【リスク高すぎ】二重資産マイニングのリターンを検証したら破産した件について
はじめに
こんにちは、エマと申します。
みなさまは仮想通貨取引所bybitの、高APYを掲げて顧客を募っている二重資産マイニング(Dual Asset Mining)というサービスをご存知でしょうか。詳しい説明は公式ドキュメントに任せるとして、簡単に説明すると、
例えば、ETH/USDTのプールで資金を預けた場合、
①預けた時のETHの価格>決済時点のETHの価格のときETHで
$${預けた資金*(1+利回り)}$$
②預けた時のETHの価格≦決済時点のETHの価格のときUSDTで
$${預けた資金*(1+利回り)}$$
を得ることができるというサービスです。(預ける時間はユーザが選ぶことができて、決済される時間はUTC9:59分と決まっています。)
つまり、このサービスを利用するとETHの価格がどうなるにせよ必ず利回りだけは手にできるという代物です。
そして、この利回りはなんと年率にして約276%!
どっちにETHの価格が動こうがこの利回りがもらえることは確定しているのだとすると、一見魅力的に見えます。
しかし、これは本当に儲かる投資なのでしょうか?
私は取引所が提供するサービスはなんらかの形で取引所が儲かるようになってるはずという信念があります。
実はおいしい話のように見えて、資金をめちゃめちゃ持っている銀行が顧客になぜか持ちかけてくる投資くらい信用できないんじゃないか、とすら思っています。
そこで、今回はそんな猜疑心まみれの私の疑念を晴らすべく、このリターンを検証してみました。
(忙しい方向けに先に結論だけ言うと、タイトルのとおりです。)
リターンの検証
(1)リターンの定義
冒頭で書いたように預けた時のETHの価格と決済時点での価格の関係によって、返ってくるお金がETHなのかUSDTなのかが変わります。
そこで返ってくるお金をUSDT換算してみると、以下のようになります。
①預けた時のETHの価格>決済時点のETHの価格のとき
$${預けた資金*(1+利回り)*\frac {決済時点のETHの価格}{預けた時のETHの価格}}$$
②預けた時のETHの価格≦決済時点のETHの価格のとき
$${預けた資金*(1+利回り)}$$
つまり、原資(預けた資金)に対して、以下の値を掛けたものが返ってくるというわけです。
①預けた時のETHの価格>決済時点のETHの価格のとき
$${(1+利回り)*\frac {決済時点のETHの価格}{預けた時のETHの価格}}$$
②預けた時のETHの価格≦決済時点のETHの価格のとき
$${(1+利回り)}$$
これをリターンと定義します。
(2)リターンの計算
リターンの定義が出来たところで、過去のデータを使ってリターンを計算してみます。
これが晴れて1を超えるようなら価値のある投資になります。
bybitのドキュメントによれば、
預けた時の価格は預けた後5分間の価格の平均
決済時点の価格は決済時間から30分前までの価格の平均
で算出されていると記載されています。
二重資産マイニングは毎日UTC10:00に新しい契約が出され、次の日のUTC9:59にその契約が終了することから、今回のリターンの計算ではユーザは毎日UTC10:00に契約するものとして、
預けた時の価格は10:00~10:04の分足の終値の平均
決済時点の価格は9:30~9:59の分足の終値の価格の平均
で算出します。
また、利回りはドキュメントに則り、276%のAPYを365で割った値(0.007559)で算出します。
BinanceからダウンロードしたETH/USDTの1分足のデータを使って、上の算出方法に従って、預けた時の価格と決済時点の価格を算出し、2021年1月2日~2021年12月31日までの日ごとのリターンを計算しました。
こうして求まった日ごとのリターンの平均値は0.990となりました。
これだけだとちょっと評価ができないですので、この二重資産マイニングの契約をしないで、単に保有した場合のリターン(決済時点の価格/預けた時の価格)と比較します。こちらのリターンの平均値は1.006となりました。
やはり単に保有しているときよりリターンが減っていますね。というかリターンが1切る時点で投資商品としてなんだかなぁといった感じです。国債なんかはノーリスクでリターン1超えますからね。
では、もしこの二重資産マイニングを2021年1月1日~2021年12月31日まで毎日繰り返したとしたらどうなるのでしょうか。これは、求まった日ごとのリターンをすべてかけ合わせれば出ます。
計算して見た結果、この値は0.0223となりました。
え?原資の2%?
二重資産マイニングに100万円ぶっこんだら2万円しか残らないってこと?
あまりにもひどい値に私は目を疑いました。破産ですよ、破産。
なにかの間違いだろうと思ってBTC/USDTでも検証したのですが、この値は0.0468となりました。原資の4%・・・
うーん、bybitのAPYが偶然低かったのかもしれない。
Up to 400% APYと書かれてることだし、最高のAPY 400%を使って利回りを計算してみよう。
するとリターンの平均値は0.993になり、リターンをかけ合わせた値は0.0760となりました。
やっぱり破産してるやんけ!
(3)リターンの考察
なぜ毎日この二重資産マイニングを繰り返したら、資産が50分の1とかいうふざけた結果になるのでしょうか?
理由は簡単です。ETHの値段が上がったときになぜかETHが没収されてUSDTで利息分しかもらえないからです。
例えば、初日の契約終了時にETHの値段が預けた時点から10%下がって、次の日の契約終了時に元の値段に戻ったとしましょう。
二重資産マイニングを毎日契約していた場合、初日の契約終了時に返ってくるお金の評価額は、元のお金の
$${(1+0.007559)*\frac {1-0.1}{1}=0.9068 }$$倍です。
そして次の日の契約終了時に返ってくるお金の評価額は、元のお金の
$${0.9068*(1+0.007559)=0.9137 }$$倍です。
あら不思議!単にETHを保有していた場合資産は変わらないはずなのに、たったこの2回の契約で9%のお金を失いました!
というように、値段が下がった後に値段が戻るか上がる時にもらえるはずのお金の多くはbybitに没収されて利息分しか返してくれないため、あっという間に破産できるということなんですね。
ツイッターでの二重資産マイニングの評判が割れているのはなぜか?
ツイッターでの二重資産マイニングの評判を調べてみると、私コツコツ利益出ました派とやっぱ損しましたもう二度とやりません派がいます。これはなぜでしょうか。
利益が出た人は、契約した時にたまたまその仮想通貨が心停止していたか、上がったからだと推測します。
二重資産マイニングで戻ってくるお金の損益グラフは、リターン-1で与えられます。これを決済時点の価格の関数として表すと以下のようになります。
損益分岐点の決済時点の価格aは、
$${/frac {預けた時の価格}{1+利回り} }$$
で与えられます。
よって利回りが0.007559だとすると、aは0.9925*預けた時の価格となります。
これは、決済時点の価格が預けた時から0.75%以上下がらなければ利益が出ることを意味します。
なるほど、コツコツ利益出ましたという主張もうなずけます。しかしグラフが示すとおり、利回り以上の利益はありえません。一方損失の下限は利回り等で制限はされておらず、破産までありえるような構造です。コツコツドカンの構造ですね。
「単に現物保有した場合よりマシ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。では、現物保有と比較した場合はどうなるでしょうか。
二重資産マイニングのリターンから現物保有したときのリターン(決済時点の価格/預けた時の価格)を引いたグラフを、決済時点の価格の関数として図示してみると、以下のようになります。
損益分岐点の決済時点の価格a'は、
$${預けた時の価格*(1+利回り) }$$
で与えられます。
よって利回りが0.007559だとすると、aは1.007559*預けた時の価格となります。
これは、決済時点の価格が預けた時からたった0.75%以上上がってしまうと、現物保有より利益が出ないことを意味します。
仮想通貨が0.75%以上上がってしまう日なんていくらでもありますよね。そういう日の利益をbybitが享受している訳です。
だから、二重資産マイニングの期待値が1を下回っているのです。
コツコツ利益を出しているように見えて、実はその利益は価格が上がった時の利益の前借り、ピンハネであり、あたかもこの二重資産マイニングに契約することが賢い選択であるかのように見せているのです。
私には、複雑な契約をさせて、「なんだかよくわからないけどお得なのかなぁ」と思わせて、コツコツと利益が出るように演出して、お金をもぎ取ってるようにしか見えないです。
契約開始と同時にショート1倍と一緒に持てば、ノーリスクで儲かるのではという主張について
両建てしたところで、ノーリスクになりえないと思います。
このポジションの組み方で利益を出すためには、決済時点の価格が利回り*預けた時の価格を越すのであれば、ショートを精算し、越さないのであればショートを清算しない必要があります。
決済時点の価格を見てからショートを清算していては間に合わないので、実際には利回り*預けた時の価格を越した時点でショート1倍を清算。越した後、利回り*預けた時の価格を下回ったらショート1倍を建て直す。また越してしまったらショート1倍を清算。
というのを繰り返す必要があります。
しかし、これを損失なく行うのは限りなく難しいです。
例えば利回り*預けた時の価格が仮に$2500だとします。現在の価格が$2495で板が動き、$2501になりました。
もうこの時点で$2500でショートを清算出来なかったので損が出ています。失敗です。
逆指値ならいけると思う人がいるかもしれません。
では、初めに$2500に到達した瞬間にショートポジションの清算を$2500で注文していたとします。現在の価格が$2495で板が動き、$2501になりました。$2500に到達したので、逆指値注文によって、ショートポジションクローズの$2500買い注文が出されました。しかし、現在の価格は$2501なので約定しません。やはり失敗です。
少し待ったら$2500より価格が下回ってこの指値は約定したとしましょう。ですが、$2500より価格が下回ってしまったのならショートポジションを持たなくてはなりません。現在ショートポジションを精算してしまって持っていないので失敗です。
「価格が利回り*預けた時の価格に行かないうちに契約終了して、適当な利回りもらってショート清算すればいいじゃん」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、bybitのドキュメントにもあるとおり、ユーザ側から契約を途中終了することは不可能です。契約してしまったら最後、契約終了時刻まで契約は終わらないのです。
ということで、ショートと一緒に持ったとしてもまったくノーリスクにはなりえないです。
このポジションの持ち方をするのであれば、決済時点での価格が利回り*預けた時の価格以下になる想定で、投資すると思います。
しかし価格が下ることを想定するのであれば、0.75%以上下がった時点で単にショート1倍持つ方が利益が出てしまうので、このポジションの持ち方はあまりいい選択肢じゃないのではないでしょうか。
おわりに
あまりにもリターンがひどすぎてびっくりしました。1年複利で資産50分の1ですよ。仮にAPYが最大になったとしても資産20分の1です。単利で毎日回してもリターンの平均値が1を割っているので毎日お金が減り続けます。投資になっていないです。
先日1/31に二重資産マイニングのプロモーションメールが来ました。We're thrilled to announceとか書かれてますが、ワクワクしてるのは契約者から利益を掠め取るbybitだけです。
日本のどの取引所も"販売所"とかいう買うだけで1.5%近く損する闇サービスを扱ってたりします。"販売所"によって初心者をカモにしているのは決して正しいことではないと思いますが、販売所以外のサービスは基本まともだったりします。
だから、bybit全体がという話では決してないのですが、このサービスについては現状間違いなくリスクリターンが釣り合っていないひどいサービスだと私は確信しています。
APYが700%以上とかになってやっとリスクリターンが釣り合うかってところです。
結論として、このサービスを使うことはまったく推奨できません。
追記
巷では、もし二重資産マイニングで契約終了時に契約前の評価額以下のお金しか返ってこなかったら、ガチホに切り替えるタイプの二重資産マイニングの使い方があるようなので、そのリターンについてこちらで検証しました。
二重資産マイニングを使うことを断固として検討されている方はそちらもご覧ください。
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