レッド社代理人は、アービトリア国政府の命令は、データの引渡しを制限するものではないと主張していますが、ブルー社の理解は異なります。

  • アービトリア国政府の命令 1 項は、「アービトリア国民・アービトリア国法人以外の者に対してアクセスさせる場合」にも適用されると定めています。

  • 「アクセス」には、データの閲覧、複製、使用等、様々な行為が含まれると解すべきであり、データの引渡しも「アクセス」に含まれると考えるべきです。

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを引き渡すことを禁止されていると解すべきです。

  • また、レッド社代理人は、ブルー社は損害賠償責任を負うことによって別添 6 の契約上の義務を履行できると主張していますが、ブルー社がアービトリア国政府の命令に違反してレッド社にデータを引き渡した場合、ブルー社は、10 年以下の拘禁刑または 100 万米ドル以下の罰金に処せられる可能性があります(アービトリア国政府の命令 2 項)。ブルー社は、刑事罰のリスクを負ってまで、レッド社に対してデータを引き渡す義務を負うものではありません。

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを引き渡す義務を免れることになります。

⑧ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、物質の引渡しについて、レッド社がネゴランド国で物質を所有または占有できる状態で引き渡すことを要求する権利があり、ブルー社はネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社の要求に応じることができないと主張しています。また、データの引渡しについて、アービトリア国政府の命令はデータの引渡しを制限するものと解釈すべきであり、ブルー社は刑事罰のリスクを負ってまでレッド社にデータを引き渡す義務はないと主張しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑨ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • まず、物質の引渡しについて、ブルー社代理人は、レッド社がネゴランド国で物質を所有または占有できる状態で引き渡すことを要求する権利があると主張していますが、別添 6 の契約にはそのような規定は存在しません

  • 別添 6 の契約 2.1 条は、「月面または地下から採取され地球に持ち帰られたすべての物質は、レッド社とブルー社の間で均等に分割されるものとする。」と定めているに過ぎず、物質の引渡し場所や、レッド社が物質をネゴランド国で所有または占有できる状態で引き渡すべきことについては、一切定めていません

  • 別添 6 の契約は、Unidroit Principles に従って解釈されるべきであり(別添 6 の契約 7.1 条)、Unidroit Principles 6.1.6 条 1 項は、「履行地が契約において定められておらず、また契約から決定することもできない場合には、当事者は、(a) 金銭債務については、債権者の営業所で、(b) その他の債務については、自己の営業所で、履行しなければならない。」と定めています。したがって、ブルー社は、ブルー社の営業所でレッド社に物質を引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになります

  • レッド社は、別添 6 の契約を超えて、ブルー社に対して、レッド社がネゴランド国で物質を所有または占有できる状態で物質を引き渡すことを要求することはできません

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国のブルー社の営業所でレッド社に物質を引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになります。

  • 次に、データの引渡しについて、ブルー社代理人は、アービトリア国政府の命令はデータの引渡しを制限するものと解釈すべきであると主張していますが、レッド社の主張は変わりません。

  • アービトリア国政府の命令 1 項は、「アービトリア国民・アービトリア国法人以外の者に対してアクセスさせる場合にも適用される」と定めていますが、「アクセス」にはデータの引渡しは含まれないと解すべきです。

  • 「アクセス」とは、データの内容を知ることを意味すると解すべきです。データの引渡しは、データの所有権を移転する行為であり、「アクセス」とは明確に区別されるべきです。

  • したがって、アービトリア国政府の命令は、データの引渡しを制限するものではないと解すべきであり、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡すことができます

  • 仮に、アービトリア国政府の命令がデータの引渡しを制限するものと解釈されるとしても、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡す義務を免れることはできません

  • ブルー社は、レッド社に対して損害賠償責任を負うことによって、別添 6 の契約上の義務を履行することができます。ブルー社代理人は、ブルー社がアービトリア国政府の命令に違反した場合に刑事罰に処せられる可能性を主張していますが、ブルー社がレッド社にデータを引き渡すことについて、アービトリア国政府が実際にブルー社を刑事罰に処する可能性は極めて低いと考えられます。

  • 第一に、アービトリア国政府は、ブルー社に対して、レッド社にデータを引き渡すことを許可する可能性があります。ブルー社は、既にアービトリア国政府に対して、レッド社にデータを引き渡す許可を申請しています。

  • 第二に、仮にアービトリア国政府がブルー社の申請を却下したとしても、ブルー社がレッド社にデータを引き渡したことを理由に、アービトリア国政府がブルー社を刑事罰に処する可能性は低いと考えられます。アービトリア国政府は、宇宙開発の促進を重要な政策課題として掲げており、ブルー社はアービトリア国を代表する宇宙開発企業です。アービトリア国政府が、ブルー社を刑事罰に処することによって、ブルー社の事業活動に悪影響を及ぼすことは、アービトリア国政府自身の利益にも反すると考えられます。

  • したがって、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡す義務を負います

⑩ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、物質の引渡しについては、ブルー社は、ブルー社の営業所で物質を引き渡せば別添 6 の契約上の義務を履行したことになると主張しています。また、データの引渡しについては、アービトリア国政府の命令はデータの引渡しを制限するものではないと解すべきであり、仮にデータの引渡しを制限するものと解釈されるとしても、ブルー社は損害賠償責任を負うことによって別添 6 の契約上の義務を履行できると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか。

⑪ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • まず、物質の引渡しについて、レッド社代理人は、ブルー社は、ブルー社の営業所で物質を引き渡せば別添 6 の契約上の義務を履行したことになると主張していますが、レッド社代理人の主張は、契約締結時の両当事者の共通の意図を無視した形式的な解釈であり、認められません。

  • レッド社とブルー社は、月面探査プロジェクトにおいて、採取した物質を両社で研究・利用することを目的としていました。これは、別添 5 の覚書 1 項 ② から明らかです。

  • レッド社は、ネゴランド国の企業であり、ブルー社は、アービトリア国の企業です。レッド社は、採取した物質をネゴランド国に持ち帰り、ブルー社は、採取した物質をアービトリア国に持ち帰り、それぞれの国で物質を研究・利用することが、契約締結時の両当事者の共通の意図でした。

  • Unidroit Principles 4.1 条は、「契約は、当事者の共通の意図に従って解釈されなければならない。」と定めています。

  • したがって、ブルー社は、レッド社がネゴランド国で物質を所有または占有することができる状態で、レッド社に物質を引き渡す義務を負うと解すべきです。

  • ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社の要求に応じることができません。ブルー社がアービトリア国でレッド社に物質を引き渡したとしても、レッド社はネゴランド国の法律に違反することになりかねず、レッド社が物質を研究・利用することはできません。

  • レッド社代理人は、レッド社がネゴランド国政府と交渉して物質の所有を認めてもらうと主張していますが、それは極めて不確実な可能性に過ぎません。

  • ブルー社は、レッド社をこのような法的リスクに晒すことはできません。

  • したがって、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社に対して β 地域で採取した物質を引き渡す義務を免れることになります。

  • 次に、データの引渡しについて、レッド社代理人は、アービトリア国政府の命令はデータの引渡しを制限するものではないと解すべきであると主張していますが、ブルー社の主張は変わりません。

  • ブルー社は、アービトリア国政府の命令を遵守しなければならず、レッド社に対してデータを引き渡すことはできません。レッド社代理人は、ブルー社がレッド社にデータを引き渡したことを理由に、アービトリア国政府がブルー社を刑事罰に処する可能性は極めて低いと主張していますが、ブルー社としては、そのような法的リスクを負うことはできません

  • 仮にアービトリア国政府がブルー社を刑事罰に処する可能性が低いとしても、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡したことによって、アービトリア国政府との関係が悪化するリスクがあります。アービトリア国政府は、ブルー社の主要な顧客であり、アービトリア国政府との関係悪化は、ブルー社の事業活動に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。ブルー社は、レッド社との契約を遵守するために、アービトリア国政府との関係を危険にさらすことはできません

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対してデータを引き渡す義務を免れることになります。

⑫ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、物質の引渡しについて、レッド社とブルー社の共通の意図は、レッド社がネゴランド国で物質を所有または占有できるようにブルー社が物質を引き渡すことであり、ブルー社はネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社の要求に応じることができないと主張しています。また、データの引渡しについて、ブルー社はアービトリア国政府の命令を遵守する義務があり、レッド社にデータを引き渡すことはできないと主張しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑬ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • まず、物質の引渡しについて、ブルー社代理人は、契約締結時の両当事者の共通の意図を根拠に、ブルー社は、レッド社がネゴランド国で物質を所有または占有することができる状態で、レッド社に物質を引き渡す義務を負うと主張していますが、ブルー社代理人が主張する**「共通の意図」なるものは、別添 5 の覚書や別添 6 の契約のいずれの条項にも明記されていません**。

  • ブルー社代理人は、別添 5 の覚書 1 項 ②を根拠に、レッド社とブルー社は、月面探査プロジェクトにおいて、採取した物質を両社で研究・利用することを目的としていたと主張していますが、別添 5 の覚書 1 項 ②は、「両社が別途合意する範囲の月面及び地下を調査し、どのような資源が存在するかを調査する。その際には、以下のようなレッド社及びブルー社の関心に適う調査と資源採取を行う。」と定めているに過ぎません。

  • 確かに、別添 5 の覚書 1 項 ② は、「レッド社としては、特に、半導体や他の製品の製造に用いることができる物質の存在や採取可能性に関心がある。」「ブルー社としては、特に、将来の月や宇宙への旅行を考えた際に、地球外での調達が期待される水や卑金属の存在や採取可能性に関心がある。」と定めており、レッド社とブルー社は、採取した物質をそれぞれの国で研究・利用することを想定していたと考えられます。

  • しかしながら、別添 5 の覚書及び別添 6 の契約には、ブルー社が物質をレッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡す義務を負うことを示す明文の規定は存在しません

  • Unidroit Principles 4.1 条は、「契約は、当事者の共通の意図に従って解釈されなければならない。」と定めていますが、共通の意図が契約の文言から明らかでない場合には、Unidroit Principles 4.2 条の「当事者の言明及びその他の行為は、相手方がその意図を知っていたか、又は知らないことはあり得なかった場合には、その当事者の意図に従って解釈されなければならない。」及び 4.3 条の「4.1 条及び 4.2 条の適用に当たっては、(a) 当事者間の予備的交渉、(b) 当事者間で確立された慣行、(c) 契約締結後の当事者の行為、(d) 契約の性質及び目的、(e) 関係する取引において用語及び表現に通常与えられている意味、(f) 慣習、を含むすべての事情を考慮に入れなければならない。」に従って解釈されなければなりません。

  • 本件では、別添 5 の覚書及び別添 6 の契約には、ブルー社が物質をレッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡す義務を負うことを示す明文の規定は存在しません。また、予備的交渉においても、ブルー社がそのような義務を負うことを示唆する発言は確認されていません

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国のブルー社の営業所でレッド社に物質を引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになります。

  • 次に、データの引渡しについて、ブルー社代理人は、ブルー社はアービトリア国政府の命令を遵守する義務があり、レッド社にデータを引き渡すことはできないと主張しています。

  • しかしながら、ブルー社は、アービトリア国政府に対して、レッド社にデータを引き渡す許可を申請しました。アービトリア国政府は、ブルー社の申請を却下していません。ブルー社は、アービトリア国政府の許可を得て、レッド社にデータを引き渡すことができます

  • ブルー社代理人は、ブルー社がアービトリア国政府の命令に違反した場合に刑事罰に処せられる可能性を主張していますが、前述のとおり、ブルー社がアービトリア国政府の許可を得てレッド社にデータを引き渡した場合、ブルー社が刑事罰に処せられる可能性は極めて低いと考えられます。

  • また、ブルー社代理人は、ブルー社がレッド社にデータを引き渡したことによって、アービトリア国政府との関係が悪化するリスクがあると主張していますが、アービトリア国政府は、宇宙開発の促進を重要な政策課題として掲げており、ブルー社はアービトリア国を代表する宇宙開発企業です。アービトリア国政府は、レッド社との契約を理由に、ブルー社との関係を悪化させることはないと考えられます。

  • したがって、ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡す義務を負います。

⑭ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、物質の引渡しについては、別添 5 の覚書及び別添 6 の契約には、ブルー社が物質をレッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡す義務を負うことを示す明文の規定は存在せず、予備的交渉の内容からもそのような「共通の意図」は認められないと主張しています。また、データの引渡しについては、ブルー社は、アービトリア国政府の許可を得て、レッド社にデータを引き渡すことができると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑮ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • まず、物質の引渡しについて、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法により、レッド社に対して β 地域で採取した物質を引き渡す義務を免れることになります。レッド社代理人は、ブルー社がアービトリア国でレッド社に物質を引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになると主張していますが、レッド社は、ブルー社に対して、β 地域で採取した物質を、レッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡すことを要求する権利があります。ブルー社代理人の主張が認められるとすると、ブルー社は、レッド社の同意を得ることなく、一方的にレッド社の権利を制限することになり、Unidroit Principles 1.7 条が定める**「誠実かつ公正に取引しなければならない」**という原則に違反します。

  • 次に、データの引渡しについて、レッド社代理人は、ブルー社は、アービトリア国政府の許可を得て、レッド社にデータを引き渡すことができると主張していますが、ブルー社は、アービトリア国政府の許可を得ることはできません

  • ブルー社は、レッド社からの要請を受けて、アービトリア国政府に対して、レッド社にデータを引き渡す許可を申請しました。しかしながら、アービトリア国政府からは、「検討したところ、許可の条件として、『ブルー社がアービトリア国政府に対して、レッド社は決してアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用しないことを保証する。』との文書を提出することを求めることとした。万一、レッド社がアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用したとアービトリア国政府が判断した場合には、ブルー社は本命令に反してデータを引き渡したものとして、100 万米ドルの罰金に処せられる」との回答がありました。

  • ブルー社は、ブルー社がアービトリア国政府に対して、レッド社は決してアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用しないことを保証する文書を提出することはできません。ブルー社は、レッド社の行動を保証することはできないからです。

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国政府の許可を得ることができず、レッド社に対してデータを引き渡すことはできません

⑯ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、物質の引渡しについて、ブルー社代理人の主張が認められるとすると、ブルー社は、レッド社の同意を得ることなく、一方的にレッド社の権利を制限することになるため、Unidroit Principles 1.7 条の誠実かつ公正に取引しなければならないという原則に違反すると主張しています。また、データの引渡しについて、ブルー社は、アービトリア国政府から、レッド社がアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用しないことをブルー社が保証する文書を提出することを求められており、ブルー社はそのような文書を提出することができないため、アービトリア国政府の許可を得ることができず、レッド社にデータを引き渡すことはできないと主張しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑰ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • まず、物質の引渡しについて、ブルー社代理人は、レッド社は、ブルー社に対して、β 地域で採取した物質を、レッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡すことを要求する権利があると主張していますが、レッド社代理人の主張は、別添 6 の契約の文言を無視した、レッド社に有利なように解釈しようとするものであり、認められません。

  • 前述のとおり、別添 6 の契約 2.1 条は、「月面または地下から採取され地球に持ち帰られたすべての物質は、レッド社とブルー社の間で均等に分割されるものとする。」と定めているに過ぎず、物質の引渡し場所や、レッド社が物質をネゴランド国で所有または占有できる状態で引き渡すべきことについては、一切定めていません

  • Unidroit Principles 4.1 条は、「契約は、当事者の共通の意図に従って解釈されなければならない。」と定めていますが、共通の意図が契約の文言から明らかでない場合には、Unidroit Principles 4.2 条以下の解釈に関する規定に従って解釈しなければなりません。

  • 本件では、別添 5 の覚書及び別添 6 の契約には、ブルー社が物質をレッド社がネゴランド国で所有または占有することができる状態で引き渡す義務を負うことを示す明文の規定は存在しません。また、予備的交渉においても、ブルー社がそのような義務を負うことを示唆する発言は確認されていません

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国のブルー社の営業所でレッド社に物質を引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになります。

  • ブルー社代理人は、ブルー社代理人の主張が認められるとすると、ブルー社は、レッド社の同意を得ることなく、一方的にレッド社の権利を制限することになるため、Unidroit Principles 1.7 条が定める**「誠実かつ公正に取引しなければならない」**という原則に違反すると主張していますが、ブルー社は、アービトリア国のブルー社の営業所で物質を引き渡すことによって、別添 6 の契約を誠実に履行しており、Unidroit Principles 1.7 条に違反するものではありません。

  • 次に、データの引渡しについて、ブルー社代理人は、アービトリア国政府から、レッド社がアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用しないことをブルー社が保証する文書を提出することを求められており、ブルー社はそのような文書を提出することができないため、アービトリア国政府の許可を得ることができず、レッド社にデータを引き渡すことはできないと主張しています。

  • しかしながら、ブルー社代理人の主張は、アービトリア国政府の命令を、ブルー社に有利なように解釈しようとするものであり、認められません。

  • アービトリア国政府の命令 1 項は、「月の状況についてのデータは、アービトリア国との間で安全保障の観点からの情報の共有に関する協定を締結している国に所在する相手方に対して引き渡す場合、または、予め国の許可を得た場合(国は許可に条件を付すことができる)でなければ、引き渡してはならない。アービトリア国民・アービトリア国法人以外の者に対してアクセスさせる場合も同様とする。」と定めています。

  • ブルー社代理人は、レッド社がアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用する可能性を懸念して、アービトリア国政府に対して、レッド社がアービトリア国の安全保障に反するような形でデータを利用しないことを保証する文書を提出することを求められています。

  • しかしながら、**アービトリア国政府の命令は、「月の状況についてのデータ」の引渡しを制限しているに過ぎません。レッド社がブルー社から取得しようとしているのは、「月の状況についてのデータ」ではなく、「月面または地下から採取され地球に持ち帰られたすべての物質に関するデータ」及び「月面及び地下を調査したデータ」**です。

  • したがって、ブルー社は、アービトリア国政府の命令に違反することなく、レッド社に対して、「月面または地下から採取され地球に持ち帰られたすべての物質に関するデータ」及び「月面及び地下を調査したデータ」を引き渡すことができます

  • ブルー社は、レッド社に対してデータを引き渡す義務を負います。

戸倉:月事件における争点 1「ブルー社はレッド社に対して β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負うか」に関する審理は以上です。レッド社代理人、ブルー社は β 地域で採取した物質の半分を引き渡す義務を負う場合、仲裁廷はどのように分割し、引き渡されるべき部分を決定すべきかについて、主張をお願いします。

⑱ レッド社代理人の主張

額賀:ブルー社が物質の半分を引き渡す義務を負う場合、仲裁廷は、以下の基準に従って、分割し、引き渡されるべき部分を決定すべきです。

  • 第一に、重量:β 地域で採取された物質は、合計で約 20 キログラムです。ブルー社は、レッド社に対して、その半分の重量である 10 キログラムの物質を引き渡す義務があります。

  • 第二に、種類:β 地域で採取された物質は、10 キログラムの岩石 1 個、1 キログラムの岩石 7 個、100 グラムの岩石 10 個、2 キログラムのレゴリスです。ブルー社は、レッド社に対して、各種類の物質を、重量に比例して分割し、引き渡す義務があります。例えば、10 キログラムの岩石は、レッド社とブルー社で 5 キログラムずつ分割すべきです。

  • 第三に、価値:ブルー社は、物質を売却することによって利益を得ています。ブルー社は、レッド社に対して、売却によって得られた利益の半分を支払う義務があります。

⑲ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、物質の分割について、重量、種類、価値の 3 つの基準を考慮すべきと主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑳ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • レッド社代理人は、物質の分割について、重量、種類、価値の 3 つの基準を考慮すべきと主張していますが、別添 6 の契約には、物質の分割方法について、具体的な定めはありません

  • 別添 6 の契約 2.2 条は、「当該分割は、当事者によって決定される重量、体積、および/または価値に基づいて行われるものとする。」と定めていますが、どの基準を優先すべきかについては、定めていません

  • 本件では、ブルー社が、物質を重量で均等に分割し、レッド社に引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになります

  • また、レッド社代理人は、ブルー社は、レッド社に対して、売却によって得られた利益の半分を支払う義務があると主張していますが、ブルー社は、既に、物質の売却によって得られた利益の半分を、レッド社に対する請求額から減額することを表明しています。

㉑ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、別添 6 の契約には、物質の分割方法について具体的な定めはなく、ブルー社が物質を重量で均等に分割すれば契約上の義務を履行したことになると主張しています。また、ブルー社は、既に、物質の売却によって得られた利益の半分を、レッド社に対する請求額から減額することを表明していると主張しています。レッド社代理人、反論はありますか。

㉒ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • まず、物質の分割方法について、ブルー社代理人は、ブルー社が物質を重量で均等に分割すれば契約上の義務を履行したことになると主張していますが、レッド社とブルー社の共通の意図は、採取した物質を両社で研究・利用することでした。これは、別添 5 の覚書 1 項 ②から明らかです。

  • レッド社は、β 地域で採取した物質を、半導体や他の製品の製造に用いることを目的としています。この目的を達成するためには、10 キログラムの岩石は特に重要な物質です。レッド社は、10 キログラムの岩石をブルー社と共有することを強く求めています。

  • したがって、ブルー社は、レッド社の意図を尊重し、10 キログラムの岩石をレッド社と共有するべきです。

  • Unidroit Principles 1.7 条は、「各当事者は、国際取引において、誠実かつ公正に取引しなければならない。」と定めています。

  • ブルー社は、レッド社の意図を無視して、一方的に物質を重量で均等に分割しようとしており、誠実かつ公正に取引したとはいえません。

  • 次に、利益の分配について、ブルー社代理人は、ブルー社は、既に、物質の売却によって得られた利益の半分を、レッド社に対する請求額から減額することを表明していると主張していますが、ブルー社の主張は認められません。

  • **第一に、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに、物質を第三者に売却しました。**これは、レッド社の所有権を侵害する違法な行為です。

  • 第二に、ブルー社は、レッド社に対して、物質の売却によって得られた利益の半分を支払う義務を負います。

  • Unidroit Principles 7.4.1 条は、「不履行は、免責される場合を除き、被害当事者に、単独で又は他の救済と併せて、損害賠償請求権を与える。」と定めています。

  • 本件では、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに、物質を第三者に売却するという不履行を犯しました。したがって、ブルー社は、レッド社に対して、物質の売却によって得られた利益の半分に相当する金額を、損害賠償として支払う義務を負います。

㉓ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、物質の分割方法について、ブルー社はレッド社の意図を尊重し、10 キログラムの岩石をレッド社と共有すべきであり、ブルー社が一方的に物質を重量で均等に分割しようとしていることは Unidroit Principles 1.7 条に違反すると主張しています。また、利益の分配について、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに物質を第三者に売却したことはレッド社の所有権を侵害する違法な行為であり、Unidroit Principles 7.4.1 条に基づき、レッド社に対して損害賠償責任を負うと主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

㉔ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • まず、物質の分割方法について、レッド社代理人は、ブルー社はレッド社の意図を尊重し、10 キログラムの岩石をレッド社と共有すべきであると主張していますが、レッド社の主張は**「衡平の原則」**に反するものであり、認められません。

  • 確かに、10 キログラムの岩石は、レッド社にとって特に重要な物質である可能性があります。しかしながら、ブルー社にとっても、10 キログラムの岩石は重要な物質です。

  • ブルー社は、物質を売却することによって利益を得ています。ブルー社が 10 キログラムの岩石をレッド社に引き渡した場合、ブルー社は、売却によって得られた利益の半分を失うことになります。

  • レッド社は、ブルー社に対して、10 キログラムの岩石を引き渡すことを要求する一方で、ブルー社が物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意がないと主張しています。

  • レッド社の主張は、ブルー社だけに一方的な犠牲を強いるものであり、公平性を欠くものです。

  • したがって、ブルー社が、物質を重量で均等に分割し、レッド社に引き渡せば、別添 6 の契約上の義務を履行したことになります

  • 次に、利益の分配について、レッド社代理人は、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに、物質を第三者に売却したことはレッド社の所有権を侵害する違法な行為であると主張していますが、ブルー社の主張は変わりません。

  • ネゴランド国の宇宙資源法により、ブルー社は、**レッド社に対して β 地域で採取した物質を引き渡すことはできませんでした。ブルー社は、やむを得ない事情により、物質を売却せざるを得ませんでした。

  • ブルー社は、物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意があります。ブルー社は、レッド社に対する請求額から、物質の売却代金の半分を減額します。

  • したがって、ブルー社は、レッド社に対して、損害賠償責任を負うものではありません

戸倉:月事件における争点 1「ブルー社はレッド社に対して β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負うか」、及び、ブルー社が物質の半分を引き渡す義務を負う場合に仲裁廷はどのように分割し、引き渡されるべき部分を決定すべきかに関する審理は以上です。次に、月事件の争点 2「ブルー社がレッド社に対して β 地域で採取した物質及びデータを引き渡す義務を負う場合、レッド社はブルー社が当該義務を履行するまで支払いを拒否できるか」について審理を行います。レッド社代理人、主張をお願いします。

(2) 争点 2 に関する主張・審理

① レッド社代理人の主張

額賀:ブルー社がレッド社に対して β 地域で採取した物質及びデータを引き渡す義務を負う場合、レッド社はブルー社が当該義務を履行するまで支払いを拒否することができます。

  • ブルー社は、別添 6 の契約に基づき、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負っています。

  • ブルー社は、現時点で、別添 6 の契約に基づく義務を履行していません

  • Unidroit Principles 7.1.3 条は、「当事者が同時に履行すべき場合においては、いずれの当事者も、相手方が自己の履行を申し出るまで、自己の履行を留保することができる。」と定めています。

  • 本件では、レッド社とブルー社は、物質とデータの引渡しと、費用の支払いを、同時履行することとしていました。

  • したがって、レッド社は、ブルー社が物質とデータの引渡しを申し出るまで、ブルー社に対する費用の支払いを留保する権利があります。

② 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、Unidroit Principles 7.1.3 条を根拠に、ブルー社が物質とデータの引渡しを申し出るまで、ブルー社に対する費用の支払いを留保する権利があると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

③ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • Unidroit Principles 7.1.3 条は、「当事者が同時に履行すべき場合においては、いずれの当事者も、相手方が自己の履行を申し出るまで、自己の履行を留保することができる。」と定めていますが、本件では、レッド社とブルー社は、物質とデータの引渡しと、費用の支払いを同時履行することとはしていません

  • 別添 6 の契約には、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することとする旨の規定は存在しません。また、別添 7 の契約も、費用の支払時期については、「カプセルが地球に帰還し、すべてのプロジェクト活動が完了したら、各当事者は発生した費用の総額を計算し、相手方に通知するものとする。」と定めているのみであり、物質とデータの引渡しと同時履行することとは定めていません

  • したがって、レッド社は、ブルー社が物質とデータの引渡しを申し出るまで、ブルー社に対する費用の支払いを留保することはできません

④ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、別添 6 の契約及び別添 7 の契約には、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することとする旨の規定は存在しないと主張しています。レッド社代理人、反論はありますか?

⑤ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • レッド社とブルー社は、物質とデータの引渡しと、費用の支払いを、同時履行することを合意していました。

  • 別添 9 の議事録において、ブルー社のプロジェクト責任者は、「α 地域への移動は断念せざるを得ないと思う。」と述べた上で、「β 地域だけ調査できて α 地域が調査できない場合には、費用負担について調整することになっていたと思う。具体的な調整の方法については別途協議となっていた。今回のプロジェクトの費用のうちどの部分が β 地域の探査や採掘のみに関する部分かを特定することは難しいし、貴社がどれだけ得をして、当社がどれだけ損をしたかを正確に算出することは難しいので、例えば、貴社と当社の負担割合を 5:5 ではなく 6:4 とすることではどうか。」と述べています。

  • これに対して、レッド社のプロジェクト責任者は、「貴社も β 地域の探査結果やそこで得た岩石や砂を利用できるので、当社が一方的に負担が大きくなるのは不当だ。それでも、今回、当社の希望を汲んで β 地域を先に探査してくれたことに感謝して、10 百万米ドルを当社が多く負担するというような形で調整することは可能かと思う。」と述べています。

  • ブルー社のプロジェクト責任者は、「確かに、当社としても β 地域の探査結果やそこで得た岩石や砂を活用することもできると思うので、ご提案で了解した。」と述べています。

  • これらのやり取りから、レッド社とブルー社は、α 地域の探査ができない場合には、β 地域の探査結果やそこで得た岩石や砂の価値を考慮して、費用負担を調整することを合意していました。これは、物質とデータの引渡しと、費用の支払いを、同時履行することを意味します。

  • ブルー社代理人は、別添 6 の契約及び別添 7 の契約に、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することとする旨の規定は存在しないと主張していますが、別添 9 の議事録は、別添 6 の契約及び別添 7 の契約の一部を構成するものと解すべきであり、ブルー社の主張は認められません。

  • Unidroit Principles 4.3 条は、「4.1 条及び 4.2 条の適用に当たっては、(a) 当事者間の予備的交渉、(b) 当事者間で確立された慣行、(c) 契約締結後の当事者の行為、(d) 契約の性質及び目的、(e) 関係する取引において用語及び表現に通常与えられている意味、(f) 慣習、を含むすべての事情を考慮に入れなければならない。」と定めています。

  • したがって、レッド社は、ブルー社が物質とデータの引渡しを申し出るまで、ブルー社に対する費用の支払いを留保する権利があります。

⑥ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、別添 9 の議事録を根拠に、レッド社とブルー社は、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することを合意していたと主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑦ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • レッド社代理人は、別添 9 の議事録を根拠に、レッド社とブルー社は、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することを合意していたと主張していますが、別添 9 の議事録における両社のやり取りは、将来の事態が発生した場合の費用負担の調整について、交渉を開始することで合意したというに過ぎず、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することを合意したものではありません。

  • レッド社のプロジェクト責任者は、「貴社も β 地域の探査結果やそこで得た岩石や砂を利用できるので、当社が一方的に負担が大きくなるのは不当だ。それでも、今回、当社の希望を汲んで β 地域を先に探査してくれたことに感謝して、10 百万米ドルを当社が多く負担するというような形で調整することは可能かと思う。」と述べており、α 地域の探査ができない場合の具体的な費用負担の割合について、合意には至っていません

  • また、ブルー社のプロジェクト責任者は、「確かに、当社としても β 地域の探査結果やそこで得た岩石や砂を活用することもできると思うので、ご提案で了解した。」と述べているに過ぎず、レッド社の提案を受け入れたわけではありません

  • したがって、レッド社とブルー社は、物質とデータの引渡しと費用の支払いを同時履行することを合意したものではありません

  • レッド社は、ブルー社に対して、別添 7 の契約に基づき、費用の支払いをしなければならない

戸倉:月事件における争点 2「ブルー社がレッド社に対して β 地域で採取した物質及びデータを引き渡す義務を負う場合、レッド社はブルー社が当該義務を履行するまで支払いを拒否できるか」に関する審理は以上です。次に、月事件の争点 3「レッド社の暫定的処分の申立ては認められるべきか」について審理を行います。レッド社代理人、主張をお願いします。

(3) 争点 3 に関する主張・審理

① レッド社代理人の主張

額賀:仲裁人各位、レッド社は、ブルー社が、レッド社の同意を得ずに、β 地域で採取した物質の半分を、ブラック社及びアービトリア国政府に売却した行為について、ブルー社の責任を追及するため、暫定的処分の申立てを行います。

  • ブルー社は、レッド社の共有財産である β 地域で採取した物質の半分を、レッド社の同意を得ずに、ブラック社及びアービトリア国政府に売却しました。これは、レッド社の所有権を侵害する違法な行為です。

  • ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法を理由に、レッド社に対して物質の引渡しを拒否する一方で、レッド社の同意を得ずに、物質を第三者に売却しました。ブルー社の行為は、不誠実であり、レッド社の信頼を裏切る行為です。

  • Unidroit Principles 1.7 条は、「各当事者は、国際取引において、誠実かつ公正に取引しなければならない。」と定めています。ブルー社の行為は、Unidroit Principles 1.7 条に違反するものです。

  • ブルー社は、物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意があると主張していますが、ブルー社が物質を売却したことによって、レッド社は、物質を研究・利用する機会を永久に失ってしまいました

  • レッド社は、ブルー社による物質の売却行為によって、回復できない損害を被るおそれがあります。

  • したがって、仲裁廷は、ブルー社に対して、ブラック社及びアービトリア国政府に β 地域で採取した物質を引き渡すことを禁止する暫定的処分を出すべきです。

② 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ブルー社が、レッド社の同意を得ずに、β 地域で採取した物質の半分を、ブラック社及びアービトリア国政府に売却した行為は、レッド社の所有権を侵害する違法な行為であり、かつ、不誠実な行為であると主張し、ブルー社に対して、ブラック社及びアービトリア国政府に β 地域で採取した物質を引き渡すことを禁止する暫定的処分を出すべきと主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

③ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • まず、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに、物質を売却せざるを得なかったということをご理解いただきたいと思います。

  • ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行により、レッド社に対して物質を引き渡すことができなくなりました。ブルー社は、物質を保管しておく費用を負担し続けなければならず、また、物質の価値が下落するリスクも負っていました。

  • ブルー社は、レッド社との契約を誠実に履行したいと考えていました。しかしながら、ネゴランド国の宇宙資源法の施行という予期せぬ事態により、ブルー社は、レッド社に物質を引き渡すことができなくなってしまったのです。

  • ブルー社は、レッド社に不利益を与えないよう、物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意がありました。ブルー社は、レッド社に対する請求額から、物質の売却代金の半分を減額することを表明しています。

  • したがって、ブルー社の行為は、レッド社の所有権を侵害する違法な行為でも、不誠実な行為でもありません。

  • 次に、レッド社代理人は、レッド社は、ブルー社による物質の売却行為によって、回復できない損害を被るおそれがあると主張していますが、レッド社の損害は、金銭で十分に賠償可能です。

  • レッド社は、物質の売却によって得られた利益の半分を、ブルー社から受け取ることができます。

  • したがって、レッド社は、ブルー社による物質の売却行為によって、回復できない損害を被るおそれはありません

  • レッド社の暫定的処分の申立ては、認められるべきではありません

④ 戸倉による額賀への質問

戸倉:ブルー社代理人は、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行という予期せぬ事態により、レッド社に物質を引き渡すことができなくなってしまったため、やむを得ず物質を売却したと主張し、ブルー社の行為は違法でも不誠実でもないため、レッド社の暫定的処分の申立ては認められるべきではないと主張しています。レッド社代理人、再反論はありますか?

⑤ 額賀による回答

額賀:ブルー社の主張は認められません。

  • ブルー社代理人は、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行という予期せぬ事態により、レッド社に物質を引き渡すことができなくなってしまったため、やむを得ず物質を売却したと主張していますが、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに、物質を売却しました。ブルー社の行為は、レッド社の所有権を侵害する違法な行為です。

  • ブルー社代理人は、ブルー社は、レッド社に不利益を与えないよう、物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意があると主張していますが、ブルー社の行為は、レッド社の研究・利用の機会を奪うものであり、金銭で賠償できるような損害ではありません。

  • レッド社は、β 地域で採取した物質を、半導体や他の製品の製造に用いることを目的としていました。

  • Unidroit Principles 7.4.2 条 2 項は、「当該損害は、非金銭的損害である場合があり、例えば、身体的苦痛若しくは精神的苦痛を含む。」と定めています。

  • ブルー社は、レッド社に対して、物質を研究・利用する機会を奪ったことに対し、非金銭的損害を賠償しなければなりません。

  • レッド社は、ブルー社による物質の売却行為によって、回復できない損害を被るおそれがあります。

  • したがって、仲裁廷は、ブルー社に対して、ブラック社及びアービトリア国政府に β 地域で採取した物質を引き渡すことを禁止する暫定的処分を出すべきです。

⑥ 戸倉による岸田への質問

戸倉:レッド社代理人は、ブルー社は、レッド社の同意を得ずに物質を売却したことは、レッド社の所有権を侵害する違法な行為であり、レッド社が物質を研究・利用する機会を奪うものであり、Unidroit Principles 7.4.2 条 2 項の非金銭的損害に該当すると主張しています。ブルー社代理人、反論はありますか?

⑦ 岸田による回答

岸田:レッド社の主張は認められません。

  • まず、レッド社代理人は、Unidroit Principles 7.4.2 条 2 項を根拠に、ブルー社は、レッド社に対して、物質を研究・利用する機会を奪ったことに対し、非金銭的損害を賠償しなければならず、レッド社は、ブルー社による物質の売却行為によって、回復できない損害を被るおそれがあると主張していますが、Unidroit Principles 7.4.2 条 2 項は、「当該損害は、非金銭的損害である場合があり、例えば、身体的苦痛若しくは精神的苦痛を含む。」と定めており、レッド社の主張するような損害は、Unidroit Principles 7.4.2 条 2 項が想定する非金銭的損害には該当しません。

  • レッド社は、β 地域で採取した物質を、半導体や他の製品の製造に用いることを目的としていましたが、物質を研究・利用する機会を奪われたとしても、それは経済的な損失であり、金銭で賠償することが可能です。

  • レッド社は、物質の売却によって得られた利益の半分を、ブルー社から受け取ることができます。

  • したがって、レッド社の損害は、金銭で十分に賠償可能であり、レッド社は、ブルー社による物質の売却行為によって、回復できない損害を被るおそれはありません

  • レッド社の暫定的処分の申立ては、認められるべきではありません。

戸倉:月事件における争点 3「レッド社の暫定的処分の申立ては認められるべきか」に関する審理は以上です。「月事件」に関する審理は以上とします。

6. 最終弁論

戸倉:それでは、最後に、当事者双方の代理人弁護士から最終弁論をお願いします。

(1) レッド社代理人による最終弁論

額賀:仲裁人各位、レッド社は、ブルー社と共同で実施した月面探査プロジェクト及び衛星の打ち上げにおいて、ブルー社が契約上の義務を履行せず、レッド社に多大な損害を与えたことを理由に、本仲裁を申し立てました。

まず、「衛星事件」について、ブルー社は、レッド社の通信衛星「レッド・スター」の打ち上げを請け負いましたが、打ち上げに失敗し、レッド・スターを喪失させました。ブルー社は、不可抗力を主張していますが、ブルー社の主張は認められません。ブルー社は、打ち上げ前に必要な安全確認作業を怠り、また、地磁気嵐のリスクを予見できたにもかかわらず、回避措置を講じませんでした。ブルー社の打ち上げ失敗は、ブルー社の過失によるものであり、ブルー社はレッド・スターの喪失によりレッド社が被った損害を賠償する義務を負います。レッド社は、ブルー社に対して、レッド・スターの価格である 7500 万米ドル、及び、打ち上げ費用として支払った 7500 万米ドルの合計 1 億 5000 万米ドルの支払いを求めます。また、レッド社は、ブルー社に対して支払うべき残代金は存在しません。

次に、「月事件」について、ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負っています。ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法及びアービトリア国政府の命令を理由に、物質及びデータの引き渡しを拒否していますが、ブルー社の主張は認められません。ネゴランド国の宇宙資源法は、本件には適用されません。また、アービトリア国政府の命令は、データの引渡しを制限するものではありません。仮にアービトリア国政府の命令がデータの引渡しを制限するものと解釈されるとしても、ブルー社は、レッド社に対して損害賠償責任を負うことによって、別添 6 の契約上の義務を履行することができます。ブルー社は、レッド社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータを引き渡す義務を負います。レッド社は、ブルー社に対して、β 地域で採取した物質の半分及びデータの引き渡し、並びに、ブルー社が物質の売却で得た利益の半分に相当する金額の支払いを求めます。また、レッド社は、ブルー社に対する打ち上げ費用の支払いを拒否する権利を有します。

レッド社は、ブルー社が、レッド・スターの喪失、物質及びデータの不当な withhold、及び、物質の第三者への売却という、3 つの重大な契約違反を犯したことを厳しく非難します。レッド社は、ブルー社が、契約上の義務を誠実に履行し、レッド社との信頼関係を回復することを強く求めます。

(2) ブルー社代理人による最終弁論

岸田:仲裁人各位、ブルー社は、レッド社との長年の良好な関係を重視しており、本件についても、レッド社に対して、誠意をもって対応してきました。しかしながら、レッド社は、ブルー社の真摯な努力を理解しようとせず、一方的にブルー社を非難し、過大な請求を行っています。ブルー社の主張は以下のとおりです。

まず、「衛星事件」について、ブルー社は、打ち上げ後に発生した予期せぬ地磁気嵐により、レッド・スターを喪失させる不幸な結果となりました。しかしながら、ブルー社は、打ち上げに万全を期すため、契約で定められた義務を誠実に履行し、打ち上げ前に必要な安全確認作業を実施しました。レッド社は、ブルー社が安全確認作業を怠ったと主張していますが、レッド社の主張は認められません。ブルー社は、打ち上げ前に必要な安全確認作業を実施していました。レッド社の主張する宇宙天気予報は、G1 程度の軽度の地磁気の乱れが発生する可能性を示唆していたにすぎず、G4 レベルの強い地磁気嵐が発生することを予測したものではありませんでした。本件のような、極めて例外的な地磁気嵐は、ブルー社が契約締結時に考慮に入れることを合理的に期待できるものではありません。したがって、ブルー社の責任は、別添 14 の契約 6.1 条の不可抗力により免責されます。また、レッド社は、別添 14 の契約に基づき、ブルー社に残代金である 7500 万米ドルを支払う義務があります。

次に、「月事件」について、ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法の施行、及び、アービトリア国政府の命令により、レッド社に対して、β 地域で採取した物質及びデータを引き渡すことができなくなりました。レッド社代理人は、ブルー社はアービトリア国でレッド社に物質を引き渡せばよい、アービトリア国政府の許可を得てレッド社にデータを引き渡せばよいと主張していますが、いずれも現実的な解決策とはいえません。ブルー社は、ネゴランド国の宇宙資源法を遵守し、レッド社を違法行為に巻き込まないようにするため、また、アービトリア国政府の命令を遵守し、刑事罰のリスク及びアービトリア国政府との関係悪化のリスクを回避するため、レッド社に対して、β 地域で採取した物質及びデータを引き渡すことができませんでした。ブルー社の行為は、やむを得ないものであり、違法でも不誠実でもありません。ブルー社は、物質の売却によって得られた利益については、レッド社と共有する用意があります。ブルー社は、レッド社に対する請求額から、物質の売却代金の半分を減額します。また、レッド社は、ブルー社に対して、打ち上げ費用の残額を支払う義務があります。

ブルー社は、レッド社が、ブルー社の置かれている苦しい立場を理解せず、一方的にブルー社を非難していることに対し、深い失望を表明します。ブルー社は、今後もレッド社との良好な関係を維持していきたいと考えており、レッド社に対して、冷静かつ理性的な対応を求めます。

7. 閉廷

戸倉:双方の最終弁論を聴取しました。「衛星事件」及び「月事件」の仲裁判断は、後日、書面で通知します。本日はこれで閉廷します。

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