見出し画像

Made in JAPANブランドの海外マーケティングの実践、その課題と対策(連続講座 第4回)

名古屋市発の「伝統産業海外マーケティング支援プロジェクト」における第1期事業がフランス・パリ市での展示に向けて大詰めを迎える中、第2期も本格始動に向けて、6回の連続講座が開かれました。第1回と第2回は前年と同様に基礎講座として開催されました。続けての第3~6回講座では、各界からマーケティング、流通のプロフェッショナルや、実際にヨーロッパに於いて活躍されている方々をお迎えしての講演会やトークセッションが行われました。 今回は、2022年6月24日(金)開催の第4回講座のレポートをお届けします。

第4回のテーマは、「Made in JAPANブランドの海外マーケティングの実践、その課題と対策」 と題して、株式会社MD03 代表取締役であり、クールジャパン機構の元・代表取締役社長の太田伸之氏をゲストにお迎えしての講演会と、株式会社スズサンCEO / Creative Director であり Creation as DIALOGUE の統括コーディネーターを務める村瀬弘行氏との対談が行われました。

冒頭、司会進行のミテモ株式会社代表取締役 澤田より、「日本のものづくりの中心地であり、その生活文化を支えてきた名古屋ならではの技術、文化、精神性を活かしながら、世界の需要を獲得し続け、自走できるブランドを創出する」と、本プロジェクトの趣旨説明がありました。その後、太田氏から第1部これまでのご経験や事例を交えて可能性と課題、どう克服していくのかについて、レクチャーをお願いしました。第2部では太田氏と村瀬氏を中心にトークセッションが展開されました。

【第1部 講演】

第1部の講演では、太田氏からこれまでのご経験や日本各地で見てきたブランディングの重要性について、事例をもとにお話しくださいました。

ブランディングとはなにか

太田氏は、「メイドインジャパンのもの、日本のおいしいや、かっこいいを売り出したい。日本の職人技やかっこいいコンテンツを世界に売って儲けてほしいと強く考えています。」「日本にはまだまだ美味しい・かっこいい・優れモノがあると思います。そういうものを値段の安さではなく、ブランディングして世界に売り出しましょうと伝えたいのです。」「『これなら、どうしても買いたい!』といわれる製品を作っていきましょう」と、参加している事業者の皆さんへのメッセージを送ってくださいました。

太田氏

【第2部 座談会】

第2部は、 Creation as DIALOGUEの統括コーディネーターを務める株式会社スズサンの CEO村瀬氏とともに対談形式で会話が広げられました。

新しい日本の価値「やわらかい産業」とは

村瀬氏:心に響く言葉がたくさんあるお話でした。ある地点(日本)から別の地点(ドイツやフランス)に持っていくだけで価値が変わるというのを目にしているので、おっしゃることは心に響く言葉でした。新しい日本の価値の中に「やわらかい産業」という言葉が出てきたのですが、それがすごく耳に残った言葉でした。
 
太田氏:スピードスケートとフィギュアスケートだと、結果はスピードスケートの場合は、タイムでわかるが、フィギュアスケートは審査員の判定次第で採点基準が良くわからない。シンクロナイズドスイミングもそうです。戦後日本の産業界は、数値化して読み取れるものを価値として訴えてきました。性能、原料、耐久性、価格。しかし、もっと別の価値があります。スピードスケートのタイムではなく、フィギュアスケートの美しさです。デザイン・クリエイティブを価値として、もっと売らなければいけない。数値化する必要はなく、美しいものは美しいのです。

健康上の理由があって、市販の一般的な味噌だと塩分が高すぎて食べられない方々がいます。その方たちが、コロナで出かけられない時に、仕方なくご近所で手に入るものを使ってみて、改めて3倍の値段のデパ地下の味噌の価値を理解してくださいました。高価格でもお求めいただけるという一例です。

目に見えない価値を訴え続けることが、日本ができていなかったこと、欠けていたことなのです。原価から小売価格を出すこれまでの方式、原価・工賃からの価格設定だけでなく、デザインに価値をつけることが必要です。他にかっこいいものがなければ、原価10%であることを知っていたとしても、良ければ買ってもらえるのです。お酒などの個人の趣向で選ばれるものは、いくら良いものであっても、人に勧められたとしても自分に合っていないと感じれば買わないこともあります。 人によって価値が違うということを、いかにビジネスにするかなのです。

村瀬氏:絞りの場合も、100人に勧めて「なぜこんなに高いの」と言われ、買ってくれる人が2人いればいいかなという状況です。でも、そのうちの一人に刺さればいいかなと思います。
太田氏:価値は人によって違います。わからなければわからなくていい。ワサビにしても味噌にしても純日本製本物は高いのです。純日本製と書いていれば高く売れる、いいものを作っている人にはチャンスがあります。

日本人に足りないこととは

村瀬氏:ドイツがロックダウンで町が完全に閉まり食料品店と薬局しか開いていない。その中でスーパーに行くことだけが日々の楽しみでした。これからどうなるかわからない状況の中で、有機野菜がものすごく売れたそうです。
 
太田氏:有機野菜のにんじんは塩もオリーブオイルもつけなくても美味しい。それをちゃんと努力して消費者やシェフに説明しないといけない。ファッションでもかっこいいものを作るのは当たり前。ほかとどう違うかを説明することが足りていない。説明するってことが、日本の場合には言葉の問題があるから下手なのです。
 
村瀬氏:デザインを学んでいる学生から、「海外に行くにはどうすればいいですか」と質問された時、「デザインができる人はたくさんいる。コミュニケーションを学んでその人たちを使える人になりなさい。」とアドバイスしたことがあります。 スキルもセンスもあって、才能もあるけど、コミュニケーションができない場合が多いです。
 
太田氏:生真面目な日本人がすごく損をしている。自分の意見をきちんと伝える訓練が子供のころから足りていないこともあるでしょうけど、図々しくない人には無理。自己責任を教わる国と集団生活を教わる国の違いはあるかもしれない。「何をしなきゃいけないか考え、日本人として誇りを持ちましょう。まず日本のことを話せるようになりましょう。そのためには日本の歴史も学びましょう。自国の歴史を話せなければ、世界で信用されませんよ。」と、私はよく言います。日本の教育はスピードスケート。もっと違う育て方があります。アメリカだと質問で授業が前に進まなくなりますが、日本だと質問が来ない。その迫力は仕事のうえでも違うと思います。
 
村瀬氏:僕は、日本の大学が入れてくれないからイギリスの大学を受けたら受かった。価値観の違いはありますね。良い悪いではなく、好きか嫌いかは大切だと思う。善し悪しだとスペックの話になり、価格の高い安いだと消耗戦になってきます。高価格で個体差があり、手仕事で納期がかかるというスズサンがバイヤーにとってはリスキーなブランドであることは自覚しています。バイヤーがあえて選んでくれるのは良し悪しよりも、好きか嫌いかなのだと思います。機能性・便利・早いものを作業的に流すよりも、心のこもったメッセージがあるのではないかと、コロナの時期により感じました。
 
太田氏:コロナ禍であらゆる膿が出てきて、断捨離という言葉が出ました。こんなにものは要らないと考えるようになり、捨てられないなら、再利用することを考えるビジネスが出てきた。タンスに眠ったままの、捨てられない使わない着物を引っ張り出して、リメイクする。引き取って別のものにする。着物をドレスにしてもいい、シャツにしてもいい。小売業は、それに気づいたお客様に何ができるか、新しい価値、サービスにお金を払ってもらうビジネスを考え出すチャンスです。コロナのおかげでいろんなテーマが出てきましたが、それをどうビジネスとして受け止めていくか、世界に先駆けていろんなアイデアが出てくるかもしれないです。

左から太田氏、村瀬氏

世界に向けて日本人が誇りをもって伝えるべきこと

村瀬氏:これまでのお話で、どちらかというと日本の悪いところが色々出てきましたが、日本の良いところってどんなところだと思われますか?

太田氏:ヨーロッパのある有名ブランドでデザイナーが欲しい素材は、イタリア工場の職人には素材が劣化する後加工なので嫌がって引き受けてくれません。ところが、日本の職人はなんとかやってくれます。上質な素材に誇りを持つイタリアの職人も立派だけど、デザイナーの要求に応えようとする日本の職人も立派です。こんな素材はできないかという相談にも、何を作りたいのかを訊いたうえで、日本の職人は応えてくれる。イタリアの職人だったら、きっと即座に「他所に行ってくれ」と言うでしょう。日本人は相手の望むことをきちんと聞いて、受け入れて作ってみることができます。

今のイタリア、フランスで誰がレシピを作っているか。日本人の若いシェフです。昔のように行ったばかりの日本人シェフが、鍋洗いをさせられることはもうなくなりました。日本には良い刃物があり、ス~ッと魚をおろす技術があります。日本の良さはそこです。生真面目に訓練して丁寧に仕事をする。三ツ星レストランのオーナーシェフたちはそれを知っているから日本人を使う。そして今では、日本のシェフたちが考案して教えるから、昆布や味噌を隠し味に使ったフレンチやイタリアンが増えていますし、昔のようなフランス料理ではなくなってきています。日本の美学と味覚が世界の食を変えているのです。そこに日本人はもっと誇りを持っていい。 それを伝えてきたのは、日本の職人です。良さをもっと伝えていくべきだし、陰にいる職人の姿を時々前に出して、お客さんに技を見せて価値を出す。見えないところにある職人技に光を当てて、ブランド価値を高める必要がある。それも経営者としての役割です。
 
村瀬氏:デジタルでメッセージを届けられるようになったコロナの2年間だったと思います。デジタルを使うことで、出口入り口が広がった感があります。
 
太田氏:ブランディングは、背景にあるストーリーを可視化していくことなのです。どんどん可視化することで信憑性を増す。それによって価格も高くできる。
 
村瀬氏:フランスでは、華やかなファッションショーでゴージャスな世界観を作って価値を見せ続けてきました。日本には、これから見せるものがまだまだあり、ものづくりのコンテンツの引き出しは山ほどあります。どんな華やかにショーをするかではなく、今は引き出しにあるコンテンツの方が、より人の心を引き付けられるのではないかと思います。
 
太田氏:胸を張って、コツコツやっている人・ものづくりのベースで働いている人に光を当てることで価値は高まります。究極のビジネスモデルは、生産者が消費者に直接モノを売ることです。農家の人たちが作った有機野菜の作物をちゃんとしたレストランにダイレクトに納品して使われる。距離を近づければ近づけるほど価値が高まる。それが、これからのビジネスモデル。理想は農家がシェフ、シェフが農家。三ツ星レストランが、農家を呼んで、味見をさせて、納得したうえで「こんな野菜を作ってくれ」といった例もある。生産者とあらゆるものをつないで、可視化することで価値が上がることを考えなければならない。これからはそういう価値を考える時代です。
 
村瀬氏:いろいろなステップでこれまでは富の分配があり、今は社会の構造として、お金を持っている人は共感・共存できるものにお金を使い、社会全体が満足できる仕組みを作り出していく流れになっているのかなと思います。私がお客様に常々お話ししていることなのですが、「高価である代わりに、こうしてお客様がお金を払ってくださるおかげで、この伝統工芸を次の世代につなげることができ、憧れて最近18歳の男の子が職人になりたいと言って入ってくれました。」こういったストーリーを伝えることで、お客様は喜んでお金を払ってくださる。お金を持っている人が偉いのではなく、その方が持っていないクリエイティビティ、技術を交換するという意識を持つことで、お客様とフランクに話せるようになるかもしれません。
 
太田氏:制作現場がブラックな環境である限りだめで、ちゃんと対価をもらって、現場もハッピーになる時代にならなければいけません。現場がブラックでなくなった時に、日本は初めて胸を張れる。日本は構造的にいいものを、値段を高く設定して売ることができない状況です。このままだとG7に入れてもらえなくなる日が来るかもしれない。そんなことを心配しています。

太田伸之氏 プロフィール 
株式会社MD03代表取締役
クールジャパン機構 元代表取締役社長

1953年生まれ。77年に明治大学経営学部を卒業後フリージャーナリストとしてニューヨークへ。日米ファッション業界の橋渡し役として活躍。85年、東京ファッションデザイナー協議会設立のため帰国。95年まで10年間、同協議会責任者を務める。その後、アパレル企業社長や百貨店常務、内閣官房知財本部コンテンツ戦略会議専門委員など要職を歴任。2013年11月、クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)の代表取締役社長に就任。

参考リンク
クールジャパン機構 地方に眠る「クール」を発信(事業構想)



 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?