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作:元樹伸 突然だけど、映画館の座席表を思い出してほしい。左右の壁際にペアシートがあることがわかるだろう。通路と壁に挟まれたこの場所にカップルで座れば、隣に他人が座ることもないので二人だけの空間が作れる。 僕は映画を観るとき、必ずこのペアシートを予約するようにしている。だからといって彼女はいないし、知人と行くわけでもない。ただ隣に知らない人がいると映画に集中できないので、両方予約してしまうことでプライベートな空間を確保していたのである。 「空席を予約するなんて迷惑な
作:元樹伸 千晶が通う小学校の通り道には、朝子さんがいます。 朝子さんは黄色い旗を手に、いつも横断歩道を渡る千晶たちの安全を守ってくれていました。 でも彼女はいつもしかめ面で、小学生たちから怖がられていました。 それに彼女は晴れた日でも赤くて小さな傘を腰にぶら下げていたので、みんなからは朝子さんではなく、傘子さんと呼ばれていたのです。 「今日も傘子さんがいるぞ」 「こら、悪ガキども!」 男の子たちが面白がってからかうと、傘子さんは顔を傘みたいに真っ赤に
作:元樹伸 ある時、会社の設立と同時に入社した女性社員が、急にやめたいと言い出した。でも彼女は真面目で仕事ができる人だったので、社長としては引き留めたかった。そこで彼は女性社員と面談をして、理由を聞くことにした。 「考え直してはもらえないだろうか?」 「それは無理です」 「なら理由だけでも教えてほしい」 「言いたくないと申し上げたはずです」 女性社員は頑なだったが、社長は根気強く彼女を説得しようとした。 「もちろん聞いたことはここだけの話にする。しかしこれま
作:元樹伸 二〇XX年、某日。 早朝に僕を叩き起こした母親が「これを見て!」と、テレビの電源を入れながら言った。テレビでは報道番組が放送されていて、『地球滅亡までのカウントダウン』というテロップが大きく表示されていた。 「これってどういうこと?」 詳しい情報を求めて携帯端末でニュースを確認する。どこも地球滅亡の記事が話題を独占していた。 有識者による研究チームの発表によれば、地球に小惑星が衝突するのは今から数時間後だという。被害は甚大かつ壊滅的で、上空や地下
作:元樹伸 つい先日まで探偵の仕事をしていた。ところが浮気調査をしている最中に思わぬ事故に遭い、俺は仕事を続けられない身体になってしまった。 しばらくは絶望に駆られて寂れた街を彷徨い続けた。だがそんな時、俺はあの子を見かけたことで、生きる望みを取り戻した。 彼女はちょうど一人で買い物に来ていて、俺はその姿を遠くで眺めながら、今すぐにでもお近づきになりたいと思った。だけど俺と彼女は月とすっぽん。提灯に釣り鐘。こんなに醜く汚らしい男が、あんなに可憐な女性と釣り合うわけ
<紹介文> 時は平成。 今年十年目の若手芸人、久遠亜紀は人生の節目に立たされていた。 さらに彼女は同期の人気芸人コンビの二人の間で気持ちが揺れ動く。 仕事か恋愛か、それとも……彼女が選ぶ道は? <登場人物> 久遠亜紀 物語の主人公 殿居 人気芸人コンビ、トノ&カシンのトノ 香椎 人気芸人コンビ、トノ&カシンのカシン。亜紀の同期 ヒロキ とつぜん亜紀の部屋に現れた、謎の少年 ◇ ◇ ◇ ここから本編がはじまります 漫才童子 作:元樹伸 第1話 売れっ子と低空