映画「梅艷芳Anita Mui」と共にアジアを代表する女性歌手の一生を振り返る
香港・大陸で話題の、映画「梅艷芳Anita Mui」が大阪アジアン映画祭で公開されていたので大阪遠征し、黄金世代の歴史を勉強しに行ってきました。90年代後半生まれの私にとっては知らないことが多いので、映画を見る前に予告動画から予想される彼女の曲を振り返ったり、日本の大スターとの恋愛を振り返ったり、映画で重要になってくる「父」との関係を調べてから映画館へ。本科時代に広東語の授業で映画をたくさん見てくる宿題があったのですが、それも今思うとやっておいてよかったなと。
さて、映画館に着くと周りは自分よりも一回り二回り上の世代の方、もしくは香港人ばかりで、私のような20代前半の方はほとんどいませんでした。みなさんが昔の思い出話に花を咲かせる中、少しアウェーに感じつつも上演開始。日本の名曲が香港の昔ながらの街並みに流れ、劇場の人たちは過去の香港へタイムループ。ここから一気に映画に引き込まれ、Anitaの親友の登場シーンから周りの人たちと共に涙し、気づいたら映画は終わっていました。帰りに大学の恩師いるかなー(先生は香港音楽大好きなので)と探していたらたまたま後輩と出会い(00後世代)感想を聞いたところ、彼女の人生は知らなかったがそれでも感動だったとのこと。あれはどんな人が見ても泣ける映画だと思います。
映画振り返り
新秀歌唱大賽で優勝
香港の新人登竜門「新秀歌唱大賽」の第一回大会(1982)に出場、「風的季節」でグランプリを受賞し18歳でデビューして以来、トップシンガーとして香港歌壇に君臨。
原曲は1981年にリリースされた徐小鳳Paula Tsuiの代表曲である《風的季節》。映画でも「男っぽくて太い声」と言っていましたが、この曲は、彼女の声・魅力を十分に表現することができるベストなチョイスだと感じます。この歌を聴いて、大衆からは「小徐小鳳」と親しまれるように。
レスリーチャンとアニタの関係性
《胭脂扣・ルージュ》アニタはレスリーの共演者という位置づけで日本では広く知られていますが、ルージュの主演はどちらかというとアニタで、そのパートナーとして選ばれた・推薦されたのがレスリー。個人的には、アヘンを吸うシーン・上から見下ろす目線・あのダメダメな人間の表現などが好きです、二人の魅力たっぷりな映画ですね。 梅艷芳Anita Mui《胭脂扣》
あれだけ仲が良ければ(キスもしているし、冗談も言い合う仲)、親友の関係から発展して恋人にならないのかという大衆の期待もあったはず。二人の関係を言い表すと親友を超えた「似家人一様的好朋友」。映画でもお互いのコンサートのゲストで出たりする話を面白く取り上げられていました。
梅「一路過來很多人問我,怎麽沒有請特別嘉賓,我當然是留到今晚再請出呀,我的特別嘉賓,也是我生命中、娛樂圈中唯一的好朋友。」「我們是自家人」
私は二人のステージですとこれが好きです、冰山大火という曲ですが、原曲は山口百恵の《ロックンロールウィドウ》。二人だけでこんなホットなステージを作ってしまいそれに引き込まれます、それにちょっと和むような踊りもあったりと魅力たっぷり。アニタファン・レスリファンという知り合いはいないのでわかりませんが伝説的なステージなのではないでしょうか。
また親友に心配をかけたくないからレスリーはうつ状態であること、アニタは子宮がんにかかって先が長くないことを伝えなかったそうです。そんな状態であるにも関わらず、コンサートにもゲストとして姿を見せたり。2003年4月1日張國榮 、12月30日 梅艷芳、同じ年に香港の宝を失うことに。
詳しい方教えてください!!!
かつてアニタはレスリーにふざけて(酔って?)「如果我到了四十歲還沒嫁出去,你就娶我好嗎?」と聞いたことがあるみたいなのですが、これに対して返答をしなかった、もしくは「你癡線咖(きれいな言葉ではないが、あほかみたいなニュアンス?)」とふざけて答えたとも言われています。3年前くらいに調べたネタなのですが今調べてみるともう残っておらず・・・URL残しておくべきでした(´;ω;`)
日本のトップスターとの恋愛
予告でも、日本人男性との恋の話がありました。役名は伏せられていましたが、香港では有名な恋愛ですのでその話を。相手は日本人の近藤真彦と言われています。映画の内容通りだったんだと感じるインタビューが一番上のビデオ、そしてクズと語られる理由が下のビデオ。
夢伴ー近藤真彦《夢絆(きずな)》
J-POPがアジアを席巻した背景もあり、日本でも一番人気だった彼は中華圏でも人気でしたが、香港の歌姫との話のあとにこういった話が取り上げられ始めてからマッキーのことをくず男(渣男)認定し始めました。中森明菜さんと付き合っているのに別れたと言ってアニタと付き合っていたということですね。そして会話は英語と日本語のみでコミュニケーションを取っていたそうで(マッキーのインタビュー)彼女の母国語は話さなかったそう。こういった点から好きな人の言語くらい学習しろという声も(笑)
ですが、実は情が厚い人だということをすべてが終わった後に知ったと劉培基がコメントしているように、ガン末期の頃治療を延期してまで日本に行き彼に会い、そして彼女の死後はちゃんと香港に何度も会いに来たそう。今でもクズのイメージがあるのかはわかりませんが。
近藤真彦《夕焼けの歌》のカバー曲
ヒットした曲は何度もこするのがカバー曲あるある、夕焼けの歌のカバーは有名なのですとこんな曲があります。
彭羚 Cass Phang《Love Divine》
李翊君《風中的承諾》
陳慧嫻《千千闋歌》
黃乙玲《天知地知》
王建傑《思念你的心情》
王識賢《老鹰》
張智霖/許秋怡《夢斷》
とくに、陳百強《一生何求》關淑怡《難得有情人》Beyond《真的愛你》張學友《夕陽醉了》王傑《誰明浪子心》李克勤《一生不變》張國榮《由零開始》林憶蓮《依然》などと同年に、梅艷芳と陳慧嫻が同じカバー曲で十首金曲に選ばれていて、そしてまさかの同じ舞台で披露しているので見てほしい。この年はレベル高すぎる・・・・
逝去的愛(欧阳菲菲Love is over・甄妮《再度孤獨》・葉麗儀《情盡於此》)なんかもカバーがたくさん存在する典型例
劉培基との関係
これも映画のポイントでしたね、「父」というフレーズが全体を通して非常に重要なポイントになってきますので、映画の前にこのインタビューを見て正解でした。
舞台と結婚したアニタ
多くの香港歌手が伝説的なステージと語る最後の「告別演唱會」
劉培基はインタビューでこれまで生み出してきた衣装の中でも最高傑作であると語った。新郎のいない少し不思議なウエディングドレスだが、これが最後(死を悟りさよならを告げるライブ)であることが分かっていたので、美しくないドレスを作るわけにはいかない。こだわったのは下を向いた時に顔が半分ほど隠れる設計、これは普通なら新郎がめくるが新郎がいないためそうしたとのこと。とにかくこの衣装には「父」である劉培基の心血すべてが注がれている。
https://www.youtube.com/watch?v=5ts6mZycRUY
前述した「夕陽之歌」の歌詞について
《夕陽之歌》は日本の楽曲を梅艷芳がカバーしたもので、夕焼けはきれいだが美しい瞬間を逃すと(つまりタイミングを逃してしまうと)すぐに黃昏(日没直後)となり、そして暗くなってしまうという意味が込められている。美しい夕焼けは眺めていると長いようで非常に短い時間であることはみなさんも経験したことがあるかもしれない。これは、夕日は美しいが儚いものとしても捉えられてきた詩などに由来する感覚であると思う。陳奕迅Eason Chanの《夕陽無限好》《只是近黄昏》に詳しい人なら理解しやすいかもしれない。
李商隱[登樂遊原]
向晩意不適,驅車登古原
夕陽無限好,只是近黄昏
最後のウエディングドレスを着たライブでは、迷っているうちに結婚適齢期を逃してしまい、30歳で結婚しようと思っていたら気づいたら40となってしまった(そして結婚できずもう死んでしまうのを分かっている)。最後にこの曲を選んだのは彼女のさまざまな思いが込められているのだろう。それはこの曲を歌った初恋のことかもしれないし、結婚できなかったからかもしれないし、それでもファンと舞台と一生いれて嬉しいと思っているのかもしれない。この曲にはいろいろ意味が込められていると発言しているのでこういった思いがあるのではないでしょうか。
香港的女儿
映画でも中国返還、SARSの蔓延、レスリーチャンの自殺など、暗いテーマが取り上げられていましたが、そのたびに活動を行い香港に元気を与え続けたアニタ、特に後輩に対する優しさなども取り上げられていて、そんな彼女の人柄をくみ、若い世代をたくさん出演させたのではないでしょうか。あれこんな人も出てたのというのがあったので、もう一度見返したい。
我們拍傳片,應該盡量用香港新演員,去介紹給香港觀眾常常說
「香港不夠演員」或者「沒有給新人機會」
最後に
私は彼女の世代ではないので、大学で中国語を専攻するまでは知る機会が一切なかった。当時の映像や資料からしか彼女のことを知ることしかできないので、ゆがんだ像であるのかもしれない。私は彼女が強くてみんなのあこがれである女性であるとこれまで捉えていたが、映画を見ると気さく、後輩思いで、情に厚い、でも実は弱い部分もあり、ある種普通の女性なんだということがわかりました(もちろんこの認識も今後新たな情報がインプットされれば変わるかもしれない)。自身の世代ではない伝説的な歌手をこの際知ることができて非常に良かったと思う。
アルバム
当時は一家に一枚レコードとまで親しまれた香港の女性歌手。今では日本歌手との関係、CityPopの文脈、アジアでの大スターといったいろいろな文脈で語られることもありレコード、CDはなかなか手に入らなくなっています。日本プレスのCD、香港のレコードは余裕で一万円を超えてきますよね。
1stアルバム「心債」
1stアルバムはこう見ると日本の歌謡曲カバーが1/3と多めですね、デビュー作は馴染みやすい曲調が多く、彼女の大きな魅力である妖艶さや反逆心はこのアルバムには反映されていない。日本有「山口百恵」、台湾有「テレサテン」、香港有「アニタ・ムイ」という評価もこれ以降されていくこととなる。
情愛火花ー和田現子《見えない世界》
一生為你癡
日夜懷念我ー山口百惠《I Came From 橫須賀》
莫問起ー山口百恵《放課後》
不必想我ー山口百恵《イミテイション・ゴールド》
B面(林利/胡渭康/蔣慶龍)
問你
件星行
流螢ー谷村新司
心內語
始終怕講
蔣慶龍ー西岡恭蔵
過河田雞
2ndアルバム《赤色梅艷芳》1983
前作は小虎隊と半々だったが「心債」の成功を受け初の個人アルバムリリースを積極的に支持、そして幸運なことに、大物の「黎小田」が制作担当に加わり、初の個人アルバムで5白金(50000枚×5=250,000枚)の大成功を収める。父であり親友であるような「劉培基」と出会い、これまでになかったスタイルを確立させ、従来の女性像をぶっ壊し注目を浴び始める。1stでは大人しめな淑女の印象もあるが、このアルバムは成熟したかっこいい女性と大きな転換を果たしている。
赤的疑惑ー山口百恵《ありがとう あなた》、《赤的疑惑》主題曲
迎風上路ー鈴木武誌
珍珠指環的約誓
再共舞
不必想昨天
赤的沖擊ー山口百恵《赤い沖擊》、《赤的沖擊》主題曲
交出我的心(《唇をうばう前に》で日本デビュー)ー《警花出更》主題曲
殘月碎春風
一個字ー榊原郁恵《シークレット》
相逢未晚ー榊原郁恵《おだやかな時》
傳說ー石川まなみ《まほろば伝說》、《千年女王》插曲
千年女王ー高梨雅樹《コスモス・ドリーム》、《千年女王》主題曲
3rd《飛躍舞臺》
留住你今晚
飛躍舞臺-《五虎將》主題曲
寂寞的心
獨愛荊途
不信愛有罪-萩田光雄 《なんとなく幸せ》、粵語版《愛沒有罪》
他令我改變-《五虎將》插曲
逝去的愛-歐陽菲菲《Love Is Over/逝去的愛》甄妮《再度孤獨》葉麗儀《情盡於此》
不許再回頭-萩田光雄 《白い花嫁》
莫逃避
發電一千Vol-堀內孝雄《君のひとみは10000ボルト》
點起你欲望
今晚記住我
4th《梅艷芳(似水流年)》
夢幻的擁抱-George Michael 《Careless Whisper》-甄妮的《忍痛說謊》/蔡國權《無心快語》
蔓珠莎華(國/粤)-山口百恵 《曼珠沙華》、羅文《淡淡的小野花》
似水流年-喜多郎 《歓喜Delight》-電影《似水流年》主題曲
人在風裏(國/粤)-電影《歌舞升平》插曲
問一問你
歌衫淚影(國/粤)-TVB電視劇《香江花月夜》主題曲
紗籠女郎-《香江花月夜》
一點相思-《香江花月夜》
舊歡如夢-《香江花月夜》
覓愛重重-《香江花月夜》
多少柔情-《香江花月夜》
5th「壞女孩」
壞女孩-Sheena Easton 《Strut》
夢伴ー近藤真彦《夢絆(きずな)》
不了情-顧媚《不了情》
抱你十個世紀-Madonna 《Crazy for You》
魅力的散發-近藤真彦《情熱 熱風 せれなーで》
倆心未變
冰山大火-山口百恵《ロックンロールウィドウ》
顛多一千晚-《一千個夜晚》-近藤真彦《男が泣く女が泣く》
喚回快樂的我-《喚回快樂的我》
點都要愛-Madonna《Into the Groove》
孤身走我路-山口百恵 《This is my Trial (私の試練)》
6th「妖女」
1986年10月23日
全碟歌曲和音部分由草蜢仔(當時的草蜢)伴唱
妖女 -Ann Lewis《立ちっぱなしのBad Boy》
來來星屑港-近藤真彦《来来星屑港》
痴痴愛一次(電影《一屋兩妻》主題曲)
Crazy Love-Ann Lewis《遊女のCrazy Love》
征服他(電影《花心夢裡人》插曲)
將冰山劈開(許志安和唱) -Sandra《In The Heat Of The Night》-張德蘭《夜之熱力》
愛將 -《何必在意》-近藤真彦《大將》
緋聞中的女人-近藤真彦《夏の日の少年》
某一天
唯一伴侶(電影《夜之女》主題曲)
7th「蔓珠莎華」国語版
夢伴-粵《夢伴》
蔓珠莎華-粵《蔓珠莎華》
壞女孩(粵語)
歌衫淚影-粵《歌衫淚影》
不了情-原唱顧媚
人在風裡-粵《人在風裡》
一千個夜晚-粵《顛多一千晚》
孤身走我路(粵語)
喚回快樂的我-粵《喚回快樂的我》
冰山大火(粵語)
愛沒有罪 -日《なんとなく幸せ》-粵《不信愛有罪》
夢伴(粵語)
8th《似火探戈》
マッチの曲がたくさんあるこのアルバムですが、三角関係で恋敵の明菜ちゃんを意識したものは、タンゴノワールに対抗した「似火探戈」、飾りじゃないのよ涙はを意訳した「裝飾的眼淚」など。本人の曲までカバーしちゃってます。
序曲 將我送給你-近藤真彦《月のしずくのラヴ・レター》
Oh No! Oh Yes-中森明菜《Oh No, Oh Yes!》
百變-國《獨飲夜色》-近藤真彦《Heartbeat》
心魔
無淚之女
黑色婚紗-Ann Lewis《Samishisa's On My Mind》
似火探戈-國《冷漠的理由》
裝飾的眼淚-國《冬眠的愛情》-中森明菜《驛駅》(竹内まりやのセルフカバー版ではなさそう)
放鬆-鍾鎮濤《魅幻》
反覆的愛
珍惜再會時-The Manhattans《Kiss and Say Goodbye》
妄想 -近藤真彦《Heartbeat》
9th《烈燄紅唇》
今ではCityPopの文脈で大人気のPlastic Loveだが、この時からこの曲に着目していたアニタ
烈燄紅唇(電影《精裝追女仔2》主题曲) -國《烈焰紅唇》
傷心教堂-Ann Lewis《Four Seasons》
她的前半生
魅力在天橋
孤單
暫停厭倦-井上大輔-秋山絵美《太陽のアラベスク》
回復真我
假如我是男人(電影《花心夢裡人》插曲)
我肯(許志安合唱 電影《花心夢裡人》插曲)
尋愛 -國《找愛的人》-竹內まりや《Plastic Love》-蔡一傑《獨行派對》
胭脂扣(同名電影主題曲)-國《胭脂扣》
最後一次
アニタはレスリーの共演者という位置づけで日本では広く知られていますが、ルージュの主演はアニタで、そのパートナーとして選ばれた・推薦されたのがレスリー。個人的には、アヘンを吸うシーン・上から見下ろす目線・あのダメダメな人間の表現などが好きで、二人の魅力たっぷりな映画ですね。 梅艷芳Anita Mui《胭脂扣》
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