宇野維正先生考察 第九弾 TBSラジオ ACTION 2020/3/19放送ゲスト出演編

今回の宇野先生研究は2010sのプロモーションの意味も含めたラジオ出演からです。TBSラジオのちゃんとした放送なのでいつもより余所行きの宇野先生のため多くの方が期待してるような発言はありませんのでそういうのを期待してる方は読んでも時間の無駄だと思います。

今回はポップカルチャーを読み解くキーワードにそって話をしていました。


一つの目キーワードは

フィメールポップ

『割と日本ってサブカルとかサブカルチャーって言葉が一般的じゃないですか。僕なるべく書く物でも喋ることでもサブカルって言葉を使わないようにしていて。やっぱり何が違うと言うと社会とかつながりがポップカルチャーの肝であるんですよ。』
『2010年代の前半で言うと日本でも人気があったレディガガ、テイラースウィフト、ケイティペリー、リアーナ、アリアナグランデとかそこら辺のアーティストが出てきた時代で社会における女性の地位向上と密接にリンクしていた。』
『レディガガは女性だけじゃなくてLGBTQみたいなもののある種代弁者みたいな存在。彼女は自分のお客さんのことをリトルモンスターと呼びましたけどようするにどんなにみんな一人一人歪であっても良いと歪であることを肯定して歪な格好していたのに日本では歪さだけが取り上げられてしまって変わった人みたいな扱いだったがそうじゃなくて彼女は世界中の変わったティーンとかを勇気付けると言うメッセージをずっと発信して来た。』
『テイラースウィフトは向こうの言葉でシスターフッドと言うですけど女性同士の友情みたいな物、昔は女性の恋愛ソングは振られて悲しいみたいな物が多かったが彼女はそれを見返してやるみたいとか乗り越えてやるみたいなマインドの曲を出していた。』
『まさに2010年代前半は女性の時代だった。しかし後半になっていくとよりそれがエンパーメントではあるけど政治性を帯びてきた。いわゆるフィメールポップのポジティブなだけの時代は2010年代前半だけだったかな。』
『後半はラップやトラップの時代に変わっていった 。』

『ビリーアイリッシュはフィメールポップの時代の次のアーティスト。難しい言葉で言うとトラップネイティブ。生まれた時からラップと言うかトラップのビートが中心にあった。だから彼女自身はラッパーではないけどビートの感覚が新しい世代。』
『トラップは簡単に言うとアトランタを中心に生まれた新しいラップのスタイル。』
『それが中心になったことでラップ好きじゃない人もビートの感覚が変わった。ビートに歌を乗っけるフロアの感覚が変わった。』
『だからいまトラップ以前、以降でポップミュージックも耳から受ける感覚が変わった。』
『音楽的にはビリーアイリッシュはトラップ以降のフィメールポップの最初のスター。あとは何で言うんですか歌詞とかは非常にメンタルヘルスやゴスカルチャーみたいなダークな心の病みたいなものを反映したようなダークな世界みたいな物をポップとして歌ったと言うことが圧倒的に、特に同世代のティーンの女の子に支持されてる理由です。』
『お兄さんと作ってるんですよね。だからフィメールポップの時代ってマックスマーティンとか北欧出身のプロデューサーみたいな一つの曲に10人以上の作詞家、作曲家、プロデューサーが関わるみたいなそんな作り方だったのがビリーアイリッシュはパーソナルないものに音楽を引き戻したみたいなそんな存在でもある。 』

二つのキーワード 

**日本の音楽環境のガラパゴス化とSpotifyの上陸 **

『日本ではSpotifyの前にApple Music、LINE MUSIC、AWAとかストリーミング自体は2015年に上陸してきた。』
『しかし、なかなか日本では広まらなかった。それは日本のメジャーアーティストは参加してなかったから。近頃は星野源、サザンオールスターズ、ラルクとか入ってない人を探す方が難しい。aikoですら入ったんで。
ようやく2019年、2020年に日本でも浸透してきたがそれが世界より10年近く遅れた。その違いは大きい。』
『日本は利権ビジネスみたいな物がすごく強くてようは音楽業界がまだCDが辛うじて売れてるから売れてる限りはこの状態を保とうという業界団体というか業界の総意が強めに効いていたのが日本でストリーミングが浸透しなかった一番の理由でしょうね。』

羽田氏「日本がストリーミングに早めに動き出していたら日本がストリーミング業界をリードした可能性はあるのか?」

『いやー、ただSpotifyはスウェーデンでアメリカではないので。ただSpotify自体は2008年からで早かったので難しかったんじゃないか。あと日本は権利に対する考え方がとにかく守る守る守るだが、アメリカではいまコロナショックで劇場公開できない作品を配信で売っちゃおうみたいな。それは日本だと業界の団体が「いやいやそんな劇場が閉鎖されてるからって配信で売るな」ってなるけど向こうはワーナー、ユニバーサルみたいな大きな会社がとりあえず進めてしまう。権利に対する考え方とそこで横並びにならず行っちゃおうという企業の風土も全然違う。』

『いやなんかいま面白いのが日本でも配信とかの再生回数を含めたビルボードのチャートとか見ると半分ぐらいヒゲダン何ですよ。それって実はアメリカとかでも起きてたことで数年前は半分ぐらいdrakeみたいな。いまリルジバートってラッパーがビルボードの11位まで4曲はいってるんですけどそうやって一人のアーティストに人気が集中してしまう。去年もオールドタウンロードが19週間連続一位みたいな。そんなこといままでなかったんですけどストリーミングって良いことばかりではなく一人のアーティスト人気が集中しちゃうという状況を作りやすくなってしまった。また、メディアが力を失ってしまったからみんなが聴いている物を聴くということになっている。だからなかなか難しい。みんなが聴いてるdrakeにせよヒゲダンにせよ良い物なんですがだからといってこんなにみんなえっ!?チャートの半分がヒゲダンで良いの?って話ですよね。この状況は続くんじゃないかな?面白いことに日本はガラパゴスだったけど現象として起きていることは実は同じなんですよ。特定のアーティストに余りにも人気が集中してしまう。去年だとあいみょんもそうだけど。20年代どうなっていくかといえばまずこれを考えないと。必ずしも良いことばかりではないぞというところから考えないとな言う話でもある。』
『曲の力はかつてよりは上がっている。日本では曲も聴かないで握手券のためにCDを買うみたいなビジネスが日本では続いていた。いま逆に顔を知らないのに曲を聴くみたいな。定額料金以外にお金を払ってる訳ではないから。本当に聴かれてる曲がチャートに上がっている。曲は復権しているけどそれによって何が失われているのか。必ずしても良いことばかりではない。 』

キーワード

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**ネットフリックスがもたらしたテレビシリーズ黄金時代 **

『ネットフリックスより以前からHBOを筆頭とするアメリカのケーブル局が作るテレビシリーズがクオリティにおいてハリウッドのトップクラスの映画を凌駕するようになる。いろんな理由があるんですよ。リーマンショックが起きたのが2008年ぐらい。その頃に全米の脚本家のストが起こった。その時代にアメリカの映画業界の金回りが悪くなり人材の流出が起きた。コロナもまさにそうで曲面が変わるか?と言うところなんですけど。』
『テレビシリーズがクオリティ面で映画を超えてきた。そのきっかけがデビットフィンチャーとハウスオブカーズ、ケビンスペイシー。metooでいなくなっちゃいましたけど。そうトップ監督とトップ俳優を使ってテレビシリーズを作るのが向上化したのがネットフリックスがオリジナル作品を作り始めた時代。』
『実はネットフリックスは最近、株価が落ちてたりしている。ネットフリックスはSpotifyにも言えるが他のサービスをやってない。AppleはPC売ってiPhone売って、ディズニーは映画売ってランド売ってクルーズ船のビジネスをしている。AMAZONもそうですけど。他のストリーミングサービスを他のサービスに普及させる戦略ビジネスだがネットフリックスやSpotifyはそれしかやってない。それが全て。特にネットフリックスは自分で作品を作っている。そこでお客さんから貰った所謂サブスプリクションの料金を元でお金を借りて来て作品を作って言う所謂コンテンツを作って。コンテンツビジネスだけでやっている。だから僕なんかは応援したくなる。映画や音楽好きな人間からすると。あと若いお客さんが多い。日本だと300万人以上ネットフリックスに契約していて若いお客さんが多いと思うがそれ以上にアメリカはケーブルテレビ文化だったのでケーブルテレビを契約するのに結構お金がかかるんですよ。NBAとかNFLとかスポーツを見るのに結構お金払わないといけない。だけどネットフリックスは月額10ドルとかでタブレットでも見れる。ケーブルテレビ契約できない若い学生とかネットフリックスに契約してそういう所から広がった。見ていただけるとわかると思うんですけどストレンジャーシングスとか象徴される学園物とかSFとかホラーとかが多いんですよ。』
『重厚なドラマはHBOとかケーブルテレビの方が多い。』
『ネットフリックスに昔の作品がないのは音楽ストリーミングはビートルズとか過去の名盤も聴けるがネットフリックスは完全に歯抜け状態。あっても
それは再生回数が回らないと権利が保持できないから。でも、それで良いの?って問題は確かにあると思います。 』

キーワード

世界中を熱狂させたゲームオブスローンズ

『これは2019年5月に最終章が終わったんですけど、さっき言ったんですけど映画をテレビシリーズが超えたと言う作品でクオリティも製作費も映画より上。影響力も。それを象徴する作品。HBOといういまだとチェルノブイリとかウォッチメンとか作ってる。エミー賞とかゴールデングローブ賞とかだとネットフリックスと双璧。出してる作品のクオリティだと。そこの長年看板ドラマ。』
『映画だとマーベルに近いがファンタジーで延々続く長いという。それによってその時代に起きていることやどんどん盛り込んでいく。それがリアリズムの映画だとそれの再現性を求められるけど、これだけ大きな変化をして時代にリアリズムで描くよりもむしろファンタジーの枠組みの中で長い期間に渡って。例えばブラックライブズマターであるとかそういう社会の大きな動きを取り込んでいって延々と物語を進めていくというスタイル一番の人気コンテンツになったというのが2010年代の特徴なんですよ。』
『よく言われてるのがゲームオブスローンズが流行らないのは日本と北朝鮮だけだと言われてますね。』
『中国でも見れてるはず。』
『映画でもゲームオブスローンズで人気の役者がいきなり主役に抜擢されることが多くなっている。』

『映画だけ見てるなんでこの人主役なの?と思ってしまう。ゲースロで人気があるからなのに。』
『これを見てないと映画界で起こっている事も分からなくなる。』
『僕もコスチューム劇は苦手なんで途中何度も挫折しそうになったが途中からこれはアメリカを象徴してるんだとかこれはカナダを象徴してるんだとかそういうことが見えてくるとこれは時代劇ではないんだとかしかも原作も人も書いているし同時代の物語なんですよ。』
『テレビシリーズの場合一番の問題は人気が出過ぎるとギャラの交渉に入る。すると役者が集まらなくなる。だってみんなそのテレビシリーズに恩はあっても新しいキャラをやりたいじゃないですか。で、これを続けるならもっとギャラをくれとなる。監督や制作スタッフもそうだが。そうやって続けると製作費がどんどん膨れ上がってきて終わるパターンが多いからテレビシリーズは数年前からここで終わりと決めるパターンが多い。ゲームオブスローンズはまさにそうでシーズン7とシーズン8はかなり駆け足。それで最終章とかは批判もされたんですけど。だから良く言う延々続くんでしょ?という人には終わった物から見れば大丈夫。 』

『まさに今のコロナショックで2020年代の映画は全く分からなくなった。ただ2010sにも書いたがこれからは劇場公開と同じタイミングでビデオオンデマンドで観れるようなるだろうと思っていたが実際に既にそうなってしまった。』
『アメリカでは新作映画がそうなっているがどんどん加速していくだろう。映画とテレビで見るものの境界がなくなっていくと言う流れになっていくと思う。』
『中国とかインドの映画市場が大きくなったことでどうしても映画がわかりやすいものとかシリーズ物に偏っていった。そうなるともっとシリアスなフィクション作りたい人は映画じゃないもの、テレビシリーズに流れていった流れがあります。』


【総評】

完全に余所行きで口調も基本的には丁寧でかなり普段の宇野先生を抑えた宇野先生のため炎上しそうな発言はありませんが言葉の節々に宇野先生得意の『日本終わってる論』が顔を見せます。

宇野先生が他の媒体でも良く話すことがほとんどなので宇野先生ウォッチャーには物足りませんでした。「あっ、聞いた事ある話だ~」って感じですね。しかし、宇野先生が主に主張する内容が分かりやすくまとめてあるので宇野先生的価値観の入門編としては良い回だと思います。

良くネットで「なんで宇野維正にこんなに映画や音楽の仕事を出すの?」的な話がありますがこういうラジオ出演を見ると『TPOを合わせて話す内容を変えているから』が答えな気がします。

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