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相手の台詞を聞く前に。

▶︎相手の台詞を聞く前に。(実践編)027

かつてアル・パシーノは、アクターズスタジオ・インタビューに答えて「演技で大事なのは相手の台詞を聞く事だ」と言いました。この珠玉の言葉は、当時の日本の演技者たちの心を鷲掴みにし、脳を振り回してくれました。僕も当時は大いに影響を受けて、稽古場で俳優たちに「ほら相手の台詞をちゃんと聞かなきゃ」などと指摘していました。俳優たちも懸命に「聞こう」「聞かなきゃ」と意気込むもののなかなか成果はあがりません。

「聞く」という作業は「受信」です。しかし「相手の台詞を聞け」と言われると「よおし聞くぞ」と力んでしまって結局「送信」体勢になってしまいます。リラックスして「聞く」ことに無心にならなければ相手の台詞は聞こえて来ないのです。

と理屈では分かりますが、実践するとなるとこれがなかなか出来ない。僕はいつしか「相手の台詞を聞かなきゃ地獄」に俳優たちを突き落としまったように思います。そしてしばらく五里霧中、暗中模索を続けた結果、ある時ふと思ったのです。「相手の台詞を聞く」って日本人には向いてないんじゃないかと。

アングロサクソンは好戦的な民族です。彼らの歴史は戦争に次ぐ戦争の繰り返しです。アメリカなどは建国以来、ほぼずっと戦争するか戦争に関わっています。くらべて日本は平和だった時代が長く、実在の可能性が高いと言われている仁徳天皇から数えると今日まで日本の歴史はだいたい1500年。そのうち半分の平安時代、江戸時代、太平洋戦争終結から現代までを足した約700年間が平和な時代でした。聖徳太子の「和を持って尊しとなす」の言葉通り、とても穏やかな国民性を持っていると言えるでしょう。

つまり西洋人は「自分の意見を主張することは得意だが相手の意見を聞くのが苦手」反対に日本人は「自己主張が苦手で相手の顔色ばかりを伺っている」要するに同調圧力に弱い国民性です。まあまあちょっと大雑把すぎる分け方ですが、あえてこの公式に当てはめてみると、だからアル・パチーノは「苦手な事をやりなさい」と言いたかったのではないか。ならば日本の俳優たちも苦手な事から始めれば良いのではと考えました。では日本人俳優の苦手な事とは何でしょう。

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