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Justin Hancock

0.はじめに
18年の日本ハムはセットアッパー・クローザーとして、新外国人のマイケル•トンキンを獲得。身長201cmの長身から繰り出す空振りの取れるファストボールの強さが魅力のパワーアームにかかる期待は大きいものがありました。
しかしシーズンが始まれば、抑えはするものの米国時代に魅力であったK/9の高さが激減。シーズン終盤には打ち込まれる場面も目立ち、1年限りで退団となりました。
代役として球団は、身長193cmのジャスティン•ハンコック(28)を獲得しました。18年MLBにおける10.0IP以上投げた投手の中では、50位に位置するスピードボールが武器のパワーアームです。
投球スタイル、身体的特徴がトンキンと似通ったこのハンコック投手に不安を抱く方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
どのような選手なのか、その力量を含めてレビューしていきます。

1.映像
まずは投球映像を確認してみましょう。

2.stats
キャリアをスターターとしてスタートしているハンコック投手は、16年まではスターターとして活躍するものの、17年からリリーフに転向しています。
17年はAAからスタートし、被打率は高くBB/9やERAは高いなど成績は決して安定していませんでしたが、7月にAAAに昇格し17試合4.50ERAでシーズンを終了しています。
18年はAAA(PCL)で18試合に登板、4.57ERAと相変わらず被打率・制球ともに安定はしていませんが、11.22K/9と奪三振能力の向上を見せています。また、初昇格したMLBの舞台では、10試合で6.57BB/9と制球が不安定だったものの、8.03K/9 被打率.125と球の強さを証明しました。
このように力強さがある一方、まだまだ不安定な一面も目立つジャスティン•ハンコック投手です。

3.球種
持ち球は、4シーム、スライダー、チェンジアップの3球種になります。3球種ありますが、いわゆる助っ人外国人リリーフによく見られる2ピッチタイプの投手で、ファストボール+スライダーが基本構成になります。

4シーム:平均155.5㌔と高速であり、打者の右左に問わず投球の7割超を占めます。左右を問わず被打率が低く、奪三振割合が高い(対右打者:33.3%、対左打者:72.4%)一方で、空振り率の低さ(対右打者:12.1%、対左打者:15.6%)とストライク率の低さ(対右打者:22.4%、対左打者:19.5)は気になる数字が並んでいます。

スライダー:メインに使用する第1変化球であり、平均球速140.7㌔の高速スライダーです。右打者には投球の約3割を投じており、サンプル数は9打席と少ないものの被打率.000、ストライク率46.8%、空振り率58.8%と決め球にもカウント球にも使える数字が残っています。
左打者にも3割弱投じており、ストライク率は31.4%とまずまずなものの、空振り率は15.4%と右打者と比較し大きく低下していることが分かります。

チェンジアップ:左打者にのみ僅か1%のみ投じています。基本的にはないものとして、ファストボール+スライダーの投手と見ておくべきでしょう。

次に、球種別の変化量について以下の図に示しました。
(実線・濃色がハンコック投手の変化量、点線・薄色がMLB平均の変化量を示しています。バブルの大きさは平均球速を示しています。)

4シーム:平均に比べてシュート量が約13.2cm多く、ホップ量が僅かに多いです。平均に比べて球速は4.99㌔速く、150㌔台中盤のスピードボールが大きくシュートしながら打者に迫ります。

スライダー:平均に比べてスライド量が約7.9cm少なく、落下量も約4.0cm少ないです。横変化も縦変化も小さいですが、平均に比べて球速は5.47㌔速く、高速で小さく変化する高速スライダーになります。

※平均155.5㌔の高速の4シームと、平均140.7㌔の高速スライダーで打者を制圧する投球スタイル。 高速スライダーが縦横の変化ともに小さいですが、4シームのシュート量が極めて多いため、コンビネーションによって平均以上に広く横変化を使うことができています。(横変化総量:ハンコック:36.6cm、平均:31.2cm)
縦変化についても、平均と比較しスライダーの落下量が僅かに少ない一方で、4シームのホップ量が僅かに大きいことから相殺され、結果として4シームとスライダーの平均落下量が約53.0cmなのに対し、ハンコックは約52.4cmと平均レベルを維持できています。

最後に、これら2球種の対左右別のカウント別配球チャート及びコース別の配球割合を確認します。

対右打者:投手有利のカウントではスライダーの配球が増える一方、平行カウント〜打者有利のカウントでは4シームが投球の大半を占めています。4シームが100.0%を占めるカウントも多く、力任せな傾向にあることは否めません。

次にコース別の投球割合です。
4シームは外角を中心に集めており、ハンコック投手特有のシュートする性質を活かしたアグレッシブな内角への攻めも見られます。
スライダーに関しても外角低め中心に集める意図は確認できますが、4シーム及びスライダー共に真ん中に入ることも多く、細かいコースを突くようなコマンドはないことが確認できます。

対左打者:右打者と同様に打者有利のカウントでは、4シームが投球の大半を占める傾向が確認できます。

次にコース別の投球割合です。
シュートする4シームの性質から外角中心に集まってはおらず、インローから真ん中よりに分布していることが確認できます。
スライダーに関しても膝下に集めようという姿勢は感じられるものの、抜け球も多く、真ん中に多く集まっていることが確認できます。
コマンドが低いことは間違いがないでしょう。

4.リリースポイント

過去7年間の外国人リリーフのアームアングル(ファストボール)のデータを整理しました。
ハンコック投手のアームアングルは、リリーフ高さ1.71m、リリース角度64.2°となっており、類似する投手には元DeNAのプロードウェイが挙げられます。身長193cmの長身ですが、2章の映像の通り、角度がつくタイプではありません。

球種によるリリースポイントのバラつきを確認(ある日の1試合)すると、以下の通りになっていました。
4シームとスライダー共に概ね同等程度の高さからリリースできており、具体の数字では4シームが1.71m、スライダーが1.74mと変化球が約3cmだけ高い位置からリリースをしているようですが、誤差の範囲と言えそうです。
また、昨季まで所属していたトンキンとのリリースポイントの違いを視覚的にご覧いただきたいと思います。
上記に示したデータでは、両者のリリースポイントは以下の通りとなっています。

リリース高さ:
ハンコック1.71m、トンキン1.73m
角度:
ハンコック64.2°、トンキン69.7°

リリース高さはあまり変わらないものの、トンキンはテイクバックが小さく、ハンコック投手は腕をしならせるような、それぞれ投球フォーム(腕の使い方)の違いに起因し、後者の方がより三塁方向から投じていることが分かります。右打者からすると約18.9cmだけより背中側から投じられるため、ハンコック投手のシュートする4シームと高速スライダーの威力は右打者には脅威となり得るのではないでしょうか。
(余談ですが巨人のヤングマンはリリース幅が1.16m。トンキンより51.5cm、ハンコックより32.6cmだけ三塁方向から投じます。)


5.過去の助っ人リリーフとの比較検証
過去7年間の助っ人リリーフのデータを元に、ジョンソン投手の力量を測っていきます。

5-1.ファストボール
まずはファストボールについて比較します。
下記の図は非常に小さくなっていますので、適宜拡大しながらご覧いただけると幸いです。

→リリーフの外国人投手にはまずスピードが求められるのがオーソドックスであるため、過去7年間においても球速が速い投手が大半を占めます。カッターが主流の異質のヘーゲンズを除けば、最遅はギルメットで唯一145.0㌔を下回る選手になります。これくらいまでボリュームが落ちてくると厳しいという現実がある一方、最速にはコーディエの159.3㌔が君臨しており、単に速ければ速いほど良いというわけでないのが非常に難しいところです。

とはいえ、ハンコック投手の4シームは平均155.5㌔と高速であり、来日直近の数字でいえば過去7年間では、元巨人カミネロ、元オリックスのコーディエ、元中日のロンドンについで4番目の速さのスピードボールとなります。
サンプルこそ38打席と少ないですが、被打率.184 被ISO.184は何も過去7年間でみても好成績であり、特に被打率の低さは最上位の数字を残しています。
一方、ストライク率は22.4%とやや低めの数字が出ており、空振り率は15.7%と球速の割に非常に低い数字が出ていることが分かります。

要因としては、シュートする球質は勿論、3章の配球チャートで示した通り、腰高〜低め中心にボールが集まることから、空振りの数が伸びてこないことが推察されます。

では、高めの4シームで空振りがとれるのか確認してみました。
高めのボール球でスイングはとれるものの、高めで空振りが奪えていないことが分かります。概ね元ヤクルトのカラシティ、元DeNAのブロードウェイ、元中日マドリガルらと同等の数字が出ており、彼らより球威はある一方で、あくまで高めで空振りを奪うという点においては、彼らと同等程度のパフォーマンスが想定されそうです。
4シーマーでないため、下記にはリストアップしていませんが、グニャリと曲がる2シームが持ち味の広島ヘルウェグは、高めのFBの空振り率が15.9%、高めのボール球スイング率が33.3%となっています。ハンコック投手の4シームは彼ほど癖のある球ではありませんが、球威が本物であれば、性質的にはヘルウェグのファストボールのようなパフォーマンスになるのではないかと推察します。


総合的には以下のようなことが言えるのではないでしょうか。

・ハンコック投手の4シームはシュートする球質であり、腰高〜低めに集まる傾向があるため、空振り率は低く出ている。高めを有効的に使う配球が求められるかもしれません。
・一方で、高めの4シームでは空振りを奪うことができておらず、基本的には高速してシュートする球質を活かし、ファウルや凡打を生産するのが投球スタイルの基本となるでしょう。
・球威が発揮できれば、空振りを多く奪うというよりは、性質的に広島ヘルウェグのファストボールのようなパフォーマンスがになることが予想されます。
・ストライク率のやや低い点については、左右にボールが散らばったり、高めにボールが抜けるのではなく、低めに逸れる(叩きつける)ものが多い傾向が見られます。

5-2.変化球
ファストボールのみで力量を測るのは難しいため、変化球についても同様に整理しました。
第1変化球:最も武器としている主要な変化球
第2変化球:サブとして武器としている変化球で、投球割合5.0%以上を対象とする。

ハンコック投手はスライダーを武器としているため、スライダーを中心とした比較検証を進めいきます。
まず球速ですが、140.7㌔とかなり高速であり、過去7年間でみても元ヤクルトのカーペンター、元中日のロンドンに次いで3番目の高速スライダーになります。
サンプル数が14打席と少ないですが、被安打が一本もなく、奪三振割合が全体の45.5%を占めるなど強力な武器として働いています。
ここまで制球に課題があるとレビューしてきたハンコック投手ですが、着目すべきはスライダーのストライク率の高さです。40.2%は良好な数字であり、過去7年間のスライダー使いのリリーバーでは、元広島カンポス、元広島ブレイシア、元阪神メンデス、元広島ジャクソンと同等の数字が出ています。3章でレビューしたコース別の投球割合を見る限り、真ん中付近への投球が多いためコースを突いたストライクの取り方は中々難しいでしょうが、コースは甘いながらもカウントはとりにいける球種として機能するポテンシャルは感じられます。
また、それでいて空振り率も40.0%と高い数字が残っています。

次に、同じスライダーを用いる外国人リリーフを何人かピックアップし、来日直近年度のPlate Disciplineを、以下の散布図に整理しました。リストアップした選手は以下の通りです。

・トンキン
同様の長身パワーアーム及び球種
・ブロードウェイ
同様のアームアングル及び球種
・パットン
近年のファストボール+スライダーの代表的な成功例
・ジャクソン
近年のファストボール+スライダーの代表的な成功例
・ロンドン
同様の球種(高速のファストボール+高速スライダー)の失敗例
・コーディエ
同様の球種(高速のファストボール+高速スライダー)の失敗例


ハンコック投手のスライダーのボール球スイング率は19.4%と低く、リストアップした投手の中では圧倒的な最低値を記録しており、ボール球を振らせることが中々出来ていないことがよく分かります。ボール球のコンタクト率についても66.7%となっており、リストアップした投手の中では最もコンタクトされてしまっていることが分かります。
一方、ストライクゾーン内のスライダーについては、コンタクト率が53.8%と良好な数字を残しており、ハンコック投手のスライダーはキレそのものはあることが分かります。

したがって、総合的に見て、以下のようなことが推察されます。

・ハンコック投手の高速スライダーは平均140.7㌔で過去7年間の新外国人リリーフの中では3番目の速さを持つ。その速さを持って、縦横に小さく変化するスラッター系である。
・ストライク率40.2%と良好であり、ストライクを甘いコースでとることが多い中で被打率.000であり、ゾーン内のスイング率及びコンタクト率が低く、ゾーン内で勝負できるだけのキレは持ち合わせている。
・一方、ボール球のスイング率及びコンタクト率が非常に悪いことから、ストライクからボールになるようなスライダーを投じることはあまりできておらず、低めに叩きつけたり(ボールからボール)、高めにすっぽ抜けたりという要素が多かったことが予想される。

6.状況別成績
6-1.左右別成績

17年AAAでは右打者を苦手としていましたが、18年にはそれが逆転。AAAでは対右打者に限っては好成績をおさめており、対左打者における被打率.351、5.49BB/9、6.23ERAと左打者を大きく苦手としていました。
表には示していませんが、比較的にサンプルのある15年では、対右:.264、2.74K/BBに対し、対左:.305、1.32K/BBと左打者を苦手としていました。
年度によって左右で出来が変動していますが、近年はどちらかの打席で被打率及びBB/9が跳ね上がる傾向があり安定感には欠けています。

6-2.走者の有無
走者の有無による成績を以下の表に簡潔に纏めました。スターターを経験していた15年までは、制球は悪いものの被打率は低く、走者ありの投球には強みを見せていました。リリーフに転向した17年は走者ありでの投球に苦しみましたが、転向2年目となる18年には再び走者ありでの状況に強みを見せています。
また、表には示していませんが、盗塁については計72回の企画で53回の成功を許しています。73.6%の確率で盗塁を有しており、クイックについては課題があると言えそうです。

7.まとめ
・4シームについて
平均155.5㌔のシュートする4シームは、過去7年間の外国人リリーフの中では4番目の速さ。今季MLBではサンプル数は少ないものの被打率.184と球威の高さを見せました。一方で、ストライク率はやや低く、腰高〜低めに集まる傾向から、空振り率に低い数字が残っています。高めの4シームでも空振りを奪うことは中々できておらず、4シームで多く空振りを奪うような投球にはあまり期待ができないかもしれません。球威を発揮することができれば、性質上は広島のヘルウェグの2シームのような(彼ほど癖はありませんが)パフォーマンスになるのではないかと推察されます。

・変化球について
縦横に変化が小さく、また平均140.7㌔と、過去7年間の外国人リリーフでは3番目の速さの高速スライダー(スラッター系)を武器とします。ストライク率は高い数字が残っており、コースは甘いながらも変化球でストライクはとることはできています。ゾーン内のスライダーはキレの良さを証明している一方、ボール球のスイング率及びコンタクト率にはかなりの悪い数字が出ています。低めに叩きつけたり、すっぽ抜けたりと、ストライクゾーンからボールになるような制球されたスライダーは中々投じられなかったことが推察され、ボール球の使い方に課題を残しそうです。

・MLBではERAこそ良好な数字を残したものの、マイナーの数字を含めた制球の悪さ、また対左・対右打者における安定感の無さ、クイックなどと課題は多く、かなり荒削りな投手であることは間違いありません。高速×高速と緩急をつけられる投手でもないため、大きく数字映えのする成績を残すのはやや難しい印象は受けました。

・まずは持ち前の球威がどれほどのものなのか。春先からチェックすることで、ある程度彼の19年シーズンが見えてくるのではないでしょうか。


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