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用意しなくていいよ、ですら
◎大学4年生になって、
やっとほんの少しだけ、
人様の家に宿泊させていただくことが
怖くなくなってきた。
◎「アメニティやタオル等は貸せるから、
身軽でおいで」と言われると、
私は言葉のままを受け取ってしまうから、
本当に徒歩3分のコンビニに行くような格好で
出かけようとする。
でも、その言葉は心理テストみたいなもので、
そうは言われたものの
「自分で使うものくらい、
流石に自分で全て用意するよね」
という裏メッセージがあるのではないか…と
ひらめいてしまうと、
急に不安になり、
鞄がパンパンに膨らむまで荷物を詰める。
◎でもどうやら、やっぱり。
部屋にあるものは自由に使っていいよ~
という言葉は、そのままの意味らしく。
何も疑う必要がなかったことが分かると、
馬鹿馬鹿しくなる。
同時に、少しでも友人の返事を
穿(うが)ってしまったことに嫌悪を抱いて、
またぐるぐる考えてしまう。
◎こういう宿泊前、最中の
葛藤みたいなものが、
抵抗しても
引きずり出されてしまうような
友人の暖かさに触れたら。
「ご飯の時に、ご飯の話だけができて、
頑張って盛り上げようとしなくていいのが、
本当に心地いい。胃が喜んでいる」という。
シラフで呟いたら、
少し場が白けそうな感想が、
素直にこぼれた。
それに、いつもなら
「何で、私、また
恥ずかしいこと言っちゃうの」と、
後悔で顔を赤くするはずなのに、
不思議とそういう感情がわかなくて。
◎そっか。私は、
このお友達は、ささやかな気持ちも
丁寧に汲み取ってくれることを知っていたのだ。
信じていたのだ。と。
心理テストをされている、と
過度に言葉の意味を
考えてしまった罪悪感が、微量ながら薄れた。
◎自分がアタリマエと
無意識に取り入れていた慣習に
疑問を持たれたり。
誰かの家庭のルールに触れたり。
思いがけない場面で、
お互いの違いを指摘し合うのは
びっくりするし怖いけれど。
◎そういう背景にびびりながら
器にご飯を盛る私を、
友人は優しく待ち続けてくれるのだ。
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