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マルチに遭いました③

エピソード②あらすじ
クリスマスイブや正月に家に来ないかとしつこく誘われ、友人ならまだしも会って3,4回目の新婚夫婦の家にクリスマスイブに行くほど心が強くない私は、Aさん夫婦を少し嫌になっていたが、この様子だと100%マルチの勧誘っぽいから話を聞いてみたいという好奇心もあった。

■ご飯に行ってみることにした
友人や知人に相談すると、
「マルチの勧誘とかあってもきゅうりは絶対大丈夫だと思うけど、家には行かないほうがいい」
というのが総意だった。
「家に行くと自分の知らないところで物を壊したとか何か汚したとかでお金取られるよ」
という意見もあった。
それは考えすぎだと思ったけど、確かに密室かつ相手のテリトリーに乗り込むのは私自身も気が引けたので、仕事終わりに近くでご飯に行くことにした。
感化されやすい私は、向こうから指定された店でも何かあると怖いと思うようになり、日程と店もこちらで指定した。
ご飯に行けることになってAさんは大層喜んでいた。
ご飯に行く日程は仕事終わりかつ歯医者に行った後で、翌日も会社なので早く帰りたいという短期決戦の時間を指定した。
準備は整った。
あとは当日を迎えるだけだ。

■そして当日
当日になるとやや緊張していて、職場でも何人かに話した。
基本的にみんな笑って送り出してくれたが、一人だけ「店に入る前と入った後にLINE下さい。終わりの予定時間に連絡が無かったら警察に電話します。」という熱い奴がいた。
その熱い気持ちを胸に、仕事終わりにまずは歯医者へ行った。
(まだ決定していないが)マルチの人との決戦日だったのですっかり忘れていたが、その日は虫歯治療で麻酔を打った。
昔から麻酔の効きが悪く、3回ぐらい打ったので終わってからも唇がずっとブヨブヨしていた。

待ち合わせ時間ギリギリに治療が終わり、小走りで店に向かうと、向こうはAさん一人だった。奥さんは来れなくなったらしく、1対1との事だった。人妻に興味はないけど、”マルチの勧誘をする新婚夫婦”には興味があったので少し残念だった。
そして、店を予約していたら人数変更があった時に事前に店に連絡をしておきたいタイプなので、「そういうところだよAさん!」と思ったが言わなかった。
Aさんはリュックに加え、肩からカバンを下げていた。ここに商品が入っていますよと言わんばかりの黒いバッグだった。

店に入ってまずはお酒を注文した。
自分が席を立っている隙にお酒に何か入れられたらたまらないな、ということに気づき、お酒を飲むとすぐトイレが近くなる体質だが、今日は生死がかかっているのでお会計まで席を立たないことに決めた。

お酒が来るまでは仕事の話かなと思っていたら、早速黒いバッグを開け、サプリボトルのようなものと、目薬の容器のようなものを取り出した。

「きゅうりさんは運動後に何かサプリとか飲まれてますか?」
(あぁ、サプリ系か・・)
「はい、うちの営業先にサプリの会社があるのでそこから買ってます。」
「そうなんですね。効果は実感してますか?」

と話しながら目薬の容器のようなものから手に液体を出し、何か手に塗っていた。コロナ渦の今でこそメジャーになったが、どうやらサニタイザーのようなものらしかった。


その動作をずっと目で追っていたので
(あ、これ、いります?)
みたいな仕草をされたが、断った。


「効果は凄いですとは言わないですが、それなりですかね。言っておいてなんですが、サプリに頼るよりも普段の食事から気を付けるという性格でして、ほぼ毎日自炊してるんです。」
少し誇張した。
「そうですか、それはいい心がけですね。でも、今どきの野菜なんかの食材は農薬を使っているから栄養が十分じゃないんですよ。サプリは補助食品として取る必要があると思います。」

商品や会社の情報は少しでも持って帰りたいと思ったので、商品名やラベルなどを凝視して暗記しながら聞いていた。
そんなやりとりをしていたらお酒がきた。
「ま、とりあえず、」
ということで乾杯した。
お酒は凄く強いわけではないが、弱いとも思っていなかったので、酔ってくれれば情報聞けるし逃げやすいなとも思っていたが、マルチお断りのポイントはそこではなかった。

ビールをぐっと口に運んだ瞬間、まだ歯医者の麻酔が効いているのがわかった。
そして気づいたらビールは顎をつたい、机にビチャビチャ垂れていた。
向こうははじめ何が起きたかわからないようで唖然と見ていた。
歯医者に行くことは向こうに伝えておらず、Aさんからすると口に運んだビールを半分ぐらいダダ流し始めたスーツの男なので恐怖だったかもしれない。
どうやって飲めば垂れないかなと思い、もう一口ビールを口に含んで顔を左に傾けながら飲んだ。
これならいけると思ってAさんを見たら、ものすごく怪訝な顔でこちらを見ていた。
そこで歯医者に行ってきたことをAさんに伝え忘れていたことに気づき、表情が面白かったのでこのまま言わないことに決めた。


だが、それからは早かった。
サプリボトルのようなものはすぐにカバンにしまってしまった。
何かの病気と思われたのかもしれない。
サプリのように口に入れる商品の話はその後一切なく、サニタイザーとシャンプー、ボディソープの話をされて、断ったらあっさり引き下がった。
そして軽くご飯を食べたら解散になった。
店には1時間もいなかったと思う。
なんだかこっちが消化不良になってしまった。


勧められた商品をあとで検索すると「ニュー●キン」という会社でした。

その後Aさんの奥さんから2回LINEが来ましたが、それっきりになりました。

ありがとう非常勤講師Aさん、そんなに楽しめなかったけど面白かったです。

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