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流通戦略と海外進出基礎(連続講座 第2回)

2022年5月19日(木)に、連続講座の第2回目として「海外進出基礎」を開催しました。株式会社スズサンCEO / Creative Director であり Creation as DIALOGUE の統括コーディネーターを務める村瀬弘行氏をゲストに迎え、弊社代表取締役で本事業プロデューサーの澤田哲也が前回の「ブランド開発基礎」に引き続いてお話しいたしました。

昨年度から展開してきたCreation as DIALOGUEは「日本のものづくりの中心地であり、その生活文化を支えてきた名古屋ならではの、技術、文化、精神性を活かしながら世界の需要を獲得し続け、自走できるブランドを創出する」をコンセプトとし、目指すもの一つに「ブランド」を掲げており、プロダクトそのものに加えブランドをどう作っていくのかについてが、テーマとなります。

第1部「流通戦略と海外進出基礎」

主に本日取り扱っていく内容としては、そもそも流通戦略とは何かということが一つ。もう一つは、商品を販売していくために、企画のタイミングで売り方も考えながら作っていくということ、つまり商品開発段階で、具体的にどのように出口を想定しておくとよいのかを取り扱いたいと思います。また、海外進出を考える場合、基本的な商流の違い、ビジネス慣習の違いを理解しておきつつ、海外向けの商品を作るときに何を意識しておくのかについてお話します。

はじめに

「日頃、自社の商品を販売・営業するために心がけていることは何でしょうか。」

前回は「会社としてのブランドビジョンや一貫性を持った伝え方、そのための軸は残し、軸以外のものは変え続けることで伝統がしっかりできていきます」という内容で、ブランドをどう作り育てていくのか、抽象度の高いお話をしました。それを踏まえながら、収益を上げていくためには「どこで売るのか」という、流通の部分を重点的にお話します。

出口を知る事の重要性

流通を考えてモノを作る上では、まず第一に、出口を意識していかなければなりません。アイデアを出すのは楽しいことですが、それを誰が、どこで、いくらくらいであれば買ってくれるのか、欲しいのかを考えるようにします。
では、出口はどこに行けば見つかるのか。百貨店やセレクトショップなど、実際の売り場・現場に行ってみることが大事です。行ってみると見えてくるものが色々あります。
売り場での状況が見えると、どのような価格帯の商品を取り揃えているのか、どこが定番品が置いてある棚で、どこが季節ごとの商品が置いてある棚なのかという売り場側の姿勢が見えてきます。また、自社の商品をおいてもらえそうな棚はどこか、どの商品であれば自社の商品に置き換えられるのだろうかといったことも見えてきます。どこで売れるかわかっている人、バイヤーやセールスの方に、最近の動向を訊いてみるというのも大切です。出口を知って作るのと知らずに世に出してみて、売れないとでは雲泥の差です。現場に立っている人たちに質問できる関係性を作っていく必要があります。いつ、どこで販売すればいいのかを、出口戦略として意識しておかなければならないのです。

マーチャンダイジングの「5適」

ではどうすれば出口戦略を考えられるようになるのでしょうか。
マーチャンダイジングという言葉があります。これは、いつ、どこで、どういう商品を売るかを考えること。流通側が言うマーチャンダイジングは、そのためにどういう商品を仕入れて、どのように売り場を構成をするかを言います。
作り手側は、いつ、どこで、販売をしていくために、カラーバリーエーション、サイズはどうするか、何個くらい作ろうかということを、どういう商品であるか、いつ営業活動を行うのかを同時に考えることが必要です。

マーチャンダイジングの基本的な考え方に、5適と言う考え方があります。「適時、適所、適品、適価、適量」この5つを1つでも外すと売れないという意味です。いずれかが欠けると、望むような販売結果は得られません。商品開発段階で、5適を意識する。これが出口を考えた商品開発の基本といえます。

まずは適時・適所から考える

商品は、客層と目的に合った商品でないとなかなか売れません。実は「適時・適所(いつ・どこで)」が決まると、どのようなお客様がどのような目的で集まってくるのかが定まってきます。ですので、出口から考える際には、まずは適時・適所から考えます。
テスト販売の際には、企画段階で「ブランドとしてどうありたいのか」をしっかり持ちつつ5適を意識していないと、ブランドとしての姿勢は素晴らしくても高すぎて/用途に合わなくて売れない、本来求めているお客様に届かないという結果になってしまいます。

現場・現地で売り場を観察する

販売場所を考える時に、実店舗なのか、通販なのか、WEBで自社ECか他社ECなのかどういうチャネルで販売していくのか、大き目の店舗であればどこのフロアでどういう棚で販売しようとしているのか、WEBでもどのカテゴリーで扱ってもらいたいのかを具体的に意識したいものです。客層イメージは見に行ったうえで、確認したほうがいいですし、実際にお客様が持っているものにも目を向けてみるといいでしょう。また、ここで売れるといいなと思われる棚に、大体いくらくらいのものが置かれていて、比較対象になる商品は何かをしっかりと見たうえで、自分たちの商品の魅せ方を考えるのもいいでしょう。価格帯がずれていないかもチェックポイントです。

適品を考える

具体的にペルソナを考え、ニーズを作っていくことが必要です。ターゲットが見えてきたら、何をするためのものなのか、誰とどういう時間を過ごすためのものなのか、用途を意識して作っていくと良いと思います。海外だと生活シーンが見えてこない場合があり、現地の生活習慣や用途がわかっている方からのアドバイス・アイデアをいただきつつ見定めることが必要です。最近の流行に対して日頃からアンテナを張っていくことも大切です。実際のニーズが見えてきた段階で商品を作るときには、使用シーンの仮説を立てながら作ってみて、適時適所でテスト販売を検証していくことになります。

適価と流通チャネル

次に適価を考えていくうえでは、流通の構造を捉えておくことが大切です。自社で販売する場合は売り上げが100%自社に入ります。小売・流通を介在させると当然マージンが発生します。業界にもよりますが、小売・流通へのマージンは20%~50%程度かかります。更に小売・流通との間に、卸・問屋が入ると全体のマージンが50%〜70%程度かかります。この場合、自社には販売価格の30%〜50%しか入ってきません。自社で直接販売することが難しいのであれば、小売・流通、卸・問屋とパートナーシップを構築する必要がありますが、上記のような条件でも利益が出せる価格設定やコストの絞り込みが必要です。これらは、デザイン・制作の前に意識しておいた方が良いことです。

価格帯とベンチマーク

小売店を使う場合、卸売価格の中には原価が含まれます。粗利がどのくらいとれるかを考えて、価格設定する必要があります。直感的に高いからダメではなく、どの業界も価格レンジが、いくつかの階層に分かれています。

自分たちが進出しようとするところが大まかにどのくらいの価格レンジのポジションに行くのか、先行者はどんなブランドか、比較されたときに何が違うと言えるのかは常々意識しながらモノづくりに着手していかなければならないことです。

海外進出の基礎

ここまで適時、適所、適品、適価この4つについてご説明してきました。
以上を念頭に置きつつ、海外に進出していくうえで更に押さえておきたいことをお伝えしていきます。伝統産業・工芸が海外に出ていく意義は、大まかには二点あります。まず国内市場が人口減少・生活様式の変化で、市場が縮小していっていることがあります。
一方で海外のラグジュアリー市場は成長しています。ハンド・クラフト市場もグローバルでは年間10%程度のペースで成長しています。皆さんが作っていらっしゃるものはラグジュアリ-&プレミアムを狙うことになりますし、その市場は伸びています。皆さんの大事にされている姿勢や、工芸だからこその品の良さとの相性も良いので今、海外に出ていくことはチャンスがあると言えます。

海外進出のためにやるべきこと
①社内体制づくり

はじめにリーダーが経営者のバックアップをしっかり受けられる状態を作ったほうが良いと思います。そして、なぜ海外に進出するのかに対する共通認識が必要です。
海外のライフスタイルを理解して、海外の顧客が欲しいと思えるものを一緒に作れるデザイナーと、販売流通に詳しい方、輸送関税知財に詳しい方、財源確保を手伝ってくれる方、相談できる方を見つけておくことが必要です。

海外進出のためにやるべきこと
②中期的なロードマップを描く

次に考えるのは、大まかにどのようなステップを踏んでやっていくのかです。3年くらいを考えて取り組むことをお勧めします。
場合によってはリサーチだけで1年かかりますし、国内以上に時間をかけてニーズを理解していくことになりますので、いきなり1年目2年目で成果は出しにくく、3年程度かけて進出するプランを考えると良いと思います。

■ 1年目/リサーチとプロトタイピング
・現地視察、リサーチ
・プロトタイピング
・テスト販売(商品と現地のニーズの合致度合いを分析)

■ 2年目/商品そのものが見えてきた段階
・ブランディングとして、ロゴ、パッケージ、セールスキットの拡充
・展示会や見本市参加(バイヤーさんとのつながり作り)
・現地でフィードバックを得る(改善のコミュニケーション)

■ 3年目/その商品を更に磨き上げて販売

国内と海外における流通ルールの違い

実際に販売をしていくうえで、特に越境ECで自社から海外に直接販売されるケースも増えつつありますが、関税の問題や直接発送のハードルが高く、現地の流通小売りのパートナーの皆さんと商いをしていくことが基本線になります。そうなった時に商取引が生まれますが、日本の商取引は特殊で、海外と日本では大きく違います。
日本ではメーカーが販売価格を決めていることもありますが、海外ではメーカーが決められるのは卸値だけです。どれだけマージンを乗せるのかは、小売り流通が決めますので、販売価格のコントロールはできません。法律の縛りもあります。推奨価格を伝えることは可能ですが、法律違反になりかねない場合もあります。メーカーの卸値+ディストリビューターのマージン+販売店のマージン=販売価格になります。

国内市場より掛け率が厳しい海外市場に進出するために

それぞれのマージンに消費税や付加価値税などの税金を加えなくてはなりませんし、関税や輸送費をどこに計上するかも考えなくてはいけません。そのため日本での流通時よりも卸値が低いと感じてしまいがちなため、原価をどう下げ価格をどう上げて、価値を感じてもらえるブランドにしていくのかということも考えなくてはなりません。成果を上げていくために、「ブランド」として皆さんのプロダクトをどう形づくっていくのかを抜きにしてしまうと、反対に原価を下げる方向でしかやれなくなって国内だと40%の利益が上がるはずのところ、海外だと20%~30%で利益を出さなくてはいけなくなりかねません。そうならないようブランド価値構造と、しっかり取り組みながら、何を絞って何を削るかも、両にらみでやっていくことが必要になってきます。

グローバル市場でのブランドの確立=高収益率な事業の創造

それでもグローバル市場に出ていく意義は何なのかというと、小売り流通を間において100ユーロや50ユーロで卸しても利益が確保できる事業としての体質改善があげられます。或いは280ユーロで売れる商品・ブランドを確立できた時に、自社で直販ができると280ユーロに対して通常ルートで卸すよりも2倍くらいの利益を出せるようになるかもしれません。そうなれば国内で販売するよりも高く、一方コスト構造もしっかり改善できた商材として売れるので、より多くの利益を得られる高付加価値商材になります。これがグローバル市場で戦って、良いものを作り会社を成長させていくポイントです。

現地の流通のことをしっかりわかっている人と組むこと、その中で戦える商品を皆さんの技術を生かして、プロダクトに落とし込んでいくにはデザイナーの方々とチームを組んで取り組むのが良いのではないかと考えて、本事業を運営しています。是非この機会にこの事業を活用していただけると良いと思います。一旦今日の基本的なレクチャーはここまでといたします。

第2部「ケーススタディ」

第1部の補足

村瀬氏:日本と商流が違うということ自体については、ビジネスをドイツで初めてそのあと日本で始めた時にこんなに違うのだということで驚きました。これから新しいブランドで海外ビジネスをお考えでしたら、まずは海外で売ることを前提において商流を作ることから始めないと、と思います。日本でビジネススタイルを固めてしまったばかりにそこが違いになってしまい、実際につまずいているファッションブランドも多く、モノは良くても外で通用しない、根付かないということがあります。例えば日本でTシャツ15,000円の価格設定をしていると海外だと25,000~30,000円になります。20~30代をターゲットにしてストリートな雰囲気の商品を作っても、海外に移すと価格が上がることで、その商品をその値段で買える顧客層、ペルソナ自体が変わってしまうということが起こります。多様性という言葉があって、スズサンでも10~80代まで顧客はいますが、マーケットの方向性・ペルソナはある程度固まっています。日本は特殊なマーケットだと自覚しておいた方が良いと思います。
例えば、韓国は国内マーケットが限られているので、海外に出すこと前提に価格設定、モノづくり、マーケティングを行っています。日本は1億2,000万人くらいの中規模マーケットができているためにその中だけで回ることも可能なんです。但し、ファッションについていえばもう国内市場では頭打ちです。出回っている製品の中で日本製は2%しかありません。その2%を日本の国内メーカーが取り合っているのが現実です。
同じものをもっていってもそのまま通用するわけではないので、地域や文化を移すことで、マーケットが広がっていくのですが、そのためには視点を広く持っておいた方が、後々やりやすいです。

澤田:アートの世界で起きていることがファッションの世界にも起こり、そのトレンドや構造が遅れてインテリアやそのほかに波及していくことがあり、ほかの産業でも他人ごとではないですね。

村瀬氏:時代を映す鏡としてファッションは見過ごせないと思います。新聞を見るようにファッションを見ている人もいるようです。
今日の会場の皆様で、既に海外出店された方はいらっしゃいますか。視察に行かれた方もいらっしゃいますか。これから始めるという方もいらっしゃいますね。私も14年前には全く同じ状況で、そもそも何もない状態で、あったのはあと十数年後にはなくなるかもしれない技術ということで、皆様と同じスタート地点にいました。

チームづくりの重要性

質問:私の立場は8割がた職人で後の2割が経営という立場で、海外に出ていくのはハードル高く感じてしまいます。どんな立ち位置でどんな切り口が必要なのかは悩むところです。

村瀬氏:おそらく今いらっしゃる方々は経験技術をお持ちで、同じようなことを考えていらっしゃる方は多いと思います。職人と経営者で考えが違うと思っていて、日本でも一部の大企業の創業者の方々で元々技術者として特化した技術をもって経営者になって成功した例があるからなのか、モノづくりをしていても経営者にもなれると思われがちですが、それは稀なケースで、そのマインドは違っていなくてはと思います。私はドイツ人のビジネスパートナーと始めて、経営とクリエーションを完全に分けてお互いに二人三脚でやってきました。彼がいなければ今のスズサンはなかったと思います。そういった意味では、良いパートナーを探すのはお勧めで、加えてモノづくりをする側は「こういうものを作りたい」「こういう未来を作りたい」と言えると思います。こういうライフスタイルを作り出したいというのはモノづくりの人たちにもできることです。それに人を呼び込むことが必要です。私は人が足りない時には、とにかく、口に出してみます。いろんな人に相談してみたら、いつも誰かが助けてくれます。課題を口に出して相談してみるということは、一歩目かなと思います。資金が潤沢にないのであれば、フルタイムでなく、週に1回でも経営を見てくれる人を探すのもありなのではないかと思います。スズサンのCOOも外部契約ですが、その方が入ったことで良い組織になってきました。

澤田:補足として、コアのチームをどう作るかを考えた時、技術を持たれている方・経営/事業としてどう伸ばすかを考えられる人・世の人が何を求めるのかを考える人が必要で、この役割を担える3人の方がいらっしゃれば、良い商品を作って販売できることをやっていけると思っています。そういう意味でデザイナーの方々をお繋ぎする場合もあります。技術はお持ちの皆様なので、残りの二つをどうするかです。日本は補助事業がたくさんあり、名古屋市のこの事業もそうです。副業・プロボノなど、事業支援をやってみたい方との出会いも大事かなと思います。

付加価値の出し方

質問:海外進出のメリットとして、価格的なメリットって出せるのでしょうか。既成概念がないことで逆に付加価値が目指せるのか。新製品をより受け入れてもらえるのでしょうか。

村瀬氏:意味は非常にあります。スズサンにフランスの老舗ブランドからオートクチュールに使いたいとお声がけをいただき、2着分の生地を絞りでお作りしましたが、出来上がったドレスは1着1,000万円でした。日本で1着1,000万円の絞りのドレスは売れないだろうし、作ろうとも思えなかったので、大変な仕事でした「それってできるんだ」ということを知ったので、やってよかったと思いました。その後、1着のドレスはニューヨークのレッドカーペットで有名女優が着用しました。そういった事例は海外では起こり得ます。東京で同じことが起こったとして、同様の影響力はまだないかなと思います。
例えば、日本製のものを海外に持って行って根付くかというと、例としてドイツのタオルのお話しですが、日本の百貨店で人気の某ブランドFは、実はドイツではほぼ見かけないんです。あれは日本で花開いたブランドで、日本でのマーケティングの成功事例です。スズサンも全く同じでした。ヨーロッパで売り出して、売り上げの75%はヨーロッパ、北米10%くらいなので、メインマーケットは8割以上が海外です。そういった意味ではモノを作っている場所がメインマーケットである必要はないということです。次を目指すのであれば、現地で買ってくださった方が日本を訪れてくださり、その時の思い出や経験、袖を通すたびに思い出してくださるだろうその循環を作り出していきたいと思います。ものづくりの産地があるのはメリットだと思っています。おそらくパリの有名ブランドではモノづくりの現場までは見せることはできないはずです。

澤田:村瀬さんありがとうございました。いろいろお話してきましたが、海外進出を考えるにあたっては、流通のことまでも考えておかないと売れる可能性が低くなってしまいますので、ぜひ折に触れて本日の内容を思い出していただければと思います。皆さんお疲れ様でした。ありがとうございました。


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