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【レポ】オリエント工業のショールームに行ってきた

「ロストテクノロジーになるラブドールは何の夢をみるのだろうか」

あのオリエント工業が、廃業してしまう。
81歳を迎えた社長の健康を理由とする引退の決断だった。
そのニュースを聞いたときに、すぐに最後に見に行かねばと手帳を開いた。
場所はJR御徒町。ショールームも9月20日までだった。

オリエント工業とは、1977よりラブドールを製造している老舗企業である。
東京の下町のモノづくり+フェチズムが融合した、技術の粋と情念の塊でできた、愛されるべきドールである。
映画好きの方には、是枝監督「空気人形」のラブドールである。
まずは彼女たちの美しさを見てほしい。

おもかげシリーズより「みなみ」

はいもう、めっちゃ可愛い!!
ほかにも、ロリっぽかったり、大人っぽかったり、西洋的だったりと様々な可愛いドール達。
リアルさと二次元のキャラクターっぽさと、彫刻の造形美丁度良いバランスになっていて、いわゆる「不気味の谷」になっていない。
かといって、キャラクターフィギュアとも違う。
写真に撮ると、やや冷たいような印象になってしまうが、実物に会うとやさしい表情に感じる。
ひとは相手の表情を読み取るときに、
観察者の心情が相手に投影され、相手の表情を解釈するバイアスがかかる。
オリエント工業の彼女たちもまた、見る者が好意的な場合はやさしく微笑み、警戒心のある者が見れば、無機質に感じるのだろう。

ボディに関しても、関節が滑らかで、人間と同じようなポーズなら出来るそうだ。椅子に座る、四つん這いになるだけでなく、手首や指先の一つまで動かせる。だからこそ、車いすに乗せて彼女たちとお散歩する人がいたり、現代アート界隈でも彼女たちをモデルにするものもある。
(ヴァニラ画廊の「人造乙女美術館」など。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1605/14/news031.html

また、彼女たちは、付け爪を使うことでネイルも可能。お気に入りの服を着せて、最高の彼女を作ることも出来る。
また、メイクは人形専門のメイクさんがやっているため、
同じシリーズでも全く雰囲気が変わるそうだ。
なお髪、瞳、乳首の色、アンダーヘアまでカスタマイズ可能である。

許可をとって触らせてもらったが、これがすごい。
表面の皮膚、その奥の筋肉、骨の感覚が伝わるのだ。異なる層のシリコンと骨組みによって、人間と同じような弾力さと触り心地となっているのだ。
さらに、よく近づくと、血管の表現まである。

てのひらの血管表現
膝がしらの血管表現

ここまでいくともはや魂すら感じる。映画では、ラブドールがある日、人間になったように、オリエント工業のドールを見つめていると、今にも動きそうである。
人のようで、人ではない。けれど人にはない受容と慈悲がある。
見つめる者を見つめ返す無垢な瞳によって、感情や表情が感じ取れる。

そのため、数々の現代アーティストがドールを用いた作品を作ったり、ドールと所有者の愛を映した写真集があったり、美術館で展示されることもある。私が初めてオリエント工業のドールに触れたのもヴァニラ画廊だった。

話していてもスタッフさんたちの人形への愛がこもっていて、
売約され出荷されることを嫁入りと称し、
所持できなくなった場合は、里帰りとして引き取っている。
けれど、その里帰りする場所が、なくなってしまうのだ。

このような素晴らしい技術やシステムが、一つの幕を閉じる。
ここで作られた彼女たちは、ロストテクノロジーとなって、あとしばらくは残り続けるが、そのあとはどうなってしまうのだろうか。


そう悲しんでいた筆者に、スタッフさんが「ここなら会えますよ」と
大道美術館(墨田区向島)を教えてくれた。
オリエント工業の図録「愛人形」を手にしながら、
新しい好奇心の目的地が提示された喜びと、さみしさと感傷とを抱えて、
御徒町で日本酒を引っかけた。

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