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理由が知りたい

◎「ももちゃんと話していると、
新しい発見が得られる」
と感謝されることがある。
そりゃ、やっぱり嬉しい。

でも、私は
相手の話を聞きながら
その場で理解できることはほとんどない。

独りになって、話を思い出して、
反芻して、3日間くらい寝泊まりして、
そうしてやっと分かったような
そうでもないような気になる。

おしゃべり終わりのタイムラグを気にして、
こんなに日が経ったけれど、
伝えていいのかな…
いやウザイノカ コレッテと思ったら、
言うべき感謝も安易に手放してしまう。
なんとも情けない。

◎昨年、アゴタ・クリストフの
『悪童日記』という小説に出会った。

戦争時代の欲望まみれの大人や社会を、
冷徹な文体で日記に残す
双子の男の子たちが主人公。

日記の唯一のルールは
感想を書かないこと。

人間の感性は信用ならないと悟った双子は、
日々の残酷な実情を、情感を排除して
ただ目に見えた順番に書き残してゆく。

事実だけしか書いていないからこそ、
現実とは思いたくない描写の数々に
心が痛んだ。

愛欲に溺れる大人は信用ならないと、
子供が自分自身を殴って
強くなろうとする。

知識より、
みすぼらしくても
前に出る勇気だと気づいて、
学校に行かず
音楽や雑用で生計を立てようとする。

平和な世界だったら
考えられない早さで、
賢く逞(たくま)しく成長する姿に
可哀想だと思った。
子供の成長が喜ばれる現代では、
なかなか得られない読後感だった。

◎これまで、30人以上に
この作品を薦めた。

一つの作品を伝え続けるのは、
中学校3年時に、公共図書館で
村田沙耶香(敬称略)の『殺人出産』を
見つけた時以来。

あの時は、
倫理観を一掃した作品が
税金で購入されている事実に
驚くと同時に、

どんな市民でも
生きる権利があるのか…と
少しだけほっとできた記憶がある。

イイコになろうとしても、
なかなかなれずに困っていたから。

◎先日、友人と話す中で、
自分について
またひとつ学びを得た。

自分の未来思考も、
他者を変えようとしないことも、
どうやらトラウマが原因そうだ…と気づいた。

聞き上手な友人を前に、
トラウマの材料になっていそうな物を、
思い出した順番に打ち明ける。

友人が「(聴いてて)辛いよ~辛いよ~」と
繰り返す様子を見て、
「やっぱり
辛い思い出として認識してもいいんだ」
と他人事のように感じた。

そして、
あっ、私は事象の説明しかしてない。
どう感じたには、
何も触れていないことに気づいた。

(内心)当時の自分の気持ちなんて
分かりっこないからな~。
これからも
私が思う事実を
吐露するだけだろうな~。

気持ちを確認するタイミングを、
これまでの数年間で
盛大に逃していたことを知った。

◎ででで。
何が言いたかったかと言うと。

だからこんなにも
『悪童日記』に惹かれたのかと。

苦しい時こそ、
人に話すのは事実に偏りがちな
自分に似ていると感じたから、なのかなと。

理由も準備もなく、
恋に落ちたときのように。
衝撃的な書物に突然出会うと、
嬉しい反面、末恐ろしくて。

(内心)なんで私、これに囚われてるの!?
こんなに好きになる
予定じゃなかったのに!

理由が知りたい。
理由が知りたい。
理由が知りたい。

理由を言語化する、今日までの4ヶ月。
本当に気持ち悪かった。

でも、無事スッキリ。
ありがとう。お友達。




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