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危険な物語と想像力。

▶︎危険な物語と想像力。(雑学編)025

AIの進歩によって将来無くなる職場があります。レジ打ちスタッフ。タクシードライバー。データ入力。そして意外かも知れませんが、弁護士や医者も将来的には要らなくなると言われています。確かに法律や判例にだけ基づいて判断する弁護士や目の前の患者よりデータにだけ捉われている医者ならばAIの方が優秀かも知れません。しかし医者はいなくなっても看護師という仕事は無くならないという意見もあります。やはり患者にしてみたらロボットよりも生身の人間に看護して貰いたいと思うのは人情ですものね。

20年ほど前に、幼児英才教育というのが加熱し社会現象になった事がありました。親が子供の将来を考えて、英語や音楽や計算を学ばせるというものですが、その後の調査で実は幼児英才教育は間違いだったという事が分かって来ました。親が先導して子供に教育を押し付ける事によって、子供の自立心や想像力が育たなくなり、成人した時に周りの事ばかり気にして自分の意見が言えない大人なってしまうというのです。

子供時代は好奇心が旺盛な時期です。周りの人間や動植物や世界の事に興味津々です。最近の研究では幼児期に友達と多少危険な遊びをした方が、創造性、社会性、心の強さ、さらに友達も増えるなど子供の成長にプラスに働く事が分かって来ました。カナダ政府などは積極的に子供の危険な遊びを奨励しているそうです。

映画監督の黒澤明は11歳の時に関東大震災を経験しました。ちょうど当時20歳の年の離れた兄と2人で、被害のあった街中を必死に家路を急いでいた時の事です。ふと公園に目をやると、そこには火事で黒焦げになった死体の山が積み上げられていました。黒澤少年が思わず目を逸らすと「ちゃんと見ておけ!」とお兄さんに一喝されたというのです。これは中々に強烈なエピソードです。しかし、だからこそ後年の黒澤明映画があるのかも知れません。僕はこのエピソードが大好きです。

僕が曲がりなりにも創作を仕事に出来ている原点は、母親が毎晩絵本を読み聞かせてくれていたからかも知れません。だからこそ最近の童話やお伽話の改変には呆れてしまうことが多々あります。最後に鬼と友達になる桃太郎や、王子と結ばれてしまう人魚姫。笑止千万とはこのことです。心理学的に見ても、子供の成長には、アンハッピーだったり、多少グロい内容の方がクリエイティブが育つということが分かっています。初期のグリム童話に危険な話やグロいものが多いのも、物語を聞いて擬似体験した脳が、将来への危機管理能力を育むということを先人たちは本能的に分かっていたのでしょう。

最近、グリム童話「シンデレラ」の新たな(僕に取っては)エピソードを知る機会があり感動しました。シンデレラは元々裕福な家の1人娘でしたが、母親が病弱の末に亡くなったので、父親は母親の看護婦だった女と再婚しました。ところがシンデレラはこの継母と折り合いが悪く、ネチネチいじめられて精神的に辛い日々を送っていました。そんなとき召使いの女がシンデレラに入れ知恵します。シンデレラは召使いの言う通り、新しいドレスが届いたと継母を呼び出し、彼女が衣装箱を覗いた瞬間に力一杯に蓋を閉めて、継母の首をちょん切って殺してしまいます。そしてその後、父親はその召使いと再再婚します。そう継母は2人いたのです。僕たちが良く知っている継母はこの召使いの方だったのです。これで今まで感じていた違和感が払拭出来ました。何故、シンデレラが継母に反抗もせず召使いに甘んじていたのか。それは彼女に人殺しの後ろめたがあったからです。意志のない善人なだけのシンデレラが、グッとリアルな生々しい女性見えてきます。女優がシンデレラを演じる時にこのエピソードは重要です。

僕の父親はちょっとユニークな人でした。子供の頃、弟が僕の大事なおもちゃを壊したことがありました。僕は怒って「殴ってやる!」と叫ぶのですが、なかなか本当に殴る勇気が持てません。そこへ通りかかった父親が僕から事情を聞くと「よしわかった」と言ってどこかへ行ってしまいました。やがて戻って来ると、僕の目の前にカナヅチを差し出して「これで殴ってやれ」と言いました。僕はびっくりして「これで殴ったら赤い血が出るじゃないかあ!」と大泣きしてしまいました。そしてその時にはもう弟を殴る気などすっかり失せていました。多分、四つか五つの頃の出来事ですが今でも忘れられない強烈な思い出です。でも嫌な記憶ではなく、想像力や客観性を一瞬で学んだ貴重な体験でした。

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