根津甚八

俳優・根津甚八さんについての印象をまとめたものです。本当に魅力的な俳優さんなので、紹介の意味も込めて書きました。


現在、日曜の朝に絶賛再放送中の「黄金の日日」。見事に大ハマりしている。

「黄金の日日」とは、1978年の大河ドラマで、現・松本白鸚演じる助左衛門が呂宋(今のフィリピン)との交易を夢見ながら、やがて堺の町をめぐって秀吉・家康と対決をする話だ。

冒険活劇にエログロの表現を織り交ぜるながらも、毎回ワクワクする展開で視聴者を飽きさせない。今もファンが多い伝説の大河ドラマである。


毎週TLで感想や考察で盛り上がっているのを見るのは休日の楽しみだ。


見始めたきっかけは、根津甚八さん。助左の親友・石川五右衛門を演じて一躍スターになった。

根津さんは前年の大河ドラマアンコール「太平記」では新田義貞を萩原健一さんの代役として演じていた。
そんな義貞に魅せられ、気がつけば沼にハマっていた。(ちなみに北畠親房演じる近藤正臣さんにもハマるきっかけにもなってしまった。この方についても後日書こうと思う。近藤さんは「黄金の日日」では石田三成を演じている。つくづくどちらも恐ろしい大河である。) 


根津さんは、義貞のキャラクターを、源氏のプライドに悩み、勾当内侍に胸の内を告げ、見事結ばれ、最期は南朝に殉じた無骨な坂東武者をそのまま絵に描いたような形に仕上げた。



私の根津甚八さんの印象は

「言葉にするもどかしさを知ってお芝居をしている人」だ。


「黄金の日日」の石川五右衛門はもどかしい気持ちを抱えている。

自分が犯したモニカのことを後悔しながらも、見捨てられない。自分のせいで情欲へ突き落とされた女のことを、心のどこかでは元に戻ってほしいと願い、そして死に追いやってしまう。彼は最後まで彼女の幻影に悩まされることとなる。


無骨な坂東武者の新田義貞と、金のことには目がない大泥棒の石川五右衛門は、一見すると別のキャラクターに思える。


しかし、義貞もまた、もどかしい気持ちを抱えている。

宿敵の足利尊氏との出会い、源氏のプライド、互いの好敵手としての存在・・・自分の想いとは裏腹に周囲の状況はままならぬ、が、武士として正々堂々と生きていきたい。

そんな彼と、尊氏との一騎打ちのシーンがとても印象に残った。義貞の、言葉にはできない想いがお芝居を通して込み上げてくる。



奥様が書いた根津甚八さんの本を読むと、


自意識が強い子どもだったこと
小学生の頃にトイレにこもって一人芝居をしていたこと
他人との心理的な距離があったこと

などが書いてある。


また、「黄金の日日」の脚本・市川森一さんは根津さんのことを

「青春の痛々しさを感じさせる役者」
そしてそれは「青春の無常感や寂寥感」だとも表現している。


以前の記事で自分のことを書いたが、
青春とは、「痛いなぁ」「恥ずかしいなぁ」「馬鹿だったなぁ」「世間知らずだなぁ」という言葉とともにちくりと痛い感覚が蘇るものだと思っている。私の好きなアニメ作品の脚本家の黒田洋介さんも「青春は生ゴミのようなもの」と言っている。青春はキラキラしているものばかりではないのだ。


しかしそれは、未熟ゆえの自意識から引き起こされるもので、言葉足らずで人を傷つけることもある。また、大なり小なり、他人との距離感を測れない悩みは誰しも持っていると思う。


言葉にできないもどかしい想いを、根津甚八さんが、表現すると本当に絶品なのはこういうわけなのだ。


その想いを大人になっても抱えている、そのことが役の体温を感じさせ、より一層役を際立たせている。



「黄金の日日」で根津甚八に興味を持った方は、NHKドラマ「男たちの旅路」、映画「GONIN」「吉原炎上」「乱」を観るのをおすすめしたい。

きっと、もっと根津甚八を好きになれますよ。

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