見出し画像

Kennys Vargas

0.はじめに
千葉ロッテマリーンズの19年シーズンが楽しみになる逸材がNPBに加わりました。ケニス•バルガス(28)。196cm125kgの巨体を誇るプエルトリコ出身の両打ちのヘビーヒッターであり、デビッド•オルティーズになぞらえリトル•パピの愛称をもつMINの元プロスペクトです。私のTwitter(NPB外国人選手好きのtweet)をフォローしていただいている方には、馴染みの深い選手で、おそらく殆どの方が知っていただいていたのではないかと思います。
そんなバルガスについて、改めて彼という選手を詳細に分析し、オープン戦から開幕にかけて、ファンの皆様の予習材料になるような記事を書きたいと思いました。長文になりますが、お付き合いいただければ幸いです。

1.stats
09年にプロ入り、14年にはMLBデビューを果たし、.274 9HR 38RBI OPS.772とデビューイヤーにまずまずの数字を残しました。しかし、その後は、課題である低打率・高三振率(K%)を打開できず、MLBとAAAを行き来する年が3シーズン続き、18年は遂にAAAで一年を過ごす形となりました。
バルガスといえば、その圧倒的なパワーツールが彼の最大の魅力ですが、意外にもキャリアでHRを量産したというシーズンは一度もありません。それこそキャリアハイが18年の21HRであり、これがキャリア初の20HR超えでもありました。このように、圧倒的なパワーを持つものの、MLB通算29.2K%・AAA通算24.2K%の粗さも相まって、その力を最大限に再現することができなかったことがMLBで成功できなかった一番の原因と言えそうです。

2.球種別成績
まずは、球種別の簡単な成績を、左打席と右打席に分けて確認していきましょう。

2-1.左打席
ファストボールには強く、オフスピードボールにはなんとかついていけている一方で、ブレーキングボールには弱さを見せています。特にカーブはすべてのシーズンで打率1割台、空振り率も通算45.0%と粗さが際立っています。スライダーも通算で.193、空振り率36.7%と苦手としていますが、17年には.294と上昇の気配を見せました。得意としているファストボールについても、2シームには圧倒的な強さを見せる一方で、4シームはシーズン毎の成績の振れ幅が大きく、空振り率も高いため、綺麗な真っ直ぐには意外にも振り負ける一面もあるようです。
ただし、どの球種からも一定水準で長打を放つことはできており、苦手なブレーキングボールからも長打力が発揮できている点は、彼に求める役割を考えればプラス材料と言えるでしょう。

2-2.右打席
左打席同様にファストボールには強いものの、異なるのは綺麗な4シームに強く、動く2シームに弱いという点です。この点は左打席とは真逆の傾向が出ています。
変化球は左打席同様にブレーキングボールに滅法弱く、チェンジアップには高いアベレージが残っています。特にスライダーは通算.140、空振り率50.0%超えと際立って低い数字が残っており、カーブも含めてバットに当たる確率が低く、加えて左打席とは異なり長打が殆ど期待できない数字が残っています。一方でチェンジアップには強く、通算.317で長打力もまずまず発揮できています。

3.球種別のアプローチ
通常は一括でPlate Disciplineを検証していますが、今回はバルガスがスイッチヒッターであること、球種別の差を明確化したいことから、より詳細なバージョンとして左右別で、さらに球種別を加えた詳細なPlate Disciplineを検証していきます。
O-Swing%:ボール球スイング率
Z-Swing%:ストライクゾーンスイング率
O-Contact%:ボール球コンタクト率
Z-Contact%:ストライクゾーンコンタクト率

3-1.左打席

・ファストボール(速球系)
見極め・コンタクト率ともに最も対応が良く、ボールゾーンには多くは手を出さず、またゾーン内外を問わずコンタクト率にはまずまずの数字が残っています。

・ブレーキングボール(スライダー、カーブ系)
ボール球コンタクト率に最も悪い数字が残っており、最も脆さを感じます。

・オフスピードボール(チェンジアップ、スプリット系)
ゾーン内外を問わず最も積極的に振りにいく傾向があり、ボールゾーンの見極めが最も悪く、50%弱でボール球に手を出してしまう脆さがあります。コンタクト率についてはゾーン内はブレーキングボールと同等程度、ゾーン外はブレーキングボール以上ファストボール未満の数字が出ています。

左打席のPlate Disciplineについて、球種別に近年の左の外国人パワーヒッター(ペゲーロ、アルシア、パラデス、ギャレット)との比較をグラフに纏めました。
※打席数が少なく極端な数字が出ているものを含みます。こういった極値は排除して閲覧ください。

❶ファストボール
他の外国人と比較してもストライクゾーン内のコンタクト率は良い結果が出ています。18年シーズン、高め付近の速球に振り負けたシーンが散見されたペゲーロやアルシアらと比較すれば、ポジティブな数字が出ていると言えそうです。
またボール球のスイング率も最も手を出さない傾向にあり、速い球そのものに大きく苦しむケースは想定し辛い結果が出ています。

❷ブレーキングボール
バルガスの最も苦手とするブレーキングボールについて、ストライクゾーン内のコンタクト率は低水準であり、パラデスの明らかな最低値と比較すれば良い数字が残っているものの、アルシアやギャレットと比較するとやや下回る数字が残っています。
一方でボール球の対応ですが、ボール球スイング率は、概ねギャレットと同等程度、ペゲーロやパラデスよりは遥かに良い数字、アルシアよりやや良い数字が残っています。
ブレーキングボールのボール球見極めはプラス材料な一方で、課題はボール球のコンタクト率です。シーズンによってばらつきはありますが、あくまで14-16年に限定すれば、ペゲーロ、アルシア、パラデス、ギャレットとどっこいどっこいであり、これは左の外国人スラッガー共通の宿命の試練としてバルガスにも立ちはだかることになりそうです。
ブレーキングボールについては、ボール球の見極めについては過去の助っ人比では優れているものの、ゾーンの内外を問わずコンタクト力に課題があり、状態が悪い時には淡白な三振が増えることも予想されます。

❸オフスピードボール
オフスピードボールのゾーン内コンタクト率の低さはパラデスが際立っており、他の4選手はどっこいどっこいですが、バルガスの数値は決して悪くはありません。
ボール球については、スイング率はゾーン内コンタクト率と同様にパラデスの悪い数字が際立っており、バルガスはアルシアと同等程度となっています。一方で、ボール球のコンタクト率は、極端に低いペゲーロ程ではないものの、パラデスと同等程度の数字が残っています。

3-2.右打席

・ファストボール
左打席同様に、見極め・コンタクト率ともに最も対応が良い数字が残っています。

・ブレーキングボール
ボール球のコンタクト率に壊滅的に悪い数字が残っています。左打席では最も低い数字が残っていましたが、右打席はそれ以上に脆さを感じます。

・オフスピードボール
ブレーキングボール同様、ボール球のコンタクト率に悪い数字が残っており、左打席以上に脆さを感じます。

右打席のPlate Disciplineについて、球種別に近年の右の外国人ヒッター(ゲレーロ、ドミンゲス、パラデス、マギー、ロサリオ)との比較をグラフに纏めました。
※打席数が少なく極端な数字(ex.14年ゲレーロ)が出ているものを含みます。こういった極値は排除して閲覧ください。

❶ファストボール
ボール球の見極めには優れているものの、コンタクトにやや課題を抱えています。ストライクゾーン内では、ゲレーロには上回るものの、その他のドミンゲス、パラデス、マギー、ロサリオと比較すると悪い数字が残っています。

❷ブレーキングボール
ストライクゾーン内のコンタクト率は、パラデスよりは良く、マギーと同等程度の数字が残っています。
ボール球の見極めは、パラデスやゲレーロよりは優れているものの、マギーよりは遥かに劣っており、シーズン毎にばらつきはあるものの、ドミンゲスやロサリオと同等程度の数字が残っています。
ただし、ボール球のコンタクト率は、他の外国人選手と比較しても極めて低い数字が残っています。

❸オフスピードボール
ストライクゾーン内のコンタクト率については、パラデスよりは良い数字を残しており、シーズンによってはマギーやロサリオより良い数字を残していますが、ドミンゲスよりは悪い数字が残っています。
ボール球の見極めについては、パラデスとゲレーロ以上、ロサリオとマギー以下で、ドミンゲスと同等程度の数字が残っています。
ただし、やはりボール球のコンタクト率は課題であり、パラデスと同等程度の悪い数字が残っています。


4.コース別対応
次に、コース別の対応を球種毎に確認していきます。
今回は「打率」「スイング率」「空振り率」の3視点から、直近4年(14〜17年)のデータを各コースの1マスに詰め込んでいます。コースはストライクゾーンを9分割、ボールゾーンを16分割の、25分割で再現しています。
基本的には、オレンジの着色が得意なゾーン、青の着色が苦手なゾーンをイメージしており、色の濃淡によってその度合いを示しています。例えば、打率のオレンジゾーンでは色が濃いほど長打が出る、空振り率の青ゾーンでは色が濃いほど空振り率が高いといった具合です。


4-1.左打席
❶ファストボール
3章までの話の通り、速球系には強いです。
特にローボールには長打のツボがあり、アウトローでも踏み込んで長打を打てます。ボール球でも、体に近いローボールとアウトコースについては踏み込んでヒットゾーンに運ぶことも散見されるため、セオリー通りに低めに低めに、外に外にと配球すると手痛い一撃を浴びるリスクが高いと言えそうです。
一方で高めの速球には窮屈さが垣間見えており、インハイもですが特にアウトハイ付近では高い空振り率が見えており振り遅れる傾向が強いようです。

❷スライダー
3章までの話の通り、スライダーには弱く、インサイドに食い込んでくる、また低めに落ちる軌道を苦手としており、ボール球の見極め・コンタクト率ともに低水準な数値が残っています。
真ん中低めに甘く入ってきたスライダー、バックドアスライダーにはついていけそうな数字は残っています。

❸カーブ
全体的に真ん中〜アウトコース寄りにかけてヒット・長打が集中しています。
ストライクゾーンから低めのボールゾーンに落ちるボールの見極めには悪い数字が残っており、ボール球のコンタクト率も低水準です。

❹オフスピードボール
ローボールを中心にヒット・長打が出るものの、高低のボール球に限らず、左右のボール球にも振り回してしまう傾向があり、またその空振り率も高いといった、紙一重な側面を強く併せ持っています。
基本的には脆さがある一方で、出会い頭の長打があるというのが近い表現なように感じます。

4.2右打席
❶ファストボール
左打席同様に、ローボールかつインサイド寄りにツボを持っており、アベレージ・長打ともにこのゾーン近辺から高い数字を弾いています。
しかし気がかりなのは、その得意なゾーンから少し右に逸れたインサイドのボール球の対応です。
インサイドのボール球のスイング率に極めて高い数字が残っており、得意なゾーンとの見極めがあまりできていないことが分かります。図には示していませんが、このインサイドのボール球からは約69%の高いゴロ率が残っています。
すなわち、インサイドは、ゾーン内でツボに入ってくれば長打にする力がある一方で、ボール球にしっかり投げ切ることができれば、高確率でスイングし、ファウルor凡打がとれるという、紙一重な側面を持っているということです。
また左打席以上にハイボールのファストボールには窮屈で、このゾーンから長打を放ったことはMLBのキャリアでは一度もありません。映像でみてもインパクト時にグリップが下がりますので、運ぶスイング軌道からしても致し方のない結果が出ているとも言えます。
それに起因して、高めのボール球もインハイを中心に高いスイング率・空振り率が残っています。
ファストボールに強い反面、ハイボール及びインサイドのボール球にしっかりと投げ切ることができれば、打ち取れる可能性が高いと言えるでしょう。

❷スライダー
通算で打率.140、空振り率54.7%の結果が示す通り、あまり良い数字は並びません。
外角から曲がってきて真ん中から外寄りに甘く入ってきたスライダーには対応出来そうな一方で、インサイドに食い込んでくる軌道にはかなり弱いことが想定されます。
❶にて、インサイドのファストボールの見極めの悪さを指摘しましたが、そこも相まって同じ軌道からボールゾーンに曲がるスライダーにはバットが回りがち、かつ全くバットに当たらない傾向が確認できます。

❸オフスピードボール
高さが甘くなったオフスピードボールに高い数字が残っています。バットスイングから見ても、落ち切らずに中途半端な高さに入っていったオフスピードボールは右打席の中でも最も得意とするケースでしょう。
一方で低めのボール球にはスライダーほどではないものの、高いスイング率と空振り率が残っています。

5.打球方向
打球方向の傾向もチェックしておきましょう。MLBでのスプレーチャートは、左打席、右打席でそれぞれ以下の図の通りとなっています。
(上:左打席、下:右打席)

基本的には左右両打席でプルヒッターの傾向があることが分かります。左打席では逆方向へHRを運ぶものもチラホラ確認できますが、右打席ではすべてセンター〜引っ張り方向に生まれています。

6.守備
バルガスについて、林信平球団本部長は「一塁を守れるが、DHの可能性が高いかな」と述べていたため、守備の検証をする必要があるか微妙なところではありますが、一応1B守備を簡単にチェックします。
体型が大柄なので守備ではマイナスなイメージが先行してしまいますが、様々な指標上では、守備による貢献は期待はできないものの、足を大きく引っ張らない程度には無難に守れそう数字が出ています。
ちなみに、元巨人フランシスコは通算で、URZ-7.6、DPR0.2、 RngR-2.5、DRS-2でした。

・UZR:
「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」
・DPR:
併殺処理による得点
・ RngR:
打球処理による得点(=失点阻止への貢献度)
・DRS:
守備防御点 ex)DRS=-5.0 → 平均的野手と比べて5点余計に与えた。

下記の図における、赤いプロットがバルガスが1B守備でエラーをした箇所を示しています。

このエラーをした箇所のみを抽出し、そのエラーをアウトにできた確率を色分けで整理したデータですが、こうしてみると凡ミスのエラーの数は多くないことが分かります。

反対に、比較的イージーな打球についてはアウトに結びつけており、ハードな打球は捌けないものの、投手から見て"それはアウトにしてくれよ"という必要最低限の打球処理はできていたことが推察されます。

バルガスが1Bの守備に就く機会があれば、注目してみても面白いかもしれません。

7.走力
最後に走力についても触れておきます。
バルガスのスプリントスピード(走っている間の一番速い1秒間)は、15年→17年にかけて、秒速7.38m→7.68m→7.68mと推移しています。
この数字がどの程度のレベルなのかというのを元阪神ロサリオ、巨人ゲレーロと比較しますと、15年のデータでそれぞれ秒速8.14m、秒速8.32mとなっています。
基準として彼らより遅い程度と想定しておくとイメージしやすいのではないでしょうか。
ヘビーヒッターですので、長打に期待しましょう!

8.動画
紹介ムービー、3試合の全打席全球ハイライト、MLBキャリア全HRハイライトと用意していますのでご参照ください。

9.おわりに
自分が知りたいことをグダグダ書き連ねてしまったため、纏まりのない記事になったしまいましたが、参考になりましたでしょうか。
8章の動画で見るだけでバルガスという選手の魅力はお分かりいただけると思います。
しかし、記事の内容でも触れましたが、パラデスほどではないにしても、非常に穴の多い打者であることもまた事実です。特に右打席は正確に攻められるとなかなか苦しい印象を受けました。
起用する側はもちろんのこと、観戦する我々ファン側も、長い目で見てあげて欲しい。そんな選手だと私は思っています。ビシエドやロペスのように2年目までは大きな波があっても良いと思ってまして、二人にように3年目に覚醒する。そのためにも、1年目には全く打てない月があっても構いませんので、爆発する月を2月くらい作って欲しいです。そうすれば、その姿に賭けて残留の芽が出てくるわけですね。その積み重ねの先に、彼の成功があることを切に願います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?