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#66 ナバホインディアンのビンテージネックレスを修理する

アメリカという広大な土地で豊かな精神性とともに暮らしていたネイティブアメリカンの人たちが強制的に押し込められた居留区という何もない荒野。

その周辺には、彼らが現金収入を作るために手作りの銀細工を持ち込むトレーディングポストという質屋さんのようなお店があります。

中でもニューメキシコ州のギャロップという街はデザイン性が優れているナバホ族居留地近くにあり、僕のような彼らの文化のファンには魅力的な買い付け地です。

約20年ほど前車でそこに立ち寄った時、一際作りの古いシルバーのネックレスとバングルを見つけ購入し今まで大切に身につけてきました。

実は古いシルバーは人の肌に触れると酸化して黒くすすけやすく、僕自身金属アレルギーの傾向があるのであまり頻繁にはつけてこなかったのですが、数ヶ月前にやらかしてしまった失敗がありました。

これです。つけておくときれいに銀細工の黒ずみを落としてくれる液体なのですが、その日の朝はすっかり洗浄液につけたことを忘れてしまい会社に出かけてしまいました。
帰宅してハッと思い出し液体から出した時点で、中のチェーンが溶けて切れてしまっていました。

ショックです・・・ネイティブの人たちが一粒一粒手作りで作ってくれたアンティークのネックレスを不注意で壊してしまうとは・・・

数ヶ月間強烈な罪悪感の下でどうすることもできず、せめてアンモナイトの石の上にパーツがなくならないように大切に集めておいたのですが、今日日曜夕方ふと「あれ直せるんじゃねえか?」と思い立ち、自転車で渋谷の貴和製作所まで。

買ってきました、サイズも色もオリジナルにそっくりなチェーンが1mで220円。デフレ万歳。

とりあえず外れてしまったビンテージのシルバーピーズの各直径をゲージで測ってマスキングテープに並べていきます。 この作業が一番実は地味で辛い。

あとは縫う。
ただ罪悪感を払拭するが如く。

ひたすら縫う。
この二つの半球を合わせたような細工と両端のコーンの形が古いナバホジュエリーの特徴です。

写っているポケットナイフはロンドンのブリックレーンマーケット、通称泥棒市で手に入れてピカピカになるまで研いだものです。

命をかけて修復作業。

なんとか元どおりの形に戻ってくれました。
ありがてぇ・・・
自転車で貴和に行けることに感謝・・・
あまり行ったことのない貴和で、一発で色もサイズもデザインも寸分違わぬチェーンが目の前に現れたことに感謝・・・
部屋にゲージや縫針や針など工作道具がたくさんあることに感謝・・・
ネックレス作りなんてなんのノウハウも知らないけれど、なんとかネイティブの人たちの歴史を台無しにしなかったことに感謝・・・
自分の凡庸な一日が終わる前に、修復というささやかなクリエイションに参加できたことに感謝・・・

ありがてぇありがてぇと独り言を言いながらなんとか完成させました。

そういえば帰宅の前にせっかく渋谷まで来たのでちょっと散歩して、新しくできたパルコを覗いてきました。

近いうちに見ようと思っている草間彌生の映画は意外と空いているようでした。

その上にある屋上からは、閉じようとしている僕の凡庸な一日も、冷たい空気の中で静かな宝石が並んでいるように眺めることができました。

サポートしようかなというお気持ちだけで、心から感謝です。