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アニロックスロールとは何か



1.フレキソ印刷のインキ転移システムにおけるアニロックスロール

アニロックスロールとはフレキソ印刷のインキ転移システムの一部を構成するロールのことです(図1)。

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図1 アニロックスロール(シリンダータイプ)

フレキソ印刷の代表的なインキ転移システムを図示すると図2のようになります。

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図2 フレキソ印刷の代表的なインキ転移システム

インキタンクからインキパン(①)に移されたインキは、まずゴム製のロール(ファウンテンロール(②))によって拾い上げられます。次にインキはファウンテンロールに接しているアニロックスロール(③)のセル(表面に彫刻された微細な無数のくぼみ)に拾われます。アニロックスロールの表面に付着したインキの内、ロール表面に付着した余分なインキはドクターブレード(④)と呼ばれる薄い刃によって掻き落とされ、セル内に残ったインキだけが版胴(⑤)に取り付けらた刷版(⑥)に転移します。刷版に転移したインキは最後に圧胴(⑦)との間に挟まれた被印刷体(⑧)に転移(印刷)されます。

インキ転移システムのもうひとつの代表例として、図2の①インキパン②ファウンテンロール④ドクターブレードをひとつにまとめた装置(チャンバー)を使用したものがあります(図3)。

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図3 チャンバーを使用したインキ転移システムの例

ここではインキはチャンバーと2枚のドクターブレードによって囲まれた内部空間へポンプによって送り込まれ、接しているアニロックスロールの表面にインキが転移されます。アニロックスロール表面の余分なインキがドクターブレードによって掻き取られる点は図2のシステムと同じです。

こうしたインキ転移システムのいずれにおいても、アニロックスロールの重要な役割は、刷版へ転移させるインキ量を正確にコントロールすることです。

2.アニロックスロールの役割

印刷においては意図した通りの印刷物を安定的に生産することが求められます。ここには多くの考慮すべき要素がありますが、インキの供給面について言うと、目的のインキ量を安定的に刷版へ供給・転移し続けることが必要となります。もしインキの量が当初の予定より多すぎたり少なすぎたりすると印刷結果も色が濃すぎたり薄すぎたりします。またインキの供給量が時間によって変化したり、印刷位置によって異なってしまうと安定的な印刷結果を得ることができません。そこでアニロックスロールの果たす役割は、

①インキの正確な計量                        ②均一で安定的な転移

と要約することができます。

①インキの正確な計量

インキメタリングロール(ink-metering roll、インキ計量ロール)とも呼ばれるアニロックスロールは、インキパンからファウンテンロールに拾い上げられたインキや、ポンプによってチャンバー内に送り込まれたインキから正確なインキ量を計量して刷版へ供給します。

アニロックスロールの表面には一定の容積を持たせたちいさなくぼみ(セル)が無数に彫刻されています(図4)。


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図4 アニロックスロールの表面の一部を検査カメラで撮影し、3Dモデル化したもの。図中のセルの口径は30μm、深さ20μm程度。

このひとつひとつのセルによってまずインキが汲み取られます。その後セルから表面に溢れた余分なインキをドクターブレードがかき取ります。丁度、計量カップに入れたお米をすり切るのに似ています(※)。こうして正確に計量されたインキは刷版へ転移されていきます。

※:お米の例と違うのは、セルに入ったインキのすべてがセルから出て転移されていくのではないという点です(詳細は後述)。

②均一で安定的な転移

アニロックスロール表面のセルは均一な形と均一なパターンで彫刻されています。彫刻が均一であればあるほど、印刷箇所によるムラが減少していきます。またロールに耐久性を持たせることで安定的なインキ転移を実現しています。

3.アニロックスロールの仕様

それではアニロックスロールの詳細な仕様、とくにセルに関連した仕様を見ていきましょう。代表的な項目に以下のものがあります。

線数(セルカウント、スクリーンカウント):アニロックスロールの表面に彫刻されたセルの、単位寸法あたりの個数を示しています。一般的には1インチ(25.4mm)あたりの数としてLPI(Line Per Inch)または1センチメートルあたりの数としてLPCM(Line Per Centi Meter)として表されます。例えば175LPIは1インチあたり175個のセルが、また300LPIは1インチあたり300個のセルが彫刻されていることを表します。

セル形状:セルそれぞれの形を表します。代表的なものとして、格子形(ダイヤモンド)、六角形(ハニカム)、拡張六角形(エロンゲード)などがあります。これらはセルのひとつひとつが壁に囲まれた閉じた形状をしているためクローズドセルとも呼ばれます。それに対して、ひとつひとつのセルが閉じていないものがあり、オープンセルと呼ばれます。オープンセルの代表的なものには斜線形(トライヘリカル)や波線形(スラローム)があります。セルの形状はインキの受容性や解放性を左右し、印刷の要求仕様に応じて選択されます。

セル容積:セルがインキを保持できる容量を意味します。一般的には㎤/㎡またはBCMで表されます。

※㎤/㎡は1平方メートルあたりの容量を立方センチメートルで表したもの 

※BCMはBCM/in²の略記で1平方インチあたりの容量を10億立方マイクロメートル(Billion Cubic Microns)で表したもの

セルはアニロックスロールの表面に規則的に彫刻されていること、また結果として刷版に一定量のインキ被膜を転移させることから、容積はひとつひとつのセルの容積ではなく、こうした単位面積あたりの容量として表されます。ただし、セルに保持されたインキ全てが刷版に転移するわけでなく、つまりセル容積がそのままインキ転移量とはならないことに注意する必要があります。ここではロール毎の転移率を考慮しなくはなりません(セル容積とインキ転移量の詳細な計算方法ついては下記の記事をご覧ください)。

セル深度とセル口径:セルの深さとセルの開口部の寸法を表します。一般的には同じ容積のセルでも、深度が浅く口径が広い方がインキ転移率が高かく、またインキ詰まりが起きにくく、一方で、深度が深く口径が狭い程インキ転移率が低くインキ詰まりが起きやすい傾向にあります。アニロックスメーカーは印刷用途や必要なセル容積に応じた最適なセルの深度と口径を提案することができます。

その他、アニロックスロールの機械的な仕様の代表的なものには以下のものがあります。

面長:アニロックスロール表面の端から端までの寸法です。

直径:アニロックスロールの直径です。

期待したとおりの印刷結果を得るためには、アニロックスロールの仕様を正しく選択することが必要不可欠です。仕様を決める場合には漠然とした感覚に頼るのではなく、製造図面を用いてメーカーやサプライヤーと相談しながら、印刷テストと数値に基づいて行うことが重要です。

アニロックスロールの仕様の正しい選択については下記の記事をご覧ください。


4.セルの彫刻方法

アニロックスロールのセルを形成する方法には彫刻機による彫刻、薬品による腐食、レーザーによる彫刻などがあります。以下ではそのうち代表的なものを紹介します。

機械彫刻

機械彫刻とは、彫刻機で鉄あるいは銅で覆われたシリンダーに強い圧力をかけ、シリンダーの表面の金属を浮き彫りにし、彫刻機の刃で穴を形成する方法です。アニロックスロールの素地にセルを形成したら腐食や摩耗が生じないよう、ニッケルの電気メッキを施して腐食への耐性を出し、クロムメッキによって耐久性を出します。元々アニロックスロールはこうした機械彫刻で製造されてきました。クロムメッキはインキの受容性と解放性がよいもの、ドクターブレードによる圧力に対しては十分な耐久性が得られず摩耗が早いという欠点がありました。耐久性を向上させる試みがこれまで多く行われてきましたが十分な結果は得られませんでした。

セラミックコーティング・アニロックスロール

セラミックコーティングはクロムメッキにかわる製造方法として開発されました。セラミックコーティングはプラズマコーティングシステムによって行われます。セラミックの粒子を非常に高い温度の下で溶解させ、燃焼させた高圧ガスによってシリンダー表面に吹き付けていきます。機械彫刻でセルを彫刻した後、従来のようなクロムメッキではなくセラミックをコーティングすることでより摩耗に強いロールが得られるようになりました。ただし、この方法は、製造できる線数の上限が200~220LPIに制限されている点に問題がありました。これより細かい線数のロールを製造しようとすると、セルにセラミック材がつまりセルの機能が失われてしまいます。

レーザー彫刻

そこで、さらに細かい線数のアニロックスロールを製造するために開発されたものがレーザー彫刻です。レーザー彫刻では、まずプラズマコーティングにより厚い酸化クロムセラミックの層で覆われたシリンダーをダイヤモンドホイールによる研磨加工で表面を滑らかにし、その後レーザービームを使ってセラミック層に直接セルを焼き付けていきます。セラミック材に酸化クロムが選ばれた理由は、インキの受容性と解放性がクロムメッキに近いためです。レーザー彫刻機により製造可能なセルカウントの上限は1000~1500LPIとなりました。またレーザー彫刻には柔軟性があり、同じセルカウントでもセル深度やセル容積を変えることができます。

いずれの彫刻方法においても刷版に転移するインキの量を正確に計量して、均一なインキ被膜を形成するいうアニロックスロールの機能を十分に果たすには、正確で均一なセルが彫刻されていること、用途に適した仕様を選択することが重要です。

参考資料:FLEXOGRAPHY: Principles & Practices 5th Edition, Foundation of Flexographic Technical Association, Inc., 1999

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弊社でもアニロックスロール・スリーブのお取り扱いがございます。

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