火花:Audibleが読書を超えた

Audibleが読書を超えて聴くエンターテイメントとしてお金を払う価値があるなと感じた作品。これまでAudibleは時間の有効活用ツールくらいに思っていたが、「火花」は純粋にエンターテイメントだった。

本のあらすじ:かけだしの漫才師が師匠と出会って、彼との交流を中心に、何てことない日常や舞台での漫才の情景を時系列で追いながら、笑いを追い求める人生とは何かを描く。

笑いに対する筆者の情熱が感じられ、また、筆者の真摯で実存的な悩みを、シンプルな筆致でシュールな笑いたっぷりに語る。

Audibleがよかった点:

  • 朗読を担当された堤真一さんの演技がすごい。ボケやツッコみのセリフと筆者の真面目な語り口を行ったり来たりするので、どういったトーンで読むか難しいはずだが、一貫して真面目でクールな温度感が音声ドラマとして丁度よく、逆によりシュールさが際立って、何度か声に出して笑った。

  • 携帯のバイブ音や花火など、背景の音が適度に入っており情景がよりリアルに感じられる。Audibleとして、他の作品よりもお金をかけている作品だと思う。聴き放題に入っているなら、よりコストをかけているこちらの作品を聞いた方がお得。

内容についてのネタバレあり感想:

  • 物語の展開:主人公は真面目に笑いを追い求める無骨で不器用な人間として描かれ、世間に合わせる能力を持ちながらも、敢えて前人未踏の笑いを目指す師匠が対比される。主人公は”師匠は頭がおかしいのではないか”と何度も思いながらも、彼の笑いの哲学に強く憧れ交流を続ける。

  • 物語の山場:主人公が師匠よりも世間の評価を得ることで師匠との関係性が変わっていき、悲しく思いながらも、主人公はそこそこ知名度のある漫才師になり、やり切った気持ちを持って引退する。その後、追い詰められていた師匠は奇想天外な行動をとる。

  • 感想:本質を求める哲学的な話でありながらも、シュールで笑えたし面白かった、という感想が先に来る、あまりしたことのない読書(Audible)体験だった。お笑い芸人・漫才師、という生き方について、アホかもしれないし、売れなければ食べていけないというリスクも大きいけど、全肯定する、という筆者の姿勢が物語上一貫していて心地よく、とてもさわやか。著者の又吉さんは客観的な視点や世間一般の常識を持っている人であって、それでもお笑い芸人という人生に身を投じた自分を肯定したくて日々悩んでいる正直で真面目な人なんだな、と親しみが沸いた。



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