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ローカライズと商習慣(後編)

2021年10月30日(土)17:00~19:30に、連続講座「実践者から学ぶ、ブランドデザインの哲学と手法」の第5回目を開催しました。

第5回目のテーマは「ローカライズと商習慣」とし、元 Yohji Europe CEO、元JOSEPH JAPON 社長、元 ISSEY MIYAKE EUROPE CEOである齋藤統氏を迎え、株式会社スズサンCEO / Creative Director であり Creation as DIALOGUE の統括コーディネーターを務める村瀬弘行氏との対談形式にて講演が行われました。

本記事は後編とし、エージェントの活かし方、展示会での取り組み方、バイヤーの特徴、そして言葉を大切にすること、といったテーマの対話を掲載しております。

前編はこちら、中編はこちら

エージェントとの付き合い方、活かし方

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澤田:商習慣の話も入ってきましたが。少しだけ次の問いもしていければなと思っています。今、村瀬さんはセールス・エージェントという言い方をされました。先ほどバイヤーという方、ということで齋藤さんからお話がありました。日本のいわゆる流通業者の役割、登場人物とは違う方々がお話の中で出てくるなと思っていました。

日本発の商品を海外で展開していく上で、どういう方々とお付き合いをしていくことになるのか。その方々はどんな役割を担われていらっしゃるのか。もちろんそういった方々とのお付き合いの仕方もそうですが。直接お客様に対してブランドを届けていくというか、そういった方々を介してブランドの価値を伝えていくことになるわけです。そこで私たちが伝えたいことをしっかり伝えていただくために、どんな環境を作っていく、あるいはそういった方々と取引をしていく上で押さえていかないといけないことはどういうことなのでしょうか。ぜひそういったところも具体的にいろいろと議論をしていただければなと思います。

齋藤氏:エージェントという仕事は、これはヨウジヤマモトがスタートした40年以上前から向こうでは当たり前にある仕事なんです。ファッションに限らないです、あらゆるものにあります。洋服でしたら洋服でそれぞれの、得意不得意があるわけです。一番わかりやすいのは、大きな合同展示会に出ると、そういうところに必ずエージェントの誘いが来るんです。

エージェントというのも2つありまして、ディストリビューターと普通のエージェントです。普通のエージェントというのは、フランスならフランスのマーケットにスズサンというブランド、またはヨウジヤマモトというブランドを売っていきましょうというわけです。彼女ら彼らの持っているネットワークの中で、そういうものを買える人を集めてきて、売ってくれるということです。展示会場に連れてきてくれて、売ってくれますが、その代わり売上に対して何%というバック・コミッションを払います。これが普通のエージェントのスタイルです。

ソールエージェントというのは、まとめて全部を買ってくれます。契約にもよるんですけど、一回の契約で例えば2千万円分買いなさいとか言ったりするわけですね。ここに村瀬さんがいらっしゃるので、例としてスズサンを使います。スズサンのいろんなものをまとめて2千万なら2千万、1シーズン買ってくれて、あとは向こうが勝手に売るということになります。スズサンがドイツで例えば500ユーロで売っているものを彼らは800ユーロで売るかもしれない。それはソールエージェントが自身でやることであって、その代わり全責任を持つということになります。このような2つのエージェントのやり方があります。

ヨウジヤマモトの場合には基本的にエージェントを使わないという営業方針でした。私があのとき営業を見ていたので、使わないということでやっていました。逆にスズサンのような場合というのは、エージェントを使う意味があると思うのです。洋服に限らずいろんなものでもそうなんです。私が今まで関わった仕事でエージェントを探してきたことがあるんです。あるメーカーさんが風呂敷のようなもので、物を包む、そういう商品を作ったことがありました。それもやはりそれぞれの国のエージェントを探していきました。というのは、やはりそういうものになりますとなかなか直接に自分で売っていこうというのは難しいんです。お店回りをする洋服とは違い、非常に小間物ですから、無理なわけです。そうすると、どこがいいかどうかもわからないわけです。例えばパリだけでも小間物扱っているお店はいっぱいありますから。そういうときはやはりエージェントを使っていきます。「こういうところでこういう風にしたいんだ」という、我々の思っているコンセプトを伝えて、それで合うようなエージェントの人が良いわけですね。だから、面接をしました。何人もの、いろんなエージェントの方と。メゾン・エ・オブジェという大きな、小間物をはじめあらゆるもののある見本市があります。洋服もあります。

村瀬氏:消しゴムからソファまでありますね。

齋藤氏:メゾン・エ・オブジェは、全部歩くのはとても不可能に近いぐらい大きな広い会場でやるんですけど、そういうところで我々も出すわけです。ブースを借りて出すんですが、そこにそれぞれの国のエージェントがお客さんを連れてきてくれて、そこで買っていただきます。我々のほうでは全部オーダーをつけたら、例えば日本はじゃあ村瀬さんとかパリが齋藤さんとか、全部つけておいて、最終的にバック・コミッションをつけます。そういうスタイルをとるんです。これは日本にはあまりないですね。

もう一つ、エージェントでも回る人がいます。サンプルをもってフランスならフランス中を回ってくれたり、ドイツならドイツ中を年がら年中回ってくれる人がいます。これはアメリカにもあるシステムなんですけど、そういうエージェントさんで、商品がすぐに届けられるということが状況になるので、非常に場合によっては難しいんですが。例えばすぐに届けられるような商品の場合は、そういうエージェントの人が回ってサンプルを持っていって、その場で「じゃあこれが良いね、これ20個ください」と言ったら「はい手配します」ということですぐにメーカーから送らせるというシステムです。

フランスで高速道路を走っていますと、あちこちにホテルがあります。高速道路の上に、または高速道路を降りて1キロも走らないところに安いホテルがいっぱいあるわけです。私も時々そういうホテルを使っていたことがあるんですが、夜になると満室になるんです。全部それはエージェントなんです。フランス中を回っているからです。それは洋服だけじゃなくて、いろんなものを扱っています。夜大体10時ごろになると満杯になって、その時間になったら満室ですって言われるんです。そして朝になり、ちょっとこっちがゆっくりしているうちに、もう全部いなくなるんです。朝7時ごろに出ていきます。彼らはそうやって車の中に商品を積んで、走り回って売って、オーダーをとって、それでコミッションを得る、それで生活している、そういう職業なんです。

エージェントはいくつかの種類があるんですけど、ドーンと構えていて、寄らば大樹の陰、的なエージェントさんもいるんです。非常に力があるエージェントさんだとお客さんに「お前が来い」みたいなことを言って来させるエージェントもいれば、自ら走り回ってくれるというのもあり、いろんなレベルがあります。そういう人たちとの付き合いというのは、さっきのローカライズという意味では、それぞれの国によって違います。だからそれは使った方がいい場合があります。それは本当に製品にもよりますけど。ヨウジヤマモト、イッセイミヤケは基本的には使わないということで。それはひとつの会社の方針ですから。それはそれでいいと思うんですけども。そういうエージェントがいたほうが、物によっては早いということになります。ヨウジヤマモトもイッセイミヤケも高い製品です。スズサンぐらいの価格がエージェントを活用する限界だと思うんです。それ以上に高くなってくると、エージェントが困ると思います。

海外展示会までに準備すること、現場ですべきこと

村瀬氏:そうですね。それが、日本の方々にきちんとご理解いただきたいところです。よく行政の支援などで、パリにそれこそメゾン・エ・オブジェに出展されている方々を見ると、ちょっと失敗しているなと思うことがあるんです。そこのスタンドに行くと、日本人のスタッフの方が、15〜20人くらい立ってらっしゃって、お客さんを待っています。お客さんが行ったらパンフレットを渡して「どうぞシルブプレ」みたいな感じでやっているんです。その人たちは日本から来られて、現地のネットワークを持っていないんですね。

展示会が始まる前までにどれだけ準備ができているか、すでにお客さんのアポイントメントがどれだけ入っているか、が実は重要です。展示の5日間でたまたまラッキーで誰かが買ってくれるということがあるのかと考えますと、「これいいな」と初めて見て思って「じゃあこれ100個ちょうだい」という人は、ほとんどいないんですよ。ある程度目星をつけておいたり、あるいは招待されて来て、話したりします。そこで「これが言っていたやつですね」ということになり、「じゃあ、これいくつください」という話はあるんですけど。

良い物を作って、パリに行けば売れる、ということを思ってらっしゃる方がいるかなと思うんですけど、まずもって、そういうことはないです。少しずつ、もしかしたらそれをやり続けることで浸透することはあるかもしれないし、そういったラッキーが起きるかもしれません。しかし本当に、あくまでもラッキーだなという風に思います。重要なことは、現地の人たちを仲間にするというか、齋藤さんもそうやっていたとおっしゃっていましたよね。必ず現地の人を右腕に付けるということです。それがやはり大事なのかなと思います。

今回の取り組みで言えば、それこそ齋藤さん、古川さん、名和さんという現地の方がいらっしゃいます。物ができてきた時点で、今度はセールスの視点を持っている。これはスズサンの一例ですけども、実はドイツとフランスで言えば、今スズサンのブランドとしての販売で、約50%をその2ヶ国で占めるんですけども、実は(担当が)2人とも日本に来たことがないんです。ただし、現地のネットワークを知っている人です。だから日本人じゃなくてもスズサンのものは売れるということです。そういった人たちを今度はチームに取り込むことが必要だなと考えています。

齋藤氏:あと大きな展示会でも小さな展示会でもいいんですけど、実は皆さんによく考えてほしいことがあります。日本人の方が展示会に行ったときに、外国人ばかりがブースにいるとなんとなく入りにくいというのがあると思うんです。言葉通じるのかなとか心配しますよね。その逆もあるんだということです。日本人だけで固まって、ブースの中でウロウロいられると、やっぱりよっぽどフランス語でも英語でもドイツ語でもいいですけど、喋れる方がいるならいいですけど、意外と偉い人とかがウロウロしてたりしますよね。あれは非常に奇異です。日本人の私ですら入りにくいなと思います。

随分前ですけど、ショールームの事業をやっていた頃があるんです。いろんな事情があってやめてしまったんですけども。そのときに日本からも何人かいらっしゃって、お客さんというか展示ブースにですね。その方たちに、私は「お金はかかるけどフランス人をつけてほしい」と必ず言いました。そういう人を私は紹介していたんですね。例えばスズサンならスズサンが来たら、スズサンという商品が何なのかというのをあらかじめレクチャーするんです、本人なりデザイナーなりに。レクチャーの上で、今度向こうにいるフランス人は、英語フランス語くらいはせめて喋れるので、日本語喋れる必要はないので、通訳は私がしていましたけど。あと製品を覚えてしまえば、彼女たちまたは彼らは、自分のお客さんを呼んでくれるんです。「やあやあ」って感じに始まり「元気?」って感じにやってきて、それでほっぺたにキスをした上で、それから「これが私が今紹介するなんなのよ」ってことで始まっていきます。「この製品はこういうことでこうなの」とね。その辺はプロですから。そういう人がいるんです、そういうことを専門にやっている人たちが。その人たちは年がら年中いろんなところでやっているので、それなりにお金は取られますけど、結果を求めるということを考えて、そういう形でやるというのを私は勧めています。

ある展示会だったんですけど、残念ながら閉めてしまいましたけど。非常にそれでよい成績を上げていました。「フランス人や外国人の人を入れてください」というのは日本人の方は必ず抵抗があるんです。ですけど、「ご自分ひとりでやってみてください。」ということで1シーズンやってみた、全然客がつかなかったんです。その次のときに私が紹介したフランス人を1人入れてみました。その彼女または彼はお客さんを持っているので、引っ張ってくるわけです。お客さんがプラプラしていたら「ちょっとあなた」みたいな感じです。「私は今度スズサンとやっているのよ」といった感じです。すると「そうなんだね」となってそこで一生懸命スズサンを売る、ヨウジヤマモトでもいいんですけど。そういうやはり流れがありますから。

ローカライズという先ほどのテーマと、それから今度は営業的なことも考えたときに、できるだけ向こうの人と組んでいくことが大切です。もちろん性格が合わない人はしょうがないですけど、やっぱり何人かの方と会って一緒に組んでいくということをやるのが鍵です。それをせず、向こうのほうに急に飛び込んでいってやると、大変なお金とエネルギーがかかります。多分途中で降参しますよ。

日本と海外のバイヤーの違い

村瀬氏:これは日本のバイヤーの方にも是非聞いていただきたいお話なんですけど、バイイングのやり方っていうのも全然違います。バイヤーというのは、要するにお店の次のシーズン、半年後に何が売れるかというのを予測して「じゃあこのSML黒で、この柄でいくついくつちょうだい」という風に発注をつけるというのがそもそもバイヤーの役割なんです。

例えば僕はすごく驚いたことが一つありました。パリのレクレルールという、40年くらいやっている、それこそヨウジヤマモトとかマルタン・マルジェラとか、すごく尖ったデザイナーをパリで紹介したセレクトショップがあるんですけど。そこでスズサンを取り扱っていただいているんです。取引を始めた初期の頃にいたバイヤーがいるんですけども。彼はブースのスタンドに来た途端に入ってきて、1分くらいザーッとラックを見るんですね。それで、そのあとにザッザッザッって分けて、「これはいらない、これもいらない」というわけです。「これだけ、いくついくつ」と、2~3分で何百万円分かのオーダーを伝えるんですね。僕は書くのが遅いので、逆に「早く書け、早く書け」と言ってくるくらいなんです。そのスピード感のバイヤーを、日本で一度も見たことがありません。日本のバイヤーは、それが良い悪いは別にして、3〜4人で来て、写真を撮ってメモを取って「じゃあ後日社内で会議してお伝えします」ということになります。そして3週間後くらいにようやくオーダーが来る、というような流れなんです。

このバイヤーのスピード感はどうしてここまで出るのでしょうか。彼は決定権を持っている、というのもありますし、それとお客様の顔が見えているということで、そこまでのスピード感が出ているとは思うんです。同じバイヤーに実はピッティ・ウオモ(フィレンツェで開催されるメンズの見本市)で会ったんですよ。そのとき、また素晴らしいなと思ったことがあります。ピッティってメンズファッションのディズニーランドみたいな感じでして、すごく広い会場で、世界中からいろんなブランドが集まって新作をお披露目するというところなんです。そこに彼が来て、「久しぶり」みたいな感じで話していて「これ新しいの作ったので見て」みたいな感じで話して、バーッと触っていたら、パッと手を止めて「ん?」と言うわけです。そして(シャツを触りながら)「これって、あっちのブランドが同じ生地を使っていなかった?」と言うのです。僕はその場では「ちょっとわからないな」というようなことを言いました。そのあとで、そのブランドのところに行って、それは日本のブランドだったんですけど、話したらそれ同じだということがわかりました。何百何千のブランドがある中で、彼はそれがわかったということです。すごいプロフェッショナルなんですよね。

それに対応するということは、やっぱり初めてのときだったら怖かったですね。それをおそらくセールスの人とかレップとか呼ばれる人たちはそれに常々慣れているところでビジネスをしているので、先ほど齋藤さんのおっしゃったようにお金はかかりますけど、それを日本の初めて行く人が対応しようとなったときには、ちょっと難しいかなという風には思います。

齋藤氏:パリだとJETROさんあたりが通訳を紹介するでしょうか。私はあまり勧めません。また怒られそうな気がしますけど(笑)。通訳に入ってくる人たちが学生さんなんです。やはり、そんなに言葉ができないという感じがします。私がそういう風に聞いてしまうからいけないのかもしれないですけど、横で聞いていて「あれ?」っていうことも結構あります。

大変でもいいから、向こうの現地の人と話しましょう。言葉ができなくても、なんとかなるものなんですよ。皆さんだって英語はなんだかんだ言ったって多少はできるでしょうし、今はいろんな翻訳機の良いものもありますし、なんとかなります。ですから、紹介での学生さんの通訳を使うことを、私はあまり勧めないです。学生さんでもそれなりにお金とりますし、一方で話は結構通じてなかったりします。聞いていると、こっちの言っていることとそっちの言っていることが繋がってないな、と思うときが結構あるんです。聞いているだけですから、横から口出すわけにはいかず、「その翻訳は間違っていますよ」とも言えないので黙って聞いているんですけどね。

村瀬さんが今言われたバイヤーさんのレベルの違いということで言いますと、だいぶ前ですけど、ジョゼフのときに面白いことがありました。百貨店のお名前は申し上げられませんけど、そこの責任者という女性が来たことがあります。本社はロンドンなんですけど、3〜4日くらいかかってずっと注文を付けているのです。最終的に「齋藤さん、終わりました。これを持って帰って、上司と相談して、あとでFAXを送ります」と言うんです。写真を撮って、上司が決める、上司が物を見ていない。そういう風なことが成り立つんだということで、非常に驚いたということがあるんですね。後になったら「上司からこれ削られました」とかなんとか言って、減るんです。減るのはいいんですけど、本人に言ったのは「あなたが見て、自ら着てみて、モデルにも着させてみて写真を撮って、あなたが一番わかるでしょう」ということなんですが、あちらは「上司に決定権があって、私ではない」と言うんです。

逆に、アメリカのバイヤーさんには1人で3〜4億というバジェット(予算)をもって1人で買いに来る人もいます。そのレベルの違いにはびっくりしたことがありました。日本の場合、上司部下というものがあり、上司の方は自らロンドンに行かなくても、一言言いたいということでそこに出てくるというのがあるのかもしれないんですが。あれはちょっと驚きました。

今はもう亡くなりましたが、ジョゼフ・エテッドギー本人がヨウジヤマモトに買いに来たときもそうですけど、ほぼ数分で決めますね。私どもが出していた700〜800点くらいの商品がありました。今日いる会場が全部埋まるくらいの物があるんですが、それらをバーッと見ていきます。彼は部下を連れてきていました。「これこれ」と持っていって、それを全部ラックにかけさせて、それで何かアドバイスしていきます。そして「自分はこの次のところ行くから一緒に来なさい」とか言うわけです。そして、一人は残るわけです。その人が、今度は数を入れていくんです。数ですとか、色ですとか、残ったところをね。また後になって彼が来て、「こんな風になりました」というのを見せます。「これは多すぎる、これはサイズ間違っている」とかですね。それを10分くらいで決めちゃいます。金額的に言うと何千万円というオーダーをしているんです。ジョゼフはもう亡くなってしまいましたけど、あれを見たときにすごいと思いました。どうしてこんなことができるんだと思うわけです。だって3千万とか4千万とかって1シーズンで入れるわけですから、数だってなまじっかの数じゃないですしね。そういうすごいバイヤー、日本では見たことないですね。何でなんでしょうかね、やっぱり上から抑えられちゃうんでしょうかね?

村瀬氏:どうなんでしょうかね。僕は最初、日本のバイヤーの方をすべてお断りしていました。日本のマーケットで戦略的にやったんですけども。スズサンができる前は絞りというと「日本の伝統的なおばあちゃんの浴衣ですね」という風になったのを、それを違う角度で価値を作りたかったんです。まずは海外でしっかり根を張ろうということで、日本のそういったステレオタイプから距離を置くということを戦略的にやったんです。

齋藤氏:ヨウジヤマモトと同じですね。ヨウジの前にワイズがありましたけどね。

村瀬氏:ですので、日本のビジネスの仕方を知らなかったんですよ。(ヨーロッパで)バイヤーさんたちの仕事ぶりを見て、これはすごいなという風に思っていましたね。

齋藤氏:ひとつ面白いことがありました。皆さんもご存知のエルメスというブランドありますよね。エルメスの人とも昔結構仕事していたこともあって「エルメスが展示会をやっているから良かったらオサム来ない?」と誘われたので、展示会に行ったんです。そこには各国のエルメスが、エルメスジャパンとかエルメスなんとかってのがあるわけですね。その人たちがオーダーを入れにきて、ここは洋服ですとかここは小物ですとかって分かれてあるんです。そこで日本人だけ、ジャパニーズルームというのがありました。私を招待してくれたのは女性だったんですけど、彼女に「何ですか、このジャパニーズルームっていうのは?」と訊いたら「日本人は自分たちで一人一人で決められないので10人くらいで来て、会議をした上でエルメスジャパンの商品を買い付けるんです。だから部屋がひとつ必要なんです。」と言うわけです。他の国は2人くらいで来て「これこれこれ」と入れていくんだけど「日本は特殊だね」と言われました。

まさにそれは、村瀬さんが今言ったようなことと繋がってくるんです。責任を誰が持つかっていう問題に最終的になるのですが。「在庫が余らせちゃいかん」というのは誰だって、物を扱っているわけです。ジョゼフをやったときもヨウジヤマモトをやったときも一番神経が尖るのはそこですから。仕掛りであろうがそうでなかろうが在庫っていうのは怖いですから。それで決算するときに資産のほうに入っちゃいますから、それは気を付けなければいけなかったですけど。エルメスで、なにしろジャパンだけがルームを一つ提供しなきゃならないんだ、とその友達に言われて、驚いたわけです。

村瀬氏:そうですね。ちょっと僕は不思議なんですけど、ここで申し上げる話じゃないかもしれないんですけども。結局、日本の方は在庫をなくそうと思っていろんな会議をやっているわけなんですけども、今このパンデミックの状況を見るに、これはひとつスズサンの一例だから全体に繋がる話じゃないかもしれないんですけども、個人でパパッと決められている人たちのほうがはるかにオーダーがきちんと回っているんですね。海外のほうが、要するに売れている、と言ってるんです。それはそれで、どっちが正しいんだろうというのもあります。ちょっと根本的なここの話じゃないのかもしれないですけど、考えてしまいますね。それが日本とヨーロッパの商習慣の違いというところではありますけど。

聞くこと、そして自分の言葉で伝えること

齋藤氏:あとやはりお客さんの顔が見えているというか、見え方が違うと思います。と言いますのは、先ほどから私がしつこく話していますけど、例えばヨウジヤマモトの場合では山本耀司さんがデザイナーですから、本人はそんなに動きませんけど、我々スタッフたちが動いて、例えばイギリスに行って、イギリスではどういう動きがあるか、イタリアではどうかと見るわけです。例えばイタリアでもミラノみたいな大きな街の店あれば小さな街にあるお店とかもありますから。そういうところに行っては、必ず聞き取りをやっていましたね。

そこで「どういう問題がありますか」ということも聞きます。すべてを吸い上げることはできないですよ。デザインに関して言われたら、「それはできない」とハッキリ申し上げます。「ヨウジのこのデザインのこれをこうして」とか言われても、「それはやめてください」と言います。「それは私も触れません」とね。ただ素材の問題ですとか、例えば色落ちの問題ですとかっていうのは解決しなきゃいけない問題でもあります。そういうことは聞いて、それは全部日本の本社にも上げていました。

聞き取りをしてあげることというのは非常に重要です。今はZoomでもいいんでしょうけど。でもやはり、もし将来に皆さんが売るのであれば、年に1回でもいいから行ってみるというのは非常に重要だと思います。行くと喜ばれるんですよ。私も年2回、アメリカのバイヤー全部とか、それから今度オーストラリアに渡ってとかするわけです。オーストラリアはシドニーとパースとあとメルボルンしかなかったですが。それからシンガポールに渡って、そこからまた香港に戻ってとかするわけです。世界中のバイヤーさんに会いに行きましたけど、ものすごく喜んでくれるんです。「君はわざわざパリから来たんだね」と言って。そうすると、そこで友好的な関係も生まれてきますし。「今日は移動する予定です」と言うと「それキャンセルしよう、一緒にご飯を食べよう」とか言ってくれてですね。ホテルも取ってくれて、飛行機会社に連絡もしてくれて、「オサムサイトウはこういう風にフライトを切り替えてくれ」とかってやってくれました。

残念ながら私の場合はそういう付き合いのあった方の半分以上が天に召されてしまいましたけど。でも非常に楽しかったですね。今でも思い出すのはいっぱいいるんですけど。顔が出てきて。「あの人とこんなところでこんなごはん食べたな」とか「こんな話したな」とか思い出します。

言語という問題は、さっきもありましたけど、言語って非常に重要だと思います。ただ、やはり私の場合も、日本語とフランス語はなんとかなりますけど英語はあまり得意じゃないんですけど、基本的にはどこ行っても英語でした。拙い英語で一生懸命しゃべりました。そこでどんなに下手な英語でも通じていくんです。言ってみれば自分の言葉でしゃべるということは大事にして欲しいと思うんです。通訳を介してしゃべるんじゃなくてね。

私の友人のデザイナーで、いまでもがんばっている結構いい年齢のデザイナーがいます。彼は英語が下手なんです。下手なんですけど英語でしゃべるんです。横で聞いていて吹き出すくらいひどい英語しゃべるんですけどね(笑)。相手のバイヤーさんはそれを面白がって聞いています。それでもやっぱり会話が成り立っていくんです。不思議な人がいるんですね。

例えば新しいバイヤーさんがこうやって洋服を見ると「ヘイユー、アイムデザイナー!」とか言って出ていくわけですよ。「アーユーデザイナー?」って訊かれたら「イエスアイアム」と答えてね。そういう調子でやっていって「イッツベリーグッド」とか言います。バイヤーさんそのときはびっくりして帰っちゃうけど、また後で来たりします。彼に「齋藤さん手伝ってよ、英語あまり得意じゃないんだよ」と言われることもありますが、「私も別に英語得意じゃないんだけど」と言いつつ、確かに彼よりは私のほうが英語できるのでやっていますけど、そういうぐらいの度胸というものが必要だと思うんです。

英語に関して、日本の方は結構引いてしまう方が多いんですけど、引かないほうがいいですよ。私はよく言うんです。「なんだかんだで、6~7年は英語を勉強しているのですから、なんとかなるもんですよ」と。村瀬さんは英語うまいですよね。

村瀬氏:僕は高校のとき英語全然できなかったんですよ。”I am”の”am”の意味が最初わからなかったんです。18歳くらいまでそのくらいの英語のレベルだったんです。そのあとで1年イギリスに居たから、なんとかしゃべれるようになったんですけども。

ちなみに、バイヤーの方にも結構英語できない方が多いですよね。イタリア語で話したりするんですよ。こっちはまったくわからないですから「スィスィスィ」みたいな感じで答えたりします。それでもなんとか通じるんですよね。

齋藤氏:皆さんには、自分の言葉って非常に大事なのだと思ってほしいですね。オーナーの方とかデザイナーさんとかにとっては、自分の言葉はとても大切です。確かに山本耀司さんは英語かなり堪能ですし、三宅一生さんはフランス語が堪能です。川久保玲さんはあの方は英語はまったくしゃべりません。ただ旦那さんが向こうの方なので、旦那さんは日本語ペラペラなんですよ。彼はフランスの本社の社長もやっていますが、私なんかも時々「齋藤さん!」って呼ばれてびっくりすると「久しぶりです」と言ってくれます。というくらい日本語がうまいので、そういうパートナーがいれば別ですけれど。やはり自分の言葉でしゃべれるということは非常に大事だと思います。

(終わり)

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