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Angel Sanchez

【はじめに】

 2019年シーズンほ読売巨人軍の大黒柱は山口俊でした。26試合に登板し、170.0回を投げ、15勝4敗 防御率2.91 奪三振率9.95。まさかの大不調に陥ったエースの菅野智之に代わり、チームを5年ぶりのリーグ優勝へと導き、正真正銘のFA戦士となりました。そんな山口は海を渡り、夢のMLBでブルージェイズへ入団。
 2020年。この170.0という"イニング数"と、勝率.789(リーグ最高)という"勝てる投手"を失った穴は大きく、エース菅野の復活のみならず、この男が果たすべき役割は大きくなりそうです。

 エンジェル・サンチェス

 私、NPB外国人選手好きのtweetがリストアップした中でも、スペイン語圏内という縛りの中で獲得できるスターターの中では、間違いなく最上位の選手でした。(それだけ候補が限られていたという意味でもあります。)
 今回は、韓国プロ野球(以下KBO)で、2シーズンの武者修行を経たドミニカンの実力に迫ります。


【投球スタイルをチェック!】

 レパートリーに富んだ多彩な球種を操るパワーピッチャー。

《ファストボール》
 フォーシーム
の球速が速く、リリーフとしては約155km/h、スターターとしてもコンスタントに150km/h台を叩き出す馬力があります。
軌道としてはややシュートしながら伸びる傾向。しかし被打率が一貫して高く、特に対右打者に対して空振りがとれない点が不安材料です。
 ツーシームは殆ど用いません。

《ブレーキングボール》
 スライダーカッターのように小さく高速で変化するのが特徴。2018→2019年にかけて投球割合を減らし、投球のアクセントとして使用しており、打者の右左を問わず被打率が低いです。
 カーブは、球速が2018→2019年にかけて大幅に上がっており、134.1km/h(元阪神PJは133.7km/h)と高速。スライダーの投球割合減の分だけ、投球割合増となっていますが、その中で被打率、空振り率ともに飛躍的に向上させています。但しPJと異なり、曲がり幅は平均よりもとても小さく、縦に落ちる小さなパワーカーブというイメージです。

《オフスピードボール》
チェンジアップは変化量が小さいです。2018→2019年にかけて、チェンジアップの代わりにスプリットを使用するようになっています。スプリットは打者の右左を問わず良い数字を残しており、特に対左打者には軸となる変化球として機能しています。


 変化球はいずれも変化量が少ないですが、スラッター要素のスライダーや、パワーカーブ、そしてスプリットと、現代野球のトレンドを一式詰め込んでいるのが特徴で、KBOではどの球種も良い数字を残しています。
 一方で、フォーシームは高速なものの、打たれることが多く、空振りも少ないというのが不安材料。エクステンションは約2.0mあり、体感速度も実質速度と変化がないため、本来はもう少し良い数字が出ても不思議ではありませんが、MLBとKBOの過去3年間は数字にフィードバックされていませんでした。

 質の良い変化球を散らばせながら、ポテンシャルあるフォーシームの球威をどこまで高められるかがポイントになるでしょう。


【基本的なStatsを見てみよう!】

2015年に、AAA(IL:投高リーグ)に初昇格し、15年はスターター、17年はリリーフとして好成績をマークしています。与四球率(BB/9)が2.00台と低く、フライよりはゴロの打球が多いのが特徴。スターターとしてもリリーフとしても、奪三振率(K/9)が高く、被打率・被本塁打率も優秀・及第点なことから、
制球力に優れ、打たせてとることもできるパワーピッチャーがサンチェスの投手像です。

 KBOに移籍後の成績に目を移します。
2018年は、防御率4.89 被本塁打率1.61と優れませんでした。しかしこれは、韓国の食事が合わずに体重が9kg落ちたことによるガス欠が原因とされており、ガス欠前の前半戦はエース級の成績をマークしていたことが確認できます。(以下の表参照)
 食生活を克服したサンチェスは、2019年は開幕からフル回転し、17勝5敗 2.62ERAと圧巻の成績を残しました。とはいえ、前半→後半戦にかけて、平均投球回が6.12→5.41、QS率が66.7→50.0%と低下していることを考慮すると、やはり「シーズンを通したスタミナ面、根本的なイニングイート力には課題を残す」と言えるでしょう。

https://twitter.com/bs_heroes/status/1062506505696555008?s=21


【KBOでの成績を精査しよう】

 本セッションでのポイントは以下の2点です。

Part1:ボール変更によって投高化したKBOの環境を踏まえ、リーグ成績から18年仕様に簡易補正を行う、かつ、被本塁打の少なさの妥当性を探る
Part2:過去のKBO出身の助っ人投手の成績と比較し、サンチェスの現在地を探る


Part1:

 2018→2019年において、KBOでは公式使用球が変更されました。反発係数を下げ、従来の超打高のリーグ環境は大きく変わっています。まずは、一体どれくらいの変化があったのか、確認してみましょう。

 2019年のKBOでは、昨年度比で、自責点が80%・被本塁打が56.9%・被安打が89.9%に良化しています。
 低反発球の影響によって、2018年より打たれ難くなっており、特にHR数には大きな影響を与えていることが分かります。

※奪三振数・与四球数に関しては、調査の結果変動が小さく、またシーズンによってバラつきがあるため、低反発球による影響は考慮し難いと判断しました。

 この投高の2019年KBOのリーグ環境を考慮し、サンチェスの成績を2018年仕様に簡易補正した結果が以下のとおりです。

防御率3.27
(奪三振率8.07) (与四球率2.29)→補正なし
被本塁打率0.22
WHIP1.27
FIP2.44

 2018年と異なり、後半戦も一定水準のパフォーマンスを継続した影響が大きく、被弾そのものも2018年より明らかに少なくなっています。

 しかし、この被弾の少なさについて、補正値のみでは疑問というところで、もう少し掘り下げてみました。

 下記の表は、2019年KBOにおいて、10試合以上の先発登板した投手の被本塁打率を整理したものです。
 チーム名に色のハッチがかかっていますが、これはHRのパークファクターを表しており、オレンジが濃いほどHRが出やすい、ブルーが濃いほどHRが出にくい本拠地を有するというイメージです。

 サンチェスの所属するSKワイバーンズの本拠地は、KBOの中でもHRが最も出やすい球場の一つであり、その中でサンチェスが残している被本塁打の少なさは際立っています。同チームで今季MLBへ移籍した金廣鉉(0.62HR/9)や、同じくMLBに移籍したリンドブロム(0.60HR/9)、その他全ての投手の中でも堂々の第一位となっています。(打たれた2HRはいずれも本拠地)

 低反発球の影響はあるものの、「サンチェス自身の投手としての能力向上は無視できない事実」でしょう。


Part2:

 Part1で簡易補正をした2019年Statsをもとに、過去(2010年代)のKBO出身の助っ人投手と比較し、サンチェスの詳細な現在地を探ります。

 比較すると、防御率とWHIPについては平凡ですが、奪三振・与四球関連、被本塁打率、FIPについては優秀なことが確認できます。
 過去の助っ人投では、やはりバンデンハークの支配力が抜けており、スターターでありながら10.64という高奪三振率が一際目立ちます。元ヤクルトのハフも素晴らしいですが、この年のハフ所属の本拠地パークファクターは投手にかなり有利な環境であったため、評価は慎重に行う必要がありそうです。
 NPBで成果をあげられなかったセドン、バンヘッケン、ヒメネスらと比較すると、明らかに良い数字を残しており、部分的な指標ではバンデンハークやハフを凌ぐ、また球種のバラエティはトレンドのパワーアーム型と、期待値としてはやはり高いところに位置付けされそうなサンチェスです。
 課題はやはりイニングイート力で、平均投球回は5.9とやや低めです。しかし、バンデンハークが6.1とほぼ同値であることから、菅野や山口のようなエース完投型としての姿を期待しなければ、十分にローテの柱として期待できるのではないでしょうか。


ご覧いただき、ありがとうございました!





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