ある草の記憶
ある草の記憶
震災から、あの事故から6年経ったとはいえ、この場所はあの時の爪痕を残したまま。時計は15時27分を指したまま止まっている。
立ち入り禁止区域となっていたその場所は、6年たってやっと制限付きで入れるようになった。
その場所は、建物がなく道路しかない開かれた場所。かつてそこがどんな景色の場所だったのか全く想像出来ないような草に被われた開かれた場所。
そこには小川が流れていた。
車から降りて小川の近くまでいって水に触れてみようとした時に身体が止まった。
「この水に触れても大丈夫なのだろうか?」
その思いが身体の動きを止めた。
とっさに水面から川の対岸へ目を移す。
目に映ったのは、子供の頃その草があるところには蛍がいると教えてもらった懐かしいあの草だった。
その瞬間、どこか遠くの出来事、遠くの場所であった福島原発事故、福島という土地が自分自身と地続きになるのを感じた。
ここが誰かにとっての思い出の場所で、大切な土地であること。自分自身のそのような場所と同じ特別な場所なのだと。
あの小川にあったその草は持ち帰れなかった。
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