絶望を味わったクリエイターが人を救う~クリス・コルファー
映画化の監督をめぐって
▼ 前の記事のように、『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』の映画化について、どこの撮影所も、クリスさんに監督をやらせようとはしませんでした。
しかし、この物語は、クリスさんが7歳から1ページ1ページ書き綴ってきたものでした。そして、その中の世界だけが、孤独な少年時代の居場所だったのです。
また過去には、実際に他の人に監督を任せたために、作品が思いがけない方向へ行ってしまったという、苦い経験もありました。
ですから、どうしても、監督を譲るわけにはいかなかったのです。
幸い、最終的には20世紀FOXが承諾したのですが、それまで、クリスさんは深い「絶望」を味わったといいます。
成功へのひとつのプロセス
そのエピソードについてのコメントです。
クリス:ですので、僕にも気力をなくすようなときはあります。あきらめたくなるときも、たくさんあります。
でも、こういうときを乗り越えなくてはならないし、あきらめたくなるときを乗り越えなくてはならないと思っています。
僕は、それも「成功へのプロセスの一部」だと思っているのです。
トム・ビリュー氏:どうしてなのか、もう少し教えてくれる?
クリス:よくわかりません…もっとお話ししたいのですが、自分が本当にわかっているのか自信がなくて(笑)
あきらめて妥協しなくて良かった、ということです。
(つづく)
ビリュー氏の鋭い突っ込みに対して、とても素直で謙虚ですね(笑)
「あきらめて妥協しなくてよかった」というのは、映画の出来だけではなく、クリスさんの人生においても精神面においても、大きな分かれ道だったに違いありません。
またそれは、クリスさんの来し方そのものについても言えそうです。
幼少から俳優をめざすも、地元では才能を認められなかったクリスさん。
14歳からは、毎月1、2回、はるばるロサンゼルスでのオーディションに臨みましたが、4年間も不合格が続きました。
▼ 毎回片道4時間かけて、車で送ってくれたお母さん。
まさに絶望に次ぐ絶望だったと思いますが、あきらめずに挑戦してきたことが「glee」での成功につながったのでしょう。
現在のコロナ禍による足止めも、「成功のために欠かせないステップだった」と言える日が、早くやってくることを願っています。
人としての深みがクリエイターの幅を拡げる
次に、「絶望」が、創作活動にプラスに働く場合があることを述べられています。
クリス:人間は、クリエイティブな立場の場合はとくに、「高さ」と同じくらい「深さ」が大事だと考えています。深みは、クリエイターとしての自分の幅を広げてくれると思うのです。
そして、ご存知のとおり、人の「深さ」はそんな絶望したときに生まれるのだと思います。
(つづく)
大きな悩みが、精神を深く耕してくれるのですね。
『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』も、巻を追うごとに深みを増し、いい歳の私にとっても、大いに学びや気づきのある本でした。
絶望している読者を癒す
さらに、もう少し具体的なお話をされています。
クリス:「絶望」こそが、本当に、僕をより良い作家にしてくれたと思っています。
なぜなら、今なら僕は、絶望している登場人物を描くことができます。
そして、それを読んでいる、実際に絶望している読者が、自分自身に重ね合わせ、救いを得ることができるからです。
ー クリス・コルファー 2019.11.12 対談「インパクト・セオリー」より
https://youtu.be/bFIdD57Xz84
「経験があれば、絶望している人物をうまく描ける」とは、どんな作家でも言えそうですが、
「実際に絶望している読者が、自分自身に重ね合わせ、救いを得ることができる」という考え方が、クリスさんらしいと思いました。
(写真は、FOXのTVドラマ「glee」より。ご本人と同じく、ゲイでいじめられっ子の役でした。)
絶望を味わっている読者は、経験に裏打ちされた描写のおかげで感情移入しやすくなり、作者が自分の気持ちをわかってくれていると感じ、癒しを得られるでしょう。
また、ストーリー展開によっては、希望や勇気が持てるかもしれません。
「glee」において、自身のつらい体験を再現したような役柄を演じ、「あなたに救われた」と視聴者から感謝され、その声を聴いてきたクリスさん。
だからこそ、実感をもって言える言葉なのでしょうね。
子どもを手助けする本を
最後に、以前にもご紹介したインタビューで、締めくくりたいと思います。
クリス:僕は子どもたちに、楽しくて夢のあるファンタジーを語ってあげるだけじゃなくて、つらい時期を乗り越えるのを手助けしてあげたいんだ。
(中略)
クリス:僕はいつも、何らかの教訓や道徳や助けになるようなことを、必ず入れるように努力してるんだ。面白いストーリーでね。
たとえ、それが現実逃避に過ぎなくても。
というのも、自分が子どもの頃なんか、本当に大変だったから。
妹は病気(重度のてんかん)だし、家にはお金がないし、僕は保守的な町のゲイの少年だし…幼い頃は、つらい時期だった。
それで救いを求めて、「本」というものをとても頼りにしていたんだ。
だから、今、恩返しをしようとしてるんだよ。
もう、僕もいい大人(30歳)になりつつあるからね。
ー クリス・コルファー 2020.10.30 Char Margolisさんとの対談より
https://youtu.be/GfPrEe9eNNw
クリスさんにとって「絶望」とは、自分を成長させ、良い作品が書けるようになるだけにとどまらず、同じく絶望している人を救ってこそ意味を持つものなのでしょう。
この、「本によって人を救う」という姿勢がうかがえるお話を、またご紹介していきたいと思います。