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百合漫画総評001 - やがて君になる

はじめに

まぁ最初はこれでしょうねと。

概略

やがて君になる(1) (電撃コミックスNEXT)   仲谷 鳰 

作:仲谷鳰
既刊:8巻
連載雑誌(当時):月刊コミック電撃大王(KADOKAWA)

あらすじ

「わたしには、特別って気持ちがわからないんです」
 ある日、高校1年生の小糸侑は偶然、生徒会の先輩である七海燈子が告白される現場を目撃してしまう。
 燈子は告白を断る。
「ごめんね あなたとは付き合わない」
 すげない態度は見せず、相手を立てるように。
 その姿を見て、侑は相談を持ちかける。
「彼のことは好きです」
「でも」
「断ろうと思ってる」
 燈子は侑の手を握り、震える背中を押す。
「君はそのままでいいんだよ」
 その思いを胸に、侑はかつての彼女と同じように、告白を断る。
 しかし、燈子の手は、侑を放さない。
「――君のこと好きになりそう」

作中環境

基本環境:高校生
百合要素:ギャップ百合、劇中劇百合
辛い要素:C-

ポイント

全てがふたりのための舞台装置

作品に出てくる全ての要素が、二人の恋愛を引き立て、後押しするためにセッティングされている。これってなかなか難しくて、こういう物語でドラマを生み出すためによく引き起こされるのが「価値観の衝突」。極端な例だと男と女のように、「絶対にわかり合えないけど上手いことハマるとシナジーがやばい」という点で、過程を楽しませるための要素にもなるんだけど。
しかしながら、この衝突によって、読者は飢餓状態になってしまいがち。言い換えると、そこからの(逆転含めた)展開に救いを求めてしまうのです。
作中ではそれらを極力排除して、「寄り添う二人の間を邪魔するのは二人の心のみ」という挑戦を最後まで続けたのである。
槙くんはサイコパスじゃないよ。

「わからない」が「好き」に繋がるまでの成長譚

 小糸侑は恋が分からないので、告白された当初は( ゚Д゚)ハァ?となる。そりゃそうだ。展開上お分かりかと思うが、最終的に二人は幸せなキスをして終了するのである(それだと作中何度も終了している事になるが)。
 この期に及んで悲恋エンドなんてことになっていたら、燈子の心と一緒に読者達が有楽町線を真っ赤に染めてしまいそうだからいいのだ。(何で燈子が?と思う方は原作2巻を読もうね)
 畢竟するに、小糸侑がデレるまでの時間無制限金網電流爆破デスマッチみたいなものなのである。ひでぇ言い草だ。

最後に

 百合の素晴らしいところは「好き」をいかに言葉以外の要素(雰囲気、風景、表情)で伝えるか、という所に尽きる。
 日本特有の「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉や和歌短歌の三十一文字に代表される「物言わぬ文化」、同性同士という背徳感が生み出した事象とも言えるので、手放しで褒める事には若干の抵抗があるが、伝える事の多様性を開拓するためにも、この分野を途絶えさせてはならぬ、と常に思っている。


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