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メロンパンの妖精

京都に引っ越してきて、大阪にもよく行くようになって、やっぱり東京と雰囲気が違うなぁというのを感じ始めて来た頃、良い出会いがありましたので書いておきます。


大阪で友人とご飯に行く約束をしていて、早いうちから予定が空いていたので大阪をぶらぶらしていました。
信号待ちをしていて、青になって歩き出そうとした時、「すみません」という小さな声と共に左手首の袖を引っ張られる感覚がありました。
振り返ると、腰がほぼ90度に曲がったおばあさんが袖をつかんでいました。


「すみません、ここの近くのセブンイレブンに行きたいんだけど、どこかしらね?」


そう聞かれて、探そうと思って顔をあげたところ、振り返って2~300mぐらい先にセブンの看板が見えたので、
「あそこ見えますか?白い看板に数字の7が書いた看板ありますよね?あれがセブンイレブンですよ。」
と伝えました。


腰はかなり曲がっているものの、動作はそこまで遅くないので、おばあさんは首をくるりと後ろにやって、セブンを確認したらしく、首だけまた戻ってきて


「あれね。ありがとう。急いでいるのにごめんなさいね。何かあげなくちゃね。」
そう言って手に持っていた風呂敷の中をごそごそと探り始めました。

「いやいや、いいですよ。道案内したわけでもないですし・・」
そう言い終わるぐらいに風呂敷の中から肌色の物を取り出していました。
見ると、メロンパンでした。しかもむき出しの。裸のままの。


「これ、良かったら食べて。美味しいと思うわ。」
「そんなそんな・・。」


いつもなら形だけの遠慮をして、ありがたく受け取る場面なのですが、その時は本気で謙遜していたと思います。
おばあさんはメロンパンを渡すとすぐにセブンに向かって歩きだしました。もらったメロンパンをよく観察すると、風呂敷の中で探す時についたのか元々あったのか、メロンパンには指で掴んだ跡がくっきり残っていました。
その場ですぐに食べる気にもならず、近くにあったスーパーで袋をもらって入れました。(写真はこのタイミングで撮ったもの)


約1時間後、待ち合わせていた友人に経緯を話すと、
「その場で食べて感想求められなかったなら、俺はもう食べないかな。むき出しはさすがに怖い。」
確かに、大阪の定番“飴ちゃん”や個包装のお菓子ならまだしも、見ず知らずの人からもらったむき出しのメロンパンを食べるには少し勇気が必要な時代に生まれたもんです。かと言ってすぐに捨てられず、その日は持って帰ることにしました。


後日、会社の人にもその話をしました。
みんな笑って聞いてくれましたが、一人だけ不思議ちゃんがいました。


「そのおばあさんは”メロンパンの妖精”なんじゃない?モノを粗末にしないかどこかで見てるのかも。捨てたらバチが当たるかもよ。」

そう言われて「メロンパンの妖精か!」と飲み込めるほど心が純粋でも不思議でもないので軽く流して、それでも「バチが当たるかも」というのはわからないでもなくて、捨てるに捨てられず、食べるに食べられず、その日からメロンパンとの共同生活が始まりました。

その後約一か月、カビが一切生えることなく、それが余計に怖くなったのでメロンパンとお別れしました。今のところバチは当たっていないです。

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