スラムダンク映画ネタバレ考察(ポジティブ)

もう書かずにいられないのでネタバレしながら考察していきます。
本誌連載中から読んでいて、JC版愛蔵版共に所有、アニメも勿論全部観ましたし、10日後のアレとか諸々一通り履修済みのファンです。

もう、とにかく原作ファンは絶対に観て欲しい映画です。
ただしちょっと忘れてるかも?って思うなら一度漫画読み直してから行った方が良いです。

2年前に映画情報が出たとき、赤いリストバンドとグータッチする子供の手を見て、リビルド作品か〜と正直思ってました。全然違いました。
公開された予告編、赤いリストバンドをしてるお兄ちゃんと1on1する小さいリョータを見て、2年前のあのポスターは死んだ兄とグータッチするりょーちんじゃないかと思い、りょーちん主役かもしれない、と思って劇場に行きました。

開始早々、対戦相手は王者山王。りょーちん視点の山王戦。
震えました。イノタケ氏のタッチで動く湘北と山王。そして色がついて3Dに。
予告編でフル3Dに不安を覚えた方もいらっしゃるでしょうが、本編はほぼ40分のゲームの流れを極力リアルに描写していて、途中に自然な形で回想を挟む構成で、モーションキャプチャのメリットを試合の描写に最大限に活かした作品になっていると思います。
3Dが不安というだけで躊躇してる原作ファンの方は、絶対後悔しないので観に行って欲しいです。

さて連載前、りょうたとあやこという小学生が出てくる読み切り「ピアス」で、小学生のりょうたには海で死んだ兄がいること、兄が死ぬ直前に「もう帰ってくんな!」と言ってしまったことを後悔している描写が出てきます。
この話自体は直接スラムダンクには繋がりませんが、今回その設定は一部引き継がれ、リョータの過去が明かされます。カメレオンでも流川の設定が一部共通してるので不思議なことではないのですが。

私は元々、原作を読み込んでた頃から疑問に思ってたことがあって、
1>なぜリョータは湘北に来たのか?(安西先生とのエピソードがない)
2>実力がある割に中学以前の話が出てこない
3>他のスタメンほどキャラの掘り下げがない
4>No.1ポイントガードになりたい動機がいまいち分からない
6>ボコられたのに三井への態度が最初から達観しすぎている
今回映画を見て、これらの疑問に自分なりの納得と発見がありました。

1>なぜリョータは湘北に来たのか?

今回、リョータは沖縄で生まれ育ったこと、小さい頃に父親と兄を亡くしたことが分かります。神奈川に引っ越して団地で生活しています。
死んだ兄はミニバスで一目置かれる存在で、いつか沖縄代表になって山王工業を倒したいという夢をリョータに語ります。
父親を亡くし恐らく経済的に苦しい家庭で、死んだ兄の後を追うようにバスケをするリョータを、夫と長男を亡くして荒れた母は思いやる余裕がありません。
そういう状況で、リョータは神奈川に来ました。
沖縄と違って、道端でドリブル練習してたら「うるさい!」と怒られる。
バスケやりたいけど、うまく仲間に入れない。
そこにたまたま、三井っぽい人が通りかかってリョータを1on1に誘います。その人に死んだ兄が重なるリョータ。
もしかしたら、リョータが湘北に進んだ理由は、ただ一度気まぐれで1on1をしたあの人だったのかもしれません。
もしくは、陵南が私立だったからかもしれませんが。(作中で安西先生がもいっちゃんに「うちは公立だから」と言うシーンがある)

2>実力がある割に中学以前の話が殆ど出てこない

夫と長男を亡くし、辛い思い出のある地を離れた宮城家なので、いくら沖縄のミニバスでリョータが多少うまくても、遠く離れた神奈川では話題にならなかったのかもしれません。
リョータのドリブル、チビであることを活かした戦術や感性は、長年バスケに親しんできたことを感じさせます。
原作で田岡監督が神奈川最強メンバーを構想していたとき、流川・三井・宮城をスカウトしていた話がありましたが、宮城以外の2人は中学で既に有名で活躍に言及があったのに、宮城については運動能力への言及のみなんですよね。
田岡監督がどういった経緯で宮城を知ったかは分からないながらも、田岡監督に一目置かれる程度には中学時点で上手かったのは間違いなく、それは死んだ兄のようになろうとして努力していた結果だったのだと思います。
作中、山王工業との戦いの前に母親に手紙を描くシーンが出てきます。
生き残ったのが自分で申し訳ない、というような内容を書いて、でも止める。そこにはいくつかの複雑な感情が観て取れます。
・兄が船に乗る直前に「もう帰ってくんな!」と言ってしまったこと
・母の嘆きを見て、才能ある兄じゃなく自分が死ねば良かったという気持ちを持っていたこと(サバイバーズギルドに近い)
・釣りに行くのをもっと強く止めていたら兄は死ななかったという気持ちがあったのではないかということ
リョータはずっと苦しんでいるけど、母もまた自分の苦しみに手いっぱいで癒し合うことができません。明るい一番下の妹を介さなければ会話もできないほどに、お互いにお互いを傷つけていることを後悔し、前に進めずにいます。
そういった中で、リョータは兄のリストバンドをしてバスケを続けていて、でも母親は兄の死後は恐らく一度も見に行けなかったのでしょう。
兄の目標だった山王工業を倒しに行く舞台に自分が立つ。それを母に伝えたい。できれば見にきて欲しい。それを素直に言えないリョータが切ないです。中学時点で田岡監督に注目されるほどの選手だったのに、そして皆の前では偉そうで余裕な態度を取ってるのに、全く自慢も過去も語らない原作のリョータ。語らないのではなく、語れなかったんじゃないかと思いました。

3>他のスタメンほどキャラの掘り下げがない

読み切り「ピアス」からも、恐らくスラムダンク連載前から宮城リョータというキャラの掘り下げ自体は先生の中にあったのでしょう。
でも花道を主役に置いたことで、リョータのエピソードを出す機会がなかったのかもしれません。また、花道も片親で家庭環境が良いとは言えず、若干ネタ的に被ってしまうから出さない、という判断があったかもしれません。
ただ、書かれなかったとしても先生の中にはずっとこの宮城像があったんじゃないでしょうか。

4>No.1ポイントガードになりたい動機がいまいち分からない

原作では彩ちゃんへの恋心ゆえに一番を取ってアピールしたい、とも受け取れますが、映画でのリョータの過去を見るとNo.1の意味が違って見えてきます。手のひらに彩子があれを描いたあと、リョータが手のひらを見る描写が少なくとも2回は出たと思います。でも、何が描いてあるかすぐには見えません。
スラムダンクの彩子は、恐らくリョータの過去は知りません。
でも偶然、兄と同じ一言をリョータに言います。その鮮烈な記憶、兄のやりたかったことをやる自分、母に見せてあげたい、兄の代わりに俺がやる、色々な思いの詰まった「No1」です。
深津を倒すことは、宮城にとって絶対だと、この舞台に立つことが使命だとすら思っているように見えます。兄のような才能が無いのにバスケを続けることを許してくれた母に感謝するリョータの気持ちを考えると言葉が出ません。
父親を亡くし泣き崩れる母に歩み寄る兄の回想。その回想の中で今のリョータが兄を追い抜いて母を抱きしめる描写。これは今の先生だからこそ挿入されたシーンだったように思います。

6>ボコられたのに三井への態度が最初から達観しすぎている

喧嘩っぱやい問題児に見えますが、原作ではリョータよりも花道のほうがよほど三井に対して怒っているように見えます。
あまり自分のことを話さない。態度が達観しすぎている印象があるのは、辛い経験をしてきたからかもしれませんし、リョータにとってはバスケと家族以外全部どうでも良かったのかもしれないなと思いました。
思えば花道とは原作で失恋仲間として意気投合していますが、家庭環境に恵まれない点も似通った2人だったんですね。

兄のリストバンドを母に渡し、妹の提案で兄の写真を食卓に飾る宮城家。
かつて兄が夢見た打倒山王を果たし、兄のリストバンドを外せたリョータ。
最後のシーンはとても驚きますが、物心つく前からバスケだけに集中して環境と愛に恵まれた者と、貧しい中でバスケしかなかった者が夢の舞台で対峙する様は、現代社会の象徴のようにも感じました。
ジュニアクラブで切磋琢磨してきた裕福な子供と、スポーツで成り上がる以外に貧困から抜け出す術のない子供が同じコートに立つ状況は、まさに現代のスポーツ業界の常ですし。
THE FIRST SLAM DUNKというタイトルは、連載終了から長い年月が立った今の先生が考える、自分が描きたかったSLAM DUNKの原点、という意味じゃないかなと思いました。
なので、続編は当面ないんじゃないかと思います。というか続編あるなら県予選からやりそうだし、多分タイトルもSLAM DUNK THE FIRSTとかになっていそうで。
湘北は皆、大きな挫折を経験しながら強くなってきました。
ゴリはずっと独りよがりで空回りしていました。ゴリの心象風景の描写。チーム戦のバスケットでは全員の気持ちが全国に向いてなきゃ全国は目指せない。原作の思わず涙が出るゴリも良いけど、映画のゴリも良いなって思いました。ゴリが本気で全国を目指してたからここまで来れたんだよ!
メガネ君はゴリの一番の理解者で努力家だけど、自分がゴリの夢を叶えるほどの才能がないことを知っている人でした。でもメガネ君がいなければ今の湘北は無い。それが何の説明も無くてもすっと入ってくる。試合の中で安西監督がいかにメガネ君を信頼しているか。桜木を下げる時の気負いのなさ。映像で見るとメガネ君て本当に大きい存在だなと思います。台詞なんかいらない空気で伝わる大きさ。
三井は挫折を知らずに来たから、怪我でぽっきり折れてしまい、戻るのに2年もかかってしまいました。スッポンディフェンスで極限まで体力を削られた後、地縛霊のように食らいつく三井の気迫はすごい。
ラストのあれ、あの秒数でフェイントを入れる!!!スローじゃなくリアルな試合の状態で観たらその凄さに圧倒されます。実況席で叫びたくなるプレイです。
桜木は宮城と同じように家庭環境に恵まれずに来て、初めて出会ったバスケで才能が花開いた瞬間、背中を怪我してしまいました。
俺は今なんだよ、ずっと聞きたかった台詞です。花道と安西監督の間の緊迫感。高校一年生がここまで言えるのか、これまでの原作の花道を思うとこの台詞本当にすごいですよね。それを飲み込む安西監督の男気も。
流川は沢北にボロボロにやられて、初めて仙道の言ったことの意味を理解しました。流川はイケメンネタを完全に封印し、削ぎ落とされたバスケ狂の鋭さが際立っていて沢北とのマッチアップの凄みに鳥肌が立ちます。
前髪から覗く視線の鋭さが好戦的で、あの笑み。へなちょこシュートを返す不敵さ。スローを極力押さえた実時間で進む試合だからこそ分かる速攻でやり返すプライドの高さ。流川という天才の在り方が良く分かります。
そして宮城は、ずっと誰にも相談できなかったけど家族をなんとかしたかった。父親が死んだ時に兄が「俺が今日からこの家のキャプテンになる」って言葉、原作のリョータのキャプテン就任シーンがどうしても脳裏をよぎります。映画を見た後にキャプテン就任シーン読んだらグッと来てしまい涙が止まりませんでした。この台詞を言う自信がついた山王戦だったんですよね。
試合中、ゴリがリョータに掛け声をかけさせるのも、お前が次のキャプテンだと言わんばかりで、ずっとリョータが誰にも言えず積み上げてきたものが繋がった瞬間のように思えました。
リョータの運命もまた、山王工業に繋がっていて、あの名勝負だったんですね。

映画を見たというよりも、客席で試合を見ていた気分です。
そしてリョータのこれまでと、これから。
また見に行きたいと思います。
原作漫画を愛している人は劇場にぜひ足を運んでみて欲しいです。
原作を読まずに映画を見た方には、ぜひ漫画版を読んで欲しいです。

※ちょいちょい加筆しててすみません。自分のメモなので思いっきりネタバレしてるしメチャクチャです。


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